iPodの生みの親トニー・ファデルが語るスタートアップの未来はネット接続性と持続可能性

Tony Fadel(トニー・ファデル)氏はテクノロジー界の「次」を考えずにはいられない。

iPodの生みの親と称され、iPhoneを作り上げ、スマートホームの企業Nest(ネスト)を創設したこの人物は引退を決め込んでいたのだが、どうにも引退が性に合わず、新たなベンチャーFuture Shape(フューチャーシェイプ)を創設した。

そして51歳のデザイナー、エンジニアにして投資家の彼は、コアな協力者たちと3年を費やし、公的および非公開の数々の投資を受けつつ、テクノロジーの未来の姿を模索してきた。ファデル氏の挑戦は、自身の個人的興味(彼は腕時計マニアの情報サイトHodinkeeにも出資している)と、彼が思い描く技術革新の次なる波を追いかけることだ。

「私たちは資金提供できるメンターを自称しています」とファデル氏はこの最新の冒険について語っている。その理念は「本当に難しいことをやろうとしているすべての企業の支援」だ。

ファデル氏とその仲間たちは、将来大きな投資分野になると見込んだ本当に難しい事業をいくつか特定した。それには、すべてのものの電動化、あらゆるもののデジタル接続、バイオマニュファクチュアリングの推進、廃棄物の廃絶などがある。

同社の広報担当者によれば、これらのテーマがFuture Shapeのポートフォリオに含まれる200社を超える企業との活動の、すべてではないまでも一部を突き動かしているという。

ファデル氏の取り組みの中でも、あらゆるものをプログラマブルに電動化するというものがよく知られている。この分野には、ファデル氏が大きく期待を寄せる企業がいくつかある。マイクロLEDを製造するRohinni(ロヒンニ)、デジタルモーターを製造するTurntide(ターンタイド)、ミクロ電子工学用のスイッチを製造するMenlo Micro(メンロー・マイクロ)、冷却用半導体チップセットを製造するPhononic(フォノニック)だ。

こうしたテクノロジーはどれもが、機械工学技術がデジタル化されプログラム可能になってきたこの数十年間の進歩の中で、電球のような大きな関心を集めることがなかったものだ。

ファデル氏は、Apple(アップル)とGoogle(グーグル)に所属していたころから培ってきた製造業界での自身の経験が活かせるFuture Shapeは、これらのテクノロジーを商品化できる独特な立ち位置にあると話す。

「私たちは原子と電子(ソフトウェア)のギャップを埋め、これらのシステムをそこへ適合させます」とファデル氏はいう。

その方針は、ほぼあらゆるものに広がるネット接続性とデジタル化の力を借りた技術開発に当てはまる。

「世界のあらゆる地域に、4Gまたは5Gの接続が拡大します。【略】そして、情報収集ができる安価なセンサーをスマートフォンに搭載し、ソフトウェアやクラウドサービスと統合できるようになります。【略】そこから新しい産業の誕生を可能にするデータが得られるのです」。

低コストのセンサー、バッテリー、電力の普及が拡大すれば、農業から建築までさまざまな新市場に活用可能なデータ収集の機会が増え、金融や保険といったすでにデータ依存度の高い産業が、よりよいサービスを生み出せるようになるとファレル氏は話す。

画像クレジット:Getty Images/Rost-9D

それが、Understory Weather(アンダーストーリー・ウェザー)に同社が投資する理由の1つでもある。気候変動駆動の次世代保険会社とファレル氏が呼ぶ、スマート気象観測所とデータで事業を開始した企業だ。

Future Shapeのポートフォリオには、この他にもファレル氏のバイオマニュファクチュアリングや廃棄物の廃絶に賭ける気持ちを反映した企業がある。Impossible Foods(インポッシブル・フーズ)の初期投資者でもあるファデル氏は、たとえば代替タンパクを使った代替肉の開発に使われている数々の合成生物学的手法は、代替皮革の製造や現在使われている化学物質に取って代わる新たなバイオプラスティックの開発に発展させることが可能だと考えている。

Future ShapeがMycroWorks(マイクロワークス)に投資したのも、そのためだ。数多くのセレブや業界の支援者も参加して2020年11月にクローズした資金調達では、4000万ドル(約41億円)を集めた。

「バイオマニュファクチュアリングは始まっています。しかも驚異的な速度で始まっています。なぜなら私たちはこの惑星の大きな力、つまり生命を味方に付けているからです」とファレル氏。「市場は、進むべき方向に進めるべきです。そうすれば、みんな追従します。Impossible Foodsがしているように」

さらにファデル氏は、廃棄物の流れに関連するサプライチェーンの見直しという膨大な好機と、循環経済の創造における数多くの好機を見すえている。Sweetgreen(スイートグリーン)に代表されるレストラン産業と、製品のパッケージに革新的なバイオプラスティックを使用する企業がこれに当てはまる。

「もう1つ私たちが注目しているのは廃棄物です。どのように廃棄物を減らし、どのように廃棄物をリサイクルするか。私たちはそこを追究していますが、廃棄物は大きな問題です」とファレル氏は話す。

そこにおける数々のチャンスは、経済研究を行い、企業の二酸化炭素と物質的物理的な副産物の排出に関するライフサイクル分析を実施する企業から成長していく。「地球を掘らずに、廃棄物を採掘する」とファデル氏は、数十億ドル(数千億円)規模の採掘産業に取って代わる可能性を語った。

Future Shapeのポートフォリオに含まれる企業はほとんどがアーリーステージだが、エグジットを果たした企業もいくつかあり、さらに多くの企業がその準備中であるとファデル氏はいう。

「お金のためではありません。私たちは変化のために行っています」とファデル氏。「これを正しく行えば、お金がついて来ます。私の仕事はリミテッドパートナーを説得することではありません。【略】私たちは信念に基づいて活動しているのです」。

関連記事:ナタリー・ポートマンとジョン・レジェンドは革ではなく菌糸の服を着る

カテゴリー: EnviroTech
タグ:トニー・ファデルFuture Shape持続可能性二酸化炭素

画像クレジット:Getty Images under a Christophe Morin license.

原文へ

(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。