魚やフジツボにも負けず海に浮かんでデータ収集する自律制御式センサーの増加をSofar Oceanが計画

海は広大で謎めいている……が、数千個もの小さな自律制御式のブイが毎日興味深い情報を報告してくれたら、そんな謎はかなり減るだろう。それこそがSofar Ocean(ソーファー・オーシャン)という企業の目的であり、同社は7つの海をリアルタイムで理解するというビジョンを実現するために、3900万ドル(約44億円)を調達した。

Sofar Oceanでは「オーシャン・インテリジェンス・プラットフォーム」と称しているが、本質的には海流、水温、天候など、さまざまな重要な海洋指標のリアルタイムマップを同社は運営している。これらの情報の一部は、人工衛星や海上の大規模な船舶ネットワークからいつでも簡単に得ることができるが、数千もの熱心な観測者が波に乗ることで得られる粒度やグラウンド・トゥルースは非常に明確だ。

昨日の測定値や通過する衛星による推定値ではなく、15分前のデータを得ることができれば、航路や天気予報(陸地でも)などについて、より多くの情報に基づいた判断を下すことが可能になる。もちろん、このような大量のデータは無数の科学的応用にも役に立つ。

現時点で、数千個の同社が「スポッター」と呼ぶものが海に存在しているという。

「海の大きさを考えると、この数はまだ少ないと言えるでしょう」と、CEOのTim Janssen(ティム・ヤンセン)氏はいう。確かに、他の誰も実現したことがない数ではあるが、まだ十分ではない。「私たちはすでに5つの海すべてをカバーしていますが、これからさらにギアを上げて、この分散型プラットフォームの密度を高め、可能な限りパワフルなセンシング能力を発揮できるようにします。そのために、今後数年間で急速に多くのセンサーを追加し、収集するデータを拡大して、より正確な海洋の洞察を得られるようになると我々は予想しています」。

SofarとDARPA(米国防衛高等研究計画局)は先日、人々が独自の海洋データ収集装置を設計する際にリファレンスデザインとなるハードウェア規格「Bristlemouth(ブリストルマウス)」を発表した。これは、海中で増え続ける自律機器を可能な限り相互運用できるようにすることで、重複しながらも互換性のなかったネットワークの問題を回避することを目的とするものだ。

フジツボに覆われ、魚にかじられ、風雨にさらされた、何千ものロボットブイのネットワークを運営する難しさは想像に難くない。ヤンセン氏によると、同社の「スポッター」は外洋での長期間の活動に耐えるように設計されているため「最小限のメンテナンス」しか必要としないという。「最近では、過酷な天候のために氷に覆われてしまったスポッターがありましたが、数カ月後に氷が解けた途端、自動的にデータの共有が再開されました」と、同氏は振り返る。スポッターが海岸に打ち上げられてしまった場合は、同社が発見者を支援し、必要な場所に戻す。

このデバイスは、手動のデータオフロードやメッシュネットワークではなく(それもオプションの1つだが)、イリジウム衛星ネットワークを介して報告する仕組みになっているが、ヤンセン氏によれば、同社は「Swarm(スウォーム)のような、衛星通信分野に革命をもたらす最新技術にも取り組み始めている」という。TechCrunchでも初期の頃から取材しているSwarmは、低帯域の衛星通信ネットワークで、消費者向けインターネットではなく、IoTタイプのアプリケーションに焦点を当てたものだ。現在、SpaceX(スペースX)が同社の買収を進めている。

海流などの海の状態を表示するSofarのインターフェース(画像クレジット:Sofar Ocean)

今回の3900万ドルを調達した投資ラウンドは、Union Square Ventures(ユニオン・スクエア・ベンチャーズ)とThe Foundry Group(ザ・ファウンドリー・グループ)が主導した。両社はプレスリリースの中で、海運業のような現在の事業においても、気候変動の研究のような将来に向けた仕事においても、より多くのデータが必要であることは明らかだと述べている。

「特にCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)の開催を受けて、気候変動に関する議論がようやく中心的なものになってきました。世界各国の政府が、ハリケーンや暴風雨の増加、海面上昇、サンゴ礁などの生態系の危機に備えて、調整や計画を進めています」と、ヤンセン氏は説明する。「気象パターンの変化、海流や気温の変化、繊細な海洋生態系の変化について、明確な情報を提供できるようにすることは、当社やそのパートナーにとってだけではなく、地球上の1人ひとりにとっても、刻々と迫る時間に間に合わせるために一丸となって取り組む上で、本当に有益なことなのです」。

政府が何かをすべきかと考えている一方で、もちろん、海運会社やサプライチェーン管理会社は、燃料使用量を最小限に抑えて物流全体を改善するためのより良い経路選択を期待し、Sofarのデータに喜んでお金を払う。

「リアルタイムのデータにアクセスできるようになることで、これらの業界全体の不確実性が低減し、より効率的で、より良いビジネス判断ができるようになり、さらに燃料を節約して炭素排出量を削減することができます。つまり、すべて持続可能性や将来に対する備えの向上につながるというわけです」と、ヤンセン氏は述べている。

画像クレジット:Sofar Ocean

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Sofarと米国防高等研究計画局が「7つの海の天気予報」を得る海洋監視機器のオープン標準を策定

海は無数のさまざまな産業にとって重要だ。しかし、海全体がどのような状態にあるのかを常に把握することは、依然として難しい。Sofar Ocean Technologies(ソーファー・オーシャン・テクノロジーズ)とDARPA(米国防衛高等研究計画局)は、新世代の海洋観測フロートなどの機器の開発を促すために「Bristlemouth(ブリストルマウス)」呼ばれる海洋ハードウェアのオープン標準を策定している。これによって研究者は、貴重な助成金を無駄にして同じ工学的問題を一から解決するのではなく、既製の選択肢を利用することができるようになる。

Sofarは自らを「リアルタイム海洋情報プラットフォーム」と呼んでいる。これは7つの海に関する天気予報のようなものだと考えればいいだろう。しかし大気とは違って、海洋は衛星やレーダーによる遠隔観測が容易ではない。海の運動、塩分、汚染物質の濃度、温度などを把握するには、実際に波に揺られている何百あるいは何千もの機器を必要とする。

同社はフロートセンサーによる独自のネットワークを維持し、価値あるデータを作成して、さまざまな関係者に販売することを事業としている一方で、それだけに留まらず、海洋センシング業界全体を発展させたいとも考えている。同社CTOのEvan Shapiro(エヴァン・シャピーロ)氏は、そのための最良の方法の1つとして、ハードウェアとソフトウェアのオープンな規格を作ることを提案している。

海流などの海の状態を表示するSofarのインターフェース(画像クレジット:Sofar Ocean Technologies)

現在、ハードウェアの接続規格が存在しないことは、開発やイノベーションの大きな妨げになっている。「今日では、新しい海洋技術の開発に割り当てられている予算の大部分が、実際の海洋イノベーションではなく、電力、データ、通信の接続性といった基本的な技術的ボトルネックの解決に向けて費やされているのです」と、シャピーロ氏はTechCrunchに語った。

これは、宇宙関連企業がいくつかの標準的なバスや宇宙船を利用するという考え方にまとまり始めた状況と、よく似ている。宇宙塵の観測や大気圏外における放射線量の測定といったことが研究目標であるならば、宇宙船の製造ではなく、それらの機器に時間と資金を費やしたいものだ。人々は「車輪の再発明」をするよりも、標準的な宇宙船を購入してカスタマイズした方がいいと思うに違いないと、Rocket Lab(ロケット・ラボ)のような企業が考えているのとちょうど同じように、海洋関連の研究者は重要な技術に集中したいと思っているはずだと、Sofarは考えた。

「電力システム、衛星テレメトリ、GPS、イルカ探知用ハイドロフォンを搭載したフロートを作りたいと思う人はまずいません。まずイルカ探知用ハイドロフォンを作りたいと思っても、現在のような(ハードウェアの標準化が進んでいない)環境では、残りの部分も結局は一から作らなければなりません。SofarによるBristlemouthの商業的採用とサポートは、このエコシステムの価値に弾みを付けるために不可欠です」と、シャピーロ氏は言いながらも、このような試みは過去にも行われたことがあると指摘した。「我々が初めて、標準化の必要性を認識したわけでも、初めてこの問題に本格的に取り組んだわけでもありません。しかし、大規模な商用プラットフォームを提供したのは当社が初めてです。例えば、USBがバークレーの報告書ではなく、Intel(インテル)、IBM、Microsoft(マイクロソフト)から登場したのには理由があります。我々はこの分野で最も影響力のある企業や団体とパートナーシップを組んでそれを行っています」。

錆びついたドックに置かれているのは「Bristlemouth」規格を実証するための試作機(画像クレジット:Sofar Ocean Technologies)

その中には、DARPAやOffice of Naval Research(米国海軍研究局)、自然保護団体のOceankind(オーシャンカインド)も含まれている。海洋観測から得られるデータが増えることは、科学や産業にとって良いことに違いないというのが、全関係者の共通認識である。

この標準規格そのものについては、民生用技術の観点から見て特にエキサイティングなものではない。これはキットやリファレンスモデルではなく(上の画像はSofarのスマートブイの1つだが、いくつかの共通点がある)、主にモジュール性と相互運用性に焦点を当てたハードウェアとソフトウェアのパッケージだ。「Bristlemouth Basic(ブリストルマウス・ベーシック)」のような製品を購入してアップグレードするというものではなく、この業界の多くの人達が、電源管理や通信など、基本的なステップをカバーする共有規格を設計し、それによって作られた機器が簡単に連携できるようにするという考え方である。詳細な情報は、Bristlemouthの公式サイトに掲載されている。

海洋インテリジェンスは、海藻の養殖から自動操縦船や気候変動監視まで、海に関わるあらゆる産業で重要な役割を果たす。Bristlemouthのようなものが、これらの領域を制限しているデータ不足を緩和することができれば「ブルーエコノミー」はより早く、より安全にもたらされることだろう。

画像クレジット:Sofar Ocean Technologies

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)