小売業の未来「会話型コマース」を構築するWizardが正式な立ち上げに先立ち約55.8億円調達

2021年初めにWalmart(ウォールマート)の米国eコマース部門の責任者を退任したMarc Lore(マーク・ローレ)氏は、eコマース分野の新しいスタートアップ企業である「Wizard(ウィザード)」を支援している。ローレ氏は「会話型コマース」分野のB2BスタートアップであるWizardの共同設立者、取締役会会長、投資家としての役割を担っている。Wizardは、将来のモバイルコマースはテキストで行われると信じている。同社の正式な立ち上げに先立ち、米国時間10月6日、同社はNEAのTony Florence(トニー・フローレンス)氏が主導する5000万ドル(約55億7600万円)のシリーズAを発表した。

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このラウンドには、ローレ氏とAccel(アクセル)も参加している。フローレンス氏、ローレ氏、AccelのSameer Gandhi(サミアー・ガンジー)氏は、Wizardの共同創業者兼CEOであるMelissa Bridgeford(メリッサ・ブリッジフォード)氏とともに役員を務めている。

このスタートアップは、興味深い創業ストーリーを持っている。というのも、多くの人が思っているほど新しい企業ではないからだ。

かつてニューヨークで金融のキャリアを捨てたブリッジフォード氏は、オースティンを拠点とするStylust(スタイラスト)を設立・運営し、消費者が買い物をする際のアシスタントを提供することを目的としたテキストベースのショッピングプラットフォームを提供していた。ユーザーは、スクリーンショットや写真をテキストで送信すると、ウェブサイトにアクセスすることなく、テキスト上で購入可能な商品のオススメを受けることができる。Stylustは、AIと画像認識機能を活用して、消費者に購入すべき商品の選択肢を提供した。また、StylustにはB2Bの要素もあり、ブランドに「ワンテキストチェックアウト」の体験を約束している。キャッシュとして残っていた同社のウェブサイトによると、同社は35%のコンバージョン率、もしくはウェブベースの商取引の10倍のパフォーマンスを謳っていた。

WizardはStylustを「買収した」と言っているが、チーム全体(9月に最高責任者として新たに採用された数名を除く)はStylustで働いていた社員で構成されている。買収当時、Wizard は市場に製品を出していなかった。

厳密にいうとまったく新しい会社ではあり、現在はローレ氏のeコマースにおける経験に頼ることができ、一流の投資家の支援を受けることができる。

ブリッジフォード氏は、Wizardを「我々のビジョンをより大きなスケールで構築し、リテールテックの分野で非常に優れたビジョンを持ち、実績のある創業者であり、実績のある経営者であるマーク氏とパートナーを組むことができる」機会だと表現している。

「会話型コマースが小売業の未来であるというビジョンを、私たちは共有しています」とブリッジフォード氏は付け加えている。

しかし、同社はまだ製品の詳細については語っていない。その代わり、このB2Bサービスについて、ブランドや小売業者が消費者とテキストで取引できるようにするものだと説明している。このサービスは、加入から検索、支払い、配送、さらには再注文までカバーした、モバイルでの「エンド・ツー・エンドのショッピング体験」と位置づけられている。

これらのテキストベースのチャットは、これまでのメッセージングアプリのチャットボットとの煩わしいやりとりとは違うと、ブリッジフォード氏は主張している。

「私たちは、自動化と人間味の組み合わせによって、最適なユーザー体験を提供すると同時に、バックエンドには拡張性のある強力なテクノロジーを構築することができました。それこそが『聖杯』なのです」と彼女は説明している。「これこそが、会話型コマースの未来像なのです。私たちは、チャット機能や自然言語処理を組み込んでいます。これらの技術はどれも急速に進歩しているものです」。

言い換えれば、1、2年前にチャットボットで経験したイライラするような体験は、今日の体験ではないかもしれないということだ。

「このテクノロジーの最終目標は、実際にはテクノロジーによって実現されているにもかかわらず、人間と話しているように感じさせることです」とブリッジフォード氏は付け加えた。

Stylustは、今回の買収により、Wizardとのブランド提携をもたらした。

以前の Stylust のウェブサイトには、Laughing Glass Cocktails(ラフィング・グラス・カクテル)Desolas Mezcal(デソラス・メスカル)Pinhook Bourbon(ピンフック・バーボン)Marsh House Rum(マーシュ・ハウス・ラム)Neft Vodkas (ネフト・ウォッカ)などの顧客情報が掲載されていた。また、Austin Biz Journalの特集では、ワインやスピリッツの小売に力を入れていることが紹介されていた。しかし、Florida Funders(フロリダ・ファンダーズ)が2020年にStylustを支援するという記事では、Neiman Marcus(ニーマン・マーカス)、Walmart、Sephora(セフォラ)、Allbirds(オールバーズ)などの一流小売店との関係が記されていた。

Wizardとどことの関係が継続されるのか、また、アルコールブランドや他の小売業者に焦点を当てていくのかは、同社が資金調達以降の事業に関する詳細について言及を避けているため、不明だ。

同社は、今回の資金をAI、機械学習、自然言語処理などの分野や、営業、財務、業務などの非技術系の職務における採用に充てる予定だ。その中でも特に注目しているのが、チーフピープルオフィサー(最高人事責任者)の採用だ。現在のチームは、ニューヨークとオースティンにあるオフィスで働いているが、Wizardはリモートの技術チームのポジションの空きを埋めるために全国で採用活動を行っているとのことだ。

Wizardには、特にテキストマーケティングの分野で、同社のビジネスの特定の側面に対応するサービスを提供する競合他社がすでに存在する。しかし、もっと広く言えば、消費者がメッセージを介してブランドと交流する方法は他にもあり、それらが時間の経過とともにより完全な形の製品へと進化する可能性もある。現在、消費者はFacebook(フェイスブック)やInstagram(インスタグラム)などのソーシャルメディアで商品を見つけ、商品に関する質問をMessengerやダイレクトメッセージで行うことが多い。WhatsApp(ワッツアップ)は、消費者がアプリ内で直接製品やサービスを発見できるよう、企業向けの製品カタログを構築している。Apple(アップル)もBusiness Chatでこの市場に参入し、すでにiMessageのチャットで購入できるようになっている。

Wizardは、専用のメッセージングアプリや、例えばiMessageを搭載したiPhoneを必要とせず、SMSに注力することで、競合他社との差別化を図ることができる。しかし、テキストベースのスパム詐欺増加しているSMSに賭けることは、よりリスクの高い賭けでもある。しかし、ローレ氏はそれをいとわない。

「これまでのキャリアのほとんどをeコマースで過ごしてきた私にとって、会話型コマースが小売業の未来であることは明らかでした」とローレ氏はいう。「ディープラーニングが普及していく中で、極度にパーソナライズされた会話型のショッピング体験を実現する能力は、人々の買い物の仕方を変えていくでしょう。メリッサ氏とWizardのチームが構築しているものは、その変革をリードするものだと確信しています」と述べている。

画像クレジット:racorn Shutterstock

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(文:Sarah Perez、翻訳:Akihito Mizukoshi)

MessengerやWhatsAppに「会話型コマース」を導入するCharlesが8.3億円のシード資金を調達

WhatsApp(ワッツアップ)などのチャットアプリで製品を販売したい企業向けに「会話型コマース」のSaaSを提供するベルリンのスタートアップCharlesが640万ユーロ(約8億3000万円)の資金を調達した。

AccelとHV Capitalが主導した今回のシード資金は、同社の会話型コマースプラットフォームの規模拡大と既存の需要に対応するために使用される。

共同創業者のArtjem Weissbeck(アートジェム・ヴァイスベック)氏とAndreas Tussing(アンドレアス・タッシング)氏がWhatsApp内でストアを運営する実験を1年間行った後、2020年に立ち上げたCharlesは、企業がWhatsAppやその他のチャットアプリで商品やサービスを販売するのを可能にし、「コンバージョン率、顧客ロイヤルティそして最終的には収益を向上させる」ことを目的としている。

このSaaSは、WhatsAppやMessenger(メッセンジャー)などのチャットアプリのAPIと、Shopify(ショッピファイ)、SAP、HubSpot(ハブスポット)などのショップ / CRMシステムを接続し、ユーザーフレンドリーなインターフェイスで提供するものだ。これにより企業は、潜在顧客がすでに利用しているチャネルで顧客とより容易に出会うことができ、販売に関する問い合わせやサポートと、実際のコンバージョンとの間のギャップを埋めることができる。

「『トラフィック』とそれにともなう『コンバージョン』は、ストリート(小売店舗)やブラウザ / ネイティブアプリからチャットアプリへと急激に移行していくでしょう」とヴァイスベック氏は語る。「会話型コマースはコマースの第3の柱となり、すべてのチャネルを結びつけ、電話番号で顧客を識別することで、パーソナライゼーションの可能性を最大限に引き出すことができるようになるでしょう」。

この移行は、カスタマージャーニーの設計や、(アジアは別として)これまでのウェブショップや電子メールを中心とした技術スタックの観点から、企業に「大きなチャレンジとチャンス」をもたらすと同氏は主張する。

「究極的に当社の技術は、企業がこのチャレンジを克服するためのOSを提供します」とタッシング氏は付け加えた。「当社のソフトウェアのコアは、チャットアプリとショップ / CRMバックエンドを直感的なインターフェースで統合し、人間のチャット販売エージェントを中心に据えて、チャットボットとAIでサポートします」。

AccelのパートナーであるLuca Bocchio(ルカ・ボッキオ)氏は、会話型コマースが「ブランドにとって重要なチャネル」として台頭してきており、ブランドが顧客と接する方法を再構築するトレンドであると述べている。「これは、カテゴリーを定義する新たなツールが登場する可能性を示唆しています」と同氏は語り、Charlesがそのようなツールの1つになる可能性を秘めていると指摘した。

直接の競合相手を尋ねるとヴァイスベック氏は、「潜在的な顧客と話をすると、追加チャネルとしてチャットアプリを取り入れ始めているZendesk(ゼンデスク)のような既存のカスタマーサービスツールを使っていることがほとんどです」と答えた。「これらのツールは通常、『チケット発行(ticketing)』ロジックに基づいて構築されており、顧客からの問い合わせ(チケット)を可能な限り迅速に解決するよう最適化されていて、セールスにフォーカスしたものではありません」。

これに対し、Charlesは「フィード(feed)」ロジックで構築されており、顧客との対話を継続的な会話やエンド・ツー・エンドの関係として、顧客が見ているのと同じように表示することができるという。

「さらに、ショップ / CRMバックエンドと深く統合し、エージェントが商品を販売したり、カートや契約書を作成することを容易にしています。これらはすべて、非常にデザイン性に優れた直感的なインターフェースで、エージェントが楽しく使え、中心にいるようにしています」とタッシング氏はいう。「(エージェントは)チャットボットにサポートされていますが、置き換えられてはいません」。

一方、収益モデルはシンプルなものだ。企業はCharlesの固定費をカバーするために月額の基本料金を支払い、その上にコンバージョンが発生した場合に同社は収益を得る。「当社は売上高のわずかなシェアを受け取ることで、共同のインセンティブがあるように保証しています」とヴァイスベック氏は説明してくれた。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Charles資金調達ベルリン会話型コマース

画像クレジット:Charles

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(文:Steve O’Hear、翻訳:Aya Nakazato)