Web3はどうやら一時的な流行ではないようだ。その証として、米国時間2月8日にブロックチェーンインフラストラクチャースタートアップAlchemy(アルケミー)が2億ドル(約232億円)のシリーズC1資金調達ラウンドをクローズした。これで同社の企業価値は110億2000万ドル(約1兆2760億円)となった。
ご存知ない方のために簡単に説明しておくと、Web3とは、ブロックチェーンを基盤とする分散型ウェブのことだ。簡単にいうと、AlchemyはAWS(Amazon Web Services)がインターネット上で実現したことを、ブロックチェーンとWeb3上で実現しようとしている。
この巨額の資金調達で驚くべきことは、Alchemyが比較的短期間で企業価値を上げることに成功した点だ。2021年10月、2億5000万ドル(約290億円)のシリーズCラウンドをクローズした時点で、同社の評価額は35億ドル(約4060億円)だった。2021年4月下旬、8000万ドル(約92億円)のシリーズBラウンドをクローズした時点の評価額は5億500万ドル(約580億円)だった。つまり、Alchemyの評価額は2021年10月から約3倍、2021年4月(9カ月ほど前)からは何と19.8倍にも跳ね上がっている。これを月当たりの上昇額に換算すると約11億ドル(約116億円)となる。この会社を5年前にアパートから始めた2人の若者にとって悪くない額だ。
Alchemyの既存投資家であるLightspeed Venture Partners(ライトスピードベンチャーパートナーズ)と新規投資家で未公開株式投資会社のSilver Lake(シルバーレイク)が今回のラウンドを共同で主導した。これでAlchemyの2017年創業時点からの総調達額は5億4550万ドル(約580億円)に達する。注目すべきは、Andreessen Horowitz(a16z、アンドリーセン・ホロウィッツ)、Coatue Management(コーチュー・マネジメント)、DFJ、Pantera(パンテラ)、Lee Fixel’s Addition(リーフィクセルズアディション)といった以前の投資家たちも全員、今回の投資ラウンドに参加した点だ。
Alchemyの目標は、ブロックチェーン上または主流のブロックチェーンアプリケーション上に製品を構築しようとしている開発者向けに開始点を用意することだ。Alchemyの開発者用プラットフォームは、インフラストラクチャを構築するための複雑な作業やコストを排除し「必須の」開発者用ツールを用いてアプリケーションを改善することを目的としている。Alchemyは2020年8月にサービスの提供を開始した。
それ以来、高収益企業Alchemyは自社のプラットフォーム上で急成長を遂げた。Alchemyの内部事情に詳しい筋によると、同社のユーザーベースは、今回のラウンドをクローズした時点を基準としても約50%拡大しているという。
「基本的に、暗号資産の領域で急成長している重要な企業はほとんど、Alchemyを導入しています。ですから、同社に投資するのは暗号資産領域全体の指数銘柄を買うようなものです」と同筋の1人はいう。「Alchemyは暗号資産業界全体を支えているのです」。
Alchemyは正確な総売上を公開していないが、同社のプラットフォーム上に構築されたチームの数は10月の資金調達ラウンド終了後から3倍以上に増えていると回答している。また、Alchemyプラットフォーム上で実行されたオンチェーントランザクションは年換算で1050億ドル(約12兆円)になるとしており、10月時点で公表された450億ドル(約5兆2000億円)の2倍以上に相当する。その一方で、同社は「無駄のないスリムな」経営を維持している。2021年の始めの時点で、同社の社員数は13人だった。現在でも50人に満たない。社員1人あたりの評価額は歴史的に見ても最大の部類に入るだろう、と共同創業者兼CEOのNikil Viswanathan(ニキル・ヴィスワナータン)氏は確信している。
暗号資産業界はこの1年、さまざまな浮き沈みを経験した。Alchemyは、そうした暗号資産業界における不安定な時代の最中に急成長を達成した。
「ターゲットとする市場が激しく変動していても、依然として成長を続けているときは、何か特別なことを見出したということだと思います。そして、それこそまさにAlchemyで起こっていることです」とライトスピードのパートナーAmy Wu(アミー・ウー)氏はいう。「当社に匹敵するような急成長を遂げた例は過去にもありません。ですが、Microsoft(マイクロソフト)のような永続的な企業の成長の軌跡を見れば、Alchemyが今度どの程度成長するのかもわかると思います」。
Alchemyの急成長は、Web3エコシステム全体が急成長していることの証だと言ってもよいだろう。
過去12カ月間だけでも、Alchemy上に構築されたNFTマーケットプレイスでアーティストに支払われたロイヤルティの額は15億ドル(約1740億円)を超えており、そのうち10億ドル(約1160億円)は過去3カ月だけの合計だという。
ヴィスワナータン氏によると、Alchemyは前回調達した資金にはほとんど手を付けていないという。だが、Web3がこのように急速に進化している状況では、それに応じて成長するために必要なランウェイを確保する必要がある。
「Web3はまだ初期段階です。dot.com時代には、生まれたばかりのベビーインターネットについてさまざまな期待や興奮がありました。今、我々は本物のインターネットを手にしています。Web3はまだベビーフェーズです」とAlchemyのCTO兼共同創業者Joe Lau(ジョー・ラウ)氏は語った。
「コンピューターを見れば分かるとおり、インターネットがコンピューターに取って代わることはありませんでした」と同氏は付け加える。「インターネットはただそれまで不可能だった機能を追加しただけです。Web3はWeb2に取って代わるものではなく、Web2の機能とエクスペリエンスを拡張するものです」。
これだけの利益を上げ急速に成長しているにもかかわらず、Alchemyは数億ドル規模の資金調達を続けている。これは基本的に、Web3の急速かつ広範な利用と成長に追随するためだ、と2人の創業者はいう。
「当社は企業やスタートアップの成長を支援できる最適なポジションに位置していたいと考えています」とラウ氏はいう。「2021年は、Alchemy上でサービスを開始したチームが10億ドル(約1160億円)企業になり、世界中の何百万人というユーザーたちをサポートするのを目の当たりにしてきました。当社はまだスタートを切ったばかりですが、今後も顧客の支援とサポートを続けられるようにしたいと思っています」。
ツイッター上ではWeb3とWeb2.0についてさまざまな議論が繰り広げられているが、ヴィスワナータン氏とラウ氏は両者間にそれほどの敵対関係があるとは思っていない。
「どのようなテクノロジーでも初期段階では、誰もがそのテクノロジーを理解し把握しようとします。90年代半ばのインターネットを見て人々は『遅すぎる。電子メールを使う理由などない』と言っていました」とラウ氏はいう。「しかし、実際にはテクノロジーが向上し今では誰もが当たり前のように使っています。ですから我々は、今から10年後、15年後にどのようになっているのかを考えるようにしています」。
確かに今、何千という新しいWeb3組織が立ち上げられ短期間でスケールしている。だがその一方で、数百の確立されたWeb 2.0企業がその戦略を転換して、Alchemyを導入してWeb3を取り込もうとしている。さらには数万のデベロッパーたちがブロックチェーンを使った新しいツールやサービスを構築している。
「今、AlchemyはデベロッパーがWeb3上で開発を行うための事実上の標準プラットフォームになっています」とヴィスワナータン氏はいう。「我々は本当にワクワクしています。2022年、状況は加速度的に変化して、Web3はマニアが使う周辺テクノロジーではなくなり、誰もがWeb3で実現された製品を無意識に使うようになると確信しているからです」。
Alchemyは、OpenSea(オープンシー)、Adobe(アドビ)Dapper Labs(ダッパーラボ)、Crypto Punks(クリプトパンクス)を始め多数の大手企業で基盤テクノロジーとして導入されている。Alchemyでは、コンピュートユニットに対して課金する。つまり、顧客は使用しているコンピュートユニットの数に応じてAlchemyに料金を支払う。
「当社はWeb3は誰もが利用できなければならないと考えています。それには、ブロックチェーンテクノロジーを介してアイデアを実現する信じられないほど創造的なデベロッパーたちを支援するのが一番です」とラウ氏はいう。
シルバーレイクの共同創業者Egon Durban(エゴン・ダーバン)氏は「Web3はインターネット上で大きな革命をもたらす」と確信しているとTechCrunchにメールで回答してきた。
「この市場がもたらすビジネスチャンスは巨大です。Alchemyはテクノロジーの歴史上、最速で成長している企業の1つとして、この変革を推進し民主化するインフラストラクチャを構築し、AWSがインターネットで実現したことをWeb3開発の現場でも実現することでWeb3のパワーをすべての人にもたらそうとしています」とダーバン氏は付け加えた。
この3カ月間で、Alchemyは、Web3開発スキルの習得を目指す人のためのオープンな教育リソースであるWeb3 Universityの立ち上げも主導した。また「初期のWeb3ビジネスの加速度的な成長を支援する」という目的でAlchemy Ventures(Alchemyベンチャー)も創設した。現時点で、このベンチャーファンドに1000万ドル(約11億6000万円)を配分しており、この額は今後増える見通しだ。これまでにも、Royal(ロイヤル)、暗号資産取引所FTX(最近の評価額は320億ドル(約3兆7000億円))、Genies(ジーニーズ)、Matter Labs(マター・ラボ)、Arbitrum(アービトラム)など、このファンドから何件か投資を行っている。これらの企業の一部はAlchemyの顧客でもある。
「2021年はデベロッパーがWeb3を主流テクノロジーに昇格させ、数百万人に変革をもたらすビジネスが生まれた年でした」とヴィスワナータン氏はいう。「2022年は、さまざまな場所でデベロッパーのニーズを満たすために、Web3への取り組みを強化し、Web3の潜在能力が簡単に解き放たれるようにしたいと考えています」。
Alchemyは新たに調達した資金で社員数を増やし、年末までに200人ほどの規模にする予定だ。同社はこれまで、高い実績を持つ人材を採用することに重点を置いてきた。例えば10月時点の同社の社員27人のうち、22人は自身でも起業した経験のある人たちで「複数の社員が数百人規模の会社を経営した経験がある」という。
暗号資産企業に基盤テクノロジーを提供するために最近資金を調達した企業はAlchemyだけではない。1月には、暗号インフラストラクチャ企業Fireblocks(ファイアブロックス)が、6カ月でその評価額を約4倍の80億ドル(約9285億円)にまで高めている。また、2021年12月には、Coinbase Ventures(コインベース・ベンチャーズ)がチェーン横断インフラプロバイダーRouter Protocol(ルート・プロトコル)の410万ドル(約4億7000万円)のラウンドを実施している。
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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)