和製テスラではなくEV版フェラーリ―、京大発ベンチャーのGLMが4000万円のスーパーカーを発表

クルマ好きのTechCrunch読者のなかには、1997年から1999年の2年間でわずか206台が販売された「まぼろしのクルマ」、トミーカイラZZを知っている読者もいるかもしれない。また、京大発ベンチャーのGLMトミーカイラZZをEVとして復活させたことまで知っている人もいるだろう。GLMは2015年10月からトミーカイラZZの量産を開始。販売価格は800万円で、99台の限定販売を行っている。

そんなGLMは4月18日、EVスーパーカーとして量産を目指す「GLM G4」を発表した。販売価格は4000万円。同社は2019年にG4の量産を開始する予定で、販売台数は1000台を目指す。

電気自動車であるG4は環境に優しいことはもちろん、従来のガソリンエンジン車に負けない走行性能をもつ。G4の車両前後には高出力のモーターが2機搭載されており、最高出力は540馬力、最大トルク1000Nmと力強い走りを発揮する。最高速度は250km/hで、走行開始から速度100km/hに到達するまでにかかる時間は3.7秒だ。

G4の外観はクーペスタイルではあるが、4ドアで最大4人まで乗車することが可能だ。前後のドア4枚が高く跳ね上がる「Abeam Sail door」が採用されており、ドアを高々と広げた姿は、いかにも高級なスーパーカーといった感じだった。内装は白を基調にデザインされている。

GLM代表の小間裕康氏

発表当日に行なわれた記者会見の中で、GLM代表の小間裕康氏は「日本だけでなく、欧州や香港、中東、中国での販売を計画していく。現在のG4はコンセプトカーであり、量産に向けてこれから安全性のテストなどを行っていく」と語る。また、GLM取締役の田中智久氏は同社のビジョンについて、「私たちは『和製テスラ』と呼ばれることが多いが、どちらかと言えば『EV版フェラーリ』というような高付加価値を提供する企業になりたい」と話している。

GLMが2015年に販売開始したトミーカイラZZ

2015年にトミーカイラZZを復活させたことで話題になったGLMだが、同社が注目されたのにはもう1つの理由がある。垂直統合された自動車業界において水平分業を目指すビジネスモデルだ。

自動車業界は伝統的に、クルマの設計開発から生産までを自社グループで一貫して行う垂直統合型のビジネスモデルをもつ。トヨタをはじめとする日本の自動車メーカーは、このやり方でプロダクトの品質向上と生産の効率化に取り組んできた。現在はアジア諸国の部品メーカーの台頭により水平分業が進んだ電機業界も、かつては垂直統合型のモデルをもつ企業が多くあった。

その一方で、GLMが目指すビジネスモデルはそれとは全く異なる。走行に必要なパーツをすべて土台に搭載し、それをモジュール化する「EVプラットフォーム戦略」だ。

従来の自動車はボディと各種部品が複雑に入り組んだ構造をしている。しかし、GLMの自動車は土台となるメインフレームにクルマを動かすのに必要なすべてのパーツが取り付けられており、その上から樹脂製の軽いボディを被せるかたちで製造されている。つまり、子供の頃によく目にしたラジコンカーの構造だ。

トミーカイラZZのプラットフォーム

この戦略によって2つの新しいビジネスが生まれる可能性がある。

その1つが、プラットフォームをモジュールとして他社に販売するというもの。GLMからクルマを動かすのに必要な土台を購入すれば、あとは企業が独自にデザインしたボディを上から被せるだけでEVが完成する。これが実現すれば、例えばソニーやパナソニックなどの電機メーカー、あるいはルイヴィトンやアルマーニなどのファッションブランドでも自社ブランドのEVを販売することも可能になる。

ボディを土台に被せるだけなのだから、ユーザーが好きにデザインした「自分だけのクルマ」も実現するかもしれない。G4の価格は4000万円、トミーカイラZZは800万円とまだ一般人には手が届きにくい価格ではあるが、GLMの自動車はいろいろな意味で未来を感じさせてくれるクルマだ。

GLMは2010年の創業。2013年11月にグロービス・キャピタル・パートナーズなどから6億円を調達し、トミーカイラZZの量産を開始した2015年にはサウジアラビアの政府系ファンドなどから8億円を調達した。また、2016年夏に行なわれた資金調達ラウンドから安川電機など国内外の事業会社もGLMに資本参加している。

日本発・非ネット分野の「世界基準ベンチャー」がTechCrunch Tokyoに登壇

ネット系のスタートアップではメルカリやスマートニュースが米国進出したり、海外ユーザー比率が95%の対戦型脳トレ「BrainWars」が国境を超えた感があるが、“非ネット”な分野にも世界を狙えるスタートアップはある。

11月17日、18日に開催するTechCrunch Tokyoでは、そんな非ネット分野の「世界基準ベンチャー」にスポットを当てる。登壇するのは、工場の生産ラインなどに導入される産業用ロボットの制御機器を手掛けるMUJINの滝野一征さんと、電気自動車(EV)を開発するGLMの小間裕康さんの2人だ。

GLM小間裕康さん(左)とMUJIN滝野一征さん

GLM小間裕康さん(左)とMUJIN滝野一征さん

産業用ロボットに“考える力”を与える

MUJINをざっくり言うと、産業用ロボットの“脳みそ”を作る研究開発型ベンチャーだ。ロボットと聞いてガンダムのような人型ロボットを思い浮かべる人にはピンとこないかもしれないが、通常、産業用ロボットを稼働させるには、専門のオペレーターがロボットを手作業で動かし、その動作をプログラミングする「ティーチング」が必要となる。この作業は膨大な時間とコストがかかるうえ、教えた動作以外に応用がきかないのだ。

こうした産業用ロボットに“考える力”を与えるのがMUJINだ。主力製品のひとつ、「ピックワーカー」は、ティーチングせずにバラ積みの部品を取り出せるのが特徴。対象部品を3次元で認識し、その情報をもとに産業用ロボットを制御するコントローラが瞬時に動作プログラムを計算する。ロボットや3次元センサーは汎用品が使用可能で、MUJINはコントローラを開発している。

ばら積みピッキングを可能にする「ピックワーカー」

ばら積みピッキングを可能にする「ピックワーカー」

MUJINの設立は2011年7月。今年5年目のベンチャーだが、すでに自動車工場や物流、食品仕分けなどで導入実績があり、取引先にはキヤノンやデンソー、日産、三菱電機といった大企業が名を連ねる。海外からの問い合わせも多く、世界展開を見据えている。2012年7月には東京大学エッジキャピタル(UTEC)からシリーズA資金として7500万円、2014年8月にはUTECとJAFCOからシリーズB資金として6億円を調達している。

最後にピックワーカーの動画をご紹介する。産業用ロボットが自律的に考えてばら積みの部品をピックアップする様子は、まるでSF映画を見ているような気にもなる。

「日本版テスラ」国内で初めてEVスポーツカーを量産

登壇するもう1社、GLMは2014年4月に設立した京都大学発のベンチャーだ。電気自動車(EV)向けの独自プラットフォームを開発している。プラットフォームというのは、ギアやドライブシャフトで構成されるドライブトレイン、そしてシャーシのこと。GLMはこのEV向けプラットフォームを利用した完成車を販売し、一部では「日本版テスラ」と呼ばれたりしている。

2014年7月には、量産を前提としたEVスポーツカーとしては国内で初めて、国土交通省の安全認証を取得。公道での走行が可能となった。これを受けて同年8月から、国内初の量産EVスポーツカー「トミーカイラ ZZ」の納車をスタートしている。トミーカイラ ZZは静止状態から3.9秒で時速100キロに達する加速性能がウリ。価格は800万円ながらも、限定生産の99台は受付初日で限定数を超える予約が集まった。

静止状態から3.9秒で時速100キロに達する加速がウリの「トミーカイラ ZZ」

静止状態から3.9秒で時速100キロに達する加速がウリの「トミーカイラ ZZ」

GLMはEVスポーツカーだけでなく、資金調達でも話題を呼んだ。2012年10月の増資では元ソニー会長の出井伸之氏や元グリコ栄養食品会長の江崎正道氏らが出資。2013年12月にはグロービス・キャピタル・パートナーズなどVC4社と日本政策金融公庫から約6億円、2015年5月には既存株主や複数国の政府系ファンドから約8億円、8月には総額17億円のシリーズB資金調達を完了するなど、すでに多額の資金を集めている。

産業用ロボットと電気自動車。どちらの業界も、いちベンチャーが参入するには障壁が高そうに思えるが、MUJINもGLMも夢物語ではなく、テクノロジーで世界市場をつかもうとしている。イベントではそんな世界基準の研究開発ベンチャーの魅力をお伝えできればと思う。

TechCrunch Tokyo 2015チケットはこちらから→

TechCrunch Tokyo 2015学割チケットはこちらから→