ヒトに有用なカイコ原料の供給を行うMorusが5000万円のシード調達、食・医療・飼料・化粧品分野のプロダクト開発

ヒトに有用なカイコ原料の供給を行うMorusが5000万円のシード調達、食・医療・飼料・化粧品分野のプロダクト開発

ヒトへの有用成分が多く含まれるカイコ原料を供給するバイオスタートアップMorus(モルス)は1月5日、シードラウンドにおいて、第三者割当増資による5000万円の資金調達を発表した。引受先は、リードインベスターのANRI(ANRI 4号投資事業有限責任組合)、またサムライインキュベート(Samurai Incubate Fund 6号投資事業有限責任組合)。

Morusは、カイコを原料とした食品、医薬品、飼料、化粧品などの開発、生産、販売を行っている。古くから家畜化され、逃げない、共食いをしないといった飼いやすく量産に適した特質を持つカイコには、豊富なタンパク質をはじめ、ヒトにとって有用な栄養成分が含まれており、「現代人のタンパク質不足や不足する栄養分を補う」ことが期待されるという。

今後は、複数の産業向けに製品開発を行うとともに、「カイコの高速品種改良と量産化における研究開発や体制強化」を行うとのこと。これにともない、共同創業者である信州大学繊維学部の塩見邦博教授が社外取締役に就任する。

Morusの代表取締役CEOの佐藤亮氏は、サムライインキュベートから独立してこの会社を起業した。サムライインキュベートは、今回の出資を通して「世界で課題を抱える約9億人の人々を対象とする課題解決を目指して、継続して伴走支援をしてまいります」としている。

リクルートと信州大学農学部が農地情報整備の共同研究、航空写真から特定農地区分を高精度で検出するAI開発

リクルートと信州大学農学部が農地情報整備の共同研究、航空写真から特定農地区分を高精度で検出するAI開発

リクルートの研究開発機関アドバンスドテクノロジーラボは9月9日、信州大学農学部との共同研究「水田活用における畦畔(けいはん)管理の効率化に関する取り組み」を2020年12月より開始。今回、約半年間にわたる研究の成果と今後の見通しについて発表した。

畦畔(けいはん)とは、水田に流入させた用水が外にもれないように、水田を囲んで作った盛土などの部分のこと。AIの活用により、手作業では計測が難しかった畦畔の面積や傾斜角などの情報を可視化する技術を開発し、中山間地域(農業地域類型区分のうち、中間農業地域と山間農業地域を合わせた地域)における農業課題の解決を目指す取り組みを進めてきたという。

リクルートと信州大学農学部が農地情報整備の共同研究、航空写真から特定農地区分を高精度で検出するAI開発

赤い枠内が畦畔(けいはん)

同共同研究では、リクルートが培ってきたAI技術および画像処理技術と、長野県林務部が作成した「航空写真×数値標高モデル」でAIモデルを作成する技術を確立。水田の畦畔面積・傾斜角、農地に占める畦畔の割合(畦畔率)を計測し可視化、長野県全域の水田約5万haに対し、畦畔データ(GIS用座標付ポリゴンデータ)の作成に成功した。この研究結果は、農業工学分野やシステム農学分野の学術学会での報告、さらに各学会誌への論文投稿を行う予定。

また今後、畦畔データの作成技術を、リクルートから信州大学農学部へ移転することによって研究を継続する。

信州大学農学部では、作成したデータをベースに水田1枚ごとの畦畔データを作成することで、農家が所有する水田ごとの畦畔の面積・傾斜角、畦畔率の計測を可能にするとしている。また、予測モデルの精度を上げることで、長野県以外の地域においても、同様の結果を得られる高い汎用性を目標とする。さらには、水田の畦畔を含めた全国の農地のGISオープンデータの公開を通じて、県・市町村など地域行政と連携した「農地・畦畔見える化プロジェクト」の発展を目指す。

中山間地域では、若手農家や農業法人の新規参入が進まず、経営規模を拡大しようとしても、平地と比べ傾斜地が多いという条件不利性から、労働費用が多くかかり農業機械の効率化が進んでいない。その課題の1つである畦畔管理作業にかかる費用(人件費・機械費・燃料費)を「見える化」することによって、より適切な耕作管理方法や機械の導入の検討を可能にし、新規参入や経営規模の拡大につなげていくことを最終的な目標に据えている。

一方リクルートでは、今後共同研究で得られた「低解像度イメージに情報を付加することで高解像度化する技術」と「精度の高いAIモデルを作成するノウハウ」をビジネスに活用することも視野に入れているという。

信州大学農学部との共同研究の概要

畦畔は、水稲栽培に必要な水を田んぼにためる重要な役割を果たしており、大雨時の一時的な貯留などの役割も担っている。これを維持するため、漏水を防ぐための畔塗りなどの管理とともに、畦畔の崩落を防ぎ病虫害の発生を抑えるため、定期的な草刈りの作業が必要となる。

しかし、傾斜地の多い中山間地域の水田では、平地と比べて畦畔斜面の面積や角度が大きく、そこでの過大な労働負荷や管理コストの負担が課題となっているそうだ。また、畦畔斜面の傾斜角度を考慮した実質的な畦畔面積を測量することは多大な時間と費用を要するため、畦畔農地情報は整備されておらず、中山間地域の水田農業の経営改善が進まない一因となっているという。

農林水産省や地方自治体がまとめる農地基盤情報では、農地面積や圃場(ほじょう。農地の中で耕作可能な部分)面積については整備されてきているものの、畦畔斜面を含めた実質的な畦畔の面積や角度、畦畔率といった情報は未整備であり、畦畔管理にかかる費用の算出・実態の把握が困難であるという課題は残されたままになっている。

信州大学農学部は2020年、畦畔の正確な地形情報を計測すべく、地理情報システム(GIS)上で畦畔ポリゴンと圃場ポリゴンを作成し、長野県林務部が作成した精密標高データ(DEM。Digital Elevation Model)を用いて、畦畔の面積・傾斜角、畦畔率の測定を開始した。しかし、手動でポリゴンを作成していたため、煩雑な作業負荷が課題となっていた。

この解決策として、リクルートは、ディープラーニングを中心としたAI技術と画像処理技術を提供し応用できると判断。信州大学農学部との共同研究を通じ、長野県が保有する航空写真とDEMを組み合わせることで、水田圃場部分の「水張領域」と「畦畔領域」を判別し、それぞれの領域のポリゴンを自動作成するAIの開発を目指し共同研究に取り組んできたという。リクルートと信州大学農学部が農地情報整備の共同研究、航空写真から特定農地区分を高精度で検出するAI開発

生成したAIモデルの評価では、エリアや特徴の異なるデータを無作為で抽出した上で、正解データ(1308イメージ)を作成、「畦畔領域」「水張領域」「その他領域」の3つのクラスによる特定農地区分を97.7%の精度で検知したという。リクルートと信州大学農学部が農地情報整備の共同研究、航空写真から特定農地区分を高精度で検出するAI開発

NEDOが100平方メートル規模の触媒パネル反応器で人工光合成によるソーラー水素製造に成功

NEDOが100平方メートル規模の触媒パネル反応器で人工光合成によるソーラー水素製造に成功

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)とARPChem(人工光合成化学プロセス技術研究組合)は8月26日、100m2規模の「太陽光受光型光触媒水分解パネル反応器」と「水素・酸素ガス分離モジュール」を連結した光触媒反応システムを開発。世界初の実証実験に成功したことを発表した。この実験結果は8月25日公開の英科学誌「Nature」オンライン速報版に掲載されている

これは、2019年8月から1年以上にわたって実施された自然太陽光下での光触媒パネル反応システムの実証実験。水を分解して水素と酸素の混合気体を生成し、そこから高純度のソーラー水素を分離・回収するというもの。ソーラー水素とは、太陽光で水を分解して水素を製造する技術のことで、クリーンで持続可能性のあるエネルギーとして注目されている。今回の実験では、ソーラー水素製造を大規模化しても安全性や効率性が保たれることが実証され、実用化とさらなる大規模化への道筋が見えてきた。

このプロジェクトは、NEDOとARPChemが、東京大学、富士フィルム、TOTO、三菱ケミカル、信州大学、明治大学との協力のもとに進めてきたもので、光触媒パネル反応器の開発、分離膜の開発、合成触媒の開発という3つのテーマで構成されている。

人工光合成プロジェクトの概要(今回の成果は「光触媒開発」のテーマ)

  • 光触媒開発:太陽光エネルギーを利用した水分解で水素と酸素を製造する光触媒およびモジュールの開発
  • 分離膜開発:発生した水素と酸素の混合気体から水素を分離する分離膜およびモジュールの開発
  • 合成触媒開発:水から製造する水素と発電所や工場などから排出する二酸化炭素を原料としてC2~C4オレフィンを目的別に合成する触媒およびプロセス技術の開発

光触媒パネル反応器の実証

光触媒パネル反応器は、ひとつのモジュールが3m2。透明なガラス板の下に、25cm角のチタン酸ストロンチウム光触媒シートが並べられている。ガラスと光触媒シートとの間には0.1mmの隙間があり、そこに水を流し込むことで反応が起きる。そこで発生した水素と酸素の気泡がスムーズに流れ、気泡の滞留によって光が散乱しないようにすることが重要となるが、このシステムでは、光の散乱の影響はほとんどなかった。

NEDOが100平方メートル規模の触媒パネル反応器で人工光合成によるソーラー水素製造に成功

光触媒パネル反応器の基本単位(写真左)と紫外光照射時の水分解反応時の様子(写真右)

NEDOが100平方メートル規模の触媒パネル反応器で人工光合成によるソーラー水素製造に成功

3m2規模の光触媒パネル反応器(左)と100m2規模の光触媒パネル反応器から生成した水素と酸素の混合気体(右)

このシステムでは紫外光のみに反応するが、量子収率(光子ひとつが反応を起こす割合)がほぼ100%と高効率を示した。また実験室では、水分解の活性が、初期の8割以上を2カ月以上維持できた。これは、日本の屋外条件では約1年の耐久度に相当する。この光触媒シートは、光触媒を基板にスプレーするだけで簡単に作れるとのこと。

疑似太陽光を昼夜連続照射したときの活性の時間変化

混合気体からのソーラー水素の分離

光触媒パネル反応器で発生した水素と酸素の混合気は、ガス分離モジュールに送られる。そこでは、水素は分離膜を通過し、酸素は通過できずに残留する。今回の実験では、開発中の分離膜ではなく、市販のポリイミド中空糸分離幕を使用したが、擬似実験では、1日分離を行った結果、混合気は、水素濃度約94%の透過ガスと酸素濃度約60%の残留ガスに分離でき、水素の回収率は天候、季節に関わらず73%を達成した。

100m2規模の光触媒パネル反応器に接続されたガス分離モジュールの性能

合成触媒

合成触媒は、水分解で作り出した水素を、工場や発電所から排出された二酸化炭素と反応させて、C2からC4オレフィン(高分子化合物)を目的別に合成するというもの。これはプラスティックの原料として利用される。

光触媒パネル反応システムの安全性試験

ソーラー水素の製造では、非常に燃えやすい水素の管理が課題になるが、1年以上にわたるこの屋外実験では、1度も自然着火や爆発は起きなかった。また、爆発リスクの確認のために、光触媒パネル反応システムの混合気体が存在する場所に意図的に火を点けてみたが、光触媒パネル反応器、ガス捕集用配管、中空糸分離膜を含むガス分離モジュールともに破損は確認できなかったという。

今後は、このシステムの社会実装を目指して、光触媒を可視光に対応させて太陽光エネルギーの変換効率を5〜10%に引き上げ、低コスト化、さらなる大規模化、ガス分離システムの性能とエネルギー効率の向上を目指すとしている。