Robloxは開発者向けアクセラレーター講座で同社プラットフォームの新たな可能性を引き出す

Roblox(ロブロックス)は今、数カ月後に予定されている歴史的な大型IPOとなるであろう公開市場への参入に向けて準備を進めている。そのような中、Robloxに295億ドル(約3兆665億円)の価値があると評価した投資家たちは確実に、Robloxの熱心なユーザーである若者たちに注目している。しかし、投資家たちの心を最も強くとらえるのは、Robloxを利用している700万人のアクティブなクリエイターや開発者たちだろう。

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2015年以来、Robloxは次世代のゲーム開発者がRobloxプラットフォームで成功できるよう支援するためのアクセラレーター講座を開講してきた。同講座は年を経るごとに拡大され、初めは1年に1クラスだったのが、現在では1年に3クラス(1クラス約40人)が開講されるまでになっている。これはつまり、毎年100人以上の開発者が、自分のゲームを世に送り出すためにRobloxから直接、アドバイスやサポート、教育、出資を受ける機会を得ているということだ。

この側面におけるRobloxの取り組みがより正式なものとなり、Robloxは2018年にアクセラレーター講座卒業生のChristian Hunter(クリスチャン・ハンター)氏を同講座の専任担当者に採用した。ハンター氏は10歳のときにRobloxのゲームをプレイし始め、13歳のときからRobloxでゲームを開発している。同氏はその経験を生かして、開発者が持つ独自の視点からアクセラレーター講座を改善してきた。

しかし、新型コロナウイルス感染症のせいで、アクセラレーター講座に関するRobloxの計画が狂ってしまった。カリフォルニア州サンマテオにあるRobloxのオフィスで開かれる3カ月間のクラスに出席するよう開発者を招待することができなくなり、リモート受講ができるように講座を見直さなければならなくなったのだ。

とはいえ、結果的には仮想世界で遊ぶゲームをプレイしたり開発したりすることに慣れていた開発者たちが、リモート受講という新しい形態に順応するのに時間はかからなかった。

RobloxのシニアプロダクトマネージャーRebecca Crose(レベッカ・クロース)氏は次のように説明する。「新型コロナ前は、みんなでいっしょに集まることができ、気軽に誰かに話しかけることができた。開発者は何か話し合いたいことがあれば、Robloxのプロダクトチームやエンジニアリングチームの誰かのところに行って、直接意見を聞けた。しかし、ご存じのように、新型コロナのせいで、私たちは頭を切り替えて、今までとは違う考え方をしなければならなくなりました」。

オフラインで開講されるクラスの構成とは異なるものの、この講座をリモート受講できるようにしたことによって、いくつかのポジティブな効果がもたらされた。たとえば開発者は、この講座のDiscordサーバーに参加して、現行クラスの受講生や以前のクラスの卒業生と話すことができ、交流したり質問したりできた。また、Roblox社内のSlackチャンネルに参加して、同社のチームに質問することもできた。さらに、Roblox社員からリアクションやフィードバックが得られるプレイテストも、オフライン開講の場合より数多く計画された。

一方、受講した開発者たちは、対面で会えない他の受講生とよく知り合うために、お互いが開発したゲームやRobloxで人気がある他のゲームを一緒にプレイする「ゲームナイト」を実施して、対面のミーティングやクラスの代わりに仮想世界で交流を深めた。

とはいえ、実際のアクセラレーター講座の内容は、リモート開講になってもそれほど大きく変わらなかった。受講者は週替わりの講演や、ゲームの設計と制作に関する講義を聴講し、Robloxのエンジニアに質問できるフィードバックセッションも毎週開催された。

その性質上、アクセラレーター講座のリモート開講は、受講者の幅を広げることになった。カリフォルニア州サンマテオまで旅行して3カ月滞在できる人だけでなく、よりグローバルで多様な層に受講の機会が開かれたためだ。これはまた、高まる需要をさらに増大させることにもつながった。

2020年の開講分には、通常の5倍というかつてないほど多くの応募がRobloxに寄せられた。

その結果、2020年クラスにはフィリピン、韓国、スウェーデン、カナダ、米国の5カ国から受講生が集まった。

英国のゲーム開発会社IndieBox Studio(インディーボックス・スタジオ)の開発者チームは、自社のゲーム開発力を強化する機会とするためにこの講座を受講した。同講座の期間中、英国と米ケンタッキー州の各地にいる同社の若いメンバーたちは、同社が開発した写真のようにリアルなグラフィックが売りのゲーム「Tank Warfare」をスケールアップさせるために時間を費やした。

Michael Southern(マイケル・サザン)氏は、「実際にリアルで会ったことは一度もないんだ。でも、お互いにやり取りするようになって、もう9年くらいになるよ。Robloxで知り合ったんだ」とTechCrunchに語った。

Roblox初期の開発者チームには、IndieBoxのように、進化し続けるRobloxのゲーミングプラットフォームを隅から隅まで知り尽くしているRoblox歴10年以上の若いゲーマーで構成されているチームが多い。

IndieBoxのFrank Garrison(フランク・ガリソン)氏は「当社のメンバーはみな2008年からRobloxを使っているが、Robloxで開発を始めたのは2019年だ。Robloxを選んだ理由は、そうだね、『すでによく知っているプラットフォームなのだから、試してみようか』という感じだったかな」とTechCrunchに話した。

開発者層が広がるにつれて、アクセラレーター講座の受講生の層も変化してきた。

同講座のプログラムマネージャーであるハンター氏は、「当初は受講生のほとんどが若い男性だったが、講座が発展するにつれて、目新しく興味深い構成のチームが数多く参加するようになっている」と語る。

2020年のクラスには、かつてないほど多くの女性受講生が参加した。たとえばあるクラスでは受講生50人のうち12人が女性だった。また、あるチームは全員女性だった。

受講生の年齢も以前は18~22歳が多かったのだが、変化してきている。

ハンター氏によると「もっと年齢の高い受講生が増えてきている。パンデミックが始まってから、講座史上初めて50代の受講生が参加した。それより前は、24歳より上の受講生はいなかったと思う。加えて2020年には、30歳以上の受講生が12人参加した」という。

また、参加チームのうち2つは親子で構成されたチームだった。

Shannon Clemens(シャノン・クレメンス)さんは、Robloxプラットフォームのことを息子のNathan(ネイサン)君から教わり、コーディングを学び、夫のJeff(ジェフ)さんも誘ってSimple Games(シンプル・ゲームズ)という開発スタジオを立ち上げた。ネイサン君の2人の姉妹と、彼の友人のAdrian Holgate(エイドリアン・ホルゲイト)君もパートタイムでスタジオを手伝っている。

「息子がRobloxのプラットフォームで体験していることを見て、自分たちでゲームを作る方法を学ぶのにとてもいい方法だと思いました」とシャノンさんはTechCrunchに語ってくれた。

シャノンさん一家が制作したゲーム「Gods of Glory」には、2020年9月のローンチ以来、Robloxプレイヤーが1350万回以上も訪れている。

ジェフさんは次のように語る。「私たち家族はみんな、ゲームを楽しむために創意工夫するのが好きで、そういうアイデアを色々と思いつくんです。『これ、試してみたらいいんじゃない?』って。だからアクセラレーター講座も『受講生に選ばれるかどうかわからないけど、まず応募してみよう』という感じで申し込んで、このように選ばれて受講することができました。最高に楽しんで受講しています」。

リモート環境によって促された変化に加えて、リモート受講がもたらした恩恵は他にもあるとRobloxは感じている。たとえば開発者は講座で学習するために早起きする必要がなくなった。

クロース氏は次のように説明する。「リモート受講により、開発者は自分に合った時間に合わせて作業できるようになった。開発者は夜遅くまで作業することが多い。そんな彼らに、朝9時に遅れず受講会場に来てもらうのは、非常に難しいことだった。彼らは、そう、ゾンビみたいに完全夜型だから。開発者が自分に合った時間で作業できるようにしたことで、疲れ切ってしまう受講生が減り、生産性も向上したと思う」。

ワクチンの普及にともないコロナ危機もいずれは終息していくだろうが、アクセラレーター講座で学んだ内容とリモート開講の利点は、今後も効果を発揮していくことだろう。アクセラレーター講座を卒業した開発者は、Robloxをはじめとするゲーミングプラットフォームの発展がこれからも続いていくことを願っている。

開発者のGustav Linde(グスタフ・リンデ)氏は、「ほとんどのゲームスタジオにとって、パンデミックは追い風になってきた。もちろん、未知のことばかりの異様な時期だと思う。でもゲーム開発者にとってはいいタイミングだった」とTechCrunchに語った。

リンデ氏が共同創業者として名を連ねるスウェーデンのゲーム開発スタジオThe Gang Stockholm(ザ・ギャング・ストックホルム)は、主にクライアントのブランドマーケティング向けゲームを、Robloxプラットフォームのみを使って開発してきた。12人で構成される同社のチームは、アクセラレーター講座の受講を機に開発納期のペースを落とし、Robloxプラットフォームならではのエリアを掘り下げ、2021年にリリース予定のゲーム「Bloxymon」の開発に打ち込んだ。

「Steam、App Store、Google Playのマーケットは飽和状態だが、Robloxは今、開発者にとって非常にエキサイティングなプラットフォームだ。さらに、Robloxは多くの注目を集めており、Robloxプラットフォームへの参入に関心がある有名企業も数多い」とリンデ氏は語る。

Robloxによると、今後のアクセラレーター講座でも、コロナ禍をきっかけに考案されたリモート開講の要素を取り入れていくつもりだという。また、現時点では英語での受講に限定されるものの、この講座を世界各地で開講できるように取り組んでいく計画とのことだ。また、将来的には英語以外の言語での開講も視野に入れているという。

アクセラレーター講座の2020年秋クラスは、2020年12月に終了した。次の2021年春クラスは2021年2月に開講する予定だ。Robloxによると、すでに2021年夏クラスの受講生を応募し始めているという。このクラスも定員は40人程度とのことだ。Robloxは、今回も多様な背景を持つクリエイターを集めたクラスにしたいと考えている。

カテゴリー:ゲーム / eSports
タグ:Robloxオンライン学習

画像クレジット:Ian Tuttle / Getty Images

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(文:Sarah Perez、Lucas Matney、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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