オーディオサンプルのマーケットプレイス、音楽制作コラボツール提供のSpliceが約67億円調達

テックはミュージシャンの財布から金を奪うばかりだと悪名を轟かせているが、Spliceはそうした状況を変えようとしている。オーディオサンプルのマーケットプレイス、そして音楽制作コラボツールを提供しているSpliceは2013年以来、アーティストにこれまで1500万ドルを支払い、昨年は数字を倍増させた。

Spliceではミュージシャンは著作権フリーのサウンドを販売することができる。そうしたサンプルを利用したエミネムやアリアナ・グランデ、マシュメロの楽曲はチャート1位に輝いた。300万ものシンセサイザー、ドラム、ボーカルのサウンドに無制限にアクセスできるようになるサービスの利用料は月7.99ドルだ。真剣にやっているミュージシャン用にデザインされているにもかかわらず、Spliceツールのユーザーは現在250万人で、1年前の150万人より増えている。

Steve Martocci

「音楽は美しい時を経験している」とSpliceの共同創業者でCEO、そして以前GroupMeをつくって売却したSteve Martocci氏は話す。「ストリーミングがうまくいっているという追い風は大したものだ。このマーケットがいかに大きなものか多くの人が認識するにつれ、人々はより音楽を制作したがるようになり、大きなチャンスがここにはある」。

そしていま、Union Square VenturesとTrue Venturesがそのチャンスをつかもうとしていて、Spliceの5750万ドル(約67億円)ものシリーズCを共同で主導した。「スケールがすべてだ」とMartocci氏は語る。「我々は我々自身に投資をしている。新たなプロダクトをつくり続ける。より有名なアーティストと連携し続ける。クリエイティブなプロセスとミュージシャンのエコシステムには修正されるべき点が多くあると考えている。我々は全ジャンルのアーティストが必要なものは全てそろっていると感じられるよう、利用できるコンテンツを多様化させたい」。

DFJ Growth、Flybridge、Lerer Hippeau、Liontree、Founders Circle Capital、Matt Pincusなどが参加した今回のラウンドにより、Spliceの累計調達額は1億450万ドルとなった。Spliceは企業価値を明らかにしたがらないだろうが、シリーズCで20%の普通株を売るという業界のスタンダードを用いれば、Spliceの価値は2億8500万ドルほどかもしれない。この数字は、ストリーミングやチケット販売、ハードウェアを扱っていない音楽スタートアップとしてはトップレベルだ。この成功で、昨年Sounds.comマーケットプレイスを立ち上げたNative Instrumentsのような競争相手が出てきている。

Spliceの購読による売上高はいったんプールされ、ダウンロードの多さに基づいてアーティストに分配される。パソコンで音楽を制作する人からドレイクのグラミー賞受賞に導いたプロデューサーのBoi-1daまでクリエイターの幅は広い。Martocci氏は、Spliceのサンプルマーケットプレイスの売上の大半はアーティストにいっていることを認め、「まったく彼らにとって有利なディールだ」と語った。これは特に音楽プロダクション業界にとっては素晴らしいものだ。というのも、SpliceのサンプルクリエイターはセレブDJではないからだ。Martocci氏いわく、彼らはオーディオエンジニアであり、素晴らしい収入の機会を手にして表に出てきた、これまで影に隠れていた人たちだ」。

Spliceはコンサートで存在感を増している。友人がMartocci氏に、GroupMeのようなソフトウェアを構築するのに素晴らしいツールがあったように音楽をつくるためのよいツールがなかったのはなぜか尋ねた。Skypeが買収した彼のチャットアプリを最終的に離れた後、Martocci氏はSpliceの共同創業者のMatt Aimonetti氏に連絡を取り、彼が人生の半分をオーディオエンジニアとして過ごしてきたことを発見した。彼らは、制作をシンプルにする、保存してコラボするための管理許可をコントロールするという音楽のためのGitHubにチャンスを見い出した。2015年にSpliceはサウンド購読ライブラリーを立ち上げ、翌年にはクリエイターが著作権侵害を回避できるよう所有権付きレンタルソフトウェアシンセサイザーの販売を開始した。

それから時はあっという間に流れ、Martocci氏はSpliceの異なるプロダクトラインで何を優先するかが今後大きな課題になるだろう、と語る。幸運なことに、彼は新しく補佐してくれる人材を迎えた。Apple MusicとBeats by Dreでプロダクトを主導したRyan Walsh氏が最高製品責任者としてチームに加わった。Ryan氏のチームへの参加については、Martocci氏はその理由を「Ryanは音楽における自分のミッションがまだ終わっていないと感じていたからだ」と話している。Marvel Entertainmentの前最高財務責任者Chris Acquaviva氏がいまSpliceのCFOを務めていて、彼はライセンスの専門家だ。さらにはクリエイターコミュニティを活発なものにするため、MakerBotの前CHROであるKavita Vora氏が最高人材活用責任者に就いている。

テックに対する一般的なイメージが業界の大企業によるとめどないスキャンダルによって試練を受けているいる時代にあって、Spliceは間違いなくポジティブに作用しようとしているエース級の存在だ。Martocci氏は、子を持つ人たちが子供がFortniteで遊ぶのとSpliceで音楽を制作するのに時間を費やしていると教えてくれたことを明かした。だが、Spliceでの音楽制作は推奨すべきスクリーンタイムだろう。

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(翻訳:Mizoguchi)

ミュージシャンは盗むよりもSpliceを使ったほうが簡単で早い

「上位40パーセントの曲が私たちのプラットフォームで作られていたと知ってびっくりしました」と語るのは、Spliceの共同創設者Steve Martocci。彼は何人かのベッドルーム・ミュージック(パソコン上で製作された音楽)の作曲者の話をしてくれた。彼らは「ファミリーレストランのOlive Gardenで働いていたが、Spliceに音源を投稿し始めた」。そのあと、彼らはすぐにファミレスを辞めた。アーティストたちが、彼らの音源をダウンロードして使うようになったので、それで十分に稼げるようになったからだ。やがて人気DJ、Zeddとのコラボを行い、ビルボード12位に輝くヒット曲「Starving」が生まれた。

Spliceは、4700万ドルの資金を調達し、このまったく新しい音楽経済にパワーを与えている。デジタル楽器ソフトやサンプル音源パックは、一般的に高価で、無料お試し期間が設定されていないものも多いため、その95パーセントが海賊版として出回っているとMartocciは見ている。これは衝撃的な話だ。カニエ・ウエストですら、人気のSerumデジタル・シンセサイザーを不正ダウンロードして捕まっている。

一方、Spriceでは、月7ドル99セントの利用料で、最大100サンプルまでの著作権フリーの音源がダウンロードでき、それを自分の作品に使うことができる。Spotifyで音楽を聴くよりも安い。Spliceは、音源がダウンロードされた回数に応じて、その提供者に代金を支払っている。その総額はすでに700万ドルを超えている。

Splice Soundsは、サンプル音源のiTune Storeのようだ。

「音楽ビジネスのテーブルに、もっと席を増やしたいんです」とMartocciは話す。彼は以前、メッセージ・アプリ「GroupMe」の会社を立ち上げ、2011年に5000万ドルから8000万ドルの価格でSkypeに売却している。「GroupMeは、友だちとコンサートに行くために作りました。音楽は常に私の動機となってきましたが、私のキャンバスはコーディングです。アーティストたちが私のところへやって来てハグをしてくれます。私が創造的プロセスに変革を起こしているからです」

Spliceの共同創設者Steve Martocci。

現在彼は、しっかりとしたミュージシャンのコミュニティーで成功し、12月からは3500万ドルのシリーズB投資を受けるという実績によって、大物の支援が受けられるようになった。Spliceは、Facebookの元プロダクト・マネージャMatt Pakesを製品担当副社長として迎え入れ、ニューヨークの中核チームの責任者に就けた。また、Secretの共同創設者Chrys Baderを雇い入れ、ロサンゼルスの新チーム設立を任せている(告白するが、このことを私は、彼らがサンフランシスコから出て行く前から知っていた)。

Spliceには現在100名のスタッフがいるが、ほとんどが趣味のミュージシャンだ。「サンフランシスコの人間は一人もいないと思います」とMartocciは言う。彼は、オフィスをアーティストのライブ会場のようにしたいと考えているのだ。「みんなが音楽に強い情熱を抱いている。ぜんぜん技術系の会社には感じられません」とBaderは話している。Martocciは社員の意見をとても大切にしている。「過去にめちゃくちゃ面倒な人たちと仕事してたから……」ずいぶん雰囲気が違うとBaderは言っていた。Secretの共同創設者との意見の食い違いのことのようだ。「自分の人生のこの時点では、下らないことに付き合っている暇はありません。このチームでは、つまらないいざこざは皆無です」

「Sounds」マーケットプレイスが開始されてから、Spliceの利用者数は1.5倍に増えた。Spliceは、ソフトウエアが楽器を喰うという壮大なビジョンを描いている。つまり、プログラマーのコーディングを支援するアプリと同じように、ミュージシャンの作曲を支援するツールを彼らは作っているのだ。Splice Studioには、GarageBandやLogicやAbletonのような作曲ソフトウエアと、クラウドで同期できるバージョン管理機能が統合されている。

ちょっと難しそうに聞こえるかも知れないが、これが命綱となるのだ。Splice Studioは作曲をしている間、編集を加えるごとに自動的にバックアップをとるため、いつでも元に戻すことができ、手動でいちいちバックアップをとったり、コピーの整理に頭を悩ませることなく、コラボレーションが行えるのだ。

Splice Studioでは編集を加えるごとに自動保存されるため、いろいろ試した後で元に戻すことができる。

Spliceのスタッフは、まったく別の畑から来た人々ではなく、自らも作曲を行うミュージシャンであるため、解決すべき問題の本当の意味を熟知している。収入は予測不能だが、Spliceはミュージシャンたちに、プラグイン、ソフトウエア、楽器を購入選択権付きレンタルの形で利用させている。支払いを中止して、後で再開することが可能だ。シンプルなストリーミング・サービスで不正MP3を駆逐するというSpotifyの取締役Sean Parkerの計画に習ったこうした利便性が、Spliceを「海賊行為よりも簡単にしている」とBaderは言う。「Redditですら文句が出ないものを作りたいんです」とMartocciは笑う。
しかし、次にSpliceが向かう先には、創造性における、最大にして、もっとも陰湿な障壁がある。ライターズ・ブロック、つまり作家のスランプだ。現在活躍しているミュージシャンたちに聞けば、未完成の歌が詰め込まれた巨大なフォルダーを見せてくれるだろう。頭の中に浮かんだメロディーを作曲ソフトで数トラック分打ち込むのは簡単なことだが、それに磨きをかけ、不要なものを取り去り、ぴったりのサウンドを見つけて、聴くに堪える作品に仕上げるには、苦痛に近い努力が必要だ。

それに対するSpliceの答は、Creative Companion(クリエイティブ・コンパニオン)だ。現在、Baderのロサンゼルスチームがこの作業に取りかかっている。次の展開を提言したり、すでに作られている曲の雰囲気に合う音源を教えてくれたりする、曲作りのアシスタントだ。「そこ、ベースラインを入れたほうがいいね。マスターリングを加えよう」といった助言ができるよう、Spliceが「クールな機械学習要素」を使っているとMartocciは説明してくれた。

SpliceはSecretの共同創設者Chrys Baderを雇い入れた。

Spliceにとっての問題は、どれほどの作曲家が料金を払おうと思ってくれるかだ。「一般消費者向けの製品ではなので、上限があります」とBaderは認めている。内部の調査では、世界には3000万人の作曲家がいるという。その多くはSpliceの存在すら知らない。「しかし、月に8ドルだから、破産することはない。プラグインに200ドルとか、Abletonに700ドルを払うなんて、正気じゃない。ミュージシャンには手が出せません。ミュージシャンの友人がいつも言ってる。金がない、金がない、……でも、Spliceに賭けてみるよって」

Union Square Ventures、True Ventures、DFJから大規模な投資を受けていることでも、Spliceは競争相手の注目も集めている。クリエイティブ・ソフトウエアの大手Adobeもこの分野に興味を持ち始めた。また、Native Instrumentsといった音楽用ツールの老舗は、Sound.comを立ち上げ、真正面から対決を挑んできた。しかし、Spliceは長期戦を想定している。Splice Studioを無料公開することでユーザーを呼び寄せ、優れたクリエイターに独自の音源パックの製作を委託する。その意味では、Spliceはレコードレーベルに似ている。

「私は、もっと卓越した音楽に溢れた世界を見てみたいのです」そこでは「あらゆる場面に合う音楽がたくさんある」とMartocciは語る。「ミュージシャンの生活を良くするものが作れたら、私たちの生活も良くなる。私たちの多くはミュージシャンだからです。人生において、他に何があります?」とBaderは説明していた。

コンピューターによって音楽作りが民主化され、大量のアマチュア作曲家が世界に作品を流すようになった。しかし、良い民主化には、公開されるすべての製作物の善し悪しを見分けるレイヤーが必要になる。ソーシャル・ネットワークでもそうだった。そして、才能あるアーティストが、みんなの心を惹きつける作品が作れるよう、ツールも必要になる。

Martocciはこう結論付けている。「ソフトウエアは偉大な道具です。世界の3分の1の人が、いつか音楽を作りたいと考えています。彼らにはもう、ギターや録音機は必要ありません」。どのアプリを選ぼうとも、その創造作業のどこかにかならず存在していたいと、Spliceは願っている。

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(翻訳:TechCrunch Japan)