サポート付き貸し農園「シェア畑」をはじめ農業関連のサービスを複数手がけているアグリメディア。同社は10月20日、グロービス・キャピタル・パートナーズを引受先とする第三者割当増資により総額2.5億円を調達したことを明らかにした。また今回の増資にともなって、グロービスの今野穣氏が社外取締役に就任する予定だという。
アグリメディアは前回2016年12月にSMBCベンチャーキャピタル、ちばぎんキャピタル、事業会社から1億円を調達。それ以前にも2015年9月から2016年4月にかけて事業会社から資本業務提携を通じて1億3700万円を、2013年1月に三菱UFJキャピタルなどから4300万円を調達している。
首都圏中心に70ヶ所の農園を開園、利用者数は1.5万人超え
アグリメディアでは「都市と農業をつなぐ」をコンセプトに、主力事業として「農業体験」「農場人材」「農業流通」の3つを運営している。
- 農業体験事業 : サポート付き市民農園「シェア畑」、収穫体験付きBBQ「ベジQ」など
- 農業人材事業 : 農業特化の求人情報・人材紹介サービス「あぐりナビ」
- 農業流通事業 : 道の駅や直売所などを活用した流通プラットフォーム
創業期から行っているのが農業体験事業で、中でもシェア畑がアグリメディアにとって核となっている。シェア畑は使われずに放置されている遊休農地と、農業を体験したい人をマッチングするサービス。
このサービスがユニークなのは単に畑をレンタルするのではなく、農具やナレッジといった作物の栽培に必要なアイテムがセットになっていること。まず野菜の種や苗、肥料、農具、資材が畑に備えられているので自分で準備する必要がない。加えて経験豊富な菜園アドバイザーが週に4回以上畑へ出勤していて、具体的なアドバイスをもらえる。
アグリメディア代表取締役の諸藤貴志氏に話を聞くと、サービス設計時に「ユーザーがサービスを使う際に障壁となりうるものを、徹底して取り除く」ことを意識したそうだ。
「実は都市部でも農業をやってみたいという人は多い。自治体や市民農園が畑を提供しているケースは従来からあったが『畑を貸すから後は全部自分でやってね』ではハードルが高い。そこで手ぶらで行けて、趣味やレジャー感覚で農業を体験できるというアプローチに可能性を感じた」(諸藤氏)
シェア畑は2012年のリリースで現在扱っている畑・農園は約70ヶ所、利用者数も1.5万人を超えた。利用者の数自体も増えているが、そのニーズや用途も広がってきているという。
「近年では法人の利用も増えてきた。福利厚生や会員とのコミュニケーションの場を作る目的で一般企業が活用しているほか、幼稚園や老人ホームでも使われている。中でも最近多いのが飲食店。自社農園として畑をレンタルし、ベビーリーフなど育てた野菜を店舗で提供するという形だ。自社で直接農家とやりとりをするのは敷居が高いということもあり、シェア畑を活用いただいている」(諸藤氏)
個人利用者も夫婦やファミリーからシニア層まで幅広いため、中上級者向けの農園などニーズに応じたサービスの提供も始めている。
中上級者向けの「 シェア畑Masters 」
今回諸藤氏の話を聞いていて興味深かったのが、フィットネスジムをベンチマークにしているという話だ。菜園アドバイザーがついて野菜作りを継続的にサポートしていく仕組みや、サービス設計などは特に参考にしている。立地や条件によっても異なるがシェア畑の料金は月額8000円から9000円が多く、実際にフィットネスと比較しているユーザーも少なくないという。
「ユーザーからは『シェア畑の場合は2人で月額9000円だからいいんだよね』という声もある。空いた時間にジムで体を動かすか、畑で農作業をやりながら体を動かすか。趣味として農業をやるというライフスタイルをさらに広げていきたい」(諸藤氏)
農業プラットフォームの構築や地方活性事業を本格化
アグリメディア代表取締役の諸藤貴志氏
アグリメディアは2011年に住友不動産出身の諸藤氏が創業したスタートアップ。前職時代に貸し会議室の新規事業を手がけた経験や、起業家である兄の影響もあって起業を志した(諸藤氏の兄はエス・エム・エス創業者の諸藤周平氏)。
変化が大きい業界や課題が大きい業界で事業機会を探った結果、農業領域で起業することを決意。実家が専業農家である友人とともに事業を始めた。当時から農業の収益を上げていくためには都市部の人を巻き込む必要性を感じていたそうで、目をつけたのが趣味やレジャーとして農業を体験するというアプローチだ。
最初に立ち上げたのは農業体験イベントプラットフォームの「ノウジョウシェア」。そしてノウジョウシェアを運営する中で遊休農地が増えていることを実感し、農業体験と結びつける形でサービス化したのがシェア畑だ。2017年4月には農業分野に特化した人材事業を運営するアグリ・コミュニティを子会社化するなど、近年は農業体験だけでなく人材や流通事業にも力を入れている。
アグリメディアがこれから力を入れていくのは、ITを活用した農業プラットフォームの構築と地域活性事業だ。
農業プラットフォームについては、シェア畑を運営する中で蓄積されてきたデータを活用した栽培ナレッジをツールとして生産者に提供していく。加えて地域の道の駅や直売所と都市住人をつなぐ流通プラットフォームを準備している。
「道の駅や直売所では余った野菜が廃棄されたり、農家が自分たちで消費したりすることも多い。POSデータを活用しながらこの直売所と野菜を買いたい人を直接繋ぐプラットフォームを作る。個別の農家とユーザーをつなぐサービスはあったが、それでは物流コストや手間の問題など難しい部分もある。道の駅や直売所は日本全国の農産物流通額の16%を担い、規模は約1兆円。この領域にはまだ成長余地がある」(諸藤氏)
またアグリメディアには自治体から遊休農地の活用や事業サポート、農業人材の呼び込みなどの問い合わせが集まっているという。この地域活性事業も手がけながら「農業の収益性改善に繋がるサービスを複数扱うプラットフォーマー」を目指していく。