華やかじゃない、すぐにお金にならない、でも支えたい——独立系VCを立ち上げた24歳の投資家

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「根が『サブキャラ』なんですよ。高校ではオーケストラをやっていたんですが、担当はコントラバス。華やかじゃないし、目立たない。でも、みんなを支えられるならそれでいいんです」——今月24歳を迎えたばかりの若き独立系ベンチャーキャピタリスト・TLMの木暮圭佑氏は、自分の性格についてこう語る。

23歳でファンドを立ち上げ

TLMの木暮圭佑氏

TLMジェネラルパートナーの木暮圭佑氏

国内で若手の独立系ベンチャーキャピタリストと言えば、ANRIの佐俣アンリ氏やSkyland Venturesの木下慶彦氏などの名前が挙がることが多い。

2人には2014年11月に東京・渋谷で僕らが開催したイベント「TechCrunch Tokyo 2014」に登壇してもらったこともあるのだが、その際に印象的だったのは、「『若手』と言われる自分たちはもう30代前半。もっと若い人がベンチャーキャピタリストとして活躍して欲しい」という話だった。

別に年齢だけにこだわっても仕方ないのだけれども、学生起業家が生まれている中で、同年代の動きを同じ目線でキャッチアップし、支援できる投資家は実のところほとんどいないのは事実。

成功して財産を築いたエンジェル投資家はさておき、ベンチャーキャピタリストは自分のお金を出す以上に他人からお金を集めて預かり、投資をすることになる。そのためにはビジネス知識や実務経験、人脈、そしてなにより「この人にならお金を預けてもいい」と思わせる信頼が必要になるわけだ。

前述の佐俣氏も木下氏も学生の頃から投資家との関わりを持ち、それぞれ事業会社やベンチャーキャピタル(VC)で働く、いわば修行の時期を経て、20代後半でベンチャーキャピタリストとして独立している。必要な要素を考えれば、この年齢でのスタートだって早いほうだと思う。最近ではインキュベイトファンドのFoF(ファンドオブファンズ:ファンドが出資して作る「子ファンド」)としてプライマルキャピタル(佐々木浩史氏)やソラシード・スタートアップス(柴田泰成氏)なども立ち上がっているが、彼らも独立したのは30歳前後だったはずだ。その他にも最近では若手のキャピタリスト、インキュベーターなどが徐々に活躍しはじめていると聞く。

冒頭にあるように木暮氏は24歳になったばかり。僕が知る限りでは、国内で最年少の独立系ベンチャーキャピタリストだ。木暮氏は4月、23歳でベンチャー投資ファンド「TLM1号投資事業有限責任組合」を立ち上げたが、この夏からその投資活動を本格化させる。ファンドのサイズは現在約5000万円とまだ小さいが、年内には1億円規模を目指す。資金を提供するLP(有限責任組合員)の多くはエンジェル投資家。インターネット関連の事業でIPOやM&Aをした人物が中心だという。

きっかけは渋谷のコワーキングオフィス

木暮氏は1浪して早稲田大学国際教養学部に入学。そこで学生向けのビジネスコンテストを主催するサークルに入った。そしてサークル運営の作業場所として借りた東京・渋谷のコワーキングスペース「co-ba」で、paperboy&co.(現GMOペパボ)創業者の家入一真氏や、BASE代表取締役の鶴岡裕太氏といった起業家たちとの交流が始まったのだという。

その後木暮氏は米国に留学。2013年に帰国したのちEast Ventures(EV)のインターンを務めた。「帰国した次の日からEVで働いていました。当時EVは六本木に引っ越して、シェアオフィスを始めたばかり。オフィス管理や雑務からなんでも担当しました」(木暮氏)。仕事に集中するため、大学もいったん休学した。

木暮氏はその後、EVのファンド組成や具体的な投資先支援に関わり始める。女性向けキュレーションメディア「MERY」を運営するペロリや決済サービス「Coiney」を運営するコイニーなどの実務支援をしたそうだ。「投資先でスタートアップの組織の作り方、資金調達をする際の悩み、マネジメントの仕方などを現場で学びました。複数の投資先に関われたので、『この会社は代表主導で事業に対してロジカルな判断をする』『この会社は現場の人間に事業を任せて数字を伸ばす』といった起業家ごとの姿勢を見ることもできたのは大きな経験」(木暮氏)

投資先や社内外の先輩キャピタリストらと関わる中で、ベンチャーキャピタリストとして独立することを考えるようになった。当時は起業という選択肢もあったそうだが冒頭の発言のとおりで、自ら会社を興すのではなく、周囲の起業家を支えたいと考えてVCになる道を選んだ。2014年に入って準備のためにいったんEVを離れ、大学にも復学。具体的な計画を立て始めた。EV投資先の会社から就職の誘いもあったがあくまで外からの「お手伝い」をしていたそうだが、先輩キャピタリストに「本当に独立する気はあるのか?このままでは(社外の支援者として)口だけしか出さない人間になる」と言われ奮起。卒業を前にしてファンドを立ち上げた。

投資対象はシードラウンド、すでに3社に実行

TLMが投資するのは基本的にはシードラウンドで、一部シリーズAのスタートアップを含む。投資額は500万〜1000万円程度だという。

投資領域はウェブサービスが中心で、「テーマは日常生活を豊かにするもの。例えば今まで5時間かかっていたことを5分で解決する、そんなサービスやモノに投資をしたい。『大きな市場』とか『未来を作る』ということはもちろん言っていきたいが、まずはそんな身近なところから始めたい」(木暮氏)

すでにスマホ中古売買サービスの「ヒカカク」運営のジラフなど3社への出資を実行している。いずれもEV時代から面識のある、同年代の起業家だという。今後もファンドサイズを拡大しつつ、積極的な投資をするとしている。

若手独立キャピタリストは食っていけるのか

佐俣氏、木下氏と昨年のイベントで話したテーマの1つでもあるのだが、24歳の木暮氏は、はたしてベンチャーキャピタリストとして食っていけるのだろうか。

何でこんなことを言うのかというと——もちろんVCごとに差異はあるが——独立系ベンチャーキャピタルでは通常、年間でファンド総額の2〜3%程度の管理報酬と、投資先のIPOや売却などで元本を超えた金額の10〜20%程度の成功報酬を得るケースが多いからだ(一方で銀行系VCやコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)などはいわゆるサラリーマン的な給与体系であるケースが多い)。TLMは管理報酬を公開していない。しかし1億円のファンドで管理報酬2%という計算をすれば、投資先のイグジットがない限り、キャピタリストとしての稼ぎは年収200万円となるわけだ。

木暮氏にその点を聞くと「お金が目的であれば、初期のベンチャーキャピタルは難しい」と本音を漏らす。「投資先についてははっきり言って心配してません。そもそも伸びると信じているし、そのための支援もしていく。課題は自分自身。もちろん日銭を稼ぐ必要はあると思っています。ただそれでもチャレンジしたい世界がそこにありました」(木暮氏)。かつてはコンサルティングやイベント運営などで食いつないだという若いキャピタリストの話を聞いたこともあるが、独立系VCには起業家とはまた違う苦労があるわけだ。

ともかく、24歳の若きベンチャーキャピタリストの活動は始まったばかり。実績はこれからだが、まずは投資先のスタートアップ1社1社の支援を続けるという。そしてゆくゆくは海外スタートアップへの投資もやっていきたいのだそう。「上に上に、常に高い山に登り続けるような気持ちが必要。お金を預けてくれる人がいるというのは、そういうことを求められている証なのだと思う」(木暮氏)