分散型動画メディア「DELISH KITCHEN」などを運営するエブリー、6.6億円の資金調達——ネイティブ広告も好調

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分散型動画メディアを運営するエブリーは6月9日、グロービス・キャピタル・パートナーズ、DBJキャピタル、グローバルブレイン、エウレカ代表取締役CEOの赤坂優氏など個人投資家複数人を引受先とした合計6億6000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。エブリーでは調達した資金をもとに本格的な人材採用を開始。年内にも20〜30人規模まで組織を拡大し、動画コンテンツの制作体制を強化していく。

エブリーは2015年9月の創業。代表取締役の吉田大成氏は、グリーで「釣り★スタ」「探検ドリランド」などをはじめとしたヒットタイトルを手がけた人物で、2015年8月に同社を退社してすぐエブリーを立ち上げ。これまで自己資金でサービスを運営してきた。

エブリー代表取締役の吉田大成氏

エブリー代表取締役の吉田大成氏

同社が手がけるのは、以前にもTechCrunchで紹介した料理動画メディアの「DELISH KITCHEN」やライフスタイル動画メディアの「KALOS」のほか、2月にスタートしたママ向け動画メディアの「MAMA DAYS」、3月にスタートしたニュース動画メディアの「Timeline」の4つ。いずれもコンテンツはオリジナルで制作するものの(Timelineでは自前に動画に加えて、通信社などから編集可能な動画をライセンス契約した上で利用している)、自前のサイトを持たずにFacebookやInstagramなどのプラットフォームを通じて動画を配信する、いわゆる「分散型」の動画メディアとなっている。

特にDELISH KITCHENの成長が著しいとのことだが、各メディアのファン(いいね)数(2016年6月7日時点)はDELISH KITCHENが95万人、KALOSが8万8000人、MAMA DAYSが13万人、Timelineが7万人。ソーシャル上でのシェアを含めた月間でリーチ数は延べ2500万人以上になるという。

吉田氏によると、クライアントとコラボレーションした動画を配信するネイティブ広告が好調だという。すでにアスクル、江崎グリコ、エスビー食品、オイシックス、コーセー、サッポロビール、小学館、ブルボン、ミクシィ、明治、リクルートライフスタイル、ローソンフレッシュなど大手のクライアントもついている。

「テレビCMの置き換え需要が高い。いまや10〜20代の若者だけでなく、30〜40代もテレビから離れてきている。これまで、日々スーパーで買っていたようなモノはテレビや雑誌で認知していたが、テレビの接触時間が減ってきたので、その需要がデジタルにシフトしている。今までのウェブ広告は『検索してモノを買う』という意思決定のための広告が中心だったが、今ではテレビCMと合わせてウェブでもコンテンツを出すなど、リーチ数獲得とブランディングのための広告が求められている」(吉田氏)

再生回数ベースで見れば、ネイティブ広告も自前のコンテンツも大差なく、広告であってもコンテンツとして面白ければユーザーに受け入れられているそうだ。たとえばYouTubeなどは、本編動画の前に強制的に動画広告を表示しているが、吉田氏はこういった方式と比較した上で、「(強制的に表示する広告は)出せば出すほどスキップされる。違う文脈の動画を見せることで良くないイメージを持たれかねない。メディアとコラボしたコンテンツ(ネイティブ広告)のほうがソーシャルな世代に対してリーチできる」と語る。なおネイティブ広告の動画にはいずれも広告表記を入れているという。

料理動画の分散型メディアとしては、Buzzfeedが提供する「Tasty」などが大きい。最近では日本での配信を強化しているし、また国内でもDelyが「KURASHIRU」のブランド名で複数の動画メディアを運営しているが、料理動画の「KURASHIRU FOOD」などは月間で数千万人のリーチを集めているという。

こういった競合環境について吉田氏は、「テレビと違ってネットは番組数の上限がない。(競合が)増えてくること自体は想定通り」とした上で、「だからこそ、いかにして多くのユーザーから支持を受けるかが大事。セグメントを細かく、コンセプトをぶらさずに動画を提供していく。例えばDELISH KITCHENであれば、『翌日作れる』『失敗なく作れる』という料理の紹介を丁寧にやっている。そのため、(競合と比較して)早送りで(調理の)ステップを紹介するようなことはあまりしない。こういったところが差になってくると思う」としている。

「ゲーム」から「ネット」の人に——グリー元取締役・吉田大成氏の分散型動画メディアは月間3000万再生に成長

エブリー代表取締役の吉田大成氏

エブリー代表取締役の吉田大成氏。抱いているのはマスコット犬の「EVE(イブ)」

2006年にグリーに入社し、「釣り☆スタ」「探検ドリランド」などソーシャルゲーム黎明期のヒットタイトルの責任者として活躍してきた吉田大成氏。SNSからゲームへと事業をシフトしつつあったグリーを支えた吉田氏だが、2015年8月に同社を退社。9月には自ら起業して「エブリー」を設立。現在は分散型の動画メディア(自社で独自にメディアを持たず、各種ソーシャルメディアにコンテンツを配信することで露出をはかるメディア)を手がけている。

「ゲーム」でなく、「ネット」の人としてユーザーと向き合う

「もともとネットのことをしたくてヤフーに入社し、その後にKDDIと提携したばかりのグリーに転職した。グリーでの仕事から『ゲーム』の人と思われがちだが、ベースは『ネット』の人。もともと創業から数年のグリーに入ったのも、いつかは自分で起業したいという思いもあったからこそ」——吉田氏は語る。

2013年には取締役を退任。ゲーム事業から離れて、新規事業やM&Aなどを担当することになった吉田氏。「ゲームの次」を担う事業を模索する中で動画メディアに目を付けたが、結局社内では事業化するまでに至らなかった。それならばとグリーを離れ、自らの起業を決めた。「事業にフルコミットして、ユーザーと向き合うサービスをしたいと考えた」(吉田氏)

取材の際にはグリーでの話も聞いた。ガラケー時代からゲーム事業の成長に寄与した吉田氏だが、2012年以降グリーはコンプガチャ騒動の中心にいる1社として世間から批判を受けることになる。またその後プロダクト面ではスマートフォンネイティブアプリへの移行が遅れたとも言われており、その結果は苦しい業績というかたちで現れた。吉田氏の取締役退任は、その責任を負うものだったという報道や、経営陣の不仲といったウワサもあった。

当時の出来事とグリーの退職、そして起業は結びついているのか? これについて吉田氏はあくまで新しいチャレンジのためのポジティブな選択だったと説明する。

苦しかった2013年当時を振り返ると「グリーはすごくいいチーム。経営陣それぞれが自分の役割に徹している。自分がどうするか以上に、1000人を超える会社をどうするかを考えていた。誰がどう責任をとるか、そしてこれからどう新しいものを作るかと話していた」(吉田氏)という。とはいえ業績の不信もあり、経営陣から何らかのアクションがなければ社員からは「誰も責任は取らないのか」となるような状況だった。吉田氏は自らが取締役を退任し、新たな事業の立ち上げると決めた。

また他の経営陣との関係については、「部下も含めてその後の引き継ぎもきっちりとしている。新規事業でゲーム事業からも人材を送ってもらうなど、それぞれの役割をやってきた」とした。

グルメ系分散型の動画メディアは月間3000万再生に

グリー時代の話はここまでにして、吉田氏が今、エブリーでどんなことにチャレンジしているのかをお伝えしよう。同社が挑戦するのは動画領域。具体的には、(1)C2・F1・M1層(10代後半から30代前半)をターゲットにした分散型の動画メディア、(2)YouTuberやモデル、芸能人の発掘・育成といったタレントマネジメント、(3)前述の動画メディアやタレントを起用した動画広告ネットワークの3点だ。

まずは動画メディア事業からスタート。現在はメイクやヘアアレンジといった美容カテゴリの動画を配信する「KALOS」、レシピを中心にグルメカテゴリの動画を配信する「DELISH KITCHEN」を展開している。オフィスに複数のスタジオを用意し、社内で動画の撮影や編集も行う。

エブリーのオフィス。キッチンでは料理動画の撮影を行う(撮影テクニックはナイショということで一部マスクをかけている)

エブリーのオフィス。キッチンでは料理動画の撮影を行う(「撮影テクニックはナイショ」ということで一部マスクをかけている)

特に好調なのはDELISH KITCHEN。2015年9月にスタートして約4カ月だが、コアファン数(配信先ソーシャルメディアにおけるDELISH KITCHENのファン数の合計)は54万人、月間動画再生回数は2540万回(2月は3000万回を超える見込み)、月間の動画再生ユニークユーザーは441万人となっている。

「Facebookのグルメ系動画ではファン数で国内最大の規模。『翌日すぐ使える』をテーマにしているが、これがユーザーに評価されている。アテンション(認知)、インタレスト(興味・関心、共感)が伸びており、動画の視聴後にその料理を作ったり、商品を購入したりするケースも多い」(吉田氏)

Facebookの動画はウォールを閲覧している際に自動再生されるため、再生回数が多いのではないかとも思ったのだが、完全視聴率も40〜50%と高い。「1分前後の長さで、見たあとに『有益だ』と思える内容であれば最後まで見てもらえる。コンテンツは受け入れられている」(吉田氏)

 

Facebookの次に力を入れているのはInstagram。DELISH KITCHENのアカウントはフォロワー12万人。ハッシュタグ「#delishkitchentv」には、動画を観て、実際にそのレシピを作ってみたというユーザーの料理写真が並ぶ。現在はバレンタインデー前に配信したチョコチップクッキーやミニクロワッサンの写真が数多く並んでいる。

FacebookとInstagram、他のソーシャルメディアにしても、プラットフォームごとに掲載するコンテンツの内容を変えており、最適な形式は模索中だという。「ゲームのブランドと同じ。例えば『ドラゴンクエスト』と言っても、家庭用ゲーム機、携帯ゲーム機、スマートフォンアプリと、プラットフォームごとに最適な形がある。動画も同じで、プラットフォームごとに求められるモノは違ってくる」(吉田氏)

エブリーは今後も自社メディアを持たず、各種ソーシャルメディアを通じて情報を配信していく。「スマートフォンの時代、自社ページにユーザーを誘導する価値はどんどんなくなってきている。普段使っているアプリなんて平均すれば1人数個という状況。その数個のアプリにどんどん時間が取られているのであれば、その(アプリの)中でユーザーにリーチすることが重要だ」(吉田氏)

今後はグルメや美容以外の領域に特化した(分散型の)動画メディアの立ち上げを進める。「今は動画メディアが伸びている時期。『動画を中心に料理のメディアをやる』のではなく、様々な番組を作って、それぞれ伸ばすことを考えている。海外でもBuzzFeedの『Tasty』などグルメ系の動画は人気だが、そのジャンルだけが観られるわけではない。社内の人材も全方位で募集していく」(吉田氏)。

将来的にはアドネットワークを含めた本格的なマネタイズを進めていく。「僕らの強みは分散型メディアの制作ノウハウ。将来的には雑誌やテレビなど組んで動画を作ることも可能だと思う」(吉田氏)

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今後の動画メディアの展開について