商品をECのように簡単に店舗で売れる「SpaceEngine」公開、ブランドとリアル店舗をマッチング

最近TechCrunch JapanでもD2Cブランドを展開するスタートアップを紹介する機会が増えてきた。

グローバルで見るとD2Cスタートアップが乱立するアメリカなどでは、オンラインを主戦場としていたプレイヤーが自社店舗やポップアップストアなどを通じて、オフラインでも顧客との接点を作ろうとする動きが目立つ。

たとえばマットレスのD2CブランドCasperは全米に200箇所以上の常設店舗を構える。

この流れは国内でも同様だ。先日丸井グループから大型の資金調達を実施した「FABRIC TOKYO」やメガネのD2C「Oh My Glasses」などは都内を中心に数カ所で自社店舗を運営。常設店を持つスタートアップはまだ限られるものの、百貨店などで一時的にポップアップストアを開設する例を耳にすることが多くなった。

ただ、D2Cブランドを含めてこれまでオンラインのみで顧客と接していたプレイヤーが、誰でも簡単にオフライン展開をできるかというとそうでもない。自社店舗にしろ、ポップアップストアにしろ、卸にしろ、資金面や人材面でそれなりの障壁がある。

本日5月30日に公開された「SpaceEngine」はそこに新たな選択肢をもたらすプロダクトと言えるだろう。オフラインで商品を売りたいブランドとリアルな拠点を持つ店舗をマッチングし「ECのような感覚で、簡単に店頭で自社商品を販売できる体験」を提供する。

アプリから簡単に店頭で自社商品を販売

SpaceEngineは商品をオフラインで展開したいブランド(サプライヤー)と、その商品を扱いたい店舗を委託販売形式でマッチングするサービスだ。

大まかな流れとしては店舗側がサービス内にあらかじめ登録した店舗情報を基に、サプライヤー側のユーザーが自分たちの商品を売って欲しい店舗を探し、販売を申請。店舗がそのリクエストを受け付けた場合にマッチングが成立する。

サプライヤーは申請時に「売りたい商品」「個数」「期間」を設定しているため、マッチング後は該当する商品を店舗に送れば、それが店頭に並ぶ。商品が実際に売れた場合は35%が店舗の収益、15%がSpaceEngineの利用料となり、残りの50%がブランドの元に入る仕組みだ。

販売代金の50%が持っていかれるというのはブランド的にどうなのか気になるところ。同サービスを運営するスペースエンジン代表取締役の野口寛士氏によると「一部(手数料が)高いという声もあるが、1000件あればそのうちの10〜15件くらい。実際に店舗を構えた際の人件費、什器や内装代なども踏まえると、物を送るだけで手間もかからないので妥当な料金だと納得してもらえているケースが多い」という。

SpaceEngineは2018年12月にβ版をスタート。昨年12月時点で15箇所だった店舗数は約半年で600箇所まで増加し、サプライヤー数も現在は2200を超えた。

サプライヤー側はD2Cブランドを始めこれまでオンラインでのみ商品を扱っていたような企業や、海外ブランドなどが主なユーザー層。「minne」や「BASE」で活動しているようなクリエイターも含まれるが、スモールビジネスを展開する企業の利用が中心だ。

一方で店舗側は商業施設内のショップや大型書店、映画館、カフェ、美容院、クリニックなど幅広い。メガネスーパーや紀伊国屋書店など大型チェーン店の導入事例もあり、メガネスーパーについては全国にある約360店舗全店で採用されたことが本日発表されている。

「ブランドとしてはプレイヤーの増加に伴い、ネット単体ではなくオフラインも含めて顧客との接点を持ちたいというニーズがある。ただ自社店舗もポップアップもいきなり始めるにはハードルが高く、そこに明確なペインがあった」

「店舗としても、1店あたりの売上を上げるために何か今までと違う商品を取り入れたいという考えは常にある。従来はゼロから商品を探す手間に加えて、売れるかわからない状態で在庫を仕入れるリスクがあった。SpaceEngineの場合は魅力的なブランドをお金をかけずに誘致でき、料金も無料。その点に1番価値を感じてもらえている」(野口氏)

農家で作ったお菓子が大阪の英会話スクールで40個売れる事例も

典型的なユースケースとしてはD2Cブランドや海外ブランドがテストマーケティング的な意味も含めて活用するような事例。たとえばスウェーデン発の鞄ブランド「ガストン・ルーガ」はSpaceEngine経由で約70万円の売上を記録したそうだが、台湾や韓国などの海外ブランドが複数利用しているという。

SpaceEngineの場合は複数のエリアで同時に販売することもできるので、反応がいいエリアが見つかれば次のステップとしてポップアップストアや常設店舗を開設するといった使い方もできるだろう。

「(ガストン・ルーガのように)コアなファンを抱えているようなブランドの商品を扱うと、そのファンが店舗に足を運んでくれることもある。店舗側としても新しい層の顧客と接点を持つきっかけになるので、双方にメリットがある」(野口氏)

少し面白い事例だと、大阪の茨木市にある英会話スクールで熊本県の農家が作った生姜のお菓子が2週間で40個完売したそう。実は自分たちが作った商品がものすごくフィットする可能性のある「隠れた売り先」を発見できるのも、SpaceEngineのユニークなポイントかもしれない。

ちなみにこれまでSpaceEngine経由で販売した商品数は1000個を超えるとのこと。ブランドからのリクエスト通過率は約30%で、全ての商品が店頭に並ぶということはもちろんないが、全く承認されないということもないようだ。

誰もがリアルな世界で商品を売れる体験の実現へ

創業者の野口氏にとって、スペースエンジンは2社目の起業だ。

大学在学中の2013年に名刺管理アプリを手がけるコーフェイムを大阪とアメリカで創業。昨年退任後、次のチャレンジとしてスペースエンジンを立ち上げた。同社ではこれまでシナジーマーケティング創業者の谷井等氏らから4200万円の資金調達も実施している。

アメリカで暮らしていた際には1年半近く家や車を所有せずシェアリングサービスを活用していたそう。その際にシェアリングのパワーを感じたこと、当時シリコンバレーを中心にAmazonやECスタートアップがオフラインへの展開を強める状況を目の当たりにしたことが、現在の事業にも繋がっている。

「一部のプレイヤーだけでなく誰もがリアルな世界で商品を売れる体験」をシェアリングとオフラインの組み合わせで実現できるような事業を検討。実際に自社でもポップアップストアを展開するなど仮説検証を進める中で、現在のモデルに落ち着いたという。

スペースエンジンでは今後データを活用して、ブランドと店舗の効果的なマッチングをサポートする仕組みなども開発していく計画だ。

「テナント系はかなりレガシーで重い契約、業界だった。自分たちは『すべてのひとに自由なリテールを』というテーマの下、ネットで商品を販売するのと同じくらい簡単に、誰でもオフラインで商品を売れる体験を広げていきたい」(野口氏)

 

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。