持続可能な方法でなければ軌道上のゴミは宇宙のゴールドラッシュの妨げになる

空を見上げれば、何百もの廃棄された衛星、使用済みロケットの上段部、ミッション関連の物体が地球を回り、1兆ドル(約115兆円)規模の宇宙経済を支えるであろう宇宙をベースとするサービスや将来のミッションに危険を及ぼしていることがわかる。

欧州宇宙機関(ESA)によると、現在、10cm以上の物体が3万6500個以上、1cm未満の物体が数百万個、地球を周回しているという。当然ながら、軌道上での衝突は壊滅的な被害をもたらす。弾丸よりも速い毎秒7kmの速さで移動するデブリは、1cmの破片でも宇宙船に大きな損傷を与え、ミッション全体を終了させる可能性があるのだ。

今日の宇宙における持続可能性の危機は、60年にわたる探査と利用が、宇宙活動が環境に与える影響をほとんど無視し、人工衛星やその他の宇宙資産を単一用途のものとして扱ってきた結果である。

このようなアプローチの結果、持続不可能なモデルが生まれ、コストが増大し、宇宙経済の壮大な将来性が危険にさらされることになったのである。地球低軌道はすでに人口が多いため、衛星オペレーターは交差を評価し、貴重な資源を消費したり、サービスに支障をきたしうるデブリ回避機動を行うことを余儀なくされている。

誰が責任を取るのか?

技術的な対策だけでは、宇宙の持続可能性の問題を解決することはできない。軌道上の衛星整備市場は、国の宇宙政策と衛星整備を直接支援する国際標準によって推進されなければならない。国の規制政策は、技術の進歩、衛星人口の増加、軌道上での新しい活動の展開に追いつくのに苦労している。

1967年の宇宙条約や2019年の宇宙活動の長期的持続可能性のためのガイドラインなど、多国間の国連規定は大枠でのガイダンスを提供しているが、具体的なライセンス実務は個々の国の規制機関によって作成・実施されなければならないのだ。

これらのガイドラインや大枠での協定を国際的に協調して実施するためのテンプレートはなく、世界の宇宙活動は単一の国や国際機関の管理下にはない。したがって、世界の宇宙活動を統制する共通の規則も、宇宙ミッションの終了時にハードウェアの適切な廃棄を保証するメカニズムも存在しない。また、軌道上にすでに蓄積された何十年ものスペースデブリを一掃するための協調的な努力も存在しない。

しかし、意識は変わりつつあり、過去1年間で、この問題をめぐる緊急性に大きな変化が見られ始めている。2021年6月、G7加盟国は、軌道上デブリを宇宙分野が直面する最大の課題の1つとして確認し、宇宙の安全かつ持続可能な利用にコミットすることを約束する声明を発表した。

この声明は、宇宙の持続可能性に関する問題の範囲を認識する貴重なものである一方で、正しい方向への一歩に過ぎない。各国政府から民間の商業企業に至るまで、国際社会全体の主要なプレイヤーは、宇宙交通と環境管理の開発および調整に着手しなければならないのだ。

軌道上サービス、持続可能な未来への鍵

これまで衛星オペレーターは、軌道上にある衛星のリスクを低減するための選択肢を持っていなかった。しかし、軌道上でのサービスは、このリスクシナリオを変えつつある。D-Orbit(ディー・オービット)、Astroscale(アストロスケール)、ClearSpace(クリア・スペース)は、宇宙分野を持続可能な時代に移行させるために力を合わせ、軌道上サービスを新たな現実のものにしようとしている。

軌道上サービスは、地球上の路上での自動車サービスに匹敵する。燃料タンクが空になったり、バッテリーの充電が切れたからといって、高速道路の真ん中に車を乗り捨てる人はいないだろう。しかし、宇宙時代の幕開け以来、ほとんどの衛星オペレーターがまさにこの方法で仕事をしてきたため、この比喩的な「軌道上の高速道路」はより混雑したままになっているのだ。

米国連邦通信委員会や国際電気通信連合に提出された申請書によると、地球低軌道にある衛星の数は2030年までに1万から4万個まで増加すると予測されており、最近では30万個を超える衛星の単一システムが提案された。このような増加により、深刻な問題を指数関数的に悪化させることが約束されている。

静止衛星の配備には、通常1億5千万ドル(約173億円)から5億ドル(約578億円)の費用がかかる。今後15年間で、100機以上の静止衛星が予定されている引退年齢に達するため、衛星運用会社は、単に交換するのではなく、その資産の価値を延ばすための選択肢を追求する必要に迫られている。衛星の寿命を延ばすことで、商業運営者や機関運営者は、資本の使い方をより慎重に考えることができるようになる。

衛星オペレーター、特に大規模な衛星郡を構築しているオペレーターは、打ち上げ前に低コストのインターフェースを衛星にインストールし、将来必要となるかもしれないサービスのコストと複雑さを軽減することができる。衛星が故障したり寿命がきたりした場合、レッカー車が道路で故障した車を運ぶように、サービス衛星がその衛星を撤去することで、軌道を確保し、同じ衛星群に属する他の衛星との衝突のリスクを低減することができるのだ。

また、衛星の撤去から軌道上での点検まで行うことで、衛星に異常が発生した場合、オペレーターは衛星の状態をより詳細に把握することができるようになる。軌道上リロケーションサービスを利用すれば、衛星の初期配置から運用軌道への投入、自然減衰を補うための調整、カバレッジの問題を解決するための衛星の再配置、不具合を補うための衛星の再配置を、燃料費をかけずに実施することができるのだ。

1950 年代の宇宙開発競争のように、研究開発に多額の投資を必要とする長期計画と同様に、持続可能な軌道インフラストラクチャーを飛躍的に発展させるためには、国家政府の役割が不可欠である。欧州宇宙機関や宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、ClearSpaceやAstroscaleなどの民間企業と共同で、地球低軌道でのデブリ除去ミッションに資金を提供し、積極的にデブリ除去サービスを開始する予定である。

この地球規模の問題を解決するためには、官民の多大な投資と業界のシステム改革が必要だが、その潜在的な報酬は事実上無限大だ。宇宙経済、つまり新しい、制限のない競技場は、私たちの惑星の生命に影響を与え、私たちの太陽系とその向こう側に新しいフロンティアを開く可能性を持っているのだ。

編集部注:本稿の執筆者Luca Rossettini(ルカ・ロッセッティーニ)氏はD-Orbitの創設者兼CEO。Nobu Okada(岡田光信)氏はAstroscaleの創業者兼CEO。Luc Piguet(リュックピゲ)氏はClearSpaceの共同設立者兼CEO。

画像クレジット:janiecbros / Getty Images

原文へ

(文:Luca Rossettini、Nobu Okada、Luc Piguet、翻訳:Akihito Mizukoshi)

JAXA認定宇宙ベンチャー天地人、EC・欧州宇宙機関主催の衛星データ国際コンテストにおいて農業関連部門で優勝

JAXAが認定する宇宙ベンチャー天地人は、EC(欧州委員会)とESA(欧州宇宙機関)が主催するビジネスアイデアのコンテスト「Copernicus Masters」のうち、ドイツの農業団体BayWa(バイバ)とともに実施した「BayWa Smart Farming Challenge 2021」において、アジアのスタートアップで初めて優勝を飾った。

Copernicus Mastersの主催者であるCopernicus(コペルニクス)は、ESAが中心となって実施されている地球観測プログラム。Copernicus Mastersには9つの部門があり、BayWa Smart Farming Challenge 2021はそのひとつ。それぞれの優勝者の中から総合賞「コペルニクス・マスターズ」が選出される。

BayWaの課題は、牧草管理、農業および園芸における初期の作物病害の推定、園芸における収量予測の3つ。これに対して天地人は、「衛星データとAIを使って土地の利用を最適化するソリューション」を提案した。審査では、革新性、衛星データ活用サービスを実際に使用するエンドユーザーにとっての付加価値の有無、技術的な実現可能性、市場での実行可能性が評価された。

優勝した天地人には、特典としてBayWaとの協働の機会が与えられたほか、Copernicus Masters総合賞のファイナリストとしての権利が与えられた。総合賞の特典は、ESAのビジネス育成センターからの支援や、協賛企業からのビジネスサポート。さらに賞金と衛星データが贈られることになっている。

天地人は、今回の機会を活用してソリューション開発とグローバルでの販売の強化を目指し、気候変動に対応した農業や土地の特徴にあった農業の実践、CO2排出量削減に向けての取り組みなどを後押しするという。

リッジアイが衛星画像により軽石の漂着状況がわかるウェブアプリ公開、被害の把握や本土への漂着予測に活用

AI・ディープラーニング技術のコンサルティングと開発を手がけるリッジアイが7.8億円を調達
「軽石ビューア」を使って確認した軽石の漂流状況(Sentinel-2 ©ESA)

「軽石ビューア」を使って確認した軽石の漂流状況(Sentinel-2 ©ESA)

衛星データとAIを駆使した開発・コンサルティングなどを行うRidge-i(リッジアイ)は11月5日、小笠原諸島の海底火山「福徳岡ノ場」の噴火で発生した軽石の漂着状況が衛星画像でわかるウェブアプリ「軽石ビューア」を公開した。

このアプリでは、中央のバーを左右にドラッグすることで、異なる日付の衛星写真を比較できる。比較したい画像の2つの観測日はそれぞれ指定が可能(観測データのない日もある)。地図はドラッグによる移動やズームが行える。海岸沿いの海上に薄茶色に見えるのが軽石だ。衛星画像は、欧州宇宙機関(ESA)のSentinel-2のものを利用している。

今後は、関東への漂着にも備え、関東地方に特化した「軽石ビューア」も公開予定のとのこと。

 

英国宇宙庁が不要な衛星2機の除去プログラムに日本の宇宙スタートアップ「アストロスケール」を選定

スペースデブリ(宇宙ごみ)除去などの軌道上サービスに取り組むアストロスケールホールディングスは10月26日、英国の宇宙庁UKSAの低軌道上の非協力物体(運動制御が不能になったドッキング機能を持たない衛星)2基の除去を検討するプログラム「COSMIC」(コズミック)に選定されたことを発表した。これは、ドバイで開催されている国際宇宙会議においてUKSAが行った発表を受けてのこと。

アストロスケールは2020年8月25日、軌道上での模擬デブリ(クライアント)の捕獲に成功している。この際使用された、民間企業としては世界初のデブリ除去技術実験衛星「ELSA-d」(エルサディー)のミッションで培われた技術がCOSMICで活かされる。ELSA-dは、本体である捕獲機(サービサー)と模擬デブリとをともに宇宙に打ち上げ、捕獲実験を行った。デブリは磁石でサービサーとドッキングする仕組みになっている。現在、ELSA-dは、サービサーの自律制御機能による「非回転状態のクライアントの捕獲」や「回転状態のクライアントの捕獲」の実証実験の準備が進められている。

これと並行して、欧州宇宙機関(ESA)の通信システム先端研究「Sunrise」(サンライズ)プログラムにおいて、複数のクライアントを捕獲し除去できるELSA-M(エルサ・エム)の開発を、ロンドンの通信衛星コンステレーション企業OneWebと進めている。

COSMICでは、このELSA-Mのサービサーを仕様変更して使われる。いったん低軌道に打ち上げられたELSA-Mは、クライアントの軌道へ移動してクライアントを捕獲し、廃棄用軌道まで降下してクライアントを大気圏に放出する(最終的に大気圏に再突入させることで燃え尽きさせる)。そして次のクライアントの軌道まで移動して、捕獲、放出を繰り返す。このミッションでは、軌道上での修復作業も想定されていて、宇宙空間での宇宙状況把握の実証実験も行われるとのことだ。

日本を本社と研究開発拠点を構えるアストロスケールは、イギリス、アメリカ、シンガポール、イスラエルに事業展開をしている。