モバイルキーボードソフトウェアFleksyがシリーズAで約1.8億円調達、10倍の成長を遂げたキーボードSDK事業を拡大

バルセロナを拠点とするモバイルキーボードソフトウェアメーカーのFleksy(フレキシー)が160万ドル(約1億8250万円)のシリーズAを獲得し、AndroidおよびiOS向けのホワイトラベルSDKのB2Bへの移行を進めている。

今回のラウンドはスペインの資産管理会社Inveready(インベレディ)が主導。また、既存の投資家であるSOSVとSimile Venture Partners(シミールベンチャー・パートナーズ)からも資金提供を受けている。

今回のシリーズAにより、2015年の創業以来のこれまでの総調達額は300万ドル(約3億4200万円)弱となった。

AIキーボードメーカーである同社は、スマートフォンのサードパーティ製キーボードの分野で長く活躍しており、当初は生産性向上に特化したキーボードThingThing(シングシング)を開発していた。その後米国で有名なカスタムキーボードFleksy開発チームがPinterestに買収された後、停止状態となっていた)のアセットを買収し、以来Fleksyの開発に全力を注いでいる。

しかし、コンシューマー向けカスタムキーボードの分野で収益化を図るのは至難の技である。今や単語予測やスワイプ入力などの機能がスマートフォンのネイティブキーボードに組み込まれているため、サードパーティ製のアドオンの価値は低下しているからだ。

また、AppleやGoogleのような大手企業も独特の方法でこの分野で幅を利かせている(例えば、iOSにおける頼りないサードパーティ製キーボードの実装状況によって、ユーザーはAppleのネイティブキーボードから乗り換えられないでいる。また、GoogleのPlay Storeは一時期に不愉快なポリシーを実施していた)。

Fleksyは2020年SDKを発表して以来、カラーチェンジやブランド化などさまざまな方法で適応させることができ、強力な予測機能や文脈に応じたカスタムAIキーボードソフトウェアを必要とする他のアプリメーカーや企業に、同社キーボード技術のライセンス供与を行ってきた。

キーボードSDKは、サードパーティがユーザーをより深く知るために、あるいは自社の販売促進のために使用することも可能だ。

またFleksyがウェブサイトに掲載している、SDKを介してクライアントが実装できる機能としては、キーボードに文脈に応じた広告を埋め込む機能(文脈に応じて製品やサービスを提案し、トリガーを設定して適切なタイミングであらゆるアプリにブランドを表示する機能)や「ショップがキーボードからマーケティング資料、請求書、更新情報、タスクを送信したり、支払いを徴収したりできるようになる」という近日公開予定のCRM機能などが挙げられる。

セキュリティ関連の機能も「近日公開」とされており「データ漏洩や機密情報の流出防止、リスクを抱えた従業員の監視、メッセージの保護、不正行為の防止」などを実現するカスタム機能も完備する予定だという。

このようなB2B戦略と並行して、同社はコンシューマー向けソフトウェアの分野にも注力しており、GoogleのGboard(ユーザーの検索データをGoogleに送っている)のようなソフトウェアとの差別化要因としてユーザーのプライバシーを強く強調している。また最近では「アートキーボード」で顧客の心を掴もうと試みていた。

しかし、同社の重心がB2Bに移行しているというのは明白だ。「Fleksy for Business」のメッセージがウェブサイト全面に押し出され、ディープテックな雰囲気を放つデザインに一新されている。

それでもコンシューマー向けキーボードはコアなファンのためにも、また、ショーケースやテストベッドとしての有用性を考えても残り続けることだろう。

「Google やAppleなどの大手企業が公平に競争してくれないため、消費者分野は厳しいものになっています。そこで私たちは、他の企業が優れたキーボード体験やそれを超えた体験を構築するのをサポートしてライセンス料によって提供するという、収益性の高いニッチな分野を見つけたのです」と、FleksyのCEOであり、ThingThingのCEO兼共同設立者でもあるOlivier Plante(オリビエ・プランテ)氏はいう。「我々が作り上げたものはなかなか簡単に作れるものではないので、こういったデジタル企業にとっては非常に使いやすい製品になっています」。

サードパーティが同社のキーボード技術を使ってユーザーをデータマイニングしようとするのではないかというプライバシーに関する疑問を投げかけたところ「FleksyのSDKは、各企業が独自の原理で成功するために必要なすべてのツールを提供します。Fleksyは技術的な役割を果たしているだけで、クライアント自身のプライバシースタンスには関与していません」と同氏は答えている。

ただし「誤解のないようにいうと、Fleksyのコンシューマー向けアプリは常にプライベートを守ります。その原理を変えることはありません」と付け加えている。

Fleksyによると、同社の技術をライセンス供与している企業は現在「数十社」にのぼり「パイプライン」にはさらに50社が含まれているという。また、SDKビジネスの収益は1年で10倍になったという。

シリーズAの規模が比較的小さかったのは、このような背景があったからだとプランテ氏は考えている。

「現在かなりの収益を生み出しているため、この程度しか必要なかったのです」とTechCrunchに話しており、今シリーズAを調達する理由は「より早く拡大するため」だという。

今回得た資金は、成長、雇用(現在13人のチームを拡大するため)、および顧客ポートフォリオの拡大のために使用される予定だ。

Fleksyにとってキーボード技術のライセンス供与に最適な市場は、現在米国と欧州となっているが、プランテ氏は世界中に顧客がいると考えている。

SDKはまた、デジタルヘルスやフィンテックからゲームまで、幅広い顧客層を惹きつけている。

「あらゆる企業が新たなキーボード体験を探し求めています。ウェブサイトの/solutions/にあるように、これらの業界、さらにはますます多くの業界がFleksy技術によって支えられるようになるでしょう」。

「当社にはさまざまなニーズを持つあらゆるタイプの顧客がいますが、サードパーティのブラックボックスではなく、すべてを自社で構築しているため、顧客に合わせてすべてを修正することができます。これは現在、他の企業では実現できないことです。そのため、例えばデジタルヘルス分野の企業は、技術スタックを完全にコントロールできる収益性の高い企業と提携することができるのです」と同氏。

「Fleksy SDKは、レイアウトや辞書からオートコレクトや予測、センチメントなどを支えるコアエンジンに至るまで、さまざまな方法で変更を加えることができます。これこそがFleksyが選ばれる理由なのですが、将来的には『画面入力と言えばFleksy』という、より大きなビジョンを実現できるよう取り組んでいます」。

シリーズAの資金調達の一環として、InvereadyのIgnacio Fonts(イグナシオ・フォンツ)氏がFleksyの取締役に就任する。

フォンツ氏は声明中で次のように述べている。「私たちは、パーソナル・コンピューティング(携帯電話、モバイル、デスクトップ)デバイスのコントロールポイントの1つであるキーボード技術において、世界的なリーダーの地位を獲得したFleksyチームに参加できることを大変うれしく思います。今回のラウンドにより、ユーザーにはデバイスとの新しい関わり方を、企業には顧客に関する新しい洞察を提供する、非常に魅力的なロードマップの開発を加速させることができるでしょう」。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

Fleksyの共同創設者がApp Store詐欺による売上減でAppleを提訴

キーボードアプリFleksyの共同創設者であるKosta Eleftheriou(コスタ・エレフセリウ)氏(後にPinterestが買収契約で獲得)は、自身のアプリFlickTypeが詐欺の標的になったことを受け、偽レビュー、評価、サブスクリプション詐欺、悪質なクローンアプリなどのApple App Storeの問題に注意を呼びかけてきた。そしてこの開発者はApp Store改革の次の一歩を踏み出し、Appleを相手に訴訟を起こそうとしている。

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米国時間3月17日にサンタクララ郡のカリフォルニア州上級裁判所に提出された同氏の訴えでは、Appleは、安全で信頼できる場所であると宣言して、iOSアプリケーションを合法的に販売できる唯一の場所であるApp Storeのためのアプリケーションを作るよう開発者を促しながら、合法的なアプリ開発者が手にすべき利益を搾取する詐欺行為から開発者を保護していないと申し立てている。

さらに訴状によるところでは、詐欺師たちがサブスクリプションを利用して収益を生み出しており、そこにはAppleとの収益分配が含まれているため、Appleはそのような行為に対して無関心になっているとされている。

エレフセリウ氏は個人的にApp Store詐欺師の影響を受けてきた。同氏はPinterestでの高収入の仕事を辞め、Apple Watch用のスワイプ型キーボードの1つであるFlickTypeアプリの開発に努めてきた。ローンチ後、このアプリは模倣アプリ制作者たちの標的となった。彼らは、自分たちのアプリがFlickTypeと同じ機能セットを提供していると主張しながら、貧弱なデザインのソフトウェアを提供し、ユーザーに高価なサブスクリプションを押し付けている。さらに偽の評価やレビューを大量に表示することで、ユーザーがこの分野でアプリを探しているときにはるかに優れた選択肢であるように見せかけることも行っている。

一方、FlickTypeは3.5星の評価を受けており、開発者によるコントロールの及ばないApple Watchプラットフォームの問題や、ユーザーの関心を引きそうな機能が欠けていることなどがたびたび指摘されている。しかし、エレフセリウ氏は自身のアプリのユーザーと関わりを持っている。苦情に対応し、ユーザーが要求した機能が追加されたりバグが修正されたりしたことを知らせている。詐欺師たちは、アプリの総合的な評価を高く保つために5つ星のレビューを十分な数購入するだけだ。

言い換えれば、エレフセリウ氏がApple Watch用のスワイプ式キーボードのカテゴリを築くApp Storeの開発者として懸命に働いている間、潜在的な収入はApp Store上の偽アプリが横取りしているというわけだ。

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Appleは何年も前から、アプリの品質問題に真剣に取り組んできた。同社は、疑わしいサブスクリプションアプリを一掃し、定期的なスイープを通じてApp Storeからクローンやスパムを削除した。かつては、アプリの品質基準を高めるためにテンプレートを使って作られたアプリを禁止したこともあったが、これはより専門的なアプリを作るためのリソースや資金がない小規模事業者の怒りを買った。(Appleはその後、ポリシーをより公平なものに変更した。)

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しかし新たな訴訟では、Appleは開発者の不正行為から利益を得ているため、詐欺師のアプリを取り締まっていないと指摘されている。エレフセリウ氏はまた、自身の会社であるKPAW, LLCを通じてこれらの問題をAppleに提起しているが、Appleはこの問題を解決するために「ほとんど何もしなかった」と述べている。

だが、エレフセリウ氏のストーリーはさらに複雑だ。同氏のアプリは、Appleの特別プロジェクトマネージャーを務めるRandy Marsden(ランディ・マースデン)氏と買収の可能性について話し合った後、App Storeから何度も却下されているからだ。エレフセリウ氏はTechCrunchに対し、Appleと数字についても協議され、会議にはディレクターやバイスプレジデントなどが参加したと語っている。訴状によると、AppleはFlickTypeをApple Watchの機能にすることを検討していたという。

その直後、競合他社のアプリが承認されたにもかかわらず、FlickTypeはApp Store Reviewガイドライン違反でApp Storeから削除された。エレフセリウ氏はDeveloper Relationsを通じて抗議したが、今後同じ問題を防ぐ方法については何も指導を受けなかったという。

その後数カ月にわたって、FlickTypeはApp Store Reviewから拒絶され続けた。このアプリは多くのメディアの技術系ジャーナリストたちが称賛しており、Appleも購入を検討したことがあるにも関わらず、AppleのApp Store Reviewは「貧弱なユーザー体験」を提供するものだと伝えている。App Reviewは開発者に「フルキーボードアプリはApple Watchには適さない」とも伝えているが、競合他社によるキーボードアプリの公開は認めている。

AppleのApp Reviewチームは、FlickTypeの統合可能バージョンのキーボードを使っているサードパーティーアプリも問題なく承認した。その中には、RedditのNano、TwitterのChirp、WhatsAppのWatchChat、InstagramのLensなどのWatchアプリが含まれている。

Appleが2020年1月にFlickTypeを承認した後、常に拒否されていたわけではない競合他社のキーボードによって、FlickTypeの収益はすでに1年にわたって損なわれてきたと同社は主張している。それでもFlickTypeはApp Storeの有料アプリトップ10に名を連ね、最初の1カ月で13万ドル(約1400万円)を稼いでいる。その成功の結果、すぐに詐欺師たちの標的になり、彼らは水増しされたほとんど使い物にならない競合アプリをローンチし、FlickTypeの収益を減らしたのだ。FlickTypeの月間売上は2万ドル(約220万円)に落ち込んでいる。競合各社はまた、偽のレーティングを使って人気を保ち、疑いを持たないユーザーにアプリをインストールさせていた。

エレフセリウ氏のストーリーは、結果的に特殊なものではなかった。同氏はここ数カ月、App Storeにおける数百万ドル単位の詐欺行為記録してきたが、その中には同氏が直面したものだけでなく、同様の苦労を体験した開発者たちのケースも含まれている。ソーシャルメディアでの同氏の記述によると、Appleが何らかの対応をしたケースもあり、そうでないケースもある。また、詐欺アプリの1つを削除するだけで、同じ開発者アカウントの他のアプリが動作し続けることを許可しているようだ。

今回の新たな訴訟は、エレフセリウ氏が直面した問題についてAppleに責任を負わせることを目的としており、同氏が失った収益の回復と、裁判所が裁定したその他の損害賠償金の支払いをAppleに求めている。

Appleにコメントを求めたが、現時点で回答は得られていない。

訴状のコピーは以下の通り。検証のための公的記録検索にはまだ現れていない。この訴訟がオンラインで表示されるようになったら、状況に応じて更新する。

Kpaw, LLC対Apple, Inc、Scribdより、TechCrunch提供

カテゴリー:ネットサービス
タグ:AppleApp StoreアプリFleksy裁判

画像クレジット:TechCrunch

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(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

Appleは蔓延するアプリの評価詐欺を根絶するよう開発者に迫られている

Apple(アップル)は、偽のレビューや評価詐欺に対する取り締りを強化せよとの要求に直面している。ことの経緯は、App Storeでの詐欺行為がテクノロジー大手企業Appleによって根絶されなかった結果、ある開発者が、不正商慣習に立ち向かわざるを得ない状況をソーシャルメディアで明るみにしたことにある。

Fleksyキーボードアプリを開発するFleksy(フレクシー)社の創業者の1人であるKosta Eleftheriou(コスタ・エレフセリウ)氏(2016年にPinterestが獲得)は、2018年3月以来、オートコレクトアルゴリズムの専門知識を活用して、Apple Watchの小さなディスプレイでのタイピングを可能にするだけでなく、Forbes(フォーブス)のレビュアーが言うところの「シンプルで楽しく、非常に効果的」にタイピングできるようにしてきた。

エレフセリウ氏が開発したFlickType(フリックタイプ)は、アプリのレビュアーからも「驚くほど正確」「基本的な機能が優れたキーボード」とAppleがネイティブでサポートしている一字一字のフリーハンド方式よりも「かなり速い」と評されている。

ユーザーレビューには5つ星の非常に好意的な評価も多いが、多数の低スコアが平均を引き下げたため、ユーザーの総合評価は現在3.5だ。しかし時間をかけて調べてみると、フリックタイプの開発者は、低いスコアを残したユーザーから提起された問題に一貫して前向きに対応しているのがわかる。

ときとして、エレフセリウ氏がコントロールできないApple Watchのプラットフォームの問題について苦情が出ることもある(Appleはサードパーティーアプリによるテキスト入力へのアクセス方法を制限しているため)。機能の不足もよくある問題であり、エレフセリウ氏は、多くの回答の中で、ユーザーが求めていた設定(自動補正を無効にする機能など)を追加したと答えたり、「タイピングが簡単になる新しいルック&フィール」を紹介したりして、問題に対応している。また、バグを指摘してくれたユーザーに感謝し、修正完了を報告することもある。

それぞれの苦情が具体的にどのように対処されているかを知っている人なら、フリックタイプの開発者が顧客の期待を満たせるよう懸命に取り組んでいることを確信するだろう。総合評価では、他のApple Watchキーボードアプリの方が全体的に高いとしてもだ。

エレフセリウ氏にとっての問題は、模倣アプリメーカーが彼の大変な努力を搾取していることだ。模倣アプリメーカーは、App Storeの取り締まりが弱いことに付け込んで、同氏を踏み台にして不当に利益を得ることができる。

詐欺の手口はこうだ。フリックタイプと同じような洗練された機能を持っていると称するApple Watchキーボードアプリが多数公開され、ユーザーは目を見張るような高いサブスクリプション料金を支払うように仕向けられる。しかしその機能は、見劣りのする模倣品にすぎない。

模倣アプリに対して品質はApp Storeの最上位だという期待を持つかもしれない。しかしその裏では、模倣アプリに偽レビューや評価のスコアがつけられ、そのアプリに対して多くのユーザーから寄せられた本物の評価が締め出されている。

偽のレビューは本物のレビューよりも多い。時間をかけてじっくりコメントを読まなければ、偽物は見分けられない。

「購入する前にレビューを読めばよかった。自分のApple Watchでは動作しません」とコメントされているのは、エレフセリウ氏が抗議しているライバルアプリの1つWatchKey(ウォッチキー)の1つ星レビューである。それにもかかわらず、このアプリは5つ星レビューの割合が非常に高いため、彼のアプリよりも全体的な評価が高い。

ウォッチキーは1つ星レビューに対してたいてい「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。できるだけ早くサポートできるように、メールで状況を詳しくお知らせください」と回答している。

別の1つ星レビューのコメントには「最悪だ」という言葉に続いて、次のように書かれている。「Apple WatchでT9を使うためにこのアプリを購入しましたが、T9は動きませんでした。また、アプリに記載されているカスタマーサービスにもメールを送りましたが返信がありません。別のアプリを探すことをお勧めします」。

ウォッチキーのソフトウェアに対する別の最低評価への回答を見てると、またまた決まり文句が並んでいる。「フィードバックをありがとうございます。残念ながら、お客様からのメールはまだ届いておりません。できるだけ早くサポートできるように、support@vulcanlabs.coまで状況を詳しくお知らせください」

このパターンは否定的なレビューで繰り返されている。5つ星レビューを書いた人の中にすら、「T9は無料では使えません。レビューを書くとT9が無料で使えるようになると思ったのに、料金を請求されました」と警告する人がいる。

レビューの操作には、Appleの定める最低限の要件を満たせるように、よくある決まり文句を投稿して本物のネガティブなレビューを締め出すという作業が含まれる。また、偽の5つ星レビューを大量に掲載して、アプリの全体的な評価を高く維持する必要がある。こうした作業が利益につながるのである。

エレフセリウ氏はTwitterのスレッドの中で「何百もの」偽の5つ星レビューからいくつかを紹介している。これらはApple Watchのユーザーに悪質な模倣アプリをダウンロードさせるために使われているとのことだ。偽のレビューでは、存在しない機能に注意を向ける言い回しや、他の種類のデバイスの機能に言及する言い回しが使用されている(これは偽のレビューが、別の媒体にある本物のレビューからコピー&ペーストされた可能性があることを示している)。

Google(グーグル)で「buy ios reviews(iOSのレビューを購入する)」と検索すると、6億4300万件という膨大な量の検索結果が表示される。これには「AppleのApp StoreやGoogle Play(グーグルプレイ)でアプリのランクを上げる最良の方法として、アプリのレビュー、インストール、評価を請け負うこと」を売り込んでいる企業の広告が含まれ、「100%本物のユーザーによる評価がついた高品質のiOSアプリレビューを2.5ドル(約263円)」で売り出しているものもある。

偽のレビューの販売が急成長のビジネスであることは明らかだ。これは実効的な取り締まりがまったく行われていないことを示している。

極めつけとして、エレフセリウ氏は、詐欺師まがいの競合開発者の1人が同氏のアプリのプロモーション動画(フリックタイプの機能のデモ)を盗用し、Facebook(フェイスブック)やInstagram(インスタグラム)でアプリユーザーをターゲットにした広告に使っていたことを発見した。

Facebookには第三者の著作権侵害に対するポリシーがあるが(広告ポリシーの第4項「禁止されているコンテンツ」に基づく)、広告テクノロジー大手企業の同社には積極的な取り締まりを求めた方が良いだろう。Facebookは著作権侵害の申し立てを受けた場合にのみ対応するため、エレフセリウ氏はマーケティング材料の不正使用を防ぐために、そうした材料を盗用する悪質な広告を多くの時間を費やして見つけ、報告しなければならない(「Facebookは、私が報告した広告を最終的に削除しました。しかし、わかりきっていることですが、これでずっと安心していられるわけではありません」と同氏はいう)。

ここまで読んで意外に思われるかもしれないが、言うまでもなくAppleの開発者向けルールは、不正なレビューを提出することは開発者プログラムのライセンス契約違反であると明確に規定している。

App Storeのレビューガイドラインでは、システムを欺こうとする(評価の操作など)開発者は、App Storeからアプリが削除されるだけでなく、Appleの開発者プログラムから完全に除名される可能性があると警告している。

丁寧な言い方をすれば、Apple独自の取り締まりがApp Storeの詐欺を根絶できないために、優れた専門知識と実績のある個人開発者が非常に多くのリソースを使って詐欺に対抗しなければならないのは、Appleにとっても望ましくない状況である。エレフセリウ氏は、組織的な取り締まりの失敗を浮き彫りにするために、ソーシャルメディア上で公に呼びかけることが唯一の対抗策だと感じている。

エレフセリウ氏がTechCrunchに語ったところによると、Apple公式の「アプリに関する申し立て」チャンネルに対応を求めたが、「気が滅入るような結果」しか得られなかったために、ソーシャルメディア上で苦情を提起することにしたということだ。

「Appleの対応は、問題を申し立てている開発者と申し立ての対象になっている開発者をつなげ、やり取りをモニタリングしながら当人同士で直接問題を解決してもらうというものです」とエレフセリウ氏は説明する。「私がアプリに関する申し立て用のチャンネルで苦情を述べた詐欺師は、Twitterのスレッドで言及した大物詐欺師には遠くおよびません。それでも私の苦情はほとんど解決されず、偽の評価やレビューの問題に関してAppleから回答はまったくありませんでした。Appleにとって問題の申し立て人からすぐに連絡がなければ、その問題は解決されたということなのです。その後、Appleに非公式に連絡を取りましたが返答はありませんでした」。

「私にとって最も印象的だったのは、Appleの法務チームの監視に対して、詐欺師が少しも脅威を感じていなかったことです。まるでAppleが何も対策を取らないであろうことを知っているかのようでした」と同氏は付け加える。「私の考えでは、Appleはこの分野に十分なリソースを投入していません」。

Twitterでこの問題を提起して以来、エレフセリウ氏は模倣アプリとの戦いに一部勝利したことを報告している。同氏が苦情を述べたアプリのいくつかはApp Storeから削除された(この記事の執筆時点で、Appleは何らかの対策を取ることを公式に発表していない)。

しかし、現時点で模倣アプリの開発者のアカウントは禁止されていないようだ。「このような詐欺をやってのけても開発者アカウントが取り消されないのには呆れてしまいます」とエレフセリウ氏は語る。「アカウントの禁止以上に有効な対策はありません」。

Appleにこの問題について問い合わせたところ、同社は、その他の該当する規定のうち、システムを欺く試み(レビュープロセスを巧妙に操る、ユーザーデータを盗む、他の開発者のアプリをコピーする、評価やApp Storeの内容を操作するなど)を禁止する開発者ポリシーに関する背景情報を提供してくれた。

またエレフセリウ氏が提起した問題を踏まえ、ポリシーの変更を検討しているかどうかもAppleに尋ねた。何らかの回答があればこの記事を更新する。

「私の考えでは、アプリの模倣が主な問題点なのではありません。模倣アプリの開発者が私の名前を勝手に使っていても、私と同じようなスクリーンショットを作っていても、それは気にするようなことではありませんでした。偽の評価とレビューを適切に防ぐシステムさえあれば、どうってことはありませんでした」とエレフセリウ氏は述べている。「1つ星のレビューがたくさん集まると、品質の低い製品は淘汰されていき、これはユーザーを守ることにつながります。しかし、製品レビューのシステムが不正操作されると、他の優れた製品まで排除されてしまいます」。

「もはや評価やレビューが信頼できる保証はありません。それが、消費者からの信頼が急激に失われる結果になっています」と同氏はつけ加える。「評価やレビューを販売している、件の『企業』がどんなものかGoogleで検索してみました。検索結果に現れたのは、サポートシステムを備えた本格的な企業であり、競合他社のようにAppleによって評価が削除されることはないと謳っています。私にとって、こうした業界が繁栄していることは衝撃でした」。

偽のレビューの問題は、確かにAppleのApp Storeに限った問題ではない。そして非常に陰湿な問題である。

ユーザーレビューのシステムを組み込んでいるプラットフォームの数を考えると、Amazon(アマゾン)で買い物をしようとしている場合でも、Tripadvisorで旅行先を探している場合でも、Google Mapsのレビューを見て地元の歯科医を探している場合でも、偽のレビューはインターネット上ならほぼどこにでもある(要するにレビューは信用しないほうがいい)。

しかし、この問題はAppleにとって特に大きな害をおよぼすように見える。

App Storeのセールスポイントの核心は、Appleのレビュープロセスは監視が不十分な他のマーケットプレイスよりも高品質で信頼できるという主張である。

したがって、レビュー詐欺や評価の操作に対抗するためにより多くの措置を講じなければ、Appleのブランドが失墜するリスクがある。

簡単に言えば、消費者はAppleに高い水準を期待している。だからこそ、その製品に高い代価を支払ってもいいと思っている。App Storeのチェックと取り締まりに対するリソースが不足している状況は不経済だ。このような状況が続くと一層、エレフセリウ氏のような質の高い開発者がApp Storeから離れていってしまうリスクがあるからだ。

これほどの経歴を持つ開発者が、App Storeで自分の製品を確実に売ることができないとしたら、Appleの「プレミアム」マーケットプレイスとは一体何なんだろう。

この問題は、今後数年のうちに消費者監視団体や規制当局の調査対象になる可能性が高い。たとえば欧州連合(EU)は、デジタルビジネスにおける公正さと説明責任を促進しようと取り組む中で、拘束力のある透明性要件と報告要件を次期プラットフォーム規制に組み込むことを計画している。

2020年初めに施行されたEUオムニバス指令は、加盟国がそれを導入するために2年の期限を設けており、強化された取り締まりと透明性要件を通じて消費者の権利を強化することを目的としている。その他の取り組みとして、レビューが本物であることを保証するために「合理的かつ相応の」措置を取ることをトレーダーに義務付けることによって、偽のレビューの問題に直接対処している。

EUのプラットフォームでは、偽のレビューの取り締まりの失敗について「十分な根拠を示す」ことが求められるようになるだろう。根拠を示すことができなければ、消費者保護法違反に対する「GDPRレベル」の厳しい罰金が課せられることになる。そのため、損失は現在のように風評被害ではすまないだろう。

一方、英国の競争市場庁は、ここ数年、特にFacebook、インスタグラム、eBay(イーベイ)をターゲットにした偽のレビューの売買を厳しく取り締まっている。現在EUから独立して活動している英国の監視団体も、この問題を一層注視しているようだ。

関連記事:FacebookとeBayが英国規制当局の圧力を受け「偽レビュー」の対策強化を誓約

カテゴリー:ネットサービス
タグ:AppleApp StoreアプリFleksy

画像クレジット:TechCrunch

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)