ユダシティがデットファイナンスで78億円を調達、技術系教育ビジネスが好調

新型コロナウイルス感染症の世界的流行により仕事と学習のあり方が大きな変革を迫られている中、オンライン教育ツールに対する関心が高まり続けている。米国時間11月3日、オンライン教育ツールの老舗企業の1つであるUdacity(ユダシティ)が、法人向けサービスへと方向転換して黒字化を図るべく、資金調達を発表した。同社が展開するのは、社員や公務員のスキルアップを図って最新の需要に対応できる技術的専門知識を身につけてもらおうとする企業や政府機関向けのサービスだ。

ユダシティは、人工知能、プログラミング、自動運転、クラウドコンピューティングといった技術関連の分野でオンライン講座を開催しており、「ナノディグリー」という概念を広く普及させてきた会社だ。今回の資金調達では、デットファイナンスという形で7500万ドル(約78億円)を調達した。この資金は、同社のプラットフォームを法人向けサービス中心に展開していくために使用される。

ユダシティによると、法人向けサービスは急速に成長しており、第3四半期の予約数は前年比120%増となっており、2020年前期の平均ランレート(予測年間売上)は前年比260%増となっている。

ユダシティによると、同社の法人顧客には、「世界の航空宇宙会社の上位7社のうち5社、プロフェッショナルサービスの大手4社のうち3社、世界トップの製薬会社、エジプト情報技術産業開発庁、米国国防総省の4部門のうち3部門」が含まれている。こうした企業や政府機関は、ユダシティが提供している既製コンテンツを利用するだけでなく、個々のニーズに応じたカスタム講座をユダシティと協力して構築している。

また、ユダシティは、企業の社会貢献活動の一環として、いくつかの企業と協力してプログラムを構築しており、マイクロソフトなどの技術系企業と提携して、それらの企業が提供するツールの利用を促進するための開発者向けプログラムも構築している。

2019年からユダシティでCEOを務めるGabe Dalporto(ゲイブ・ダルポルト)氏は、次のように語っている。「企業や政府機関で膨大な需要が発生している。しかし、これまで法人からの需要の大半はインバウンドであり、 Fortune 500企業や政府機関から提携を申し込まれた形だった。今こそ、こうした企業に売り込みをかける営業チームを構成する時だ」

ユダシティは長年、収益の上がるビジネスモデルの構築に苦戦しており、どちらかというと芳しくない理由で注目されてきたが、今回の資金調達のニュースは同社によって歓迎すべき展開だ。

ユダシティは、10年前に、当時スタンフォード大学の教授で、グーグルの自動運転車やその他の大規模なムーンショット型プログラムの構築と運用に携わっていたSebastian Thrun(セバスチアン・スラン)氏を含む3名のロボット専門家によって創業された企業で、当初は複数の大学と提携して技術系のオンライン講座を開設する予定だった(スラン氏の学術的地位とMOOCの流行があいまって、この戦略が推進されたと考えられる)。

しかし、この戦略が極めて困難でコストも高くつくことが判明すると、ユダシティは方向転換して社会人向けの職業訓練学習プロバイダーとなり、特に勉強に専念するための時間的・金銭的な余裕はないが、条件の良い仕事に就くために技術スキルを学びたいという人を対象にサービスを提供するようになった。

その結果、ユーザー数は大幅に増加したものの、利益が出るまでには至らなかった。その後、組織再編の一環として何度かレイオフを実施し、現在の形態へと近づいていった。

現在、同社は個人学習者向けの講座も引き続き提供してはいるが、ダルポルト氏によると、間もなく法人や政府機関の顧客が8割程度を占めるようになるだろうということだ。

ユダシティは、前回のラウンドで、 Andreessen Horowitz(アンダーセンホロビッツ)、Ballie Gifford(ベイリーギフォード)、CRV、Emerson Collective(エマーソン・コレクティブ)などの有名な投資グループから1億7000万ドル(約177億円)近くを調達した。今回の出資者はHercules Capital(ハーキュリーズ・キャピタル)1社のみで、デットファイナンスという形をとっている。

ダルポルト氏によると、当初、エクイティファイナンスのための条件規定書がいくつか送られてきたが、結局、デットファイナンスで調達することにしたという。

「エクイティファイナンスの条件規定書が複数送られてきたが、その後、依頼したわけではないのにデットファイナンスの条件規定書が1通送られてきた」そうだ。それで、資本調達コストと希薄化をいろいろと検討した結果、「デットファイナンスのほうが良いという結論に達した」らしい。同氏は、現時点ではエクイティファイナンスは考えていないが、上場する段階になったら再検討するかもしれないと付け加え、次のように語っている。「当面の間はキャッシュフローがプラスなのでエクイティファイナンスをすぐに行う必要はないが、IPOのようなことを実施する可能性もある」。

今回の資金調達はデットファイナンスで行われるため、ユダシティの時価総額の見直しは行われない。5年前の時点で同社の時価総額は10億ドル(約1000億円)だったが、今回未実施となったエクイティファイナンスの条件規定書に記載されていた時価総額について、ダルポルト氏は言及を避けた。

企業でも高まる教育意識

ユダシティという会社に対する関心、および同社に対する投資家からの関心の高まりの背景には、昨年からオンライン教育企業が注目されるようになってきたという経緯もある。K-12(幼稚園から高校)および大学教育では、学校、地域、政府機関、公衆衛生の担当職員が新型コロナウイルス感染症の拡散防止のためソーシャルディスタンスを実践する中、通常の授業が行えない状況でも生徒が学習を継続できるよう支援するための優れた技術やコンテンツの構築に注目が集まっている。

しかし、オンライン教育が注目されているのは、学校だけではない。ビジネスの世界でも、パンデミックのためリモートワークを余儀なくされた組織がさまざまな課題に直面している。互いに直接顔を合わせて働くことがなくなった状態で、従業員の生産性と帰属意識をどのように維持できるのか。こうした新しい環境で働くために必要なスキルを従業員にどのように習得させればよいのか。コロナ時代の働き方において、しかるべき技術とその技術を活用する専門知識を持つ人材が自社に備わっているのか。政府は、パンデミックのせいで経済が崩壊しないようにどのような対応を行うべきか。

オンライン教育はこうした問題すべてを解決する万能薬と見なされており、オンライン学習ツールやその他のインフラストラクチャーを構築する技術系企業に数多くのビジネスチャンスがもたらされてきた。そのような企業には、従業員向けの技術関連講座と学習プラットフォームの分野で事業を展開するCoursera(コルセラ)、LinkedIn(リンクトイン)、Pluralsight(プルーラルサイト)、Treehouse(ツリーハウス)、Springboard(スプリングボード)などが含まれる。

eコマースなどの市場分野と同様、こうした状況については、トレンドが突然に出現したというよりも、周囲の予測を大きく上回ってトレンドが加速しているという見方のほうが正しい。

ハーキュリーズ・キャピタルの専務取締役兼技術部長のSteve Kuo(スティーブ・クオ)氏は、「ユダシティの成長、持続可能なビジネス手法への注力、複数の業界にまたがるリーチの拡大などを考慮すると、今回の出資にはとても期待している。ユダシティと協力して、同社のグローバル市場での急速な成長を維持し、利用者のスキル向上と再教育の分野で革新を進めていくことを楽しみにしている」と述べている。

ダルポルト氏は、法人と政府機関の領域でユダシティがすでに実績を挙げている事例をいくつか取り上げ、同社が提供しているような職業訓練学習プログラムが受け入れられるのは不思議なことではないと説明する。

たとえば、エネルギー企業のShell(シェル)では、「数学のスキルは高いが機械学習の専門知識がない」構造エンジニアや地質学エンジニアを再教育して、データサイエンスの分野に配属できるようにしている。データサイエンスは、事業運営のオートメーション化を推進し、新しいエネルギー技術の分野に進出するために必要となるからだ。

また、エジプトを始めとする国々では、インドの成功例に倣い、国内の居住者に技術専門知識の教育を提供し、「アウトソーシング経済」で仕事を見つけられるように支援している。エジプトで提供しているプログラムの修了率は80%に達しており、70%が「良い結果を残している」(就職に成功している)という。

ダルポルト氏は、「AIと機械学習の分野だけでも、これらのスキルに対する需要は前年比で70%増加しているが、その需要に対応できる人材が不足している状態だ」と述べている。

少なくとも、あと半年から1年くらいは買収は考えていない、と同氏は付け加え、こう語っている。「需要は多く、社内でやるべき仕事が山積みになっているため、今すぐ買収を考える理由がないからだ。いつかは買収を検討することになると思うが、それは当社の戦略次第だ」。

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(翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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