富士フイルムが出資する医療画像スタートアップNanoxがナスダック上場、175億円調達

イスラエル拠点の医療画像スタートアップNanox(ナノックス)が5900万ドル(約62億円)を調達して1カ月もたたないが、その際間もなく上場すると明らかにし、そして実行した。Nanoxは8月21日、IPOで1億6520万ドル(約175億円)を調達したと発表した。ティッカーシンボルNNOXNasdaq Global Market(ナスダック・グローバル・マーケット)にIPO価格18ドル(約1900円)でデビューを果たし、取引開始時は13%上昇し20.34ドル(約2150円)をつけ、そして20.6%アップの21.70ドル(約2300円)で取引を終えた。

1株あたり18ドルという価格は、NanoxF-1フォームの中で設定していた16〜18ドルというレンジで最も高く、バリュエーションは10億ドル(約1060億円)となった。

Nanoxの事業は垂直統合型となっている。大型で高価なレントゲン装置に対抗する最先端の小型スキャナーをデザインし、最初のモデルはNanox.ARCだ。CTスキャナーの平均的な重さ2000kgに対してARCは70kgで、製造コストはCTスキャナーが100〜300万ドル(約1〜3億円)、ARCは1万ドル(約105万円)だと同社は話す。テクノロジー、システムサイズ、価格と三拍子揃っていて、これは幅広い研究、臨床や診断の一環としてスキャニングを従来よりも多く活用できることを意味する。

同社はまた、スキャン、そしてスキャンで得られた画像の処理と評価で課金するクラウドベースのサービスを構築し、Nanox.CLOUDとして販売している。スキャン装置は、Nanoxに投資しているFoxconn(フォクスコン)のようなメーカー大手との提携で製造し、サービスは医師や学者、研究者に販売する。

Nanoxは提出したF-1書類の中で、保有する現金と合わせて上場で調達する資金を、「グローバル展開する予定のNanox.ARC装置の提供に使い、また製造能力、出荷、設置、Nanox System展開にもあてる。そしてNanox.ARCのR&D、Nanox.CLOUDの展開、様々な地域での規制当局からの承認取得、マーケティング費用、一般管理費用、他の一般的な企業目的にも使う」としている。

Nanoxは業界をディスラプトする可能性を秘めている最先端技術に取り組んでいる。すでに多くの大企業が同社の取り組みをサポートしている(Foxconnに加え、富士フイルムやSK Telecomなどが投資している)。

しかし、全てうまくいくかどうかはギャンブルだ。Nanoxはどのマーケットでも規制当局から装置の承認をまだ得ていない。また、2020年上半期は1380万ドル(約14億円)の赤字となった。この数字は昨年同期の170万ドル(約1億8000万円)から増えている。

F-1書類の中で、同社はこれまでの売上高を示さなかったが、創業者でCEOのRan Poliakine(ラン・ポリアキン)氏は7月にTechCrunchに対し、売上高の大半はライセンス契約によるものだと話した。FoxconnやSK Telecom、富士フイルムがNanoxのコンセプトに基づいて装置を製造するが、こうした企業にIPを提供する。

Nanoxは、2020年2月にNanox.ARCスキャナーのプロトタイプに取り組み始め、「全てがうまくいけば、最初のNanox.ARCを2021年上半期に展開する」とF-1書類に書いている。順調にいった場合、2021年下半期に少なくともNanox System(スキャナーとさまざまな画像サービスを組み合わせたもの)1000件のインストールを目指す。長期的には、2024年までに1万5000件のNanox System展開が目標だ。

しかし同社はまた、新型コロナウイルスパンデミックによって規制当局からの承認取得がずれ込んでいることを認識している。ただ、新型コロナは医療テクノロジー会社に多くの関心が寄せられている理由の1つでもある。

画像クレジット: Nanox

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(翻訳:Mizoguchi

レントゲンに代わる低コスト小型スキャナー開発のNanoxが約62億円調達、5G利用で救急車搭載も夢ではない

イスラエルのスタートアップNanox(ナノックス)はスキャン装置のサイズとコストを抑えるハードウェア、そして画像の質と画像から得られる洞察を高めるソフトウェアでもって、医療画像と画像分析の世界を席巻しようという野心を持っている。7月28日、同社はその計画さらに前に進めるための大きなステップを発表した。5900万ドル(約62億円)を新たに調達し、これによりシリーズBを1億1000万ドル(約115億円)でクローズした。新たな資金をもとに、体全体をスキャンするハードウェアの開発を継続し、顧客をさらに開拓する。同社はすでに13カ国で契約を獲得している。

今回の資金はSK Telecom(SKテレコム)やカナダの保険グループIndustrial Alliance、Foxconn(フォクスコン)、Yozma Korea(ヨズマコリア)といった戦略的投資家が拠出した。シリーズBではこれまで2回にわたって5100万ドル(約54億円)調達された。最新のものは6月の2000万ドル(約21億円)で、戦略的投資家SK Telecom(SKテレコム)が出資した。同社はNanoxのハードウェアを韓国で製造するための工場を建設中だ。実は日本にも工場がある。

Nanoxはバリュエーションを明らかにしていないが、6月時点では6億ドル(約630億円)だった。そしてTechCrunchが把握しているところでは、今回が上場前の最後の調達となりそうだ。ただ、上場のタイムラインはまだ設定されていない。もちろん、スタートアップの資金調達の世界ではこうしたタイムラインは決して明らかにされることはない。

Nanoxの創業者でCEOのRan Poliakine(ラン・ポリアキン)氏は7月28日のインタビューの中で、同社の売上の大半はライセンス取引で上げていると述べた。FoxconnやSK、富士フイルムなどのメーカーがNanoxのコンセプトに基づくデバイスを製造するのにIPを提供する。計画では今後7年間でスキャナー1万5000台を製造する。

長期的には、Nanoxはサービスの提供を開始するために、同社のマシンが設置される全マーケットで現地当局の承認を得る。サービスは、ハードウェアから得られた画像に洞察を提供するというものだ。承認取得のための作業は進められているが、新型コロナウイルスの影響で遅延している。実際の承認取得などその後の多くのプロセスもずれ込むことになる。

Nanoxの事業はサービスという点において特に興味深い。というのも、医療サービスが現在、そして将来どのように提供されるかというところで大胆なシフトを強調するものだからだ。

よりパワフルなコミュニケーションネットワークや改良された画像テクノロジー、かなりの人件費、そして施設を最新の状態に保つための高額のメンテナンス費用の影響で、病院などの施設は分析業務をオンサイトラボからリモート施設にアウトソースするようになった。これにより、新たなチャンスに入りこもうとする事業が数多く生まれることになった。

「通信会社は5Gの販売方法をめぐり、機会を模索している」とSK Telecomの会長Ilung Kim(イルウン・キム)氏は6月のインタビューで述べた。「そしていま、5Gデータを使いながら救急車の中で使用できるほどのサイズのスキャナーが期待できる。業界にとってゲームチェンジャーだ」。

Nanoxは当局の承認を待っているが、すでにこのサービスで契約を結んでいて、つまりマーケットの需要があることを示している。直近では、USA Radiology(USAラジオロジー)と契約を結んだ。この契約では、全米とその他15カ国でのスキャン・アズ・ア・サービス事業でNanoxのテックを使う。

もちろんNanoxはそうした契約では2つの面で利益を上げる。サービスのテックをライセンス貸しするだけでなく、製造して販売するハードウェアの接続ライセンス料も徴収している。

以前述べたように、Nanoxシステムは占有のデジタルレントゲン技術をベースとしている。これは画像をとらえて処理するのにレントゲンではなくデジタルスキャンに頼るという、画像分野では比較的新しい技術だ。Nanoxの主力製品であるARCハードウェアは重さ70kg。これに比べ、平均的なCTスキャナーは2000kgもある。そして製造コストはCTスキャナーが100〜300万ドル(約1〜3億円)なのに対し、ARCは約1万ドル(約105万円)だ。

ポリアキン氏によると、小型のマシーン(よって安い)で、画像処理のほとんどをクラウドで行うのに加えて、Nanoxシステムは1秒もかからずに画像を生成できる。既存の方法に比べて放射線被曝という点においてかなり安全だ。そのため、マシーンの所有が簡単で安くなり、そして通常のスキャンで一部の箇所だけでなく体全体をカバーでき、そこからさらに知見を得ることができる。Nanoxはまた、そうした画像からさらに正確な知見を「読む」複雑なアルゴリズムを構築している機関と提携している。

Nanoxの取り組みは、かなり注目せずにはいられないものだ。以前指摘したように、画像はこのところかなりニュースで取り上げられている。というのも、画像では新型コロナウイルスが肺や他の器官にダメージを与えているかが確認でき、画像は新型コロナ患者もしくは新型コロナに罹っているかもしれない人の症状の進行状況を最も正確に把握する手段の1つだからだ。

その一方で、グローバルの新型コロナパンデミックで人々は互いに距離を取ることを余儀なくされ、ヘルスケア分野では遠隔から患者を簡単に診断できるサービスの需要が高まった。このため、医療分野が今後どういう方向に展開されるかという点で、Nanoxと同社のアプローチは脚光を浴びることになった。

事業を次のレベルに進められるよう、Nanoxは必要な当局の承認が得られるはずだ。

「世界を変えることを目指している、と言うのはたやすい」とポリアキン氏は声明で述べた。「そうした言葉の最大の課題は常に実行にある。当社は早期発見でがんや他の病気の撲滅をサポートするという大胆なビジョンを持っている。夢を現実のものにするグローバルの医療画像サービスインフラ展開のために鋭意取り組んでいる」。

画像クレジット: Nanox

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(翻訳:Mizoguchi