育児サービスマッチングのKinsideが累計約4.4億円を調達

育児は、米国の家庭のもっとも大きな出費項目のひとつになっている。しかもその影響を受けるのは家族だけではない。育児による米国経済の生産性損失額は年間44億ドル(約4800億円)と見積もられ、さらに離職率にも影響を与えている。Kinside(キンサイド)は、育児のための支援を最大限に活用でき、自分たちの子どもに最適なサービス提供者を探すなどの子育て支援プラットフォームで育児に協力したいと考えている。Kinsideは米国時間12月12日、プラットフォームの一般公開と、Initialized Capital(イニシャライズド・キャピタル)主導の新規投資ラウンドによる300万ドル(約3億3000万円)の資金調達を発表した。

これにより、18カ月前に創設されたKinsideが調達した資金の総額は400万ドル(約4億4000万円)となった。Initialized Capitalのほかに参加した投資会社は、Precursor Ventures(プレカーサー・ベンチャーズ)、Kairos(カイロス)、Jane VC(ジェーンVC)、 Escondido Ventures(エスコンディード・ベンチャーズ)となっている。

Shadiah Sigala(シャディア・シガラ)氏、Brittney Barrett(ブリトニー・バレット)氏、 Abe Han(エイブ・ハン)氏によって設立されたKinsideは、昨年夏、Y Combinatorに参加している間に、10人のクライアントによるプライベートなベータテストを開始した。昨年中に入社した人の数が1000人を超えるなど、子育て支援の需要の大きさが伺える。

「雇用主たちとの面談の約束はすぐに取れました」とCEOのシガラ氏はTechCrunchに話してくれた。「『従業員の育児を支援をしたいですか?』と件名に書きさえすれば、すぐに返事がきます。私たちはツボにはまったのです。そして実際に会って話を聞くと、雇用主たちがいちばん頭を痛めているのが、育児を助けてくれる人が見つからず従業員たちが困っている点だとわかったのです」。

写真に向かって左から、Kinsideの共同創設者である、シャディア・シガラ氏、ブリトニー・バレット氏、エイブ・ハン氏

米国は先進国の中で唯一、育児休暇を保障する国の法律を持たない国だ。Microsoft(マイクロソフト)、Netflix(ネットフリックス)、Deloite(デロイト)といった企業には、人材募集や離職予防のために手厚い福利厚生の制度があるが、中小企業の場合、これに匹敵する制度の導入は非常に厳しい。その結果、多くの従業員、特に女性は仕事を続けたいと思っていても育児退職を余儀なくされる。

「より大規模な成長した企業での最悪のパターンは、仕事への復帰が遅れることです。生産性の低下によって、最終損益に大打撃が加えられるからです。しかし、さらに大きな痛手は、女性がいなくなることです」とシガラ氏。「専門職の43&の女性は、子どもを生んでから1年か2年のうちに戦力から離れると報告されています」。

小さい子どもの育児に特化し、最近資金調達に成功したスタートアップにはほかにも、育児サービス提供者を探せるWinnie(ウィニー)、自宅に保育所を開設したい人を支援するWonderschool(ワンダースクール)、ロンドンの育児プラットフォームKoru Kids(コルキッズ)がある。

Kinsideを立ち上げる前、シガラ氏はスモールビジネスやフリーランスのための経営管理プラットフォームであるHoneybookを共同創設している。妊娠を機に同氏は会社の家族向け福利厚生の制度作りを開始し、小さな企業が直面する福利厚生の問題に精通するようになった。

Y Combinatorに参加したときに、育児費用のための扶養家族のフレキシブル支出口座(育児費用などを給与天引きで貯蓄できる福利厚生の一種)や税引前給付金など、請求方法が非常に複雑で、制度をフルに活用できるのはほんの一部の対象家庭のみであることを知り、もっと簡単に利用できるようにする方法の考案に専念した。Kinsideは、今でもフレキシブル支出口座の管理者と協力して、口座を持つ両親の手助けしている。現在Kinsideのアプリでは、自宅で開設されている保育所からもっと大規模な保育園まで、事前に選別された幼い子ども向けの育児サービス提供者の全国ネットワークも利用できるようになった。

Kinsideは、予約した施設との事前交渉や利用者への割り引き料金の提供、育児の専門家からなるコンシェルジュの相談サービスを行っている。親は、地域、料金、育児に対する考え方などを基準にサービス提供者を検索できる。シガラ氏によれば、彼らは多くの育児サービス提供者には20%から30%の空きがあることを知り、空きを埋める管理方法や、そこを利用したい家族の紹介などで協力をしているという。また、このアプリに加えて人材システムとの統合も計画している。

Initialized Capitalは、Reddit(レディット)の創設者でもあるAlexis Ohanian(アレクシス・オハニアン)が共同創設者になっている。彼は、有給育児休暇制度の導入を熱心に訴える人物でもある。この投資会社が力を入れている分野にファミリーテックがある。そのポートフォリオには、仕事に復帰したい母親のための就職情報プラットフォームのMom Project(マム・プロジェクト)も含まれている。

Initialized CapitalのパートナーであるAlda Leu Dennis(アルダ・ルー・デニス)氏は、Kinsideに投資した理由を電子メールでこう教えてくれた。「職場や家庭での不均衡に部分的に起因する男女不平等という根本的な問題があります。男女間の給与の格差や家事労働の問題もあり、いまだに母親に大きな負担がかかっています。男女の格差問題を解決することで、つまり、安価で質の高い育児サービスを提供することで、この状況を改善できると私たちは考えました」。

デニス氏はさらに「そのプロセスに雇用主も加えるというKinsideが提案するビジネスモデルの改革によって、従業員の家庭生活に安心と安定がもたらされ、結果として従業員の生産性も向上します」と話している。

シガラ氏はKinsideを、有給育児休暇、ひいてはすべての働く親のための総合的な子育て支援を含む、利益の公正性を求める運動の一環だと見ている。Kinsideのプラットフォームの利用者は男女比が均等で、子育て支援の需要は男女の垣根を越え、家庭全体に影響を与えていると彼女は強調する。

「複雑な問題です。私たちの生活基盤と社会は、今でも一人の稼ぎ頭が家庭を支える形が基本になっています。しかし、ほとんどの家庭の経済状況は、両方の親が働いてやっと請求書の支払いができる状態です」と彼女は言う。「これは運動だと思っています。今がそのときです」。

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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