スタートアップ企業と大企業の提携は増えているが、多くはAPIによるつなぎ込みや、スタートアップ側が既存サービスをまるっとOEM提供するようなことが多い。今日ヤマト運輸とマネーフォワードが発表した提携は、もう少し互いに踏み込んだ共同開発による新サービスという意味でも興味深い「請求書業務支援サービス」だ。
ヤマト運輸は2012年から自社顧客向けに業務支援ポータルサイト「ヤマトビジネスメンバーズ」を提供している。送り状の発行や利用運賃履歴確認など、ヤマトの発送業務を支援する顧客向けポータルとして中小企業や個人事業主を中心に75万アカウントを持つサービスに成長している。
このヤマトビジネスメンバーズに新たに請求業務支援サービスとして「請求業務クラウドサポート」の提供を開始する。
サービスはフリーミアムモデルで提供し、見積書や納品書、請求書・領収書の発行などが無料でできる。月額980円の有料プランでは、さらにファクス送信(1通20円)や売上レポートなどの機能が利用できる。マネーフォワードは「MFクラウド請求書」のシステムを提供していて、要望の多かったファクス送信機能などは共同で開発したという。今も中小企業の物販の現場では請求書を手書きやExcelで作成してファクスで送受信する、煩雑で非効率的な作業が残っているという。
ところでヤマト運輸はシステム開発や運用を行う子会社としてヤマトシステム開発をグループ企業に抱えている。だから今回のような機能開発を自社開発するという選択肢もあり得ただろう。あるいは他にも多くのソリューションがある。今回の提携を担当したヤマト運輸の中西優氏(営業推進部プロジェクトマネージャー)はTechCrunch Japanの取材に対して、請求書業務についてほかのソリューションやクラウドベースのプロダクトを比較したうえで、実績と実際に使ってみた印象からMFクラウド請求書に決めたという。
ヤマトではこれまでLINEで荷物問い合わせができるサービスや、メルカリでの自宅発送サービス、DeNAと自動運転による次世代物流サービスの実験など、B2C向けでスタートアップ企業と提携する例はあったが、今回のようなB2Bは初めて。
ヤマトでは今回の提携を機に自社顧客向けでスタートしていたヤマトビジネスメンバーズを広くヤマト非利用者にも開放。むしろ、「請求書業務もITで統合された宅配事業者」として同業他社と差別化、本業での新規顧客開拓という面でも期待しているそうだ。既存自社顧客向けサービスから、積極的なマーケティングツールへといったところだろう。「もともと請求関連業務をやってる人が、新たに宅配業務をやる、というときにヤマトを選んでもらうというのも考えている」。
最近でこそAPI利用が業務システムでも増えてきているが、かつてこうした業務システムや、その機能モジュールは、パッケージソフトウェアの納品やSIerの受託案件という形で提供されることも多かった。そう考えると、UI・UXに強くてスピード感のあるスタートアップ企業と提携して共同開発するというのは、ちょっと新しいソフトウェア流通のあり方と言えるかもしれない。
同様の取り組みとしてマネーフォワードはこれまでにも、2016年2月にアパート経営管理サービスを提供するインベスターズクラウド向けに確定申告機能を、3月にはアスクルが運営する日用品ECのLOHACOに対してEC連動型家計簿サービスを提供するなど、提携による外部へのサービス提供を加速している。