中国のテック大手Tencent(テンセント)が、WeChat(ウィーチャット、微信)やいくつかの大ヒットビデオゲームの背後にいるだけでなく、積極的な投資家でもあることは周知の事実だ。パンデミックが世界の多くの地域で経済活動を減速させた2020年の間でさえも、Tencentはその投資的野心で突き進んでいた。
中国のスタートアップデータベースITJuzi(IT桔子)によると、Tencentは1年の間に170以上の資金調達ラウンドに参加し、その投資総額は2億4950万元(約40億円)に達したという。この結果、過去10年間に優れた成果を上げてきたTencentの投資チームにとって、2020年はこれまでで最も活発な年となった。
2020年1月までに、Tencentの投資先800社のうち70社以上が株式を公開し、160社以上が評価額1億ドル(約104億円)を突破したと、TencentのMartin Lau(マーティン・ラウ)社長は、投資先企業たちを前にして語った。これにより、Tencentは世界のトップベンチャーファンドたちと肩を並べることになるかもしれない。
Tencentは2008年に投資・M&A部門を設立し、2012年頃から本格的にファイナンス活動を開始した。2015年以降、毎年100社以上の企業に資金を提供していることが、ITJuziのデータから明らかになっている。
このソーシャルならびにエンターテイメントの巨人は、長い間その投資活動を秘密裏に進めていたため、ITJuziのような第三者機関が収集したデータは網羅的ではないことが多い。同社は2020年への投資についてのTechCrunchからの質問には、回答していない、そのためこの記事は、主に公開された情報や情報を知りえる立場の人たちへのインタビューから導き出されている。
B2Bへの関心
テンセントの全体的な投資戦略は一貫しており、デジタルエンターテインメントを中心とした多様なポートフォリオを構成しているものの、他方では主力であるゲーム以外の分野への取り組みも静かに強化している。たとえば同社は2018年にB2Bへ(未訳記事)の転換を発表して以来、企業向けサービスへの注目を強化し、クラウドコンピューティングやフィンテックなどにより力を入れている。ITJuziによれば、エンタープライズソフトウェアへの投資額は2015年の5件から2020年には28件になったという。
企業向け投資への注力に足並みを揃えるように、Tencentはフィンテック分野にも力を入れている。2015年にはわずか4社だったフィンテック系スタートアップの支援は、2019年と2020年にはそれぞれ18社と15社に増えたことをITJuziのデータは示している。徐々にではあるものの、このような増加が示しているものは、大きな利益を生む一方で多くの制約もともなうこの分野へのTencentの関心の高まりを反映している。
中国では、Tencentは長期に渡って、Alibaba(アリババ)のフィンテック関連会社であるAnt Group(アントグループ)と競合しており(未訳記事)、支払い、融資、資産管理、さらには保険の分野でユーザーにアプローチしている。現在Antが直面している規制上の問題は、(Alibaba創業者の)Jack Ma(ジャック・マー)帝国だけに当てはまるものではなく、Tencentのフィンテックセグメントも含む、小さな競合他社たちを苦しめることになる可能性が高い。
このため、Tencentは中国の金融市場での地位を強化することに関しては、Antほど「積極的ではない」と、Tencentの海外フィンテック事業と提携している人物がTechCrunchに語っている。
海外でのフィンテック
またこの地政学的緊張の時代に、同社はフィンテックの海外展開にも慎重になっている。これまでのところ、海外で現地の人々に直接サービスを提供するのではなく、中国から出かけていく観光客に、国境を越えた決済サービスを提供するという範囲に留まっている場合が多い。
「TencentとAlibabaが米国内で行っていることに対しては、多くの精査が行われていて、それが課題となっています」と、Tencentの支援を受けた米国に拠点を置くとあるスタートアップのCEOが、匿名を条件に述べている。
とはいえ、Tencentは投資を通じて海外の金融市場に広がっている。2015年にはTencentは中国国外で1件のフィンテック投資を行った。それが、Crunchbaseが収集した公開データによれば、2020年には8件の投資を行っている。
Tencentの外部投資のかなりの部分は、戦略的な重要性を担っていない。同社はそのポートフォリオのスタートアップが自律的な経営を行うのに任せる傾向がある。そうしたこともあって、2018年には、「Tencent Has No Dream(テンセントにはビジョンがない)」と題されたバイラル記事で、Tencentは製品開発やイノベーションよりも投資や金銭的リターンを優先していると非難された。これはAlibabaが好む事業の支配権を買取り、Lazadaに対して行った(未訳記事)ような、経営陣を揺さぶる強権的なやり方とは、まったく対照的な放任主義だ。
しかし、Tencentの投資の多くは、プレス発表では潜在的な戦略的相乗効果が除外されているとしても、その投資対象事業に付加価値を与えるものなのだ。ここ数年、Tencentは米国をはじめとする欧米諸国への小口投資を相次いで行っている。こうした企業の中には、近いうちにTencentとの協業の機会をもたらすと思われるものはほとんどないが、それでもTencentはこれらの企業の幹部を中国に招待し、お互いに学び合う機会を設けるだろう。
「Tencentがこうした投資を行ったのは、米国は何が行われているのか、またそれを中国ではどのように応用できるのかを学ぶためでした」と語るのは先に挙げたテンセントが支援するスタートアップの幹部だ。
「私たちは、近い将来中国で何か行う計画は持っていません。しかしTencentは中国でも米国でも、とても評判の良い企業です。それにこの先、Tencentと戦略的なパートナーシップを結ぶことができるオプションがあるというのは良いことですよね」。
香港に拠点を置くあるファンドマネージャーによれば、Tencentの中国国外でのフィンテック投資は、同社のゲーム事業の海外展開にも役立つ可能性があるという。2019年にはTencentが、同社のゲーマーの半数を海外ユーザーにすることを目標にすると公約している(South China Morning Post記事)。
「ラテンアメリカと東南アジアのゲーム業界にとって、最大のボトルネックはハードウェアではなく、意外なことに決済なのです」とそのファンドマネージャーはTechCrunchに語った。「もちろんローカライズや互換性も重要です」。
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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:Tencent、投資
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(翻訳:sako)