野球リーグが開幕されることのなかった2020年、野球シミュレーションがその代わりとなって注目を浴びたと聞いても驚きはない。それにしても、不条理でホラー感のあるミニマルな「Blaseball」の世界観が成功するとは誰が想像しただろう。すでに数十万人のプレイヤーを魅了した、テキストベースの奇想天外なこのファンタジーリーグがついに、ゲームを構築してモバイル化するための300万ドル(約3億3000万円)の資金調達を実現した。
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それでもこの記事を読み進めたいという読者のためにご説明しよう。Blaseballはウェブベースの架空の野球風リーグで、プレイヤーがゲーム内の通貨を試合結果に賭けることができるというものだ。しかしここからが変なのだ。チーム名はマリナーズでもメッツでもなく、Moist TalkersやWormsなど、選手はChorby SoulやPeanutiel Duffyなどの名前で、選手のデータにはアレルギーや試合前の儀式、RPGのようなアイテムのインベントリーなどが記載されている。
ゲーム内容はスポーツサイトの片隅に出てくるようなシンプルなテキストのみで語られ、ヒットやボール、盗塁だけでなく、焼却や辱め、シークレットベースなども含まれる。また「天気」には、自然発生してしまう選手間の輸血や、プレーを妨害する鳥などが発生することがある。
要するに、まったく馬鹿げていて予測不可能、それでいておもしろいのである。ファンタジーリーグ、野球の風刺、そして宇宙的なホラーを融合させたこのユニークな作品は、19週間のシーズンを通してファンを獲得し、夢中にさせると同時に困惑させてきたのである。そして多くのヒット作がそうであるように、この作品の成功も作り手にとってはまったく予期しないものだったのである。
「我々もみなさんと同じように驚いていますよ。Blaseballは弊社の実験的なサイドプロジェクトでした。パンデミックの真っ只中でパブリッシャーは支出を凍結しており、まったく恐ろしい時期でした。我々はこの孤立した時代に人々を結びつけるようなゲームを作りたかったのです」とこのゲームを開発したThe Game Band(ザ・ゲーム・バンド)の創業者兼CEOであるSam Rosenthal(サム・ローゼンタール)氏は話す。
このアイデアは実際の野球の試合会場での会話から生まれている。ローゼンタール氏と同氏の友人が、ルールが「違ってもっと混沌としている」リーグについて妄想を膨らませていた時のことだ。もちろん現実の野球のルールも常に改訂されているものの、不正な審判に焼かれた選手の復活や、ホームチームのフリーラン、縮ませ光線銃などはこれまでにない。
このようにして誕生した、ゲームのようなゲームでないようなこのゲームは、野球、賭博、ファンタジーリーグに類似しつつもまったくかけ離れた不思議な存在なのである。例えば鳥が巨大なピーナッツの殻の中にいるチームのスターバッターをつついたとか、バッターがマグマを食べたからホームランが出たとか、そういったことで勝負が決まるこのゲームでは、伝統的な野球体験を期待していたプレイヤーはコインを失い、嫌になってしまうだろう。
「時々これがホラーゲームだということをファンに思い出させなければなりません」とローゼンタール氏は認める。このゲームは緻密な勝算性よりも、協力し合ってリーグ自体を導いていくことに意義があるとプレイヤーはやがて気づくのだ。「個人的な成功ではなく、集団的な成功を目指すのがこのゲームです。チームのファン同士が結束することによって組織が報われるのです」。
例えばシーズン終了時にアイドル的存在だった選手の処遇を決める投票券をコインで購入すると、次のシーズンに大きな影響を与えることになる。プレイヤーが本質的に参加しているのは、ただ単に楽しい野球シミュレーションというよりも、不吉なアナウンスや出来事が追い打ちをかけてくる、長期的な代替現実ゲームのようなものなのだ。
試合結果や選手が二塁に歩かされたというニュースの隣で「フィードバックの中で現実が明滅した」ことを知ったり、リーグや無秩序な宇宙にまつわる実体のない会話を見たりすることがある。
これには当惑させられるため、制作者に何か物語の意図や目的があるのか、それともただ手探りで奇妙さを演出しているだけなのか疑問に思うのも無理はない。私は後者だと思っていたが、ローゼンタール氏がはっきりさせてくれた。
「ちゃんと着地点があります。たくさんの計画と膨大な量の伝承が書かれており、ライターズルームも毎日3〜4時間開催しています。しかしゲーム自体で何が起こるかわからないシミュレーションという要素と、ファンという2つのクリエイターが存在するため、我々は常に柔軟でなければなりません。例えばJaylen Hotdogsの生まれ変わりといった斬新な設定もあり皆に理解してもらえるかわかりませんが、我々もいつも学習していますし、必要に応じてすぐに後戻りしたり、変更したりする余地を多く残すようにしています」。
しかしこういった計画が実現されるまでこのゲームが生き残れるかどうかということまでは、開発者たちにも検討がつかなかったという。コロナ渦でのサイドプロジェクトとして制作されたBlaseballは、多額の資金を生み出すものとは想定されていなかった。小規模のゲーム開発会社にとっては、大成功を収めてもそれを収益化する能力がなければ開発やサポートの継続が人気のメリットよりもストレスになってしまうことがある。
「初めから利益が出るように計画していたわけではないので、少しずつ赤字になっていきました」とローゼンタール氏は振り返る。「幸いなことに、コミュニティがPatreonやスポンサーシップを通じて協力してくれました。しかし最終的にはゲームをより良くして持続可能なものにし、優秀なチームにふさわしい報酬を支払いたかったのです」。
今回の300万ドルの資金調達により、同社は稼働し続けることができるだけでなく、同社のライターが製品サポートと兼任しているためトラブル時には会議を早めに打ち切らなければならない、というような事態もなくなるわけだ。しかし何より重要なのは、ネイティブのモバイルアプリ作成に向けての計画である。Blaseballのプレイヤー(といってもゲーム上のBaby TriumphantやWyatt Mason IVといったプレイヤーではなく、我々本物のプレイヤーである)の半分以上はモバイルでプレイしており、ローゼンタール氏自身、現状モバイルでの体験が「すばらしいものではない」と認めている。
同社にはモバイル開発のバックグラウンドがあるため、そのノウハウをしっかりと備えているが、パンデミックの際にはウェブが最も簡単に展開できるプラットフォームであると結論付けていた。しかし、目まぐるしい変化とライブ感のあるゲームの性質上、通常スポーツやファンタジーを愛する人々は最新情報を求めているため、モバイルでの展開を目指すことにしたというわけだ。お気に入りのチームがパーティータイムに入ったとか、憧れの選手が新しいアーマーを手に入れたとか、非物理的な法則が制定されたとか、そういった情報をすぐに知りたくない人なんてどこにもいないだろう。
ローゼンタール氏は独立性を重視していたため、当初は資金調達に抵抗があったというが、投資家として選んだMakers Fund(メイカーズファンド)については、Blaseballの良き理解者であり、事業を収益化するため親というよりもパートナーになってくれたと熱く語っている。
「他のゲームのマネタイズ方法を単に真似してBlaseballでそれを実行することはできず、それではすぐにすべてが台無しになってしまうということを彼らは分かっています。彼らはゲーム業界にすばらしいネットワークを持っていますが、本質的には規範的なものではありません」。
(架空のコミッショナーがプレスリリース内で「BlaseballがMakers Fundを買収」と書いていることに対しても彼らは異議を唱えなかった)
「無料ゲームの収益化は、コミュニティに悪影響を及ぼす可能性があることを私たちはよく理解しています。だから今後もずっと無料でプレイできるようにしていきますし、勝つためにはお金がいるということには決してなりません。例えば、Crabsが一番金持ちのチームだからといってそのチームが優勝することはありません。マネタイズを考えるとき、個人ではなくコミュニティ全体に利益をもたらす方法を考えています」。
その間もリーグは進み、プレイヤーと開発者の生の対話を通して週ごとに変化を遂げていく。今後奇妙さが軽減されるとは思わない方が良い。見当のつかないストーリーがこのゲームの魅力の一部であるということを製作側もよく分かっているからだ。
ローゼンタール氏はBlaseballを、野球シミュレーター版Dark Soulsであるとまで言い切っているから驚きである。「(Dark Soulsは)プレイヤーにほとんど何も情報を与えてくれないので、自分で解釈してテーマをまとめ、フォーラムに行って他の人と話したりすることが求められます。私たちはそのような体験を作り上げて、人々がこの奇妙で未知の存在をどのように解釈するかを見てみたかったのです」。
奇妙で未知の存在という言葉はまさにぴったりである。Blaseballに興味のある読者はぜひここから試して欲しい。
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カテゴリー:ゲーム / eSports
タグ:Blaseball、資金調達、アプリ
画像クレジット:The Game Band
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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)