FacebookはこのSNSが嫌いな人々にもMessengerは使ってもらいたいと考えている。そこでFacebookはFacebookアカウントなしでMessengerにアカウントが作れるようにした。ユーザーはサインアップにあたってフルネーム、電話番号を入力するだけでよい。新しいサインアップはアメリカ、カナダ、ペルー、ベネズエラでは今日から利用できる。他地域にも順次拡大される。
Facebookは2012年にインドその他の地域でアカウントなしでのMessengerの利用をAndroid版アプリとしてテストしたことがあった。しかしこのテストは数ヶ月で終了した。私の取材に対してMessengerの責任者、David Marcusは「2年前のわれわれは〔モバイル化の〕過渡期だった。現在われわれはまだMessengerを使っていない少数の人々、いわば『ラスト・ワン・マイル』の層をMessengerに取り込む試みができるようになった。われわれはFacebookを使いたくない、あるいは事情によってFacebookが使えない人々にもMessengerを提供することにした」と語った。
初めてMessengerを使おうとすると「Facebookでログイン」に並んで「Messengerにサインアップ」というボタンが表示される。Messengerでサインアップする際に、電話番号を入力すると、Facebookは他のMessengerの連絡先を検索し、その電話番号を登録しているユーザーをリストアップする。これが「FacebookアカウントなしのMessengerユーザー」にとってのソーシャルグラフとなる。
Marcusはこの新しい方針は中国に再進出するための布石ではないと強く否定した。中国政権はFacebookの所有する全IPアドレスをブロックしているので、Facebookアカウントの有無にかかわらず、Messengerも検閲にひっかかることは確実だという。
Messengerはどこへ向かう?
最近、Facebookはユーザー間の支払機能、新しい位置情報共有、専用ウェブ・アプリ、VOIPビデオ通話、画像や音声のメッセージをやりとりするためのアプリのプラットフォーム、MessengerゲームなどMessengerの機能を立て続けに拡張している。
Marcusは「Messengerの次のビッグ・プロジェクトはエンタープライズ向けのMessenger For Businessの開発だ」と語った。これはさまざまなバーティカル〔業種〕 に対応したシステムとなり、たとえば、オンライン通販会社は、手間がかかって効率の悪い電話やメールの代わりにMessengerを利用して顧客サポートができるようになるという。またMessengerのプラットフォームを利用してサードパーティーがアプリを開発する環境の整備にも力を入れていく。
成長、成長、成長
こうした努力の背後にあるのは何としても急成長を維持しなければならないという事情だ。
月間ユーザー7億人というMessengerはすでに巨大なサービスだが、SMS市場を制するためには全世界にあまねく普及する普遍的サービスとなることが必要だ。つまり「自分の知り合いは全員がMessengerを使っている」という状況を一刻も早く作り出さねばならない。そうなればユーザーはオンライン生活のすべてをFacebook圏内で済ませ、わざわざ外へ出ていくことがなくなる。
今回のMessengerだけでサインアップできるという方針は、Facebookの普及がすでに飽和点に近づいたアメリカやイギリスのような市場で、なんらかの理由でFacebookを使うのを止めてしまったり、もともと加わりたくないと考えていた人々をFacebook圏内に呼び戻すのが狙いだ。
一方でFacebookがまだ普及の途上にある多くの地域では無料SMSが急速に人気を高めている。そこでこうした市場ではMessengerは「Facebook.入門」の役割を期待される。
「こうした市場で〔普及を持続させるには〕FacebookのアカウントがないユーザーにもMessengerは使ってもらうようにすることが必須だ。われわれはFacebookプラットフォームに文字通り全員が参加するまで努力を止めない。友人、知人のすべてが参加すればプラットフォームのユーザー体験は比較にならないほどアップする」とMarcusは説明した。
Marcusは「一部の人々はイデオロギー的理由などからわれわれに否定的だ」とFacebookを嫌う人々がいることも率直に認めた。もっともFacebookの過去についてMarcusに直接の責任はない。Marcusは昨年、PayPalのプレジデントだったときにMessengerの責任者にスカウトされた。Marcusの指揮の下でユーザーは2億人から7億人へと驚くべき急成長を遂げた。
MessengerはFacebookにとって「ドアの隙間に突っ込んだつま先」のようなものだ。Messengerのユーザーは連絡相手のFacebookプロフィールやその写真を見ることができる。好奇心を刺激され、やがてFacebookにサインアップしようと考えるユーザーも多く出るだろう。FacebookはMessengerで収益化を図っておらず、広告は本体のニュースフィードにしか表示されないから、Facebookユーザーが増えることは売上のアップに直結する。
要約すれば、Facebookは「Facebookやニュースフィードを嫌うユーザーがいてもチャットするのが嫌いなユーザーはいない」と考えてMessengerのサインアップを独立させたのだろう。おそらくは賢明な判断だ。.
[原文へ]
(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+)