自宅ライブ提供のSoFar Soundsが2億7000万円超調達、でも演奏者のギャラは1万円ちょっと

ステージも見えないような騒々しいライブ会場にうんざり?SoFar Sounds(ソーファー・サウンズ)は、自宅のリビングルームでコンサートを開いてくれる。1人15ドルから30ドルを支払えば、静かに床に座って演奏をじっくり聴くことができるのだ。

これまでに2万回を超えるコンサートに、100万人近い人たちが参加している。私は6回ほど聞きに行ったが、まさに至福の一時だった。ただ、あなたが音楽で生計を立てているプロのミュージシャンでなければの話。1ステージ25分の演奏で、SoFarがバンドに支払う出演料はたったの100ドルというケースがあり、メンバー1人あたりの分け前が1時間で8ドル以下なんてこともある。

主催者には何もなし。残りはすべてSoFarの取りぶんとなる。その金額は、1回の演奏会につき1100ドルから1600ドル(約12万円から17万円)。演奏者のギャラの何倍にもあたる。その理由は、それがバンドにとっていい宣伝機会であり、SoFarは利益を出すにはほど遠い小さなスタートアップだったからだと思われている。

米国時間5月21日、SoFar SoundsはこれまでOctopus VenturesとVirgin Groupから受けていた600万ドル(約6億6300万円)の投資に加えて、Battery VenturesとUnion Square Venturesから250万ドル(約2億7600万円)の投資ラウンドを獲得したと発表した。目的は規模を拡張して、旧来型の会場とは違う、駆け出しのアーティストのための活動拠点の事実上の業界標準になることだ。

SoFarは10年前、バンド演奏の最中におしゃべりをするパブの客への不満から生まれた。現在同社は、世界430箇所の都市で月間600回以上のコンサートを開いている。そして、SoFarで演奏した経験を持つアーディスト2万5000人のうち、40人以上がグラミーにノミネートまたは受賞している。このスタートアップは、仕事で忙しい人たちや年配の音楽愛好家のために深夜の暗くて汚いクラブに代わる演奏会の文化を育ててきた。

しかしそれは、長年の問題を固定化することにもつながった。安すぎるミュージシャンのギャラだ。高く売れるCDがストリーミングに取って代わられ、ミュージシャンは生活費を得るためにライブに依存するようになった。SoFarは今、バンドの出演料をガソリン代や食事代よりも低くすることを慣例化しようとしている。しかも、普通の会場に聴きに行ったり、自前で自宅コンサートをお膳立てすることができない人たちがSoFarに群がるようになれば、アーティストの生活はさらに厳しくなる。SoFarの経費が非常に少ないことを考えれば、公平とは思えない。

これに比べたら、Uberは寛大な企業に見える。SoFarで働いていたという人の話では、同社は、ごく少数の正規職員が、会場の手配やアーティストの確保、宣伝を集中して行う態勢を維持しているという。会場の準備を行うのはボランティアで報酬は出ない。会場の持ち主にも何も出ない。だが少なくともSoFarは保険料を支払っている。SoFarは以前、同社のコンサートに初めて出演するアーティストにはギャラは支払わず、その代わりに彼らの演奏を録画した「高画質」な動画を提供していた。100ドルの出演料が支払われるのは、その何倍ものチケット売り上げがあった場合だ。

「SoFarはしかし、ミュージシャンへの支払いというもっとも大切な問題をないがしろにして平気でいるように見えます」とミュージシャンのJoshua McClain氏は書いている。「彼らは、UberやLyftといった企業と同じステージに上りたいのです。抜け目ない仲介技術のスタートアップです。強力なマーケティング力を持ち、消費者と業者(この場合は観客とミュージシャン)との間に遠慮なく割り込んでくる。このモデルで優先されるのは、サービス提供者以外のすべて、つまり、成長、利益、株主、マーケター、利便性、観客です。これらはみな、実際に汗を流すサービス提供者の犠牲の上に成り立っています」と彼は語り、#BoycottSoFarSounds(ボイコットSoFar)への参加を呼びかけていた。

サンフランシスコの放送局KQEDのEmma Silver氏が丹念に取材した記事によれば、多くのバンドがその出演料に失望しており、SoFarが営利目的の企業であることも知らなかったという。「地元アーティストの支援を一生懸命にやっているのだと思っていました。しかし彼らが実際に行っているのは、ミュージシャンの出演料はクソほどで構わないという考えを貫くことです」と、オークランドのシンガーソングライター、Madeline Kenney氏はKQEDに話していた。

SoFarのCEOであるJim Lucchese氏は、以前はSpotifyのクリエーター部門を指揮していたが、自らが立ち上げた音楽データのスタートアップThe Echo NestをSpotifyに売却した後、SoFarで演奏活動を行っていた。彼はこう主張している。「宣伝ができて100ドルの報酬が受け取れるのは極めて公平です」。とはいえ、こう認めている。「今のところ、SoFarの出演は、あらゆるタイプのアーティストにとって有効だとは思っていません」。一部のSoFarのコンサートでは、とくに海外市場で、投げ銭制度をとっているものもあり、「その金の大半」がミュージシャンのものになっていると彼は強調していた。映画『ボヘミアン・ラプソディ』のプレミアなど、外部のスポンサー企業がついた公演では、アーティストのギャラは1500ドルにも上ることがあるが、そんなものはSoFarのコンサートのほんの一部に過ぎない。

それ以外の場合は「ファンを獲得できることが、SoFarの最大の魔法」とLucchese氏は言う。つまり、収入は、グッズやチケットの購入、それにSNSでのフォローを客にお願いするアーティスト自身の努力次第ということだ。会場の保険料、演奏権管理団体、従業員の労力へのSoFarの支出を差し引けば、「売り上げの半分を少し超える額がアーティストに渡っている」と彼は主張する。残念ながらそれは、SoFarの一部の運営経費について、ミュージシャンも考慮しろと言っているように聞こえる。McClain氏は「そもそも、そっちの収益性など知ったことではない」と書いている。

こうして潤沢な資金を得たからには、SoFarはアーティストに対して、その時間と経費に見合う報酬を支払うようになってほしいと願う。幸い、Lucchese氏は今回獲得した資金で行う計画の中に、それが含まれていると話していた。地元の人たちが、多大な需要に応えてコンサートを開催できるよう支援するツールの構築に加え、彼はこう話している。「アーティストのための収入源がこれだけという現状に私が満足しているか?とんでもない。もっとアーティストの側に立った投資を行います」。それには、バンドと観客を結びつけ、金を使ってくれるファンを増やすためのよりよい方法も含まれる。Instagramハンドルや今後のスケジュールを記したフォローアップメールを充実させるだけでも効果があるだろう。

職人気質の人たちは「宣伝」が苦手だ。SoFarのような仲介業者が尻を叩いても、それは変えられない。SoFarは、ライブ音楽を世界の人々に聴かせる手段を握っている。だが、それを実現するには、アーティストを単なる使い捨ての素材としてではなく、パートナーとして扱う必要がある。たとえ、注目を集めたくて必死になっている出し物が後を絶たない状況であってもだ。そうしなければ、ミュージシャンも、その熱烈なファンも、SoFarのリビングルームから消えていなくなってしまう。

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。