ファンタジー「スタートアップ」ゲームVisionrareは実際の企業のフェイクNFT株を購入し最高のパフォーマンスを誇るポートフォリオ構築を競う

所有権のミーム化と、未公開スタートアップのバリエーション高騰を背景に、ベンチャーキャピタルの元アソシエイトが「ファンタジースタートアップ投資」のための暗号資産(仮想通貨)マーケットプレイスを創設した。ユーザーは、リアルの資金で、リアルのスタートアップの、フェイクの株式を購入する。株式はもちろんNFT(非代替性トークン)の形態だ。

【更新】「Visionrare」はオープンベータ1日で有料マーケットプレイスを閉鎖してしまった

米国時間10月6日からクローズドベータで始まったこのゲームは「Visionrare」と呼ばれる。創設者のJacob Claerhout(ジェイコブ・クラーホート)氏とBoris Gordts(ボリス・ゴーツ)氏は、投資のゲーム化を極限まで進め、ファンタジースポーツリーグの魅力を真似て、ユーザーが成功すると思うスタートアップに賭けて友人と競争する手段を提供することを考えている。ユーザーは、数百種類のスタートアップ企業のNFT株を落札し、最高のパフォーマンスを出すフェイクのポートフォリオ構築を競う。

当初、Visionrareのデータベースに登録される企業は、Y Combinatorの最近のクラスを出たスタートアップが中心だ。Visionrareは、同社が販売するフェイクの株式の母体であるスタートアップの名前やロゴを使用する許可を得るどころか、ほとんどの場合、打診してさえいない。だが創業者らは、このプラットフォームのゲーム性により、対象となった企業が停止要求書の提出を思いとどまることを期待している。スタートアップは、自社のプロフィールが正しいことを確認した上でNFT株のうち大きな割合を受け取り、好きなように分配することもできるし、Visionrareに連絡してプロフィールを削除してもらうこともできる。もちろん、無視することもできる。

このゲームは、ベンチャーキャピタルの複雑さを入札形式により単純化することを目的としており、スタートアップの実際の資金調達サイクルや現実世界での業績と連動している。Visionrareは、資金調達ラウンドごとに連番になった100単位の「VisionShares」を入札にかけ、各スタートアップにつき一度に1単位ずつ、5ドル(約550円)から入札できる。ユーザーの保有株式が一定の数(最低5株)に達すると、リーグに参加できる。そこで他のユーザーとファンタジーのような体験を通じて競い合い、順位表を上下しながら、自分のポートフォリオのパフォーマンスに基づくVisionSharesの価値の合計を競う。

Visionrareのマーケットプレイス(画像クレジット:Visionrare)

オープンベータに移行したVisionrareには、セカンダリーマーケットの構築や、OpenSeaなどの外部プラットフォームにおけるVisionSharesの販売サポートなど、いくつかの重要な課題が残っている。ユーザーは現在、クレジットカードでVisionSharesを購入しているが、チームは暗号資産による支払いを導入することも検討している。

このゲームの主な問題は、マンデーナイトフットボールのようなものとの相関関係が少ないことだ。そのため、ファンタジーリーグの規模拡大は難しいかもしれない。つまり、業績に関する公開情報がないのだ。対象が上場企業であれば、ゲームは株価や、四半期決算に載るような一貫した指標のように具体的な何かを中心に構成することができるが、スタートアップ企業は情報公開に非常に慎重だ。

VisionrareはTracxnからスタートアップの業績データを入手し、それをもとに毎週、独自のバリエーションのような「Visionrareスコア」をはじき出す。このスコアは、リーグの進捗や勝者を追跡するための基礎となるものだが、無形資産がバリュエーションを押し上げることが多い市場で、プレスリリースへの言及、ソーシャルメディアのフォロワー数、アプリのダウンロード数といった業界横断的で一貫性のあるデータに過度に重きを置けば、未公開市場でのバリエーションとスコアの間に著しい乖離が生じることは明らかだ。パリに拠点を置く投資会社Partechで、アーリーステージの投資に携わっていたクラーホート氏は「これは正確な科学ではありません」としながらも、時間をかけてより多くのデータストリームにアクセスし、スコアリングアルゴリズムのパフォーマンスを向上させていきたいと考えている。

さらに大きな課題は、最もお金を持っているユーザーがリーグ戦で常勝しないようにすることかもしれない。現実の世界と同じだ。リーグ戦の勝者は、ある期間中にVisionrareのスコアポイントを最も多く獲得したポートフォリオによって決まる。だが、ベンチャー企業のサクセスストーリーは長い時間をかけて作られるため、初期のチームに長期的に賭けることと、流行のSaaSスタートアップに馬車を繋ぐことには、不均衡があるかもしれない。創業者らは、リーグの仕組みはまだ試行錯誤中であり、Visionrareの規模が大きくなるにつれ、楽しく公平なものになるよう調整していくと述べた。

結局のところ、このプロジェクトは、2人の若い起業家が資金ゼロから立ち上げた初期段階のプロジェクトであり、暗号資産空間と今日のスタートアップの投資エコシステムの両方の馬鹿げた部分を捉えている。だが、Visionrareの創業者らは、このNFTフェイク株式市場が、スタートアップに興味を持つ人々が確信する勝者はどの企業なのかを示す機会を提供し、いつの日か、次の採用候補者を探しているVCにとってシグナルとなることを望んでいる。

「この業界は信用を築くのが本当に難しく、アクセスも資本もない人がたくさんいます」とクラーホート氏はTechCrunchに語った。「もしあなたが会社というものを信じるなら、VisionShareを買ってください」。

画像クレジット:Visionrare

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(文:Lucas Matney、翻訳:Nariko Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

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