2年前のTechCrunch Japanに、「独立系ベンチャーファンドのANRIを立ち上げたのは28歳の若き投資家」という記事があったのだが、今年30代に入ったばかりの独立系ベンチャーキャピタリストである佐俣アンリ氏が、7月に入って2つめのファンドとなる「ANRI2号投資事業有限責任組合」を始動させた。
ファンド規模は20億円程度を目指すとのことだが、まずはIT系事業会社を中心にして、ファーストクローズで5億円を集めている。これは若手の独立系ベンチャーキャピタルが手がける金額としては大きな規模だ。投資の対象とするのはシード、シリーズAでの調達を目指すスタートアップで、1社につき500万円から最大で1億円程度と、柔軟に出資をしていく予定だという。「シードからシリーズAまでを一緒にやっていきたい。実はこの時期はプロダクトの急成長期。それなのにファイナンスのために経営者のリソースが大きく取られることが多い。その負担を減らすのが投資家の根本的な役割だと思う」(佐俣氏)
新ファンドは、国内スタートアップへの投資を中心にするものの、東南アジアや米国といった海外のスタートアップへの投資も視野に入れているとのこと。投資領域については、「PayPalマフィアは今、社会問題の解決のために投資をしている。同じように世界の大きな問題を解決したい」(佐俣氏)とのことで、「IT」と通貨や物流、交通といった「社会インフラ」とのかけ算に挑戦するようなスタートアップに注目していくという。また、これまで同氏は1人でファンドを運用してきたが、年内にももう1人のパートナーが参画する予定だという。
業界関係者からは漏れ聞こえてきたりするものの、実はANRIは投資先のポートフォリオを一部しか公開していなかった。今回の調達にあわせて改めて話を聞いたのだけれど、これまでにコイニー、クラウドワークス、ラクスル、uuum、スクー、ペロリのほか、U-NOTEやスマートドライブなどに対して、おもにシード期に投資を実行してきたという。新ファンドの投資領域と同じく、決済や印刷、クラウドソーシングをはじめとして、社会のインフラを目指すスタートアップが多い気がする。イグジットこそしていないものの、成長フェーズの企業が並んでおり、ファンドとしても順調だ。
実は僕は佐俣氏が学生の頃からの知り合いなのだけれど、正直ここ1、2年で人間的にも成長していると感じていたし、周囲のベンチャーキャピタリストからもそう聞くことが多くなっている(本人にも言ったので書いておくと、学生の頃などは「なんかやたら起業に詳しい、ツンツンした兄ちゃん」という印象だったし…)。
そんなことを正直に伝えたところ、佐俣氏はちょっと笑って「本質的には一生懸命なところは昔から変わらないんですが」と言いつつ、「昔はハンズオンという言葉を使って、『俺がやってやる』とも思っていた。でもそれはおごりだった。例えば、投資家として事業を分かっているつもりで投資先に半分だけコミットして、実はそれが邪魔になっていることに気づけなかったこともあった」と振り返った。
佐俣氏はこう続ける。「独立して自分の名前でお金を預かることで、そんな批評家からプレーヤーになったと思う。起業家と投資家の関係は太陽と月みたいなもの。投資家は起業家がいてこそ初めて輝くものだから、起業家に輝いてもらう環境を作りたい」