フードロスを減らすApeelがシンガポール政府やケイティー・ペリーから約270億円調達

食品廃棄と新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによるグローバルな食品サプライチェーンが圧迫が世界中の大きな関心事になっているが、カリフォルニア州の海辺の街、サンタバーバラの小さなスタートアップが、2億5000万ドル(約270億円)を調達して、その解決法を提供することになった。

Apeel Sciences (アピール・サイエンセズ)というその企業は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成金10万ドル(約1070万円)からスタートし、この8年間で成長を続けてきた。それが、トーク番組司会者であるOprah Winfrey(オプラ・ウィンフリー)氏や歌手のKaty Perry(ケイティー・ペリー)氏といった著名人を始め、シンガポールが所有する投資会社Sovereign Wealth Fund(ソブリン・ウェルス・ファンド)などの大手投資会社の支援を受け、今では10億ドル(約1070億円)規模の世界的企業となった。

こうした投資家や有名人を投資に導いたのは、Apeelが開発した食品を新鮮な状態で長期間、店の棚に陳列できるテクノロジーだ。これにより食品廃棄が減り、(気持ちとして抵抗はあるだろうが)店舗にもっと多くの野菜を仕入れさせることができる。

少なくともそれがこの8年間、Apeel Sciencesの創設者で最高責任者のJames Rogers(ジェームズ・ロジャーズ)氏が主張してきたことだ。これにより同社はトータルでおよそ3億6000万ドル(約390億円)の投資を集め、Upfront Ventures、S2G Ventures、Andreessen Horowitz、Powerplant Venturesといった投資会社を引き寄せてきた。

「(フード)システムの負荷は限界を超えています」とロジャーズ氏。「私たちはApeelの仕事を、フードシステムを築き、地球上のあと20億人ほどの人たちの体重を支えることだと考えています」。

ロジャーズ氏は、Apeelの主要製品となるこのテクノロジーの開発を、カリフォルニア大学サンタバーバラ校で博士号取得を目指していたときに開始している。初めて会社を興すことになる彼にひらめきが降りてきたのは、インターンとして働いていたローレンス・リバーモア研究所からの帰り道だった。

カリフォルニアの穀倉地帯をしばらく車で走っていたロジャーズ氏は、現在の食糧供給ネットワークは食糧生産能力が低いわけではなく、収穫した場所と供給する場所との間で発生する食品の劣化と廃棄に問題があるのではないかと気がついた。

かつて農業生産者は、作物を枯らす病害虫を防ぐための農薬に、保存方法としての使い捨てプラスティック包装や化学薬品処理に依存してきたが、それがまた別の深刻な環境問題の原因になっている。

「もう近道はありません。使い捨てのプラスティックも農薬も、それぞれの役割を終えました」とロジャーズ氏はいう。ロジャーズ氏は、今こそApeelの食糧保存テクノロジーがその役割を担うときだと考える。

ロジャーズ氏によれば、新たにApeelの金庫に入った資金すべて投じて事業の拡大を開始しアフリカ、中央アメリカ、南アメリカの大手農業系企業や生産者と連携するという。「店の棚に52週間、供給を維持するためには、北半球と南半球とで事業を行う必要があります」とロジャーズ氏は話している。

その壮大な目標に比べると、取り扱う生産物はアボカド、アスパラガス、レモン、ライムと限定的だが、同社のうたい文句とロジャーズ氏の展望は、もっとずっと広大だ。「オレンジが知っていることをキュウリに教えてやれば、プラスティックで包まなくてもよくなります」とロジャーズ氏。「その廃棄物を減らすだけで、膨大な経済的価値が世に現れるのです」。

現在のところ、この事業を進めるためには、今まさに出番を待っている経済的価値について小売業者にわかってもらう必要がある。

具体的にはApeelのテクノロジーを試してみようと同意した企業には、すべての野菜が届き、そこから各地に出荷されるサプライチェーンのバックエンドにApeelの処理システムを設置することになるとロジャーズ氏は話す。

Apeelのシステムは、1回運転するだけで10トンの食品を1時間で処理できるという。2020年は、現在までに果物200万個をコーティング処理する予定になっていると同社は話している。

Apeel Sciencesは、すでにアメリカとヨーロッパの食品小売業者で食品処理を行っている。平均してApeelを利用している業者はシュリンクラップの使用量が50%減り、売り上げは5〜10%増加、店内のマーケティングキャンペーンと組み合わせて販売することで、売り上げが2%ずつ増大していると同社はいう。

「食品廃棄は、食糧システムの中の人たち全員に課せられた目に見えない税金です。世界の食品廃棄をなくせば、年間2兆6000億ドル(約280兆円)が浮き生産者、流通業者、小売り業者、消費者そしてこの地球のための、よりよいフードエコシシテムを構築できます」とロジャーズ氏は声明の中で述べている。「私たちはともにこの業界に時間を取り戻し、食糧廃棄危機や食品業界を苦しめる数々の問題に対処して参ります」。

画像クレジット:Valeriya Tikhonova / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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