シカゴ警察の武力行使における黒人警官と白人警官の差が新データで明らかに

シカゴ警察から抽出された莫大なデータを分析した結果、黒人警官と白人警官、男性警官と女性警官の間で、実際に法を執行する方法に大きな違いがあることが明らかになった。この貴重な同一条件での比較分析は、警察における多様性を拡大することで、警察の質も向上する可能性があるという考えを裏づけるものとなった。

従来、警察署からハードデータを入手するというのは、さまざまな理由から非常に困難とされてきた。今回の調査を行った研究者らは論文の中で次のように述べている。

警官の配置や行動に関する詳細なデータが十分になく、比較対象となる警官が職務中に共通の状況に直面していることを確認することが困難、または不可能であるという理由から、警察の多様性の影響に対する厳密な評価はこれまでなされてこなかった。

……現状、米国にある約1万8000の警察機関では記録の管理法がまちまちである。またその情報開示に対する慣習もあいまって、広範な評価の実施がさらに妨げられる結果となっている。

しかし、Bocar A. Ba(ボカール・A・バ)氏らによるこの研究は、3年間にわたってシカゴ市警察に依頼し続けたことが実を結び、非常に詳細な記録に基づいたものとなっている。本件はカリフォルニア大学アーバイン校、ペンシルバニア大学、プリンストン大学、コロンビア大学の研究者による共同研究で、本日Science誌に掲載された(アクセスは無料)。

同記録には2012年から2015年までの数百万件ものシフトとパトロール歴が含まれている。それを研究グループが慎重に選別し、分析を可能にする情報が浮き彫りになるまで削ぎ落とす作業を行った。その待ち望まれた分析とは、デモグラフィック以外のすべての点で似ている警察の仕事や行動を比較するというものだ。

たとえば3月のとある月曜日、同じ地区の同じ時間帯における黒人警官と白人警官の行動に深刻な差が見られなければ、警察の仕事ぶりに大きな影響を与えているのは人種ではないと暫定的に断定できる。一方、もしそこに深刻な差があったとすれば、制度的な偏りがある可能性を示唆しているとして、さらに掘り下げた調査が行われる。

この分析では、他のすべての変数を分離した結果、予想されたとおり、警官の人種のみに関連した大きな違いがあることが判明した。この結果を明白だと感じるか、微妙だと感じるかは人それぞれかもしれないが、この研究のポイントは仮説を推測したり確認したりするものではなく、人種に関連した格差が存在し、調査と説明を必要とするというをことをデータで明確に示すことである。

具体的な結果としては、以下のようなものがある。

  • 自称黒人およびヒスパニックなどのマイノリティー警官の「パトロール任務には大きな違い」がある。これは他の調査結果との効果的な比較を提供するためには、考慮しなければならない点である
  • 黒人警官が武力を使う確率は平均的に白人警官よりも35%少なく、その差の大部分は黒人の民間人に対して使われた武力によるものである
  • 「不審な行動」を理由にした黒人警官による「職務質問」は、はるかに少ない
  • ヒスパニック系の警官も同様、または黒人よりも少ない結果となった
  • 女性警官は男性警官と比べて武力を使うことが極端に少なく、またここでも黒人の民間人に対しての差は特に顕著である
  • 引き留め、逮捕、武力の行使における格差の多くは、特に黒人が多数派の地域での軽犯罪の取り扱いに対する違いに起因している

上記を言い換えると、データによると白人男性警官は特に有色人種に対して、引き留め、逮捕、武力行使をすることが多く、それは軽犯罪や正当性が曖昧な職務質問の結果として起きることが多い。

収集されたデータのサンプリング:シカゴのウェントワース地区で行われた警官による引き留め、逮捕、および武力行使を示している(画像クレジット:Science)

パターンは決定的に見えるものの、因果関係のメカニズムについては調査されておらず解明もされていないことを理解すべきであると研究者たちは指摘している。実際、同データは2つの方向に解釈される可能性があるという。

このような格差の説明の1つには、白人警官が黒人警官よりも黒人市民に対して不必要に強い扱いをする傾向が強いという人種バイアスが挙げられる。もう1つの説明は、進行中の犯罪の様子を観察している際、黒人警官はより寛大な対応をする、ということである。

さらなる研究が必要だが、黒人警官が軽犯罪に対してより寛大な対応をするという前述の説明は公共の安全にはほとんど影響がないと指摘されている(凶悪犯罪は、人種や性別に関係なくほぼ同じように対処されている)。一方、もう1つの説明である制度的人種差別は著しく有害である。この2つの説明は、データとしてみれば「実測的には同等」であるが、結果からみると同等ではない(同等である可能性もないし、お互いにまったく相容れない)。

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論文とその意味合いについての貴重な解説で、イェール大学のPhillip Atiba Goff(フィリップ・アティバ・ゴフ)氏は、この研究結果は我々が見落としがちな重要な意味合いを含んでいるという。

このデータから示された違いの大きさは、少なくともいくつかの都市では、マイノリティー警官の数は警官の行動を予測する上で重要であると証明している。これで問題が解決するわけではないが、この研究が、警官全体に対する同一条件での比較を示していることには間違いない(その原因は救命できていないものの)。

地域の暴力に対する警官の対応においては人口統計学的な違いはほとんどないことを考えると、職務質問でここまで大きな違いがあるという事実に、読者は自問することになるに違いない。白人警官によるこれらの過剰な職務質問は必要なのだろうか?社会的に弱い立場に立たされている地域社会に対し、権力の乱用の恐れがあることが実証されていることを考えれば、警察は警官たちに職務質問をさせるべきなのだろうか?

白人警官による過剰な武力行使は必要なのか?過剰な武力行使が公共の安全のために必要でないとしたら、なぜ白人警官はこれほどまでに黒人コミュニティを標的にして武力を使うのか?こういった質問は、警察活動とその制限を目的とした幅広い取り組みの中で答えを見つけて行く以外ないだろう。

つまり、こういった問題の核心に迫るためにはさらなる研究が必要なのかもしれない。しかし警察の方でもリソースを必ずしも効果的に使用できていないと言えるのではないか。実際、もしかすると警察の仕事の多くが地域社会にとってほとんど価値のないものである可能性(またはまったく価値のないもの、さらには逆にいない方が安全かもしれないという可能性)に直面するかもしれない。ゴフ氏は次のようにまとめている。

暴力は過去30年間で減少傾向にあり、そのほとんどは一定の地域で起きている。また暴力への対処が警察活動のごく一部しか占めていない可能性がある中で、警察の役割は今後どうあるべきなのだろうか。その答えが「飛躍的に減少させるべき」であるという可能性を真剣に受け止めない限り、ほとんどの研究者よりもはるかに長い間この問題を問い続けてきた一部の研究者や一般市民の両方を苛立たせることになるだろう。

この研究は、論文の著者達とシカゴの法務当局がシカゴ警察にデータを公開するよう圧力をかけたからこそ可能になったものである。上述したように、全国規模で分析するために複数の警察署から大規模なデータを収集するということは非常に困難である。著者らは、シカゴに特化して得られたこの知見が他の都市に同様に適用されない可能性があることを認めている。

しかし、これは行動を起こすための呼びかけにはなっている。いつか実際のデータへのアクセスを得ることができ、研究者がこういった大きな問題を発見した場合、国内すべての警察は不透明性を継続することの利点とリスクを、透明性と協力的に振る舞うことの利点と比較するべきなのである。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:警察アメリカシカゴ

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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