たくさんジョークが生まれそうだ。「なぜ今夜はいつもの夜と違うの?」で始まるユダヤ教の「4つの質問」は、今年のセーデル(過越の祭の晩餐)の席では、笑いを呼ぶ場面になるだろう。あの感染症にの話は、もううんざりだとお感じだろうか?
世界中に暮らすユダヤ人にとって「ペサハ」(過越の祭)は日常を取り戻すための儀式だ。その式次第には、慣行、祈り、厳格に定められたメニューなど、過越のための一貫した行事が定められている。
米国でも、過越の祭はユダヤ人の間では最も一般的な祝祭日となっている。Pew(ピュー)研究所の調べでは、毎月の礼拝に参加するユダヤ系米国人はおよそ23%だが、去年のセーデルに参加した人は70%に上ったという。その中には、ユダヤ教徒ではないユダヤ人が42%も含まれていて、伝承や慣習の力の大きさを示している。
だが今年は状況が違う。すべてが一変してしまった。もうずいぶん前から、今年の過越の祭が新型コロナウイルス(COVID-19)によって大きく変えられてしまうであろうことはわかっていた。その最初の兆しが、宗教行事を開催不可能にした集会の禁止だ。極めつけは、多くの家族が集まれなくなった自宅待機指示だ。
2020年(諸説あるがユダヤ暦5780年)の過越の祭は、遠隔会議サービス、おもにZoomの活躍が期待される。
「ユダヤ教には中央統制機関がないため、この危機にどう対処すべきかを個人や信者グループに教えることができません。またユダヤ教には技術発展との長い歴史があり、ラビたちはユダヤ人が築いてきた規範を守るよう絶え間ない努力を重ねています。産業革命の後でさえ、動揺するラビはほとんどいませんでした」と、Shalom Hartman Institute of North America(北アメリカ・シャローム・ハートマン研究所)招聘フェローであるDavid Zvi Kalman(デイビッド・ズビ・カルマン)氏はTechCrunchに話した。「とはいえ、このパンデミックによって、ユダヤコミュニティーは機能するのだろうかという疑問が数多く湧き上がっています。そのためラビたちは、この共同社会の対応策を打ち出すという、これまでになく大きな役割を背負うことになりました」。
先月、14人のユダヤ教正統派グループが、家庭では遠隔会議技術を利用してセーデルを執り行ってもよいとする宣言を許可する署名を行った。
この宣言文は、本来はテクノロジーの使用が全面的に禁止されている安息日においても、同様の例外を認めている。「軽症の患者が病気を治すために安息日に治療を受けること認めているのと同じで、これもそのケースに当たる」とラビたちは説明している。
「私たちは、この非常事態に臨み、禁止されている安息日での電子技術の使用を黙認し、物理的に離れていても魂のつながりを保てるようにと決断しました」と、ニューヨークのラビであるRachel Ain(レイチェル・エン)氏は、シナゴーグ(ユダヤ教集会所)が街のさまざまな場所に存在していることを説明しつつ、TechCrunchに話してくれた。彼女はニューヨーク市の自宅待機指示が出されている間中、奉仕活動を続けてきた重要な信徒の一人だ。
過越の祭は米国時間4月8日の日没から始まり、世界中のユダヤ人は、過越にまつわるあらゆる試練、苦難、新局面を通じても初となる「テレ・セーデル」を体験することになる。多くのキリスト教徒にとっても、これは来たるべき復活祭の面白い前例になるのではないか。なにせトランプは以前、ロックダウンは復活祭の前までに解除されると約束していたが、現実味が薄れてきたこともでもある。
私たちが人生のさまざまな局面で経験するように、これもいずれは新たな日常となって今後も続いてゆくものなのかという疑問を、世界中の人々が抱いている。セーデルの最後に唱えられる「来年こそはエルサレムで」の言葉には、多くの人たちが友人や家族と離れて過ごさなければならない今、特別な憂いが感じられる。
「この危機が去った後、ユダヤ人教育の仮想化が今よりもっと真剣に考えられるのではないかと危惧しますが、大多数のユダヤ人は、自分の体で礼拝に参加したいと思うはずです(少なくとも一度でも礼拝に参加したことのあるユダヤ人なら)」とカルマン氏はTechCrunchに話した。「大勢のラビが、バーチャル・コミュニティーの前例ができてしまい、実際に人と人が集まる機会を減らしてしまうのではないかと強く恐れています。同時に、この危機によって多くのラビが社会的に孤立しています。これは今回のパンデミックに特有の問題ではありません。もっとずっと深刻な問題です」。
画像クレジット:Sam Feinsilver / Getty Images
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(翻訳:金井哲夫)