Uber、東南アジアのビジネスをライバルに売却――Grabの27.5%を得たのはwin-winの取引

スポーツの世界では「強いチームは調子が悪くても勝つ」と言われる。Uberがそれに当たるかもしれない。

Uberが東南アジアのライドシェア事業をGrabに売却することは大きな反響を引き起こしている。しかしこれをGrabが勝ってUberが負けたと捉えるならものごとを単純化し過ぎる。以下この点について背景を交え検討してみよう。

普通に考えればUberの東南アジア市場からの撤退はGrabの勝利だ。しかし神は細部に宿ると言われる。この取引は詳しく見ていけば双方にとって利益をもたらすwin-winの関係だとわかる。勝敗というより新たな提携関係の樹立という側面が重要だ。

まず事実関係をみていこう。

Uberは最近60億ドルと評価されたGrabの27.5%を得た。この所有権は単純計算で16.5億ドルの価値がある。過去5年間にUberが東南アジア市場に投じた資金は7億ドル程度だったことを考えれば、まずこれだけで十分なリターンを得たことがわかる。

一方、Grabは最大のライバルの事業を閉鎖させることに成功した。急成長中のフードデリバリーサービスのUber Eatsも含め、Uberのドライバー、顧客のすべてを手にすることになる。

数年前にスタートしたGrabは、当初は免許のあるタクシーに限った配車サービスで、しかも顧客は料金をキャッシュで支払う必要があった。Grabがライドシェア・ビジネスに転じたのは3年前に過ぎない。Uberが進出したことによって市場の性格は一変した。今度はその市場をGrabがほぼ独占できることになった。この点、Grabにとって画期的な取引だったことは間違いない。

資金、戦略ともGrabが優勢

スタートは比較的ささやかなだった(マレーシアで創立され、後にシンガポールに本拠を移した)にもかかわらず、 Grabはこの2年で長足の進歩を遂げた。現在、タクシー配車、自動車共有、自転車共有、バイクタクシーなど10種類の交通サービスを8カ国で展開している。Grabのローカライゼーションの取り組みはきわめて印象的であり、成長の重要な要素となってる。

ライドシェア企業にとってフードデリバリーへの進出はいわば定石だが、Grabは GrabPayで金融サービス部門にも進出を果たしている。これはオフラインでの商品販売やサービス料金などの支払いを可能にするサービスで、Grabはさらに少額金融や保険といった新たな分野も手がけている。

Grabの目標は単に新しい交通サービスを提供するにとどまらない。交通サービス以外の新しい分野はユーザーに利便性を提供するだけなくGrabにとっても利益率が高いという。

ただし―ここが重要だが―注意すべき点があった。つまり新規事業が現実に利益に反映されるには時間がかかるため、Uberとの競争には役立っていなかった。

ビジネス上の競争は結局のところ資金という要素に行き着くことが多い。

簡単に言えば、Grabは投資家にひんぱんに新たな投資を要請する必要があった。過去2年間、資金調達はGrabに有利に展開してきた。2016年には7億5000万ドル、 2017年には25億ドルを調達することに成功し、60億ドルの評価額に対して総額40億ドルの資金を得ている。

この間、Uberが東南アジア市場に投じた資金は7億ドルだったことと比較すれば、Grabが資金という重要な側面で優位に立っていたことが見てとれる。Uberが世界の市場に投資した資金の総額は印象的だが、東南アジアに関してはUberは投資額に枠をはめていたようだ。

またGrabへの投資には戦略的な意味が見てとれる。

SoftBank と中国版UberのDidi〔滴滴〕は直近の20億ドルのラウンドをリードしている。またトヨタ、Hyundai、Tiger Global、Coatue Management、またインドネシアの有力企業Emtek、Lippoも年来Grabを支援してきた。

こうした広汎なネットワークの構築に成功したことがGrabに大きな利益をもたらしているが、その一つは優秀な人材の獲得だ。特筆すべきなのは1年半前に辣腕のディールメーカーとして名高いMing Maaをプレジデントとして迎え入れたことだろう。Maaはゴールドマン・サックス出身でSoftBankの投資部門にも在籍していた。

Uberは国際化に当って、現地支社にローカライゼーションの主導権を与えているとたびたび主張してきたが、東南アジアにおける現地化にはかなりの混乱が見られた。Uberは早くから東南アジアに参入したにもかかわらず、事業のトップを任命したのは4年後の昨年8月だった。このことはUberが東南アジア戦略の確立にあたってそうとうに出遅れたことをよく象徴している。

Win-winの取引

しかしUberは中国からの撤退でもロシアからの撤退でも有利な取引をまとめている。今回もその例に漏れない。

Grabは未上場企業なので正確な株主情報は得られないが、Uberは今回の取引で最大の株主の一人となったことは間違いない。 東南アジアはライドシェア市場としてもっとも有望と考えらえれているので、この市場で最大の企業の大株主となるのはUberにとってもその投資家にとっても理想的な展開だ。

GrabにとってもUberにとって東南アジア市場は赤字だが、売上は過去2年で倍増しており、Googleも加わっている最近のレポートによれば、2017年には50億ドルの大台に乗ったという。Uberは投資を続けて事業を継続することも十分可能だったはずだが、むしろGrabという代理を通して東南アジア市場におけるプレゼンスを維持することにした。前述したとおり、Uberが保有することになるGrabの株式は直近のラウンドの評価額をベースにすれば16億ドル以上の価値がある。しかも今後利益が出るようになればGrabの価値はさらに大きくアップする見込みだ。

今回の取引にきわめて近い情報源によれば、Uberの500人前後の社員とUber Eatsを含む3カ国でのライドシェア事業を引き取るにあたってGrabはキャッシュでUberに1億ドル弱を支払うという。

Uberは赤字を出す事業を止め、キャッシュを得るだけでなく東南アジアのGrab、中国のDidiに大株主として参加する。UberのCEO、ダラ・コスロウシャヒはGrabの取締役会に加わるという。これは単なる金銭的価値を超えてUberがGrabに強い影響力をもつことを保証するものだ。

東南アジアにおけるライドシェア事業の焦点はGrab対インドネシアのGo-Jekの対決に移る。同社はGoogleやTencentといった有力企業が支援する50億ドルのスタートアップだ。Go-Jekはインドネシアを超えて事業を拡大する野心をがあり、事業分野はまさにGrabとバッティングすることになる。

Go-Jekに近い筋がTechCrunchに語ったところでは同社は今月中にもフィリピンで事業を開始するかもしれないという。 Go-Jekは慎重に戦略を立てることで知られているが、Uberが退場した今、同社はいよいよ正面からGrabとの対決に臨むことになるだろう。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。