米国防総省のJEDI(Joint Enterprise Defense Infrastructure)、つまり防衛基盤整備のための共同事業は、米国時間10月25日午後にスリリングな結末を迎えたが、まさにそうなるべくして、土壇場の逆転劇が展開された。本命のAmazon(アマゾン)が契約を逃したことには、大勢が息を飲んだ。当のアマゾンもそうであったに違いない。結局、100億ドル(約1兆900億円)を勝ち取ったのはMicrosoft(マイクロソフト))だった。
この契約は、最初からドラマにあふれていた。その金額もさることながら、長い契約期間1社総取りという性質に加えて政治までも絡んできた。政治の話は忘れられない。つまりはワシントンの話だ。アマゾンのCEOであるジェフ・ベゾス氏はワシントンポスト紙を所有している。
調達手順全般に対するオラクルの激しい怒りもあった。8月にはトランプ大統領も出てきた。決定が下された2日前の10月23日には国防長官が身を引いた。10月25日夕方に発表された最終決定も含め、なんとも壮大なドラマだった。しかし、まだはっきりしないことがある。はたして、これで決着したのか、それともこの後、二転三転の物語が続くのか。
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100億ドルとはどれほどか
マイクロソフトが100億ドルの10年契約を手にしたことに腰を抜かす前に、去年、アマゾンがクラウド部門だけで90億ドル(約9800億円)の収益を上げていることを考えてみよう。マイクロソフトは前四半期の総収入を330億ドル(約3兆6000億円)と報告した。クラウド部門での収益は110億ドル(約1兆2000億円)だという。シナジー研究所は、現在のクラウド・インフラ市場は、年間1000億ドル(約10兆9000億円)規模と見積もっている(さらに成長中)。
ここで話題になっている契約は年間100億ドル相当だ。しかも、政府が取引解除事項のひとつを使えば、それだけの価値は得られなくなる。契約が保証しているのは最初の2年間だけだ。その後、3年間の継続オプションが2回あり、最後にそこまで辿り着けた場合だが残りの2年間のオプションがある。
米国防総省は、いつ足元をすくわれるともわからないハイテク業界の変わり身の早さを考慮して、このユニークな契約内容と1社との単独契約により、常にオプションをオープンにしておきたかったと認めている。契約企業が他社に突然潰されてしまうこともあり得るため、10年もの間、ひとつの企業との関係に拘束されることを嫌ったのだ。流れる砂のように急速に変化するテクノロジーの性質を考えれば、その戦略は賢明だと言える。
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どこに価値があるのか
この取引の価値は契約そのものにはないとするなら、なぜみんなそれほどまで欲しがっていたのかという疑問が湧く。100億ドルのJEDI契約は単なる入り口に過ぎない。国防総省のインフラを近代化できるなら、政府の他の機関の近代化も可能だろうという話になる。そうしてマイクロソフトには、政府のクラウドビジネスというおいしい話への扉が開くのだ。
だが、マイクロソフトがまだおいしいクラウドビジネスにありついていないというわけではない。例えば2016年、マイクロソフトは国防総省全体をWindows10に移行させるための、およそ10億ドルの契約を交わしている。アマゾンも、政府との契約により利益を享受している。あの有名な、CIAのプライベートクラウドを構築する6億ドル(約650億円)の契約だ。
しかし、この契約の注目度の高さを見るに、これには政府からの通常の受注契約とは少し違う雰囲気が常に漂っている。事実、国防総省は「スター・ウォーズ」にちなんだ略称を使って、最初からこのプロジェクトに関心を集めようとしていた。そのため、この契約を勝ち取ることは大変な名誉であり、マイクロソフトは鼻高々だった。それに引き換えアマゾンは、いったい何が悪かったのかと思いに沈んでいる。オラクルなどその他の企業は、この結果をどう捉えているのか知るよしもない。
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地獄は軽蔑されたオラクルのような怒りをもたない
オラクル。JEDIの提案募集の段階を通じて怒りを露わにしてきたオラクルを語らずして、この話は完結しない。提案募集が始まる以前から、同社は調達方法について不満を述べていた。オラクルの共同CEOであるSafra Catz(サフラ・キャッツ)氏は、大統領と夕食をともにし、契約手順は不公正だと訴えた。その後、彼らは米政府説明責任局に苦情を申し立てた。だが、契約手順に問題はないと判断された。
そして彼らは裁判所に訴え出た。だが裁判官は、調達手順が不公正であることと、国防総省に雇われたアマゾンの元従業員が提案依頼書の作成に関わっていたことの両方の訴えを退けた。彼らは、その元従業員が、契約がアマゾン有利になっていることの証拠だと主張した。しかし裁判官はそれに同意せず、彼らの苦情を却下した。
オラクルが決して譲れないのは、マイクロソフトとアマゾンというファイナリストに匹敵するクラウド技術を単純に持たないからという理由だ。クラウド技術で遅れをとっていたり、市場占有率がアマゾンやマイクロソフトの数分の1ということは決してない。問題は手順にあるか、誰かが意図的にオラクルを追い出したとしか考えられない。
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マイクロソフトは何を提案したのか
決定に関する政治的な駆け引き(近く報告する)とは別に、豊富な経験と高い技術力を提示したマイクロソフトが選考段階で優位になったのは確実だ。選考理由を知るまでは、なぜ国防総省がマイクロソフトを選んだのかを正確に知ることはできなかった。しかし、今になって少しわかってきた。
まずは、国防総省との間に継続中の契約があったこと。前述のWindows10の契約のほかに、国防総省に「革新的な企業サービス」をもたらすための国防情報局との17億6000万ドル(約1920億円)の5年契約を結んでいる。
そして、軍隊がどこにでも設置できるポータブルなプライベートクラウドスタックAzure Stack(アジュール・スタック)がある。これは、クラウドサーバーでの通信が困難になる恐れのある戦場で、作戦遂行の大きな助けになる。
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これで終わりだなんてあり得ない
これでいいのだろうか?決定は下され、いよいよ動き出すときだ。アマゾンは家に帰って傷を癒す。マイクロソフトは意気揚々で物事は治った。だが実際のところ、ここはまだまだ話の結末などではない。
たとえばアマゾンは、ジェームズ・マティス元国防長官の著書を論拠にできる。マティス氏は大統領から「100億ドルの契約からベゾスを締め出せ」と命じられたという。彼は拒否したと書いているが、この疑惑がある限り、論争は終わらない。
ジェフ・ベゾス氏がワシントンポストを所有していて、大統領がこの新聞社を目の敵にしていることも指摘しておくべきだろう。事実、今週ホワイトハウスはワシントンポストの購読を停止し、他の政府機関もそれに倣うよう奨励した。
さらに、現国防長官のマーク・エスパー氏が10月23日午後に、突然この件には不適格であると担当から身を引いた事件があった。息子がIBMで働いている(クラウドとは関係のないコンサルティング業務)という小さな理由によるものだ。彼は、どんなに些細なことでも利害に関わる疑念を排除したいのだと語っていた。しかし、その時点ではすでにマイクロソフトとアマゾンに候補は絞られていた。IBMはまったく関与していない。
アマゾンが今回の決定に抗議するとしたら、オラクルの場合よりもずっと強固な証拠が必要になるだろう。アマゾンの広報担当者は「その選択肢は捨てずにいる」とだけ話している。
結論として、少なくとも今の段階では決定が下されたということだが、その過程では最初からプロジェクトの設計そのものにおいても論争が絶えなかった。そのため、アマゾンが独自で抗議行動に出たとしても不思議はない。なぜだか、それが自然に思える。
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(翻訳:金井哲夫)