「最近チャットボットやチャットUIに関する話題が多いが、チャットを用いたサービスでもっとも実績のあるスタートアップは我々ではないだろうか」——そう語るのは不動産スタートアップのiettyだ。同社は5月13日、東京大学大学院 情報理工学系研究科電子情報学専攻・山崎研究室(山崎研究室)と共同での研究・サービス開発と、総合人材サービスを手がけるプロスとの資本業務提携を発表した。
iettyが提供するのは、オンライン接客型不動産仲介サービスの「ietty」だ。会員登録をし、希望の部屋の条件を登録すると、チャットを介してiettyから条件にマッチする物件の情報が送られてくる。ユーザーはその物件情報に興味を持ったかどうかを評価し、別の物件情報の提供を求めたり、内見の予約をしたりできる。
2015年10月に資金調達を発表した際、ietty代表取締役の小川泰平氏は「AIを使った物件紹介を試験的に開始している」と話していた。現状ではユーザーが希望する賃料や間取り、最寄り駅などの条件をフックにして物件を提案するようなものだそうだが、これを今回の山崎研究室との取り組みで本格化させる。「年内にも何かしらの結果を発表したい」(小川氏)
iettyでは現在、1日約5万件の物件情報をユーザーに配信しており、その半数にユーザーからの評価が付けられているのだという。ユーザー属性、物件情報、物件の評価情報、これらのデータを掛け合わせて分析することで、ビッグデータからユーザーに最適な物件を提案する仕組みを作れないか、という話だ。「今までの不動産仲介業は、ユーザーの希望条件に合わせて営業マンが『プロの勘』で物件情報を提供してきたが、データをもとにより最適な物件情報を提供できるようにしたい」(小川氏)
この施策の背景には、最近のチャットUI、チャットボットというトレンドへの警戒心があるようだ。もちろん店舗型の不動産仲介業者がいきなりチャット形式でオンライン仲介に参入、という話ではないかも知れないが、FacebookやLINEがプラットフォームを開放すれば、仲介業者は極論誰でもオンライン接客を行うことができるようになる。それに対して先行者としてサービスを展開するiettyでは、AIを使って業務を自動化しつつ、少ないリソースで多くの顧客に対応できる仕組みを作ろうとしている。
またこれに加えて、今回資本業務提携(資金調達については金額非公開だが、業務提携の意味合いが強く、少額だとしている)したプロスから内見対応を行う営業マンを派遣することで、リアルなオペレーション部分のリソースを確保する。不動産業界は繁忙期と閑散期の差が大きい。営業リソースを固定費にするのではなく、人材派遣で変動費化することにより、閑散期のコストを削減する狙いだ。
同社は繁忙期である3月に単月黒字化を達成。ユーザー登録も月間6000〜7000人ペースで増えているという。「2年後にもネットでの不動産仲介が解禁される動きがあるが、まずはそこでナンバーワンになりたい。ただし賃貸不動産は入り口に過ぎない。管理や売買の市場を見ると60兆円の世界。不動産デベロッパー出身なので、その領域でビジネスを描いていきたい」(小川氏)
今後はLINEやFacebookなど各種メッセンジャープラットフォームにもサービスを対応させるほか(LINEについてはLINE@でサービスを試験運用しているが、実はアクセスの4分の1がLINE経由だそう)、大阪や神奈川でのサービスも開始する予定。