iPadをPCのディスプレイとして使える「Luna Display」が(ようやく)Windowsに対応

Astropad(アストロパッド)の「Luna Display(ルナ・ディスプレイ)」は、iPadをセカンドディスプレイとして使用できる優れたプロダクトだ。当初はMac向けに発売されたが、Apple(アップル)自身がこれに競合する機能を導入したため、Astropadはこの2年ほど危機に瀕していた。しかし、米国時間10月13日、ついにLuna DisplayがWindowsマシンにも対応し、Astropadはマルチプラットフォームプロダクトへの転換を成し遂げた。

Astropadがプロダクトを市場に送り出すためにしてきた苦労は、並大抵のものではない。TechCrunchでは、同社とそのプロダクトの長く困難な道のりを追い続けてきた。同社が最初のプロダクトを発売したのは5年ほど前のこと。2018年には無線モジュールを追加して、厄介な配線を排除した。その急速なスターダムへの上昇は、しかし2019年にアップルが「Sidecar(サイドカー)」を発表したことで水の泡となる。Luna Displayというプロダクトは事実上意味を失い、同社は危機的状況に陥った。

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名誉のために言っておくと、同社とその創業者たちは、提供するプロダクトの透明性を保つことに長けていた。アップルに打ちのめされた後も、創業者たちは明かりを絶やさず、1年前にはWindowsプロダクトの開発に軸足を移すことを発表。クラウドファンディングのKickstarter(キックスターター)で40万ドル(約4540万円)を集め、プロダクト開発に拍車をかけた。

ノートPCの左側に差し込まれた赤いドングルがLuna Display。ここでは、セカンドディスプレイとして動作しているiPadに無線で接続されている(画像クレジット:Astropad)

Kickstarterプロジェクトの中で、Astropadは当初、2021年5月の発売を約束していたものの、プロダクト開発の世界ではよくあることだが、同社と6000人のKickstarter支援者は、途中で何度も遅れを受容することになった。長い間待たされたが、ついにそのWindows対応版が、Luna Displayバージョン5.0とともに登場した。少なくとも資料を見た限りでは、このプロダクトは期待が持てそうだ。

Luna Displayのドングルは、パソコンに接続するとMacやWindowsのOSと通信し、iPadのジェスチャー、Apple Pencil、外付けキーボードの使用を可能にする。遅延はわずか16msとのこと。アップルがSidecarで謳っている9msという遅延時間には及ばないものの、リアルタイムの入力を必要としないほとんどのユースケースでは十分な速さだ。言い換えれば、このディスプレイを負荷の高いデザイン作業やゲームに使うことは期待できないが、Chrome(クローム)のタブやWord(ワード)の文書を表示するにはまったく問題ないはずだ。

同社によれば、Windowsへの対応を熱望する顧客は多く、現在までに合計8000件の予約が入っているという。辛抱強く忠誠心が高いフォロワーたちは、待ち望んでいたプロダクトをようやく手にすることができ、歓喜に震えるに違いない。

このソリューションには、いくつかの異なるモードが用意されており、iPadをセカンダリーディスプレイとして使用したり、他のMac(旧いモデルも含む)をセカンダリーディスプレイとして使用したり、あるいはモニターを持たないデスクトップ機を「ヘッドレス・モード」で動作させることができる。つまり、iPadをMac Miniのメインディスプレイとしても使用することができるわけだ。

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Astropadは、このソリューションを実現するためのソフトウェアスタックの構築に、プログラミング言語「Rust(ラスト)」を採用した。AstropadのCEOであるMatt Ronge(マット・ロンゲ)氏は、低遅延ソリューションを構築するために比較的新しい言語を使用することの長所と短所について、興味深い考察を行っている

「Rustによって、Mac、iOS、Linux、Android、Windows上で簡単に動作させることができる、高性能でポータブルなプラットフォームが実現します」と、ロンゲ氏はいう。「これにより、潜在的な市場規模が飛躍的に拡大するだけでなく、当社のLIQUID技術(低遅延、高品質のビデオストリーミング技術)に多くの興味深い新用途を見出し、Rustベースのプラットフォームを追求していくことができます」。

Luna Displayは接続方式によって、USB-C(Mac&Windows対応)、Mini DisplayPort(Mac対応)、HDMI(Windows対応)の3タイプが用意されており、価格はいずれも129ドル(約1万4600円)。現在、Astropadから直接購入することが可能だ

画像クレジット:Luna Display under a Luna Display license.

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

アップルの類似機能Sidecarの登場を受け、AstropadがLuna DisplayのWindows版を発表

今年6月、Luna Displayの開発元であるAstropadは自社のブログに「アップルにSherlockされる(類似機能をOSや純正アプリ、サービスに取り込まれること)ことが災い転じて福となる理由」と題した記事を投稿した。アップルがmacOSにSidecar搭載した1年後のことだった。SidecarはMacユーザーがiPadをセカンドディスプレイとして使える機能で、それはLunaの機能が不要になることを意味していた。

その楽観的な投稿には、この会社が業種を多様化することでピボットする計画について詳しく書かれていた。Lunaの場合は、Windowsバージョンを公開するという意味だった。「この夏我々は、Astropad Studioの無料公開ベータ版をWindows向けに公開する」と同社は公表。「その後すぐにKickstarterでHDMIバージョンのLuna Displayのキャンペーンを開始する」ことも明らかにした。

そして米国時間9月30日、同社はKickstarterでWindowsバージョンのキャンペーンを開始した。オリジナルのMacドングルのクラウドファンディングから2年後だ。提供予定日は2021年5月に設定されている。アーリーバード支援者は49ドル(約5200円)から、一般販売価格は80ドル(約8500円)でドングルを入手できる。

ドングルはiPadをWindowsパソコンのセカンドディスプレイに変えることが可能で、ワイヤレスでも有線でも使える。USB-CとHDMIの2種類があり、パソコンで使えるポートに応じて選べる。接続したiPadは、タッチスクリーンの拡張モニターにもなり、マイクロソフトがどれほどタッチ入力に最適化してきたかを考えれば、Windows 10でうまく使えるはずだ。

私はオリジナルのLuna for Macのファンだった。しかし、多くの人たちと同じくアップルがSidecarのネイティブサポートを発表してからは興味が減少してしまった。Windows対応が公開されると、オリジナルのMac用ドングルを持っている人はWindowsパソコンにも使えるようになる。Luna DisplayはMacからiPadへ、WindowsからiPadへ、MacからMacへ(一方をセカンドディスプレイとして使う)と接続できるほか、「Headless Mode」(ヘッドレスモード)として、iPadをMac miniまたはMac Proのメインディスプレイとして使うこともできる。

画像クレジット:Astropad

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook