高速回転により液体中の物質を分離する遠心分離器という器具は、世界中の医学研究所にある。しかしその良いものは2000ドルぐらいするし、もちろん電気が必要だ。お金も電気も、世界の最貧国の田舎の病院にはないだろう。スタンフォード大学の研究者たちが作った代替品は、わずか数セントの費用でできるし、充電も要らない。彼らのヒントとなった子どもの玩具は、遠心分離器として意外にも高品質なのだ。
その回転玩具は、単純な構造だ。ボタンのような小さなディスク(円盤)に、糸を2本通す。その糸をゆっくり引くと、ボタンは相当速く回り始める。子どものころ自分で作った方も多いと思うが、研究者の一人も、自分の子どものころを思い出しながら、そのPaperfugeと呼ばれる器具を作った。
彼は大学が作ったビデオの中でこう言っている: “これは、ぼくが子どものころ遊んだおもちゃだ。でも、その回転速度を測ったことはなかった。そこで、試しに高速カメラで撮ってみたんだが、それを見たときは自分の目が信じられなくなった”。
その回転おもちゃは、10000〜15000RPMで回転していた。それはまさに、遠心分離器の回転速度だ。その後チームは、回転おもちゃの動きを詳しく研究し、それが。線形の動きを回転運動に変換する、すばらしく効率の良い方法であることを発見した。
チームは独自の回転おもちゃを作り、それに紙製のディスクを取り付け、そこに血液などの液体を入れたバイアル(小型ガラス瓶)をはめられるようにした。糸には扱いやすいようにハンドルをつけ、1〜2分糸を引き続けると、1ドルにも満たないその器具が、その何千倍以上もするデバイスの仕事を見事に演じた。回転数は125000RPM、30000Gに達した。
“このような、お遊びのような試行方法はきわめて有意義だ。正しい解はどうあるべき、という固定観念から、われわれを解放してくれる”、指導教授(TEDのフェロー)のManu Prakashはそう語る。
実用試験は、マダガスカルで現地のパラメディカルたちと一緒に行った。そこでは、血液からマラリア原虫を分離することに成功した。次は、もっと公式の臨床試験が待っている。
このようなシンプルで安上がりな実験器具は、前にもあったな、と思われた方は、きっとFoldscopeを見た方だろう。これもやはり、Prakashのプロジェクトだ。それはボール紙を折りたたんで作った顕微鏡で、製品化されたものでも数ドルで買える。これを使えば、安い費用で科学研究や医学の研究を行うことができる。
PrakashらのチームによるPaperfugeとその開発の詳細は、最新号のNature Biomedical Engineeringに載っている。