GetScaleのカメラは、一見すると工場内のふつうの監視カメラのようだが、実は、技術者と組立ラインの労働者を直接コミュニケーションさせてお互いの仕事をやりやすくし、さらに製造工程の全体を記録に残すことが、同社のサービスなのだ。
たとえば開発チームが合衆国にいて、ハードウェアの製造工場が海の向こうにあっても、GetScaleを使えば製品の質が維持され、問題が起きて不当にも工場の労働者が責められる、ということがなくなる。
2014年1月にGetScaleを作ったJonathan FriedmanとColton Piersonは、電子回路部品を作るサービスCircuitHub(ここもYC出身、3年前にFriedmanらが創業)にいたのだが、そこで頻繁に見たOEMたちと工場とのあいだの問題を、解決したいと思った。GetScaleは社員が今9名で、オフィスはカリフォルニアのRedwood Cityと深圳と上海にある。約20社の顧客の中には、iCrackedやNeurolabware、それにNapwellなどがいる。同社が過去半年にモニタしたユニット(一つの工程の仕上がり品)の数は、のべ25万だ。
FriemanはGetScaleを立ち上げる前に、中国の工場の寮に住みこんで彼らの労働条件の理解に努めた。
そこで彼が知ったのは、ラインの労働者に対する法的保護がほとんど何もないことだ。工程で問題が起きると、その損失は、責任が工員にない場合でも彼らの賃金カットや減給という形で埋め合わせられる。たとえばFriedmanが訪ねたある工員寮では、社員たちが法外な水道料金を払わせられていた。
しかし製造業は競争が激しいので、ほとんど不可能のような納期や価格を提示して受注しているところも、少なくない。サプライチェーン上のサードパーティのプロバイダたちにも、問題がある。しかもそれは、契約企業や会計事務所、複数のメーカー、セールスエンジニア、プロセスエンジニア、ゼネラルマネージャ等々と、やたら数が多い。
GetScaleのモニタリングシステムがあると、ハードウェアのエンジニアたちは、あいだに人を介さず直接、工員たちに詳しい指示を与えることができる。コミュニケーションが改善され、工程がスピードアップされる。
“中国の工場で不良品ができる原因は、二つしかない。モラルが低くて不正やごまかしをやること…こちらはそんなに多くない。もうひとつは、発注者が何を求めているのかを、よく理解していないことだ”、とFriedmanは語る。
彼の定義では、GetScaleは監査役だ。OEMたちは、撮影モニタ+指導用ディスプレイ一台あたり最少で月額110ドルを払い、GetScaleはそれを協力工場と分有する。工程や試験工程で問題が生じたときの、罰金のようなものはない。
“工場が完全に期待どおりのことをやってくれれば、報奨金のような仕組みがあってもよいし、またその工場の評判が広まる仕組みもあるべきだ”、とFriedmanは言う。“でも今の彼らのやり方では、そんな余裕がないね”。
GetScaleの顧客はそのWebアプリケーションを使って、工程を監視し指導するための戦略を作る。それを中国語に翻訳し(もうすぐスペイン語も)、GetScaleはモニタリングステーションを工場にインストールする。工員のすぐそばに置かれたディスプレイに詳細な指示が表示され(上図)、カメラは工程(と最後の検品過程)を撮影して記録する。一つ一つのコンポーネントのバーコードや、完成したユニットのシリアルナンバーも記録される。
すべての情報はGetScaleのサーバ上に恒久的にアーカイブされ、問題が生じたとき、やみくもに現場の工員のせいにされることは、なくなる。また検品が撮影記録され、発注者に完動品が渡っている証拠にもなるから、ありえない不良品で製造企業が訴訟されることもない。
FriedmanとPiersonはハードウェアスタートアップに投資しているインキュベータやVCたちとパートナーして、この監視指導システムのユーザを増やしたい、と考えている。また、彼ら工場のサプライチェーン上に、同社の良い噂が広まることも、期待している。
システムではなく、単なる工程監視機器なら、KeysightやAgilentなどが作っているが、それらはいずれも一台25万ドル以上もして、高い。
GetScaleの、カメラ+ディスプレイ、ワンセット月額110ドルは、ハードウェアメーカーにとっても、手を出しやすい価格だ。
“つい先日も、あるアメリカの製造企業が、数社の得意先大企業が製造工程のオーディットトレイルを要求している、と言ってきた。彼ら得意先は、本来ならきみたちが工場を毎月訪れて視察してほしい、と言っているのだ”、とPiersonは語る。
“そこでその企業は、GetScaleが記録したすべての製品と工程の監視データを見せた。それがあれば、はるばる中国の工場に出張する必要もなく、また、一つ々々のすべての製品の工程を詳細にチェックできる。CEOは、きみたちのおかげで中国に出張せずにすんだよ、と感謝の言葉を述べた”。