消えた自動運転、都市OS覇権へ向けてのアプローチ、CES2020を振り返る

編集部注:本稿はDNXベンチャーズでインダストリーパートナーを務める山本康正氏による寄稿記事だ。

年初にテクノロジーの潮流を確認するイベント「CES」では、今年も様々な企業が新しい構想を発表した。

そんなCESで注目すべきは、「何が出展されたか」ではなく、「何が消えたか」。「昨年までは展示されていたのに、今年はない」、それは方針の変更を意味している。

全体の潮流として、今年は昨年に比べ、自動運転の展示が減った。これは「自動運転の開発が想定通りに進んでいない」ということを意味している可能性がある。(一方でホンダなどが出資する自動運転開発ベンチャーのGMクルーズはライドシェア用の無人運転車をCESではなく後日の1月21日に発表しており、評価が分かれている)

代わりに目立ったのは、地に足のついた電気自動車内のエンタメシステムや、自動運転の先を行くスマートシティの整備などについての発表だ。構想が自動運転の手前と周辺に二分したのは興味深い。

電気自動車というカテゴリでは、ソニーが発表した試作車、「Vision-S」が特に注目を集めた。

「ソニーがもし車を作ったらどうなるのか」。期待感、そして「非自動車メーカー」からの発表という意外性から、多くの参加者がVision-Sに熱いまなざしを向けていた。Vision-Sは今年のCESで一番注目された車だ。

Vision-Sの左後部座席の下には「Sony Design」という文字が刻まれている。「誰が作ったか」ということで期待感が高まる製造企業は、アップルやソニーなど、限られたブランドのみだろう。

ここ数年間、CESでは「未来の車の形」を示すようなコンセプトカーが数多く展示された。しかし、それらは、発売されるまでに10年もの歳月を要しそうな奇をてらったデザインのものだったり、実際の走行はできない模型だったりすることが多く、「現実性」と「驚き」のバランスがとれていなかった。だが、Vision-Sは、今にも走り出しそうな「現実的な車」であることから、来場者の注目を集めた。

車体自体はマグナ、ボッシュ、コンチネンタルなどが作っているため、そもそも「これをソニーが作った車と言っていいのか」、という疑問は残る。なぜ、他のパートナー企業の展示エリアではなく、ソニーのブースを選んだのか。そこは推測せざるを得ないが、消費者に驚きを与えるブランドとしては、ソニーが一番適していたのだと考えられる。 

ソニーが実際に提供しているのは、CMOSなど、安全性に使える高性能のセンサーや、ビデオ、音楽などのエンタメシステム。同様のコンセプカーは他社も作っているが、あくまで展示に留めており、プレゼンの目玉としての扱いではない。プレゼンの中でもあくまで「試作車」と強調しているものの、メディアによっては「ソニーが車を作る」と断定した書き方をしている。いずれにせよ、「驚き」による報道の広がりというプラスの効果は大きそうだ。

あくまで「試作車」であり発売すると明言していないことは、既存他社への配慮が伺える。しかし、中国で充電池を開発していた企業が電気自動車を発売し、一気に世界でも有数な電気自動車を販売する規模に成長したように、ガソリンエンジンからモーターに変わったときに、大きなチャンスはある。車内インテリアはバイトンやテスラと似ているところもあるため、どう差別化し、どうパートナーシップを作っていくかは注目だ。

CESにおけるもう一つの大きな潮流の変化を象徴しているのは、トヨタが発表した「Woven City(ウーブン・シティ)」という、スマートシティの実験場だ。トヨタは2018年のCESで、「モビリティ企業になる」と宣言し、「e-Palette(イーパレット)」というコンセプトカーを発表。しかし、そのコンセプトカーは実際に動くものではなく、2019年、実物の展示はなかった。本年、e-Paletteは展示はされていたものの、主役ではなかった。トヨタのコンセプトが「都市そのものをスマート化したい」というものに変化していたからだ。 

静岡の工場跡に建てる(2000人規模、2021年着工)予定とのことで、社員が強制的に転勤させられるのかが少し心配だが、要するに、物理的な実験場を建設するというものだ。しかし、同様の実験は既にトロントでグーグルが、北京近郊でアリババが進めている。これらと何が違うのかを、いかに示すかが、これからの課題の様に見える。

スマートシティではデータのやりとりが必須になる。その際に、「どの企業がOSを提供するか」で覇権が決まる。パソコンメーカーとウィンドウズの関係と似ている、と考える。

今回の構想は、パソコンメーカーに似ているところがある。プレゼンの最後で、「パートナー募集」という言葉があった。肝心なOSのところを外注すると、足元をすくわれかねず、バランスを考えなければならない開発になりそうだ。

その他の潮流について。日本でいうbodygram(ボディグラム)のような採寸アプリが当たり前となり、フードテックも増えてきた。人工栽培の展示も増加し、植物性由来の代替肉を開発するImpossible Foods(インポッシブル・フーズ)も出展した。

米国との貿易戦争の関係もあり、中国のブースは昨年同様に、非常に小規模であった。ファーウェイも単に携帯電話などを展示するのみで、ヨーロッパのバルセロナで行われるMWCでの世界を制覇しそうな勢い(画像下)とのコントラストは興味深い。

展示自体は近年同様だが、サムソンは「世界感」をうまく表現しているように見える。あらゆるデバイスにアプリが入っており、それは家の中だけでなく、外までもを制するというメッセージ。これに関しては、アマゾンも、ガソリンスタンドとアレクサをつなげるという展示を、控えめながらもしていた。「家の中から外までを制する」というスマートシティのお手本の様なやり方だと思う。

結局は消費者が選ぶので、家の中からまず制したほうが、スマートシティも制しやすいということだと思われる。加えて、サムソンは独自の5Gアンテナ、チップもあるので、ファーウェイの5Gアンテナが米国同盟国では使いにくい状況では有利な立場にある。

CESでは、「どのような世界になるか」、また、そのためには「どの様な製品が役に立つか」、というメッセージが必要で、既存の技術を単に展示する旧来の方式からとは変わってきている。

国別で、特に「スタートアップの振興」という意味では、フランスが「フレンチテック」というキーワードを掲げ、相変わらず大きなブースを構えていた。今年は特にオランダも力を増していた印象だ。他国ではイギリスも力を入れていたが、「ヨーロッパ全体の一体感の無さ」はもったいなく感じられた。

アジアは中国が米国との貿易戦争により息を潜め、韓国が勢いを増しており、日本は相対的にもっと拡大をしていかなければ「良い取り組みが埋もれてしまう危険性がある」と感じた次第だ。

山本康正(やまもと・やすまさ):DNXベンチャーズ、インダストリーパートナー。ベンチャーキャピタリストとして日本と海外のベンチャー企業のビジネスモデルを精査し投資している。ハーバード大学客員研究員。1月15日、著書「次のテクノロジーで世界はどう変わるのか」発売。

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