アフリカでAPIフィンテックを展開するStitchがステルスから脱して4.3億円を調達

この数年、世界中でフィンテックインフラストラクチャー企業が多数出現している。アフリカでは、過去3年の間に、フィンテックインフラストラクチャーを提供するスタートアップがいくつか誕生している。南アフリカのフィンテックスタートアップStitch(スティッチ)もその1つだ。このほど、Stitchはステルスモードから脱して、400万ドル(約4億3000万円)のシードラウンドを発表した。これは現時点で、アフリカのAPIフィンテックスタートアップによる最高額の資金調達ラウンドだ。

Kiaan Pillay(キアーン・ピレイ)氏、Natalie Cuthbert(ナタリー・カスバート)氏、およびPriyen Pillay(プリエン・ピレイ)氏によって創業されたStitchは、アフリカ全土の金融口座にAPIのみでアクセス可能にしたいと考えており、まずは、最初のマーケットである南アフリカからサービスを開始する予定だ。開発者はStitchのAPIを使用すると、アプリを金融口座に接続できる。これにより、利用者は、取引履歴と残高の共有、本人確認、決済の開始といった処理を行うことができる。

APIを利用した金融サービス企業が世界中で多数出現している。Plaid(プレイド)は米国の市場をリードしている。スウェーデンに本拠地を置くフィンテックTink(ティンク)は欧州全体を席巻しており、Truelayer(トゥルーレイヤー)とBelvo(ベルボ)はそれぞれ、英国と中南米で確固とした地位を築いている。

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こうした企業は、エンジニアおよび開発者向けに、アプリからユーザーの金融口座に接続する際に必要な技術面および運用面での操作を軽減するツールを提供している。APIを使うことで、通常ならゼロから構築する必要のある複雑なサービスを数行のコードを追加するだけで組み込むことができる。

企業や開発者は他の金融インフラストラクチャー同様、Stitchのサービスを使用すると、パーソナルファイナンス、融資、保険、決済、資産管理などの他のサービスにイノベーションを起こすことができる。

Stitchの創業者たちは南アフリカのマーケットでAPI製品を構築した経験に基づいて起業した。キアーン・ピレイ氏は、2017年、南アフリカの保険APIプラットフォームRoot(ルート)の運用リーダーとして勤務していた。しかしその後、サンフランシスコに本拠地を置く、ID APIを開発する企業Smile Identity(スマイルアイデンティティー)に転職する。そこで同氏は、アフリカ全土のフィンテックに取り組み、コンプライアンスとアイデンティティー周りのインフラストラクチャーに問題があることを発見する。

Stitchのチーム(画像クレジット:Pang Isaac)

この頃、ピレイ氏、カスバート氏(前職はRootのソフトウェアアーキテクト)、およびプリエン・ピレイ氏は、サイドプロジェクトとして、アフリカ向けにVenmo(ベンモ)式のウォレットを構築する作業を行っていた。そして、銀行に接続しようと8カ月間試みた結果、アフリカのフィンテックはインフラストラクチャーが欠如しているために進歩のスピードが遅いことに気づいた。

「我々はユーザーが現金をウォレットから銀行口座に移せるようにする方法を考えていた」とピレイ氏はいう。「最初は手作業でやっていたが、その後、一時しのぎの策として、このプロセスを画面スクレイピングを使って自動化してみた。そして、この手作業を自動化するという解決策自体を製品化できること、なおかつもっと洗練された方法があることに気づいた」。

そのような経緯で、ピレイ氏をCEO、カスバート氏をCTO、プリエン・ピレイ氏をCPOとして、Stitchの立ち上げに向けてチームが結成された。2019年10月にはこのアイデアに本格的に取り組み始め、1カ月後にはプレシードラウンドを確保した。Stitchによると、ステルス状態で運営している間に、 Intelligent Debt Management(インテリジェント・デット・マネジメント)、Momentum Velocity Club(モメンタム・ベロシティ・クラブ)、FlexClub(フレックスクラブ)など、数社の顧客を獲得したという。その後、Stitchは消費者向け製品を扱う企業からも注目されるようになる。

Stitchは現時点で、データおよび本人確認用API製品を提供しているが、今月には、決済用製品もラインナップに追加する予定だ。大半のAPIフィンテックスタートアップと同様、StitchもAPIコール1回ごとに課金する。ただし、予算作成やパーソナルファイナンス管理アプリなど、一部の製品では、固定料金制も導入している。

Stitchは、投資家たちから幅広く深い支援を受け、資金を調達して南アフリカで確固とした成長基盤を築くつもりだ。また、アフリカ西部や東部でも事業を展開する予定だという。

活況を呈するアフリカの金融インフラストラクチャー

アフリカの金融インフラストラクチャー市場にはすでに、APIフィンテック領域のプレイヤー(主にナイジェリアのスタートアップ)が存在している。そうした企業は大規模なラウンドで資金調達しており、うらやましいほどの支援も受けている。Mono(モノ、半年前に起業したばかりのスタートアップ)はYCの支援を受けている。また、Okra(オクラ)はアフリカ全土に展開するVC企業TLcom Capital(TLcomキャピタル)の支援を、OnePipe(ワンパイプ)はTechstars(テックスターズ)の支援を受けている。米国に本拠地を置くがアフリカに注力しているPngme(プングメ)は、アフリカ全土に展開するVC企業EchoVC(エコーVC)、とLateral Capital(ラテラルキャピタル)から投資を誘致している。

現時点では、これらのスタートアップは3か国以上には事業展開していない。例えばモノ、オクラ、ワンパイプはナイジェリア国内のみを拠点としており、プングメはナイジェリアとケニア、Stitchは南アフリカのみでサービスを提供している。こうした企業がマーケットを拡大していったとき、どのような競合関係および協力関係が展開されていくのかを見るのは興味深い。これは、そんなに先の話ではない。オクラは現在、ケニアと南アフリカで試験的にサービスを提供しているし、モノは2021年末までには、ガーナとケニアにマーケットを拡大する予定だからだ。

これらのスタートアップの創業者に以前話を聞いたところ、アフリカの市場では健全な競争が展開されると思うと答えてくれた。キアーン・ピレイ氏は次のように付け加えた。「長期的な展開としては、各企業がそれぞれ得意な分野でニッチな機能を実現していく形になるだろう」。

「プレイドが席巻している米国とは違い、アフリカのフィンテック業界には複数のプレイヤーが必要だと思う。欧州が良い例だ。多くのかなり大規模な企業が同じようなバンキングAPIサービスを提供している。アフリカでは、複数の企業が特定の機能(決済、データのエンリッチ化、店舗IDなど)を提供する形になるのではないかと思う」。

画像クレジット:Stitch

Stitchの今回のシードラウンドには錚々たる参加者が名を連ねており、主導するのは、ロンドンに本拠地を置くVC企業firstminute Capital(ファーストミニッツ・キャピタル)と米国に本拠地を置く投資会社The Raba Partnership(ラバ・パートナーシップ)だ。その他の出資者にはファンドとエンジェル投資家の両方がいる。

ファンドとしては、CRE、Village Global(ビレッジグローバル)、Norrsken(ノースケン、Klarna(クラーナ)の共同創業者Niklas Adalberth(ニクラス・アダルバース)氏が設立したファンド)、Future Africa(フューチャーアフリカ、Flutterwave(フラッターウェーブ)の共同創業者Iyinoluwa Aboyeji(リノウワ・アボイェジ)氏が設立したファンド)、500 Fintech(ファイブハンドレッド・フィンテック)などがいる。エンジェル投資家としては、ベンモの共同創業者Iqram Magdon-Ismail(イクラム・マグドンイズメール)氏、プレイドの何人かの創業メンバー、およびCoinbase(コインベース)、Revolut(レヴォルート)、Fast(ファスト)、Paystack(ペイスタック)の経営幹部らがいる。

ステルス状態のスタートアップがこれだけの投資家たちの支援を受けることができた理由について「Stitchの米国でのネットワークと各投資家の当社の製品に対する信頼が大きい」とピレイ氏はいう。

「スマイルアイデンティティーで仕事をしていたときサンフランシスコでかなりの期間過ごしたため、こうした世界クラスの創業者や投資家たちと接触することができた」とキーアン・ピレイ氏はいう。「我々にはアフリカ全土の市場で新世代の金融サービスを提供するチャンスがある。これだけの投資家たちの支援を受けることができて本当に幸運だと思う」。

ファーストミニッツ・キャピタルの共同創業者兼ジェネラルパートナーBrent Hoberman(ブレント・ホバーマン)氏によると、同社がStitchを支援する決定を下したのは、アフリカのほとんどのオンラインビジネスは、Stitchを介して自社のアプリケーションにフィンテック機能(シンプルなオンライン決済、融資能力の向上、本人確認の簡素化など)を組み込むようになると信じているからだという。

「南アフリカ人の同胞として、アフリカ全土のマーケットへの進出を見据える、優れた才能を持つ同胞エンジニアのチームと仕事ができることにワクワクしている」とホバーマン氏は付け加えた。

この1月、アフリカのVC市場は、アグリテックとクリーンテックセクターが資金調達ラウンドを席巻しており、フィンテックセクターは低調だったが、その後、フィンテックセクターが活気を呈しつつある。今週、南アフリカのデジタルバンクTymeBank(タイムバンク)が1億900万ドル(約118億1600万円)という巨額の資金を調達し、南アフリカ全土およびアジアへの進出を目論んでいる。大規模ラウンドといえばVC資金の30%以上を獲得した特定のセクターの大規模ラウンドを見たことがあるが、今回のラウンドはそれを上回る規模になっている。

過去2年間のアフリカにおけるAPIフィンテック領域で注目すべき、一連の投資案件では、すべての主要スタートアップが50万ドル(約5400万円)から400万ドル(約4億3300万円)を調達しているが、今回のStitchのシードラウンドはその中の最新の案件だ。

ブレント・ホバーマン氏のファーストミニッツ・キャピタルでの役職とラバ・パートナーシップの本拠地を更新しました。

カテゴリー:フィンテック
タグ:Stitchアフリカ資金調達南アフリカ

画像クレジット:Pang Isaac

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(文:Tage Kene-Okafor、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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