2017年末あたりから、バーチャルタレント業界が急速に盛り上がってきている。
YouTube上で活動しているバーチャルYouTuber(VTuber)が一気に増え、多くのファンを獲得。ユーザーローカルが公開するVTuberのランキングを見ても、1位のキズナアイを筆頭にそのファン数や動画の総再生回数の多さに驚かされる。
今後バーチャル上で活動するタレントが増えれば、例えば握手会やライブといったイベント活動やグッズの販売など「リアルなタレントが行っているような商業活動」も本格化していくだろう。
VRイベントプラットフォーム「cluster.」が目指しているのも、まさに「バーチャル上の商業スペース」を作ること。その一歩として運営元のクラスターは7月12日より、cluster.上で有料イベントを開催できるチケット機能のβ版を公開した。
有料イベントの第1弾は、8月31日に開催が予定されている人気VTuber輝夜月(かぐや るな)の音楽ライブだ。
VR上で音楽ライブやコミケを
cluster.については過去に何度か紹介しているけれど、ユーザーがバーチャル空間上にルームを作り、イベントやライブを楽しむことができるプラットフォームだ。バーチャルなので広さや距離といった物理的な制約を受けないのが大きな特徴。数千名規模のイベントやカンファレンスにも対応する。
運営元のクラスターは2017年5月にエイベックス・ベンチャーズ、ユナイテッド、DeNA、Skyland Venturesおよび個人投資家らから2億円を調達。6月にcluster.の正式版をリリースした。
同社の創業者でCEOを務める加藤直人氏の話では、リリース以降ゲームやコミュニティのユーザー同士の会合、会社の会議など、幅広い用途で利用が進むも「どういうところでしっかりとビジネスを回していくのか」で悩んでいたという。
もともとcluster.を立ち上げた背景のひとつとして「VRヘッドセットを着けた時に、ここで音楽ライブができたらいいなと考えていた」こともあり、イグニスの子会社でVR領域の事業を手掛けるパルスと業務提携を締結。2017年の夏頃からバーチャルアイドルの活動サポートも始めていたそうだ。
「当初はバーチャルタレントがブームになるのは2〜3年後を想定していたので、長いスパンでの事業になると考えていた」(加藤氏)というが、冒頭でも触れたように一気にブームが到来した。
バーチャルタレントの場合、リアルなタレントとは違い握手会やオフ会などファンとの接点が少ないことが一つの課題。それを解決するために3Dアバターのアップロード機能などを拡充したところ、VTuberを中心とした利用が増えてきたという。
「VR上で音楽ライブやコミケができるようになる、そしてそれに自宅から参加できるようになるというのがひとつの目標だった。バーチャル上に商業スペースを作りたかったので、有料チケットやグッズの販売機能などは以前から準備に取り掛かっていた」(加藤氏)
輝夜月が「Zepp VR」でライブ開催へ
今回チケット機能のβ版がリリースされることによって、今後企業はcluster.を使ってバーチャル上で有料のイベントを開催できるようになる(現在は社数を限定し、問い合わせベースで提供)。
冒頭で触れた通り第1弾のイベントは、ソニー・ミュージックエンタテインメントが主催する「輝夜 月 LIVE@Zepp VR」。チケット価格は5400円となっていて、「高い」と思う人もいるかもしれない。
ただこの点について加藤氏は「そこでしか味わえない希少な体験を提供できれば成立しうると考えているし、むしろ安いとすら思われる文化になっていく可能性もある」という。
「(ネット上に)情報が増え、情報の価値自体は下がってきている。でもVRデバイスが届けるのは情報ではなく、体験。ユーザーが求めているのも体験であり、(デジタルコンテンツに対しても)希少な価値を感じることができればお金を払うと考えている」(加藤氏)
VR上でビジネスが成り立つ主要ジャンルは「ゲーム」「イベント」「成人向けコンテンツ」の3つというのが加藤氏の見解。クラスターが狙っていくのはこのイベントのニーズだ。
あくまでチケットはそのためのひとつの機能にすぎず、今後はバーチャルアイテムの購入機能を始め商業活動に必要な要素をアップデートしていく。
「バーチャル上の商業スペースのニーズは今後10年、20年のスパンで高まっていくはず。そこで必要となるインフラを作っていく。直近はバーチャルタレントがアーティスト活動をしやすい場所として機能を強化し、バーチャルイベントの箱となるサービスにしていきたい」(加藤氏)