ロシアYandexがUberとのJVから自動運転事業をスピンアウト、159億円を新会社に投資

自動運転車が実際に普遍的な存在になるまでにはまだ何年もかかる。だが実現したときに最前線に立っているための戦略の一環として、自動運転車の開発や普及に向けた大きな取り組みの1つが今日、重要な一歩を踏み出した。ロシアで検索エンジンとしてスタートした上場ハイテク大手で、米国のGoogle(グーグル)と同じように多くの関連分野に手を拡げたYandex(ヤンデックス)が9月4日、Uber(ウーバー)との合弁事業(JV)で配車サービスと料理宅配を行うMLU BVから自動運転事業をスピンアウトすると発表(Yandexリリース)した。

YandexとUberが昨年MLUのIPOを目論んでいたという報道も(Bloomberg記事)ある中での動きとなった。当時、合弁会社のバリュエーションはおよそ77億ドル(約8160億円)と見られていた。新型コロナウイルスが世界中の配車サービスと料理宅配ビジネスに大きな圧力となり、全般的にIPOが1年前と比べて減少している状況で、MLUのIPO計画がこの数カ月でどう影響を受けたのかは定かではない。

その意味で、同ユニットのスピンアウトはMLUの経済性とコストベースを改善する可能性があるが、Yandexは自動運転への集中投資のためだと述べている。

「Yandexのスピンオフの動機は2つある」と広報担当者は述べた。「ビジネスの観点からは、成長性が高く戦略的に重要なビジネスへの投資を増やすということだ。テクノロジーの観点からは、自動運転技術は実行可能なビジネスとなるべく急速に前進している」

広報担当者はまた、モビリティユニットのIPOは「現在は優先事項ではない。今のところIPOは検討していない。Yandex.Taxi(ヤンデックスタクシー)は、他のYandexビジネスとの相乗効果からさらに多くのものを得ることができると確信している」と付け加えた。

スピンアウトの一環として、Yandexは1億5000万ドル(約159億円)を投資した。同社によると1億ドル(約106億円)の出資と5000万ドル(約53億円)の転換社債が含まれる。同社はこれまでこの事業におよそ6500万ドル(約69億円)を投資したと付け加えた。Yandexは今回のプロセスでUberが保有する株式の一部を買い取り、スピンアウトされる事業の株式の73%を保有する。Uberは19%を保有し、残りの8%はYandex自動運転グループ(SDG)の経営陣と従業員が持つ。

YandexのCEOで共同創業者のArkady Volozh(アルカディ・ボロズ)氏は声明で「当社の事業の戦略的に重要な部分への投資を増やせることを喜んでいる」と語った。「自動運転の分野で、極めて短期間に画期的な成果を達成した。巨大な市場があり、安全で費用対効果の高い交通手段としての自律的モビリティの未来を強く信じている。SDGへの追加投資により自律型モビリティの研究開発と製品化を引き続き追求できる」

自動運転ユニットを担当していたDmitry Polishchuk(ドミトリー・ポリッシュチャック)氏が新しい自動運転グループのCEOに就任する。

Yandexは自動運転ユニットとMLUのいずれのバリュエーションも開示していない。UberがIPOに先立ち、収益性が低く競争が激しい国際事業の一部を売却する戦略の一部(未訳記事)として、2017年に最初のスピンアウトを実施したとき(未訳記事)、MLUの事業全体のバリュエーションは37億2000万ドル(約3940億円)だった。言い換えれば、少なくともいくつかの見積もりに基づけば、それ以来バリュエーションは2倍以上になったということだ。

その間、MLUは特定の地域における拡大のためにいくつか買収を実施(未訳記事)しており、カーシェアリング事業などいくつかの事業を筆頭株主から引き継いだ(Yandexリリース)。なお、現在MLU JVの事業に含まれていない理由は正直わからない。

とにかく自動運転車ユニットは大きく前進した。これには、ロシア、イスラエル、米国における合計約130台の試験車両の開発も含まれる。さまざまな都市や気象条件における自動運転で合計400万マイル(約644万キロメートル)の走行距離を記録した。走行は自動運転会社がAIアルゴリズムに動きを「教える」重要な部分だ。同ユニットはHyundai(ヒュンダイ)との契約(未訳記事)のように、自動車メーカーに技術のライセンスも行っている。

Yandexはまた、2018年に立ち上げた同社のロボタクシーサービスを欧州で最初に展開すると主張している。また、独自の自動宅配ロボットYandex.Rover(ヤンデックスローバー)も開発しており、これも自動運転ユニットが引き継ぐ。

Googleの親会社であるAlphabet(アルファベット)の自動運転部門であるWaymo(ウェイモ)と同様、Yandexの自動運転車ユニットの理論的背景は、Yandexの強力なエンジニアリングチームが開発・展開する知的財産を活用すればコストが抑えられるということだ。

Yandexによると、この契約はスピンオフ後も継続し、会社のインフラやリソースなどへのアクセスは確保される。商業的な成果を得る手段として、開発した技術を、MLUの配車事業と料理宅配事業の中心を形成するYandex.Taxiだけでなく他のeコマースや物流事業にも販売し続ける。

Yandexは上場会社であり、現在の時価総額は約230億ドル(約2兆4000億円)。引き続きYandex SDGの損益を連結し、その収益を「その他の賭けと実験」カテゴリーの一部として報告する予定だ。

画像クレジット:Alexander RyuminTASS / Getty Images

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。