アプリをストリーミングしてモバイルコンテンツを利用する未来

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【編集部注】執筆者のWally Nguyenは、mNectarのCEO。

消費者は、映画やテレビ番組、音楽、ビデオゲームなどのコンテンツをストリーミング形式で楽しむのに何の問題も持っていない。実際、Ciscoの予測によれば、2020年までに世界のモバイルデータのトラフィックのうち75%がビデオに関連したものになる。

しかし、モバイル端末上でアプリをストリーミングするという考え方は、好むと好まざるにかかわらず、ほとんど進展していない。2008年にAppleのApp Storeが登場して以降、私たちはあるコンテンツを利用するために、対応したアプリをダウンロードしなければならないという状況に慣れてしまっていた。というより単にそれ以外の方法がないのだ。

しかし、消費者は段々とアプリをダウンロードするのにうんざりし始めている。彼らはコンテンツやサービスを即座に利用したいと考えており、ひとつの機能やサービスしか提供できないアプリをダウンロードするのに3、4分も待ちたくないのだ。例えば、チャットボットの盛り上がりは、App Storeの壁を超えてアプリの機能を使いたいと考える人たちに起因していると見ることができる。また、消費者のフラストレーションを理解したGoogleは、Android Instant Appsを発表し、アプリ全体をダウンロードせず、ある機能を担う一部分だけにアクセスできるようにしようとしている。

Android Instant Appが公言しているように、あるアプリの一部を利用できるだけでなく、もう二度とアプリをダウンロード、アップデート、そして削除する必要がなくなり、リンクをクリックすればすぐにアプリを使ったときと同じ機能にアクセスできるような状況を想像してみてほしい。

アプリのストリーミングというコンセプトは比較的新しいが、ダウンロードという行為が新たな発見やアクセスを阻害しなくなることで、モバイルコンテンツやサービスと私たちの関わり方をすっかり変えてしまう可能性を秘めている。そして、以下がアプリストリーミングの恩恵を受けると思われる5つの業界だ。

ヘルスケア

モバイルヘルスケアアプリで、医療従事者と患者のコミュニケーションを簡素化できるということに疑いの余地はないが、これまでモバイルヘルスケア業界は、患者の個人情報や、セキュリティ、秘密保持などをどう扱うかという難しい問題に悩まされてきた。そして、言うまでもなく患者側の最大の不安は、自分たちの体に関する情報が盗まれてしまうということだ。

アプリの利用について、医者や看護師は、自分たちのスマートフォンが、持ち運びができてしまう患者情報へのアクセスポイントとなることを恐れている。もしも、医療従事者が患者とのコミュニケーションのためにアプリをダウンロードする代わりに、安全でユニークなセッションを通じてアプリをストリーミングし、必要な情報が共有できた段階でセッションが終了できるとしたらどうだろうか? 医者は、自分たちのスマートフォンに患者の情報をダウンロードしたり保存したりしなくてよくなり、患者も、セキュリティやプライバシーを犠牲にすることなく必要なケアを受けられると安心できる。

カスタマーサービス

様々な企業が、自分たちのウェブサイトやアプリ上での顧客経験を解読するのにかなり苦労している。そして、消費者が利用している種々のデバイスがさらにその状況を悪化させているのだ。多くの人員を抱える、専門のカスタマーサービスチームが、たくさんの時間とリソースを割いて、エラーやインターフェイス上の問題の解決にあたっている。その中でも1番大変なのが、問題を再現して、iPhone、Samsung Galaxy、Windows Surfaceなど、ユーザーが利用しているそれぞれの端末上で、問題がどのように表示されるのかを確認することだ。

消費者はアプリをダウンロードするのにうんざりし始めている。

大企業のカスタマーサービスチームは、問題を再現するにあたって、顧客と電話をしながら複数のデバイスを行ったり来たりしなければならない。しかし、アプリストリーミングによって、このカスタマーサービスの悪夢が簡単に解決されるかもしれない。物理デバイス上で問題を再現する代わりに、アプリストリーミングを使うことで、カスタマーサービスの担当者がデバイスの種類を選べば、即座に問題を再現でき、素早く問題の内容把握や解決ができるようになるかもしれないのだ。

旅行

スマートフォンを使って、旅行関連の価格比較サイトを見ながら、航空会社のウェブサイトに進んで、いくつかの旅程を試してみたり、車やホテルなどの予約サイトを見みたりしたことがある人は、モバイル旅行業界にもディスラプションが必要だと感じていることだろう。休暇を計画するのに、既に労働集約的な検索作業を、それぞれのサービス毎に違うアプリを使って行いたいと思う人はいないだろう。そして、私と同じような考えの人であれば、特定のブランドやサービスに愛着をもっていないため、旅行関連アプリをダウンロードしても、大体の場合すぐに削除してしまうだろう

アプリストリーミングを利用すれば、旅行業界につきものの無駄や反復の大部分を削減することができる。例えば、3つの航空券検索アプリをストリーミングして、どのアプリが1番お買い得な情報を掲載しているかチェックするとしよう。どの航空券にするか決めたら、そのリンクから直接航空会社のアプリへ飛べるようになっており、さらには予約しようとした航空券が既にカートに入った状態で、予め保存された個人情報も再度入力する必要がない。アプリストリーミングによって、旅行者はどのアプリが1番良いかではなく、どの商品が1番お得かということに集中することができる。

モバイル決済

昨年起きたVenmoのハッキング被害などの大きなニュースが発表される前から、セキュリティに関する不安が最大の障害となり、消費者はモバイル決済アプリの導入には慎重だった。ちょうど前述のヘルスケア業界の例のように、信頼はモバイル決済アプリと消費者の間に欠かせない要素となっている。しかし、決済の認証情報を頼りにするアプリが無防備な状態でスマートフォン上にあっては、消費者との信頼関係を構築するのは難しい。

誤解しないでほしいのは、モバイル決済における改善点のほとんどは、本人確認や認証技術に関連したものだ。しかし、その域を超えて、もしも私たちの日々の決済情報がアプリ上に記録されず、モバイルショッピングサイトでの支払のように、セキュアなセッションを通じて行われるとすれば、モバイル決済アプリはさらなる進化を遂げることになるだろう。さらに、アプリストリーミングで相互運用性の問題も軽減することが期待されている。私はVenmoを使っているが、友人はWells Frago SurePayを使っていて、公共の駐車場を使うには街が運営するアプリを利用しなければならないとする。そこでアプリストリーミングを利用すれば、新たなアプリをダウンロードすることなく、全ての支払や振込を行うことができるのだ。

小売

私は買い物が好きだし、気に入っているブランドも間違いなくたくさんあるが、複数の小売企業のアプリをダウンロードして管理したいとは思わない。RetailMeNotが昨年行った調査でも同様の結果がでており、スマートフォンでオンラインショッピングを行う消費者の60%が、2つ以下しか特定の小売企業のアプリをインストールしておらず、21%の消費者がそのようなアプリを全く利用していない。

消費者は、買い物やウィンドウショッピングといった一時的な行為に対して、アプリのように常在するものを使いたくないのではないかと私は考えている。つまり、アプリのダウンロードはコミットメントの度合いが高過ぎるのだ。買い物をする人は、スマートフォンの容量をとってしまうアプリをダウンロードしなくていいとなれば、小売企業が提供するモバイル体験に対してもっとオープンになるかもしれない。

また、アプリストリーミングを使えば、クーポンや店内限定の賞品などの特典はそのままで、今日の小売アプリにつきもののめんどくささを省くことができる。そうすることで、異なるお店間をスムーズに移動しながら、全ての小売アプリの特典を獲得することができ、15%の割引のために4、5分待つということもなくなる。

アプリストリーミングの影響は、上記の業界だけに限ったものではないものの、これら5つの業界におけるモバイルアプリ分野での課題を考慮すると、彼らが早い段階からアプリストリーミングの後押しをする存在になると私は考えている。

もっと広い意味で言えば、アプリストリーミングは、7年前にAppleがつくったモバイル体験の仕組み全体に変革をもたらす可能性を持っている。開発者が1人のユーザーを「獲得する」(もしくはアプリをダウンロードさせる)のに、5〜7ドルのコストがかかることもある。しかし、アプリをダウンロード後に一度利用して削除するか、その後二度と使わないといったことが普通に起きている中、ユーザー1人当たりにかかっている5〜7ドルのコストは完全に無駄になってしまっている。

そのため、この状況は長期的には持続することができない。アプリストリーミングが、アプリインストールモデルをこじ開けることで、アプリ内のコンテンツやサービスへモバイルウェブサイトのようにアクセスできるようになるかもしれない。そして、最終的にこの動きが、デジタル経済の中にいる全ての業界の人々のためになることだろう。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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