WhatsAppがビジネスAPIをクラウド化して導入を促進

WhatsApp(ワッツアップ)は米国時間11月1日より、新しいクラウドベースのWhatsApp Business API(ワッツアップビジネスAPI)のベータテストを開始する。同APIは親会社Facebook(フェイスブック)のインフラを利用する。クラウドへの移行に伴い、APIとの統合のためのセットアップ時間がこれまでの数週間からわずか数分に短縮されるため、企業はより迅速にWhatsAppのAPIプラットフォームに移行し、メッセージの受信をオプトインした顧客とのコミュニケーションを図ることができるという。

同社はここ数年、ビジネスAPIの開発を着実に進めてきた。これは無料のメッセージングアプリであるWhatsAppが、サービスから収益を得るための重要な手段の1つとするためだ。現在、企業はメッセージごとにWhatsAppに料金を支払っていて、その料金はメッセージの送信数や地域に応じて異なっている。現在は、Vodafone、Coppel、Sears Mexico、BMW、KLM Royal Dutch Airlines、Iberia Airlines、Itau Brazil、iFood、Bank Mandiriなどを含む何万もの大企業が、既存の(非クラウドベースの)APIを採用している。

この旧バージョンのAPIは今後もサポートされ、現時点では新しいクラウドベースのバージョンへの移行を強制する計画はない。

一般的にWhatsApp Business APIを利用する企業は、Zendesk(ゼンデスク)やTwilio(トゥイリオ)などのAPIを顧客のバックエンドシステムに統合する作業をサポートするソリューションプロバイダーと連携する。このようなケースでは、WhatsAppは企業のカスタマーコミュニケーション戦略の一部に過ぎないことが多い。また顧客とのコミュニケーションを、SMSやその他のメッセージングアプリ、電子メールなど、他のチャネルに誘導することもある。しかし、こうしたAPI統合作業は、これまでは数週間、場合によっては1カ月もの時間を要していた。

COVID以前から始まっていたオンラインショッピングへの移行が、パンデミックの影響で加速していることもあり、多くの企業は新しいシステムの立ち上げにそれほど時間をかけたくないと考えている。

新しいクラウドベースのAPIは、技術的な統合プロセスをより簡単に、そしてより迅速に行うことで、統合問題を解決することを目的としている。

新しいAPIのベータテストには、米国のZendesk、ブラジルのTake(テイク)、EUのMessageBird(メッセージバード)など、WhatsAppの既存のソリューションプロバイダーパートナー数十社が参加する予定だ。

ZendeskのMike Gozzo(マイク・ゴゾ)製品担当副社長は声明の中で「クラウドAPIは、私たちのようなサービスプロバイダーとお客様の双方にとって、WhatsAppを使用する際の複雑さを軽減するための大きな一歩となります」と述べている。そして「WhatsApp Clientのホスティングを気にする必要がなくなることで、APIを介して利用可能になる多くのリッチな機能のサポートに集中できるようになります」と付け加えている。

今回の発表は、人びとと企業とつながる方法が変わりつつある中で行われた。WhatsAppによれば、現在毎日1億7500万人以上のユーザーがビジネスメッセージを送信しており、この傾向は特にインド、ブラジル、インドネシアなどの米国以外の市場で拡大しているという。WhatsAppは顧客から、電話システムを運用したり保留にしたりしなければならない1-800番号(米国のフリーダイヤル)を使う代わりに、メッセージングに移行したいという要望を受けている。電話システムは煩わしいものだし、コールセンターは、企業にとっても運営コストがかかる。

WhatsAppが2020年実施した独自の調査によると、ユーザーは通話よりもメッセージングを好む傾向にある。その結果、最大規模の国々のユーザーの75%が、メッセージングを通じて企業とコミュニケーションを取れるようにしたいと答えていることが判明した。また、68%の人が、メッセージで連絡が取れた企業と取引したり、購入したりする可能性の方が「より高い」と答えている。

WhatsAppは、別の場所でもこの傾向を利用している。大きな収益源となっているのは、FacebookのニュースフィードやInstagram(インスタグラム)に表示される、クリックチャット広告だ。これは消費者が広告上のボタンをクリックするだけでWhatsAppで企業にメッセージを送ることができるというものだ。

その一方で、同社はWhatsApp Business Appを使って小規模ビジネス市場にも対応しており、パパママショップのような地元の小さなお店がオンラインを使って顧客とやり取りできるようにしている。2018年にローンチされたあと、現在では全世界で5000万人のユーザーを抱えるまでに成長している。

本日(米国時間11月1日)のクラウドAPIの公開に先立ち、WhatsAppは他のAPIの改善にも取り組んでいた。たとえば企業が受信したメッセージに対してより迅速に対応できるようにしたり、顧客が指定した場合に在庫切れなどのさまざまな種類のメッセージをサポートしたりしている(これまでのWhatsAppのAPIは、たとえばフライトの搭乗券を送信するような「タイムリー」な通知に焦点を当てていた)。

企業からの連絡を受けた顧客には、会話の先頭に情報メッセージが表示され、(完全に暗号化されている)友人や家族とのメッセージとは異なるものであることが伝えられるとのことだ。また顧客は、企業のサポート内容に応じて、さまざまなやりかたで通信を終了させることもできる。企業からの連絡を止めるためにメッセージを送ったり、変更のために会社のウェブサイトにアクセスするだけで、オプトアウトすることができるだろう。だが最も簡単な方法は、アプリ内で企業をただブロックすることだろう。

クラウドAPIは、米国時間11月1日から限定的なベータ版が開始され、厳選されたパートナーが数日のうちに最初の顧客を迎え入れる予定だ。

その一方で、WhatsAppは2022年から、他のソリューションプロバイダーや企業に直接APIを開放する予定だ。

画像クレジット:WhatsApp

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(文:Sarah Perez、翻訳:sako)

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TechCrunch Japan

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