約1年前、AdobeはSenseiという名前のAIプラットフォームを発表した。他の企業とは異なり、Adobeは一般的な人工知能プラットフォームの構築には興味がないことを明言している。その代わりに、顧客の創造性を高めることに焦点を当てたプラットフォームを構築したいと考えているのだ。今週開催されているMaxカンファレンスで、Adobeはこれが何を意味するのかについてより多くの洞察を提供し、同時にSenseiをその主要ツールに統合するやり方についての、沢山のプロトタイプを示した。
「私たちは業界の他の企業が開発しているような汎用AIプラットフォームを構築しているわけではありません。もちろん彼らがそのようなものを構築していることは素晴らしいことですが」と、AdobeのCTOであるAbhay Parasnisは、本日(10月18日)の基調講演の後の記者会見で述べている。「私たちは創造的なプロフェッショナルたちが、画像、写真、ビデオ、デザイン、そしてイラストレーションに対して、どのように取り組んでいるかを、とても深く理解しています。私たちは、これらの非常に特殊なドメインについて何十年も学んできました、その価値の多くが私たちのAIに反映されているのです。Photoshopの最高のアーティストの1人が創作に時間を費やすとき、彼らがやることは何なのか、そしておそらくもっと重要なことは、彼らは何をしないのか?ということです。私たちはそれらを、最新のディープラーニング技術と組み合わせることで、アルゴリズムが創造的プロフェッショナルたちの真のパートナーになれるように努力を重ねています」。
これは、AdobeがAIの知恵を、今後どのように使用するかについての、中核をなす信条だ。
実際には、これは様々な形態で実現される。例えばSenseiが自動的にタグ付けした画像の検索を可能にすることから、特定のタスクを声で行えるようにすることなども含まれる。
本日の基調講演では、Adobeはこうした未来のシナリオのいくつかを披露した。例えば、映画のポスターのために撮影された、何百枚ものポートレート画像を持っているとしよう。素晴らしいレイアウトが決まったが、今必要になったのは、被写体が右を見ている写真だ。Adobe LabのDavid Nueschelerがデモで見せたように、Senseiを使えばそうした必要な写真が見つけられるようになるだろう。なぜならSenseiは全てのイメージに詳細なタグを付けることができるからだ。そして、このアイデアをさらに進めて、Nueschelerは被写体が見ている方向で画像をソートしてみせた(左向きから右向きの順で)。
Nueschelerはまた、デザイナーがSenseiに与えたスケッチにタグが付けられて、自動的にストックイメージの中からタグに一致するイメージが検索され、ある映画ポスターに辿り着くまでのデモも行った。それ自身印象的なデモなのだが、Senseiはまた、デザイン上の全ての意思決定も同時に追跡している(Adobeはその記録をCreative Graphと呼んでいる)。その記録を使うことによって(最終プロダクトには影響を与えることなしに)、時間を遡って、異なる意思決定が最終的な結果にどのような影響を与えるのかを見比べることができるようにする。またおまけとして、Nueschelerは、Senseiが画像の背景を自動的に判断して削除できることを示したが、これには日頃イメージのマスキングに苦労している聴衆から、本日発表された他のどのAIツールにも負けないほどの歓声が寄せられた。
この日Adobeがずっと強調し続けていたのは、彼らが注力しているものは機械を創造的にするためものではなく、人間の創造性と知性を増強するためのものだということである。このメッセージは、Microsoftなどが語っている内容と非常によく似ているが、Adobeが創造的なプロフェッショナルだけを対象としていることは明らかだ。
Adobeはまた、こうしたことを正しく行なうことの重要性も認識している。ParasnisはSenseiを「世代を超える賭け」と呼び、本日の基調講演の中でAIと機械学習を「次の10年の最も破壊的なパラダイムシフト」みなしていることを強調した。
Adobeは、創造的な世界でこれを実現するために、間違いなく多くのことを行なう事になる。AIは、結局のところ、沢山のデータがあるときだけ上手く働くものだ。そして創造がどのように行われるかについて、Adobeより多くのデータを持っている者はいない。
Adobeが将来的には、Senseiプラットフォームの沢山の機能を、外部の開発者たちに開放する予定であることは指摘しておく価値があるだろう。本日その方向への第一歩が示された。Senseiを使って画像の中のフォントをTypekitライブラリの中のフォントとマッチさせる機能を、サードパーティの開発者に開放したのだ。時間が経つにつれて、さらに多くの機能が開放されることになるだろう。
しかし、今のところ、AdobeはそのAI機能を、クラウドならびにデスクトップの中の、コアサービスやアプリケーションに組み込むことに集中しているようだ。
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(翻訳:sako)