新興国市場向けのマイクロヘルス・生命保険を開発するBIMAが約32億円を追加調達

新型コロナウイルスの世界的な大流行と、その蔓延を遅らせるための社会的な距離の取り方に新たな重点が置かれるようになったことで、遠隔でのヘルスケアを可能にするテックサービスが注目されている。米国時間9月7日、新興市場をターゲットにマイクロインシュランス(低価格・低コストの保険)とヘルスケアサービスを構築しているBIMAが、サービスに対する需要の急増に対応するための資金調達を発表した。

同社はストックホルムとロンドンを拠点とする、生命保険と健康保険、遠隔医療サービスを提供するスタートアップ。新型コロナウイルスによる需要増加を受け、サービスを拡充させるための資金として3000万ドル(約32億円)を調達した。同社は現在、健康保険を利用可能な遠隔医療サービスを提供しているが、病気を管理するための健康プログラムや薬局での割引などのサービスなども拡充しており、今後はさらに多くのサービスを取り込んでいく計画のようだ。

この動きは、最近2億3000万ドル(約245億円)を調達した中国のWaterdrop(未訳記事)など新興国をターゲットにしたほかの保険系スタートアップと同じ戦略だ。Waterdropがクラウドファンディングを含めて構築しているサービス内容を見ると、BIMAが今後どのようなサービスを追加する可能性があるのかを予想できる。

今回のラウンドは新規投資家である中国のCreditEase Fintech Investment Fund(CEFIF)がリードしており、既存投資家のLeapFrog Investmentsとドイツ保険大手のAllianz(アリアンツ)も参加している。なおAllianzは、BIMAの前回の9700万ドル(約103億円)の資金調達ラウンドにも参加(未訳記事)していた。同社は今回の評価額を公表していないが、前回のラウンドでは3億ドル(約320億円)の評価を得ており、その後大きく成長した。

BIMAは現在、200万件の遠隔医師による診察を記録し、3500万件の保険や健康保険を保有しており、過去2年間で顧客基盤を1100万人まで拡大している。現在、アフリカではガーナ、タンザニア、セネガル、アジアではバングラデシュ、カンボジア、インドネシア、マレーシア、パキスタン、フィリピン、スリランカの10カ国で事業を展開中だ。

米国やヨーロッパでは、Lemonade(レモネード)のように上場企業に成長したインシュアランステックのスタートアップが数多く誕生しているが、BIMAが注目されるのは「そのターゲットが誰であるか」という点にある。

BIMAが注目しているのは、より高い経済層や可処分所得のある層、経済が安定している先進国市場の人々ではない。むしろ、1日10ドル以下で生活し、病気や怪我のリスクが高い、十分なサービスを受けていない家庭に焦点を当てており、「顧客の75%が初めて保険サービスを利用する人々です」とBIMAは説明する。

同社のCEOを務めるGustaf Agartson(グスタフ・アガートソン)氏と共同創業者のMathilda Strom(マチルダ・ストロム)氏はインタビューで「遠隔医療と保険はこれまで以上に必要とされており、新型コロナウイルスの感染蔓延は新興国の消費者と政府にこれらのタイプの製品の認知度と受け入れを加速させました。BIMAの遠隔医療サービスは利用率がほぼ2倍になっています」と語った。「BIMAは新型コロナウイルスの感染者を保険でカバーしています。この病気で苦しんだ人や亡くなった人の家族に保険金を支払ってきました」とストロム氏は付け加えた。

また、新型コロナウイルスの感染蔓延で忙殺されている保健当局とも連携している。パキスタン政府やインドネシア政府は現在、BIMAを利用して医師による遠隔診察やチャットを顧客に提供することで、医療サービスの負荷を軽減している。

BIMAは、中間所得層がまだ形成されていない発展途上国をターゲットにしている。通貨価値が不安定で、インフラが未整備であることから、参入のハードルが高いと考えられるているが、一方で競争がなく、急速に成長している需要を取り込めるため、BIMAの事業はより実りのあるものになる可能性がある。

「新型コロナウイルスは、病気の蔓延を防ぐための遠隔医療の価値と、安心のための保険の重要性を家庭にもたらしました」とアガートソン氏は声明の中で述べている。「デジタルソリューションとヒューマンタッチを通じ、BIMAはこのような困難な時期に安心感をもたらすツールなどを使って、手の届きにくい地域社会にサービスを提供することができました。今回調達した資金は、事業の拡大とサービスに対する需要を満たすための事業拡大に投下します」と続けた。

中国の投資家であるCreditEaseが今回のラウンドに参加したことは興味深い。保険の提案を中心にオールインワンの医療サービスを提供するというアイデアは、中国市場で培われてきたものだ。米国では、企業が提供する健康保険である健康維持機構(HMO、Health maintenance organization)でのサービス開発が進んでいるにもかかわらず、同様のモデルを開発しようとするスタートアップが世界的にも比較的少ないため、その点でもBIMAは際立っている。

CreditEaseのマネージングパートナーであるDennis Cong(デニス・コン)氏は声明で「BIMAの革新的なマイクロ保険と遠隔医療サービスの統合は、新興国市場における大きなアンメットニーズ(治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ)を満たすために重要で、現在の新型コロナウイルスの感染蔓延によってその価値はさらに高まっています」と述べている。さらに「私たちは、既存の主要株主とともに、BIMAの意義深い旅に参加する機会を得られたことを大変うれしく思いますし、同社が事業を成長させ、サービスを提供する市場においてリーダーとしての地位を拡大していくことを支援します」と続けた。

LeapFrog InvestmentsのパートナーであるStewart Langdon(スチュワート・ラングドン)氏は「BIMAが提供している市場は広大であり、医療サービスに対する需要は非常に大きいです」と語る。「BIMAの独自サービスにより、新興市場の消費者は多くの医療および保険サービスを1つの使いやすいプラットフォームで利用できるようになります。これには、BIMAのサービスを利用しなければ保護されず、危険にさらされることになる何百万もの保険の新規購入者に対する保護も含まれます」と同氏。

Allianzの投資部門であるAllianz XのCEOを務めるNazim Cetin(ナジム・セチン)氏は声明で「BIMAとのパートナーシップを継続し、発展途上国市場において遠隔医療と遠隔医療サービスを共同で提供できることをうれしく思います。これらのサービスに対する需要は今後も増加すると考えており、当社の経験とネットワークを活用したサポートを提供することで、市場におけるBIMAの主導的地位を明らかにしていきたいと考えています」と述べている。

カテゴリー:ヘルステック

タグ:BIMA 資金調達 InsurTech / インシュアテック

画像クレジット:BIMA

原文へ

(翻訳:TechCrunch Japan)

先進国の外にいる、次なる10億人のユーザーはどこで何を求めるのか?

起業家やハイテク企業の幹部たちは、次なる成長の源を求めて先進国の外に視野を広げている。安価なスマートフォンが普及し、インドのJioのような安い利用プランが登場したことで、新たに10億人のユーザーがインターネットに加わった。しかし、彼らは何を求めているのだろう。彼らは、以前からのインターネットユーザーと同じなのか、違うのか?

それが、Payal Arora(パヤル・アローラ)氏の著書「The Next Billion Users: Digital Beyond the West」(次なる10億人のユーザー:欧米の外のデジタル)の核心となるテーマだ。簡潔な論文だが、欧米のハイテク企業の創設者や非営利団体の役員たちが世界の貧しい人たちを誤解している点や、彼らがインターネットに求めている本当のものを表すエピソードを数多く集めた、論議を呼びそうな内容になっている。

「倫理感を捨てて現実に向き合いましょう」とアローラ氏はTechCrunchのインタビューに応えて言った。「地上の俗世を讃えましょう」というのが、20年以上も世界の貧困問題に取り組み、テクノロジー、ソーシャルメディア、起業の問題と関わってきた彼女の総括だ。

現在はオランダのエラスムス・ロッテルダム大学で教授を務める彼女は、世界で貧困にあえぐ人たちの本当の姿を見えにくくしている話に異論を唱えている。「今日の世界的な貧困層は、いくつもの型にはめられています。空白の石版、犯罪者、はみ出し者、善良な人、起業家、まとめ役、被害者などなど。それは、この膨大な数の貧困層を神秘化しようとする策略の証です」

TechCrunchとの話の中で、彼女はこう話していた。「(インターネットは)基本的に、常に進歩しているプロジェクトです。そしてそれは、利用者によって常に形作られます」

世界の貧困層は「遊びたい」のが現実

「異国的」などではない。貧困層のユーザーが求めるものの多くは、欧米で使われているものと一致する。娯楽、教育、それにロマンス。事実、欧米の主要メーカーが考えている次なるユーザーが求めるものと、実際に当事者たちが求めているものとの間には大きな認識の開きがある。若者(人口統計データによれば、この新しい市場の新しいユーザーの大半は若者が占めている)がデジタル機器を手に入れると、まず行うのが音楽を聴くことと、Facebookなどのソーシャルメディアでの会話だ。

テクノロジーが世界各地で拡大する本当の理由は、必要性にはなく、楽しみたいという欲求にある。「JioからFacebookまで、すべての試みに共通するものが少なくともひとつ存在する。この新しいテクノロジーを受け入れたくなる動機付けに、彼らは遊びとしての使い方を推奨しているのだ」と彼女は書いている。

彼女は、この新しいデジタル機器に関して、「遊び」という考え方の重要性と課題を強調している。彼女はこう書いている。「ジュガール、つまり『質素なイノベーション』の概念が蔓延している。少ないものから、いかにして多くを得るかというゲームだ」。インドなどの地域で見られる草の根のイノベーションは、遊びの建設的な形だ。自分たちのテクノロジーをリミックスして要求に応える」。

しかし、欧米企業の役員にとっては、イノベーションは必ずしも好ましいものではない。欧米の高価なメディアに料金を払えるだけの資産がないために、途上国では海賊版が横行する。「海賊版商品によってデジタルの娯楽市場を作り出す貧困層の創意工夫を正当化すれば、その代償として、欧米のメディア産業のビジネスモデルの中核が破壊される」

この新興市場ではプライバシーはさらに複雑な問題

欧米では、毎日のように情報流出やプライバシー侵害の問題がニュースになっている。欧州連合では、GDPR(一般データ保護規則)によって、ユーザーのプライバシー保護のための世界でもっとも広範な政策が議会を通過し、Facebookなどのプラットフォームのプライバシー問題は、シリコンバレーの政策立案者の間でも、日々の一番熱い話題になっている。

しかしAroraは、世界の貧困層のためのプライバシーには、もっと複雑な事情があると見ている。貧困層のユーザーにとって「プライバシーは、それほど大きな問題ではありません。それは、彼らがプライバシーを気にしていないからではなく、プライバシーが確保されない環境であるからでもありません。(中略)実際は、彼らの現実的な生活との関係において、それはもっとずっと個人的なものだからです」と彼女は言う。著書の中では、彼女はこう書いている。「必要とあれば、彼らは巧みに身を隠す。また必要とあらば活発な探求者となる。とくにインターネットで楽しみを得たいときだ」

新しいユーザーは、厳格に保守的で、男女で仕切られた社会に属する人たちが多い。そこでは、女性が顔を見せるだけで罰せられることもある。それでも、女も男も、そうした規則を迂回する手段としてFacebookやTwitterなどのソーシャルネットワークを使っている。社会生活を仲介するものとして、意図的にテクノロジーを使っているのだ。しかも、それは楽しい。「Facebookは『ハッピー』な場所です。とくに、日常の貧困と暴力から子どもたちが抜け出せないでいるファベラ(ブラジルの貧民街)では重要です」。

もちろん、テクノロジーは新たな問題を引き起こす。位置情報技術は、ギャングが嫌がらせや誘拐の目的で特定の人物を探し出すことを可能にしてしまう。出会い系サイトの詐欺は、出会いを求めて若い男女がインターネットを使うほどに増えてゆく。中傷的な画像を拡散すれば、家族やコミュニティー全体が辱められる。しかし、テクノロジーが可能にしたこのようなシンプルな人間関係は、貧しい人たちの生活を、ほんのわずかだが楽にできることもある。

起業家は日常に目を向けるべき

アローラ氏の最も辛辣な批判は、シリコンバレーとその起業家たちが、彼らの核心的な要求にではなく、大規模プロジェクトにばかりこだわっていると分析したところから発している。

彼女は、Nicolas Negroponte(ニコラス・ネグロポンテ)氏と彼の「One Laptop Per Child」(すべての子どもにノートパソコンを)プログラム(この時点で彼女は何度も口にしている)と、コンピューターを村に置けば教育を変革できるという信念のもとに行われたSugata Mitra(スガタ・マイトラ)氏の「Hall-in-the-Wall」実験を強く批判している。私たちとのインタビューの中で、アローラ氏はこう話していた。「発想が貧困だと言っているのではありません。ただ、彼らは上から目線で、非常に無礼だったのです」。

宇宙船や斬新なテクノロジーなどではなく、貧しい人たちがすでに訴えている要求を満たすものを、製品のデザイナーは与えてくれればいいと彼女は進言する。インドのJioが成功した理由についてアローラ氏は、その戦略が「インド市場の特徴である『ABCD原則』に従っていた、つまりインドの消費者のほとんどが、自身の個人情報をAstrology(星占い)、Bollywood(インド映画)、Cricket(クリケット)、Devotion(信仰)のサイトで使っているという事実をベースにしている」と書いている。

企業の創業者、政府関係者、支援団体の中には、その結果を受け入れられない人もいるだろう。そのような娯楽を求める軽薄な行為を、彼らは非難したがる。ユーザーは自分自身を教育し、貧困から「自力で脱出する」よう努力すべきだと彼らは主張する。しかし、性的関心の探求、安全な場所からの政治的な発言などなど、そうした自己表現を追求することは貧困層の絶対的な権利だとAroraは熱っぽく語る。分子生物学上の発見を学ぶことなど、どうでもいい。

「The Next Billion Users: Digital Beyond the West」には、役に立つか立たないかの評価の基準となる単一のテーマは存在しない。アローラ氏はいくつもの逸話、データ、視点を提供し、読者の世界を広げようと努力し、その目標を達成した。新市場にユーザーを持つ人たちなら誰もが、彼女が培った視点を参考にする価値がある。

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

Microsoftが新興国向けにSkype Liteをローンチへ―、2Gでも使えるSkype

screenshot-2017-02-22-14-08-23

Microsoftは、ビジネスユーザーにおなじみのSkypeを新興国ユーザー向けに一新し、インドの現地時間2月22日に行われたFuture Decodedで、新アプリSkype Liteを発表した。

Android用アプリとして開発されたSkype Liteは、Skypeの核となる音声・ビデオ通話機能に重きを置きながら、2Gのような速度に限りのある通信規格向けに最適化されている。まずはインドでのリリースを予定しており、アプリは8言語にローカライズされているほか、SMSの送受信機能、データ通信量の確認機能も備えている。さらにMicrosoftは、インドにフォーカスしたさまざまなボットも準備しており、ユーザーはタスクの自動化に加え、ブラウザを開くよりも簡単にニュースなどのコンテンツをチェックできるようになる。また、データ通信量を抑えるために、チャットを通じて送付された写真、動画、その他のファイルは全て圧縮されるようになっている。アプリ自体のサイズも13MBしかなく、インドのような新興市場の大部分を占める、安価な携帯電話の少ない記憶容量をできるだけ食わないように作られている。

またMicrosoftは、6月以降に一部機能を有効化するために、インドの公的デジタル個人認証システムであるAadhaarとSkype Liteを連携させる予定だと話している。これが実現すれば、「Skypeユーザーは、面接時や何かを売買する際など、相手が誰なのか確認する必要があるさまざまなシチュエーションで、知らない相手の身元を確認できるようになる」とMicrosoftはブログポストに記している。

skype-lite

興味深いことに、Skype Liteは「インドユーザーのために、インドでつくられた」とMicrosoftは話しており、同社がインドのモバイル革命に大きな勝負をかけようとしているのがわかる。インドのインターネット利用者数の増加率は世界一で、さまざまな社会・経済的な変化が起きているが、まだそれもはじまったばかりだ。というのも、Counterpoint Researchの調査によれば、インドの人口約12億5000万人のうち、まだ3億人しかスマートフォンを持っていない。

一方で、Microsoft以外にもインド市場を狙っている企業は多数存在する。Googleは、公共Wi-Fiプロジェクトや、さまざまな人気アプリへのオフライン機能の搭載、メッセージングサービスAllo・Duoのローカリゼーションなど、インド市場向けにさまざまな施策に取り組んできた。しかし数々の巨大企業がインド市場を攻め込んでいるにもかかわらず、Facebookが未だにインド市場では優位に立っている。同社の情報によれば、WhatsAppのユーザー数は1億6000万人を超えているほか、メッセージ以外のソーシャル機能ではFacebookがインド市場を独占しており、そのユーザー数は1億5500万人におよぶ。

この記事(英語原文)の公開時点では、まだSkype Liteはリリースされていないが、インド国内ではこのリンクから22日中にはアプリをダウンロードできるようになるはずだ。なお、インド以外でのリリース予定については明らかになっていない。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter