結局、多くの人が期待していたデジタル音楽企業2社の合併は実現しないようだ。何ヶ月にも及ぶ話し合いの結果、SpotifyはSoundCloudの買収を諦めたと、本件に詳しいSpotifyの内部関係者は語った。
今年の9月には、両社の間で買収に関する「話が進行している」とThe Financial Timesが報じていたが、その後続報を目にすることはなく、先週この話自体が無くなってしまったことがわかっている。前述の関係者は、SoundClound買収によるIPO準備への悪影響を危惧して、Spotifyが最終的には買収から手を引いたと話す。
Spotifyは、公式には2017年中の株式公開を明言していないが、上場に紐づいたインセンティブが含まれる資金の調達など、それを裏付けるような情報が飛び交っている。関係者によれば、「IPOを行うかもしれない年に、ライセンシングの問題を増やしたくなかった」ため、SpotifyはSoundCloudの買収に踏み切れなかったようだ。これは、音楽レーベルとの交渉に伴う複雑なプロセスや金銭的なコストのことを指しており、SoundCloudにとってはとても重要な問題だ。というのも、クリエイティブやインディーアーティスト、リミキサーから愛されているSoundCloud上には、他のサービスよりもかなり多くの楽曲が登録されているのだ。
SpotifyとSoundCloudの両社は、本記事の公開段階ではコメントを求めるリクエストに応じていないが、返事を受け取り次第、情報をアップデートしていきたい。
実はSpotifyは過去2年間で、今回の件を除いて2回ほどSoundCloudの買収を諦めていたとThe Financial Timesは報じている。その際には、買収提示額が障害になっていたようだ。SoundCloudの買収には、Spotifyの広告ネットワークやユーザーベースの拡大以外にも、資金豊富な競合が音楽サービスに力を入れる中、Spotifyのポジションを強化することが期待されていた。Spotifyのユーザー数は今年の夏に、1億人を突破(うち4000万人が有料ユーザー)したが、競合もその背後に迫ってきている。Apple Musicは、ローンチから18ヶ月しか経っていないにも関わらず、購読ユーザー数が今週2000万を突破した。また最近Amazonも、Musc Unlimitedをアメリカ以外では初めてイギリス、ドイツ、オーストラリアで公開していた。
SpotifyのIPOは、来年のテック業界でアツいとされる上場案件のひとつだ。スウェーデンに本社を置くSpotifyは、今年の3月に10億ドルをコンバーティブル・デット(転換社債)で調達しており、当時の記事内で以下のように説明されていた通り、契約書には2017年中にSpotifyが上場することで転換価格が同社にとって有利になるような条件が設定されていた。
もしも成績が悪ければ、攻撃的な内容の条文にもとづいて、Spotifyは多額のお金を失うことになる。
TPGとDragonnerは、最終的なIPO時にSpotifyが設定した株価から、20%割り引いた価格で債権を株式へと転換することができる。そして、もしもIPOが来年(2017年)中に起きなければ、割引率は6ヶ月ごとに2.5%ずつ上昇していく。
さらにSpotifyは、年間5%の金利を支払わなければならないばかりか、この年利も上限の10%に達するまで、半年ごとに1%ずつ上昇する。そしてTPGとDragonnerによる最終的な株式の売却は、IPOから90日目以降となっており、これはSpotifyの従業員や投資家に対して設けられている、180日のロックアップ期間よりも短い。
SoundCloudの買収話がなくなったということは、SpotifyのIPOへの野心を表すと共に、音楽ファンにとっては、残念ながら音楽ストリーミング業界の2大巨頭の同盟が、少なくともこの段階では発足しないということを表している。Spotifyが、上場企業としてSoundCloudの買収に向けて再度動きだすかどうかについては、今後の様子を見ていくしかない。
もちろん、これはSpotifyだけの話ではなく、2016年に大きく進化したSoundCloudのビジネスにもかかっている。
SoundCloudの年間売上は前年同期比で一気に43%増加し、ほぼ2800万ドルに到達したと推定されている。今年から導入された月額9.99ドルの有料サービスが成長の大部分を支えているが、同社の最終利益は設立からずっと赤字のままだ。ベルリンを拠点とするSoundCloudの最新の財務報告書によれば、2014年は4400万ドルの赤字で、監査人のKPMGが2016年はじめに、事業を継続するには追加資金が必要だと警告するほどであった。有料サービス導入によって、SoundCloudの財政状態がどのように代わったのかは、今後明らかになっていくだろう。
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)