より安価な義手を求めて

Alt-Bionicsは、2019年の終わりにテキサス大学サンアントニオ校(UTSA)の技術シンポジウムに出場したまったく新しいスタートアップ企業で、波紋を呼んだ。同社は3BMの赤外線塗装硬化システムに次いで2位に終わったが、有望な技術とすばらしいストーリーを武器に国内外の話題をさらった。

同校のサイトに掲載された記事では、700ドル(約7万6000円)という義手の価格は、標準的なシステムにかかるコストの一部に過ぎないと紹介されていた。残りの記事のほとんどは、良いアイデアから市場性のある製品を生み出すまでの道のりに焦点を当てている。同社のCEO兼共同設立者であるUSTAエンジニアリング学科卒業のRyan Saavedra(ライアン・サーベドラ)氏は、この種の製品の価格は1万ドル(約109万円)から15万ドル(約1600万円)になるという。同社では3500ドル(約38万円)程度の価格設定を目指している。

この間、Alt-Bionicsのチームは製品開発の様子をSNSで公開してきた。今回は本格的な取材の前に、この3年間の歩みと今後の展望についてサーベドラ氏に聞いてみたい。そしておまけに、未公開のレンダリング画像をいくつ紹介する。これはAltは「最終製品を示すものではなく、特許の完成を発表するためにチームで作成したお祝いのレンダリング画像」という。

画像クレジット:Alt-Bionics

 

TC:なぜ義肢装具は法外に高価なのですか?

最初に言っておきたいのは、製造にかかる費用はそれほど高額ではないため、ユーザーにとっても高価になる理由はこれっぽっちもないということです。質問に対する答えは1つだけではないのですが、筋電義手(バイオニック・ハンド)を取り巻く法外な価格の背景にある複数の理由を、私なりにまとめてみたいと思います。義肢装具の最終的な価格 / コストには2つの部分があることがわかりました。そして第3の(しかし第2の)理由についても説明します。

まず、メーカー。メーカーはこれらの義肢装具を開発・作成し、義肢装具クリニック(これらのデバイスのフィッティングや購入ができる数少ない場所)に販売しています。義肢装具クリニックに販売されている最も手頃な筋電義手は、約1万ドル(約109万円)から始まり、上は数十万ドル(約数千万円)にもなります。奇妙なことに、この価格は義肢装具の機能や性能を必ずしも反映しているわけではありません。デバイスの価格は、最終的にはメーカーが決定します。大手のメーカーは、価格を下げられない最大の理由として、間接費を挙げています。

義肢装具クリニック。具体的にはまだ勉強中なのですが、これらのクリニックは医療保険面での対応をします。つまり、医療保険会社にLCode(メーカーが提案する筋電義手の保険コード)を提出し、保険金の支払いを受けます。これらのLCodeには、義肢装具士が選択できる償還額の下限と上限があります。償還額は一般的に義手の購入時に支払う金額よりも高く、クリニックや臨床医が調達、フィッティング、テスト、組み立て、患者のケアに費やした時間と労力をカバーしています。通常は(下限に近い償還額で)妥当なマージンが得られますが、1万ドル(約109万円)の義手に対して償還額が12万4000ドル(約1360万円)を超えたこともあります(2018年の患者の請求書より)。

技術的な停滞。筋電義手の技術は15年近く停滞しており、この分野の競争相手として企業が登場したのはごく最近のことです。この分野の大企業は、経橈骨(肘から下)の筋電義手装具という1つの分野だけでなく、複数の分野に取り組んでいます。つまり、彼らの関心は、義手の開発と手ごろな価格だけではないということです。停滞しているということは、既存の義肢装具やそのメーカーに迫る外部要因や力がないということなんです。つまり、価格を下げる理由がないので、価格が変わらない。これは、最初に申し上げた理由がよりいっそう大きな問題であることを裏付けていると言えます。

TC:より広範な医療コミュニティではどのように受け止められていますか?

すばらしいことにクリニック、臨床医、患者、ユーザーとなり得る人たち、そして他の競合企業、すべてが私たちのミッションを非常によく支持してくれています。このコミュニティや企業は競争相手ではありますが、技術の進歩を利用して人々の生活の質を向上させるという同じ目標を持っています。

3500ドル(約38万円)という低価格を実現していることに、最初は懐疑的な見方をされることもありますが、当社の技術やプロセスについてお話しするとすぐに納得していただけます。現在、義肢装具士のクリニックとの提携を検討しており、患者さんのためだけでなく、義肢装具士の修理やメンテナンスの負担を軽減する機器の開発を目指しています。

TC:プロジェクトはどのくらい進んでいますか?市場参入にあたり、現在のスケジュールを教えてください。

このプロジェクトは初期段階から脱したばかりで、約42%が完了しています。特筆すべき成果は以下の通りです。

  • アーミーレンジャー、ライアン・デイビスとの概念実証に成功。2019年12月
  • Alt-Bionicsを結成。2020年5月
  • D’Assault Systems(ダッソー・システムズ)から42,000ドル(約459万円)のSolidWorks助成金を受ける。2020年7月
  • 暫定特許出願。2021年6月
  • サンアントニオ市のSAMMIファンドから5万ドル(約547万円)の出資を受ける。2021年7月

当社のデバイスが市場に参入するまでの現在のスケジュールは、シードラウンドの資金調達が完了してから1年です。現在、目標金額20万ドル(約2189万円)のうち14万2000ドル(約1555万円)を調達しており、9月までに資金調達を完了したいと考えています。

TC:これまでの最大の課題は何でしたか?

FDA規制に従いながら資本を調達することです。FDAの規制プロセスが恐ろしく厄介なものであることは周知の事実です。医療機器を市場に投入しようとしている人たちが、そのプロセスと複雑さを理解できるように支援する専門企業もあるほどです。Alt-Bionicsは最近、テキサス州サンアントニオを拠点とするバイオメディカル・アクセラレータープログラムに受け入れられ、規制当局の専門家と協力して、市場へのスムーズな進出を目指しています。私たちの使命は崇高であり、ビジネスプランは堅実ですが、新型コロナウイルスは投資家に多くの心配や不安を与えました。対面での売り込みができないため、投資家の前に出ることができず、私たちのような会社にとって資金調達が通常よりも少し難しくなっています。

TC:資金調達の状況はどうですか?これまでにいくら調達しましたか、そしてもっと調達する予定ですか?

現在までにAlt-Bionicsは、少数の投資家から合計14万2000ドル(約1500万円)を調達し、サンアントニオ市のSAMMIファンドからは5万ドル(約547万円)の投資を受けています。現在、シードラウンドのために、適格投資家からさらに5万8000ドル(約635万円)の出資を募っています。ここから、市場参入まで1年というスケジュールが始まります(私たちはかなり有利なスタートを切っていますが)。Alt-BionicsはシリーズAに突入し、エンジニアの増員、技術のさらなる開発、国際市場への進出を目指します。

TC:途上国市場は重要なターゲットになるのでしょうか?

発展途上国は、特にNGOを通じたAlt-Bionicsの重要な市場であり、当社の国際展開において重要な役割を果たすでしょう。私たちは、これらの市場に当社の医療機器を提供する機会は大きいと考えています。手頃な価格で医療機器を提供することは、医療機器へのアクセスを提供するという我々の使命にとって極めて重要であり、この拡大は成功すると信じています。

それでは、通常のまとめに戻ろう。

画像クレジット:Berkshire Grey

Berkshire Grey(バークシャーグレイ)が「23億ドル(約2517億3700万円)以上」の食料品ピッキングロボットの契約を発表したとき、私の頭の中には1つの名前が浮かんだことを告白しよう。Walmart(ウォルマート)だ。数週間前にこのパネルでウォルマートのロボットを使った試みについて少し話した後、ウォルマートがこのカテゴリーで大きな新しい試みをしようとしているという噂を聞いていたからだ。

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Symboticとの取引は、必ずしもバークシャーグレイがウォルマートと提携していないことを意味するものではないかもしれないが、巨大小売企業が自動化に多額の費用を投じていることを話題にしたがっていることは注目に値する。少なくとも外から見ていると、これらの取引は、Amazonに対抗する準備ができているように見せるためのPRと、実際にAmazonに対抗するためのPRの両方を目的としていることが多いように思う(Win-Winなのかもしれない)。

画像クレジット:Walmart

この取引により、Walmartの追加の25カ所の配送センターにSymboticの技術が導入されることになり(2社は2017年からパイロットを実施)、Walmartによると「数年」かけて展開される予定だ。私は以前にもこのように推測したことがあるが(そしてこれからも考えは変わらないだろう)、これらのロボットを活用したフルフィルメント企業のうちいくつかはWalmartにとって朝飯前の買収だが、SymboticはTargetのような競合他社との既存のつながりを考えると、おそらく少し厳しいだろう。

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一方、バークシャーグレイは公開ルートを継続している。レボリューション・アクセラレーション・アクイジション(RAAC)の株主は、7月20日にSPAC(特別買収目的会社)の取引に関する投票を行う予定だ。一方、新しく買収されるFetchは、サプライチェーン・ロジスティクス企業のKorberと、フォークリフトに代わるように設計された新しいパレタイジングロボットの契約を発表した

画像クレジット:Facebook AI

7月第2週は2つのクールな研究プロジェクトがあった。Devinは、Facebook AI、UC Berkeley(カリフォルニア大学バークレー校)、Carnegie Mellon University(カーネギーメロン大学)のチームが、四足歩行ロボットが不整地に瞬時に適応できる方法であるRapid Motor Adaptationを研究していることについて書いていた。バークレー校の研究者の1人が言ったこの言葉は、問題の核心を突いている。「我々は砂について研究しているのではなく、足が沈むことについて研究しているのだ」。

画像クレジット:MIT CSAIL

一方私は、MITコンピュータ科学・人工知能研究所では、ロボットアームを使って人に服を着るという研究について執筆した。これは、高齢者介護用ロボットの機能性や、移動が困難な人を支援する技術として期待されている。

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カテゴリー:ロボティクス
タグ:Alt-Bionics義肢Berkshire GreyMITFacebook AIUC Berkeleyカーネギーメロン大学

画像クレジット:Alt-Bionics

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(文:Brian Heater、翻訳:Dragonfly)

全米ロボット週間の話題を振り返る、隠れたものを拾い上げる技術からSPACまで

ロボティクス週間おめでとう。とはいえ、2021年は愛する人と一緒に過ごせない人も多いはず。ということは、ロボットツリーも、ロボットエッグの入ったロボットバスケットも、緑のロボットビールもない。しかし、National Robotics Week(全米ロボット週間)組織は、4月3日から11日までの期間中、全米50州でたくさんのバーチャルイベントを開催した。

この1週間には、注目すべき財務関連のニュースもあった。米国時間4月6日火曜日にはSarcos(サーコス)がロボティクス系SPACの薄い空気に加わった。スタートアップの世界でこのような活動が盛んに行われていることは事実だが、ロボティクス企業では特別買収目的会社による合併を受け入れる動きが遅れている。すぐに思い浮かぶ会社は、Berkshire-Grey(バークシャー・グレイ)くらいだ。

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画像クレジット:Sarcos Robotics

Sarcosは、James Cameron (ジェームズ・キャメロン)監督の映画のためにデザインされたようなロボットやロボット外骨格を製造している企業だ。同社は、2020年9月に4000万ドル(約43億8000万円)を調達するなど、すでに多くの資金を調達しているが、多くの読者にとって最も注目に値するのは、同社が最近のデルタ航空によるハイテク推進の中心となっていることだろう。デルタ航空は、従業員が大きな荷物を持ち上げる作業を支援するために、同社の技術の一部を使用することを計画している。

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画像クレジット:Rapid Robotics

一方、サンフランシスコに拠点を置くRapid Robotics(ラピッド・ロボティクス)は、シリーズA投資ラウンドにおける1200万ドル(約13億1000万円)の調達を発表。大規模なシードラウンドに続く今回のシリーズAラウンドで、同社のこれまでの資金調達額は1750万ドル(約19億1000万円)となった。同社の目的は、ロボット製造のためのプラグ・アンド・プレイ・ソリューションを提供することであり、さまざまな産業分野における製造オートメーションの参入障壁を下げることにある。

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この分野に強い関心を持ち続けているSoftBank(ソフトバンク)は、AutoStore(オートストア)の株式の40%を28億ドル(約3063億円)で買収し、このノルウェーの会社の評価額は77億ドル(約8424億円)に達した。同社の技術はロボットを使って倉庫の活用を最大限に効率化し、従来の約4分の1のスペースに集約することができるとしている。AutoStoreはすでにかなりの規模で事業を展開しており、約600の施設に2万台のロボットを配備しているという。ソフトバンクの孫正義CEOは、次のように述べている。

AutoStoreは、世界中の企業のために迅速でコスト効率の高い物流を可能にする基盤技術であると、私たちは見ています。AutoStoreと協力して、エンドマーケットや地域を積極的に拡大していくことを楽しみにしています。

投資のニュースばかりになってしまうといけないので(そうすることもできるのだが、誰がそんなのを望むだろう?)、最後にMITのクールな研究をご紹介しよう。同校の研究者は、ハーバード大学やジョージア工科大学の研究者とともに、電波を使って隠れた物を感知するロボットを披露した。この「RF-Grasp」と呼ばれる技術は、覆われていたり、視界に入らないものも、目標物としてロボットが拾い上げることを可能にする。MITのFadel Adib(ファデル・アディブ)准教授は、これを「超人間的な知覚」と表現している。

カテゴリー:ロボティクス
タグ:MITSarcos RoboticsRapid RoboticsソフトバンクグループAutoStoreBerkshire Grey

画像クレジット:AutoStore

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ピックアンドプレースロボットBerkshire GreyがSPACを通じての上場を発表

資金調達に関して、Berkshire Grey(バークシャー・グレイ)はかなり良い状態にある。2020年、同社がシリーズBで2億6300万ドル(約279億円)もの巨額を調達した後、マサチューセッツ州にある本社を筆者が訪問した際には、非常に意欲的な成長計画について語っていた。しかし、それは新型コロナウイルス感染流行が米国に本格的に上陸する前のことだ。

むしろ、新型コロナウイルスは自動化への関心を加速させた。企業が将来的な感染流行による避けられない影響から身を守る手段を探し始めたからだ。Berkshire Greyは米国時間2月24日、SPAC(特別買収目的会社)によって株式公開する最新のハイテク企業となることを発表した。Revolution Acceleration Acquisition Corp.(レボリューション・アクセラレーション・アクイジション)と合併することで、同社の価値は最大27億ドル(約2859億円)となる見込みだ。

Berkshire Greyはこのニュースに関連したリリースの中で、現在、自動化されている倉庫は5%と記している。この業界に関する議論でよく耳にする数字だ。それはフルフィルメントやロジスティクスを合理化しようとしている小売業者の間で大きな成長の可能性を示すものである。彼らの多くは、Kiva Systems(キヴァ・システムズ)の買収などによって独自のロボティクスの取り組みを大幅に強化してきたAmazonのような企業に対する競争力を保つ手段を探しているからだ。

Berkshire Greyは、完全自動化に近いグランドアップ・ソリューションを提供している。この技術は、Locus(ローカス)やFetch Robotics(フェッチ・ロボティクス)のようなプラグアンドプレイの自動化ソリューションとは一線を画すものだ。これらの会社が提供するものは、企業の自動化をより速く、より安価に行うことに焦点を当てている。Berkshire Greyのエコシステムには、ピッキングやグリッピングから画像センシングまで、さまざまなロボット技術が含まれており、この分野では300件以上の特許を取得している。

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「消費者の期待は変化しており、適切な商品を適切な場所に適切な時間に、可能な限り効率的に届けなければならないというサプライチェーン業務へのプレッシャーが高まっています」と、Berkshire GreyのTom Wagner(トム・ワグナー)CEOはこのニュースと関連したリリースで述べている。「この12カ月間、新型コロナウイルス感染流行はすでに高い変革へのプレッシャーを増幅させてきましたが、今日では企業が変革するかどうかではなく、どのくらいのスピードで変革するかが問題となっています。私たちは今度の取引について非常に興奮しています。これによってBerkshire Greyは成長を加速させ、当社の最先端のロボットソリューションを新規および既存の顧客に提供していくことができます」。

この買収により、Berkshire Greyには最大4億1300万ドル(約438億円)の現金がもたらされることになる。この資金を使って、顧客のバックログに対処し、国際的なプレゼンスを確立することを計画していると、同社では述べている。この件は第2四半期には完了する見込みだ。

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カテゴリー:ロボティクス
タグ:Berkshire GreySPAC

画像クレジット:Berkshire Grey

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)