EUのデジタル政策責任者、オランダの反トラスト命令を無視するAppleに苦言

欧州連合(EU)のデジタル政策責任者Margrethe Vestager(マルグレーテ・ヴェスタガー)氏は、Apple(アップル)が、出会い系アプリがアプリ内コンテンツを販売する際にサードパーティの決済技術を利用することを認めるよう求めたオランダの反トラスト命令の遵守を回避するために、意図的に罰金を支払うことを選択していると指摘し、同社を非難した。

Appleは現地時間2月21日、オランダで5回目の罰金500万ユーロ(約6億5000万円)を支払った。この問題に関して同社がオランダの競争当局からこれまでに科された罰金総額は2500万ユーロ(約32億円)に達したが、依然として命令は遵守されていない。

米国で2月22日に行われた講演で、EUの競争部門を率いるヴェスタガー氏は、デジタル政策の重要な柱である今後導入されるデジタル市場法(DMA)に言及した。この法律は、最も強力で中間的な技術プラットフォーム(別名「ゲートキーパー」)に事前ルールを適用する。同氏はまた、支配的プラットフォームによる不正行為と積極的に戦い、デジタル市場の公正性を回復するために、EU議員が課す予定の「すべきこととしてはならないこと」のリストを効果的に執行することが喫緊の課題であることも示唆した。

「一部のゲートキーパーは、時間稼ぎをしたり、規則を回避しようという誘惑に駆られるかもしれません」と同氏は警告した。「オランダにおけるAppleのこのところの行為は、その一例と言えるかもしれません。私たちの理解では、Appleは、サードパーティが同社のアプリストアにアクセスするための条件に関するオランダ競争当局の決定に従うよりも、定期的な罰金を支払うことを基本的に望んでいるようです。そしてそれは、DMAに含まれる義務の1つにもなります」。

ヴェスタガー氏の発言について、TechCrunchはAppleに問い合わせている。

また、デジタル領域で市場規制が成功する可能性を最大限に高めるために、テック大企業に対して事前の競争ルールを適用するというEUのアプローチと足並みを揃えるか、少なくとも支持するよう米国の議員に訴える前に「コンプライアンスを確保するためには、欧州委員会が十分なリソースを有することを含め、効果的な法執行が鍵となります」とヴェスタガー氏は述べた。

「ゲートキーパーに関する私たちの取り組みが、他の地域にも同じように刺激を与えればと思っています」と同氏は語った。「例えば日本、英国、オーストラリアでは現在そうなっています。米国では、いくつかの法案が議会と上院で進行中ですが、それらは私たちの提案と多くの特徴を共有しています。これは、世界的なコンセンサスが得られていることを意味し、非常に心強いことです」。

往々にして法案は議会や上院を通過しない。しかし、EUは、米国の議員たちが団結してデジタル競争改革を実現させることを望んでいると明確にしている。

ヴェスタガー氏はまた、貿易・技術評議会や「これらの問題に対する共通のアプローチを見つけるために再構築された大西洋横断パートナーシップ」と同氏が呼ぶものについて言及し「私たちのデジタル法案の影響は、EU域内と同様に域外で起こることに左右されます」とも述べた。

「特に競争政策に関しては、新しいTechnology Competition Policy Dialogue(技術競争政策対話)を立ち上げましたが、これは私たちの長年の協力の伝統に基づくものです」とも指摘し、次のように付け加えた。「EUと米国は、最終的にまったく同じ法律を制定することはないかもしれないが、市民を保護し、市場を公正かつオープンに保つためのデジタル政策の策定に関しては、同じ基本的ビジョンを共有していることがますます明らかになってきています」。

つまりここではっきりとしているのは、DMAがデジタル市場の不均衡を是正する有効な手段になるとEUは確信していないということだ。そして、世界で最も強力なテック企業を規制するためには、米国を含むグローバルな対応が必要であり、実際にこれらの企業の多くは米国に本社を置いていているため、米国も含まれなければならない。

そのためヴェスタガー氏は、米国の聴衆を前に、DMAが「客観的かつ非差別的」であることを強調し、欧州が米国のテック企業のみを罰するような規則を考案して保護主義的であるという非難に対抗しようとしている。

「執行機関としての信頼性と自由で開かれた貿易へのコミットメントの両方が、関係する企業がどこの国に本社を置いているかに関係なく、平等に取り組むことを求めています」とヴェスタガーは訴えた。「ゲートキーパーは、欧州市場における規模やリーチに基づいて指定されることになります」。

欧州連合がテック企業に対してデータ保護規則を強力かつ統一的に執行することに失敗し続けていることも、ここで示唆されているようだ。米国はもちろん、包括的な連邦プライバシー法をまだ整備していない。

画像クレジット:Emmanuel Dunand / AFP / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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