イーロン・マスク氏のLas Vegas Loopはいまだ想定された移動速度を達成できていない

ラスベガス観光局(LVCVA)のCEO、Steve Hill(スティーブ・ヒル)氏は、市の広大なコンベンションセンター(LVCC)のキャンパスのさまざまな場所に乗客を運ぶ、The Boring Company(ボーリングカンパニー、TBC)による地下シャトルの計画を発表したとき、最も遠いステーション間の移動にかかる時間は2分弱だと予測していた。

ラスベガス・レビュー・ジャーナルによると、ヒル氏は2019年6月「もしシステムが機能しなければ、すべてのお金を返してもらいます」と述べたという。

TBCの担当者とLVCVAとの間で交わされたメールによると、その「2分間の約束」は、最近では4月にもメディアに対して繰り返している。そのメールは、Plainsiteが公文書法に基づいて入手した5051ページに及ぶ文書の一部だ。

今のところ、その2分間という目標は達成されていないようだ。

同じ記録請求で入手した詳細な運行報告書によると、LVCC LoopのTesla(テスラ)タクシーは、運行開始から6週間で、システムのステーション間の移動に平均4分近くかかっている。

3万回以上の無料乗車と7万5000人以上の乗客を対象としたデータによると、平均3分未満で移動した日はなく、平均5分かかった日もあった(TechCrunchは、システムの総輸送人数が1000人未満の日は除外している)。先週行われた大規模な自動車のカンファレンスの際に撮影されたビデオ(最近のものなので、今回の公開資料には含まれていない)でも、同様の所要時間が記録されている。

数分の遅れは、一般のコンベンション参加者にとってはもちろん大きな違いではないが、CESのような大規模な展示会の際にTBCが乗客数の目標を達成できない場合、多額の金銭的ペナルティが課される可能性がある。この目標と実績の乖離は、最近ゴーサインが出た、ラスベガスのより広い地域の公共Loopネットワークに対するTBCの約束にも疑問を投げかけている。結局のところ、LVCC Loopの実績は、マスク氏の地下タクシーが都市交通の手段として成り立つのか、それともテスラが支援するアミューズメントとしての性格なのかを示すものとなるだろう。

2021年4月9日、ネバダ州ラスベガスで開催されたLVCC Loop(ラスベガス・コンベンションセンター・ループ)のメディアプレビューで、セントラルステーションにデジタルマップが表示された(画像クレジット:Getty Images / Ethan Miller)

より大規模なVegas Loopシステムは、51のステーションと約29マイル(約46km)のトンネルで構成され、市内の多くの観光地を結ぶ計画だ。TBCはVegas Loopのプロジェクトページで、NFLスタジアムからコンベンションセンターまでの距離が、現在のLVCC Loopの4倍以上であるにもかかわらず、4分で移動できるとしている。

また、このままでは、LVCC Loopが1時間あたり4400人の会議参加者を輸送するという目標を達成できるかどうかについても、現実の運行データからは疑問が残る。

TBCは5月のデモイベントで、62台のTesla Model 3、X、Yに3人の乗客(荷物なし)を乗せて、その数字を達成した。しかし、実際には、6月初旬から7月中旬までの間に、それぞれのLoop車両に乗ったのは平均2人にすぎなかった。

2019年にTBCが締結した契約では、大規模なコンベンションでTBCが1時間あたり約4000人を移動できない場合、その度に30万ドル(約3420万円)のペナルティが規定されている。これほど大きな違約金が発生すると、Loopの存続に影響を与える可能性がある。Loopが6月の操業開始月に輸送サービスで稼いだのはわずか23万500ドル(約2630万円)だ。TBCは、運行台数にかかわらず、毎月16万7000ドル(約1900万円)の管理費も得ている。

また、LVCC Loopが7月中旬までに輸送した1時間当たりの最高乗客数は1355人だった。これは、LVCCがネバダ州の夏の暑い時期に最大規模の会議を行うことがあまりなく、輸送を必要とする乗客がそれほど多くなかったことが大きな理由だ。例えば、6月に開催された美容関係のコンベンションでは、Loopの運行エンジニアがLVCVAに「乗客数が極端に少ないので、車両数を減らしました」と書いていた。夕方に15分間乗客が入らなかったため、Loopの経営陣が早々にシステムを閉鎖したことも何回かあった。

Loopのサービスには3つのレベルがある。レベル2は、LVCCキャンパスで開催されるコンベンションがないときに、車両5台のみをアテンダントなしで運行する。レベル3は、23台の車両で最大2万人の来場者に対応する。レベル4は、30〜62台のTesla車を使い、最大規模のイベントに対応する。

大きな技術テスト

おそらく1月に開催されるCESには、18万5000人程度の来場者が集まる。Loopは先週、8月にTechCrunchが予測したとおり、70台の車両で運行する許可を得た。それでも、乗客数のペナルティを避けるには、所要時間を短縮するか、説得して1台の車両に少なくとも3人の乗客を乗せる必要がある。また、乗客を乗せずに走行する「ゴーストカー」を削減する必要もある。6月上旬に行われたLoopのオープニングイベントでは、ゴーストカーが大半を占めていた。

現在のトンネルでは、さらに多くの車両を入れることはできない。先週行われた70台のテストでは、市の検査官が「ステーション内のトンネルの中で、1~2秒の差で車両が出入りする場面が複数あった」と指摘した。Loopによる安全分析は、車間距離を6秒に保つことを前提としている。

ポジティブな評価

良いニュースはといえば、乗客はLoopを気に入っているようだということだ。「顧客はこのシステムをとても気に入っていて、キャンパス内の移動手段として利用しています。待ち時間は、最大の混雑時でも2分程度になるよう管理できます」と、Loop OperationsのディレクターSeth Hooper(セス・フーパー)氏は6月末に書いている。当初は15分ごとに2分間だけ点灯していたマルチカラーのトンネルライト「レインボーロード」も、利用者の要望に応えて現在ではほぼ常設となっている。

実は、このシステムの最大の問題の1つは、無許可の侵入者だ。Loopでは、10月にTechCrunchが報じた侵入車両に加え、コンベンションセンターの職員がのぞきに来たと思われる侵入が何度もあった。「無許可車両の最大の犯人は、LVCVAのカートです」とフーパー氏は書いている。

また、動物も侵入した。7月下旬、TBCの社員2名が、サウスステーション近くの雨水管に落ちた子猫を救出しようとした。

TBCとLVCVAは、この猫が最終的にどうなったのかという質問、また、運行データに関するその他の詳細な質問にはすぐに回答しなかった。しかし、TBCは、あらゆる交通機関が直面する安全に関わる事件をカタログ化している。少なくとも3回、Loopのドライバーがカーブを見誤ってフェンスかポールに衝突し、軽度の損傷を受けた。6月末までに発生した乗客のけがは、他の乗客が車両のドアを閉めた際、Loopの乗客が指に小さな裂傷と挫傷を負った1件のみだった。

こうしたデータは非常に貴重だ。TBCは1つの都市全体にサービスを提供するために、この技術を拡大する計画を立てているからだ。なお、LVCCとは異なり、Vegas Loopでは、子どもやペットの乗車が可能かどうか、また、有料の乗車券がいくらになるのかはまだわかっていない。

画像クレジット:Ethan Miller / Getty Images

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(文:Mark Harris、翻訳:Nariko Mizoguchi

財政苦境に直面するイーロン・マスク氏のラスベガスループ地下輸送システム、The Boring Companyに賠償金数億円の可能性

米国ネバダ州の規制当局が課した制限により、イーロン・マスク氏のThe Boring Company(ザ・ボーリング・カンパニー、TBC)は、同氏初の地下交通システム「LVCC Loop(ラスベガス・コンベンションセンター・ループ)」の契約目標達成が困難になっている。

ラスベガス・コンベンションセンター(LVCC)のLoopシステムは60台以上の完全自律型高速車両を使い、展示ホール間で毎時最大4400人の乗客を輸送することになっている。しかしTechCrunchの取材によると、クラーク郡の規制当局がこれまでに承認したのは人間が運転する車両わずか11台で、さらに厳しい速度制限を設け、Tesla(テスラ)の「完全自律走行」先進運転支援システム「Autopilot(オートパイロット)」の一部であるオンボード衝突回避技術の使用を禁止しているという。そのようにブランディングされているものの、TeslaのAutopilotシステムは技術的には完全自動運転のレベルには達していない。Teslaとカリフォルニア州の規制当局との間で交わされたやり取りによると、内部的にも、Autopilotは特定の機能を自動化できる先進的な運転支援システムと見なされている。

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LVCCの母体であるラスベガス観光局(LVCVA、Las Vegas Convention and Visitor’s Authority)は、マスク氏にインセンティブを与え、TBCが約束を確実に果たすように促す契約を結んだ。契約は固定価格で、TBCがすべての支払いを受けるためには、特定のマイルストーンを達成しなければならない。この契約では、トンネル掘削完了、全体の作業システムの完成、テスト期間の終了と安全レポート、そして乗客を輸送できるという証明など、プロセスのさまざまな段階で支払いが行われる。最後の3つのマイルストーンは、何人の乗客を輸送できるかに関するものだ。Loopが1時間に乗客2200人の輸送能力を示すことができれば、TBCは440万ドル(約4億8000万円)を受け取ることができ、3300人を達成すれば再び同じ額をもらえる。4400人を達成した場合も同様だ。これらの輸送能力に応じた支払いの総額は、固定契約金の30%に相当する。

1時間に4000人以上の乗客を運ぶどころか、制約されたシステムでは1000人以下のキャパシティに制限される可能性があり、TBCは契約目標を達成できなかった場合、多額の違約金を支払うことになる。TBCは乗客から料金を徴収して収益を得ることはない(乗車は無料)。

【更新】本記事の公開直後にラスベガス観光局のSteve Hill(スティーブ・ヒル)代表は、今週行われた数百人規模のLoop試験で、予定されていた1時間あたり4400人の乗客を輸送できるキャパシティが実証されたとツイートした。これにより、後述の追加建設資金が確保される可能性がある。TBCは罰金を避けるためには、今後数カ月の間に実際のカンファレンスでこの数字をまだ達成しなければならない。TechCrunchは記事公開に先立ち数週間にわたり、LVCVA、クラーク郡、そしてTBCと何度も報道内容を共有した。実質的な回答をしたのはLVCVAだけで、キャパシティの問題や、子どもやモビリティの問題を抱える乗客についての未解決の質問については回答を得られなかった。

例えばTechCrunchが新たに入手した管理契約によると、CESのような大規模なトレードショーの際には、LVCCはTBCがシステムを運営・管理する1日ごとに3万ドル(約330万円)を支払うことになっている。しかし、2019年にTBCが締結した当初の契約書には、TBCが1時間あたり約4000人を輸送できない大規模なイベントごとに、30万ドル(約3300万円)の賠償金が課されると明記されている。

つまり、3~4日間のイベントで、TBCはシステムの運営費に加え数十万ドル(約数千万円)の損失を被ることになるのだ。パンデミック前の通常の年であれば、LVCCではこのような大規模なイベントを年12回ほど開催している。なお、TBCが車内広告などによる別の収益手段を計画しているかどうかは不明だ。

このキャパシティの問題は、すでにTBCにコストをかけている。契約では、TBCがパフォーマンス目標を大幅に下回った場合、マスク氏の会社は建設予算のうち1300万ドル(約14億3000万円)以上を受け取ることができないとされている。LVCVAはTechCrunchの取材に対し、契約に基づきTBCが1時間に数千人を輸送できる能力を実証するまで、建設費を保留していることを確認した。

年間20回ほど開催されるより小規模なイベントの場合、キャパシティ賠償金は適用されないが、契約によればTBCに支払われる1日あたりの使用料は1万1500ドル(約126万円)へと激減する。また、コンベンションの数にかかわらず、TBCは毎月16万7000ドル(約1830万円)の支払いを受けてシステムの稼働を維持することになっている。

米国時間5月25日に行われたLoopのキャパシティテストに参加したのはわずか300人と報じられているが、LVCVAの担当者は、1時間あたり4400人という数字は「十分に達成可能な範囲」と述べた。

管理契約によると、TBCは人間のドライバーチームの他にも、オペレーションセンター、メンテナンス・充電施設にスタッフを配置し、制服を着たカスタマーサービススタッフ、セキュリティスタッフ、フルタイムのレジデントマネージャーを提供しなければならない。

この料金体系は「予想される自律走行への移行」を考慮して、2021年末までにおそらく下方修正されることになっている。

画像クレジット:Ethan Miller / Getty Images

衝突警告システムは使用不可

Loopの初期運用に関する制限事項のいくつかは、クラーク郡の建築消防局に提示されたものだ。その内容は、ルート全体での制限速度を時速40マイル(時速約64km)に抑える、Loopの3つの駅構内では時速10マイル(時速約16km)に減速する、車両を11台までに制限することなどである。

クラーク郡消防局のWarren Whitney(ウォーレン・ホイットニー)副消防局長は、TBCからLoop内でTeslaの衝突警告システムを使用することは許可されていないと聞いている、と述べている。クラーク郡が米国時間5月27日に発行した交通システム運営ライセンスでは、Loopは「非自律走行」で「手動運転」の車両を使用しなければならないと規定されている。このライセンスは、計画されている62台の車両に対して発行された。クラーク郡当局およびTBCのいずれも、この運用制限に関する詳細な質問には回答しておらず、いつ、どのような場合に解除されるのかについても言及していない。

トヨタは以前、レーダーを使った衝突警告システムがトンネル内で正しく機能しない可能性があると警告していた。

衝突警告レーダーを欠いたTeslaが安全に「完全自律走行」できるかどうかは定かではないが、マスク氏は、車両からレーダーセンサーを取り除いてカメラのみを使用することを提案し、現在その計画を実行している。Teslaは2021年5月から、レーダーセンサーを搭載していない「Model 3(モデル3)」と「Model Y(モデルY)」の納車を開始した。レーダーセンサーがないことを受けて、米国道路交通安全局は、2021年4月27日以降に製造されたModel 3とModel Yには、自動緊急ブレーキ、前方衝突警告、車線逸脱警告、ダイナミックブレーキサポートについて、同局の認定がなくなると発表した。またこの決定を受け、Consumer Reports(コンシューマー・レポート)はModel 3をトップピックとして掲載しなくなり、米国道路安全保険協会はModel 3のトップセイフティピック+指定を外す予定だという。

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同消防局は他にも、何時間も続く可能性のあるバッテリー火災など、トンネル内での緊急事態への対応に懸念を抱いていた。ホイットニー氏はTechCrunchに次のように述べている。「電気自動車が事故を起こさずに炎上したケースは過去ありました。今のところ我々の計画は、まず人々を避難させ、その後、撤退して火が燃え続ける間待つことです」。

ホイットニー氏は、Loopシステムには多くのカメラや煙探知機が設置されていることに加え、毎分40万立方フィートの空気をトンネル内の両方向に移動させることができる「強力な」換気システムを備えていることを指摘した。これにより、乗客やドライバーは車の周りを歩いて脱出できるはずだという。TBCはそれほど深刻ではない事故のために、故障した車両を回収するための牽引車(これもTesla)を用意している。

TechCrunchの問い合わせに対し、TBCとクラーク郡はいずれも、Loopが車イス利用者、通常はチャイルドシートが必要な子どもや幼児、その他のモビリティの問題を抱えている人々、ペットや介助犬などの動物の輸送を許可するかどうかについては答えなかった。

消防隊員たちは、駅から遠く離れた場所で、2〜3台の他の車両が行く手を塞いでいるような事故を想定した地下システムでの訓練をすでに何度も行っている。ホイットニー氏は「11台であれば問題ありません」という。「しかし、クルマの数が増えてくるとそれは問題かもしれません。TBCは営利企業であり、効率を最大限に高めたいと考えていますから、キャパシティを増やそうとした時に、さらに議論が必要になるかもしれません」とも。

拡張計画

TBCは、既存のLoopでより多くの車両を使用したいと考えているだけでなく、すでにシステムの拡張を計画している。2021年3月末、TBCはクラーク郡に対し、LVCCの1駅から新しいResorts World(リゾート・ワールド・ラスベガス)ホテルまでの延長工事に着工したことを報告し、近くにあるEncore(アンコール・アット・ウィン・ラスベガス)までの同様の延長工事の許可も得ている。

さらにTBCは、ラスベガスのストリップやダウンタウンの大部分をカバーし、40以上の駅で数多くのホテルやアトラクション、そして最終的には空港を結ぶ交通システムを構築したいと考えている。そちらのシステムはTBCが資金を提供し、チケット販売によって支えられることになる。

このような拡張が可能かどうかは、TBCが比較的シンプルなLVCC Loopで約束した技術や運用をどれだけ早く実現できるか、また、トンネル内のタクシーがマスコミに書かれる量と同じくらい収益を上げられると実証できるかどうかにかかっている。

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カテゴリー:モビリティ
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(文:Mark Harris、翻訳:Aya Nakazato)