モバイルキーボードソフトウェアFleksyがシリーズAで約1.8億円調達、10倍の成長を遂げたキーボードSDK事業を拡大

バルセロナを拠点とするモバイルキーボードソフトウェアメーカーのFleksy(フレキシー)が160万ドル(約1億8250万円)のシリーズAを獲得し、AndroidおよびiOS向けのホワイトラベルSDKのB2Bへの移行を進めている。

今回のラウンドはスペインの資産管理会社Inveready(インベレディ)が主導。また、既存の投資家であるSOSVとSimile Venture Partners(シミールベンチャー・パートナーズ)からも資金提供を受けている。

今回のシリーズAにより、2015年の創業以来のこれまでの総調達額は300万ドル(約3億4200万円)弱となった。

AIキーボードメーカーである同社は、スマートフォンのサードパーティ製キーボードの分野で長く活躍しており、当初は生産性向上に特化したキーボードThingThing(シングシング)を開発していた。その後米国で有名なカスタムキーボードFleksy開発チームがPinterestに買収された後、停止状態となっていた)のアセットを買収し、以来Fleksyの開発に全力を注いでいる。

しかし、コンシューマー向けカスタムキーボードの分野で収益化を図るのは至難の技である。今や単語予測やスワイプ入力などの機能がスマートフォンのネイティブキーボードに組み込まれているため、サードパーティ製のアドオンの価値は低下しているからだ。

また、AppleやGoogleのような大手企業も独特の方法でこの分野で幅を利かせている(例えば、iOSにおける頼りないサードパーティ製キーボードの実装状況によって、ユーザーはAppleのネイティブキーボードから乗り換えられないでいる。また、GoogleのPlay Storeは一時期に不愉快なポリシーを実施していた)。

Fleksyは2020年SDKを発表して以来、カラーチェンジやブランド化などさまざまな方法で適応させることができ、強力な予測機能や文脈に応じたカスタムAIキーボードソフトウェアを必要とする他のアプリメーカーや企業に、同社キーボード技術のライセンス供与を行ってきた。

キーボードSDKは、サードパーティがユーザーをより深く知るために、あるいは自社の販売促進のために使用することも可能だ。

またFleksyがウェブサイトに掲載している、SDKを介してクライアントが実装できる機能としては、キーボードに文脈に応じた広告を埋め込む機能(文脈に応じて製品やサービスを提案し、トリガーを設定して適切なタイミングであらゆるアプリにブランドを表示する機能)や「ショップがキーボードからマーケティング資料、請求書、更新情報、タスクを送信したり、支払いを徴収したりできるようになる」という近日公開予定のCRM機能などが挙げられる。

セキュリティ関連の機能も「近日公開」とされており「データ漏洩や機密情報の流出防止、リスクを抱えた従業員の監視、メッセージの保護、不正行為の防止」などを実現するカスタム機能も完備する予定だという。

このようなB2B戦略と並行して、同社はコンシューマー向けソフトウェアの分野にも注力しており、GoogleのGboard(ユーザーの検索データをGoogleに送っている)のようなソフトウェアとの差別化要因としてユーザーのプライバシーを強く強調している。また最近では「アートキーボード」で顧客の心を掴もうと試みていた。

しかし、同社の重心がB2Bに移行しているというのは明白だ。「Fleksy for Business」のメッセージがウェブサイト全面に押し出され、ディープテックな雰囲気を放つデザインに一新されている。

それでもコンシューマー向けキーボードはコアなファンのためにも、また、ショーケースやテストベッドとしての有用性を考えても残り続けることだろう。

「Google やAppleなどの大手企業が公平に競争してくれないため、消費者分野は厳しいものになっています。そこで私たちは、他の企業が優れたキーボード体験やそれを超えた体験を構築するのをサポートしてライセンス料によって提供するという、収益性の高いニッチな分野を見つけたのです」と、FleksyのCEOであり、ThingThingのCEO兼共同設立者でもあるOlivier Plante(オリビエ・プランテ)氏はいう。「我々が作り上げたものはなかなか簡単に作れるものではないので、こういったデジタル企業にとっては非常に使いやすい製品になっています」。

サードパーティが同社のキーボード技術を使ってユーザーをデータマイニングしようとするのではないかというプライバシーに関する疑問を投げかけたところ「FleksyのSDKは、各企業が独自の原理で成功するために必要なすべてのツールを提供します。Fleksyは技術的な役割を果たしているだけで、クライアント自身のプライバシースタンスには関与していません」と同氏は答えている。

ただし「誤解のないようにいうと、Fleksyのコンシューマー向けアプリは常にプライベートを守ります。その原理を変えることはありません」と付け加えている。

Fleksyによると、同社の技術をライセンス供与している企業は現在「数十社」にのぼり「パイプライン」にはさらに50社が含まれているという。また、SDKビジネスの収益は1年で10倍になったという。

シリーズAの規模が比較的小さかったのは、このような背景があったからだとプランテ氏は考えている。

「現在かなりの収益を生み出しているため、この程度しか必要なかったのです」とTechCrunchに話しており、今シリーズAを調達する理由は「より早く拡大するため」だという。

今回得た資金は、成長、雇用(現在13人のチームを拡大するため)、および顧客ポートフォリオの拡大のために使用される予定だ。

Fleksyにとってキーボード技術のライセンス供与に最適な市場は、現在米国と欧州となっているが、プランテ氏は世界中に顧客がいると考えている。

SDKはまた、デジタルヘルスやフィンテックからゲームまで、幅広い顧客層を惹きつけている。

「あらゆる企業が新たなキーボード体験を探し求めています。ウェブサイトの/solutions/にあるように、これらの業界、さらにはますます多くの業界がFleksy技術によって支えられるようになるでしょう」。

「当社にはさまざまなニーズを持つあらゆるタイプの顧客がいますが、サードパーティのブラックボックスではなく、すべてを自社で構築しているため、顧客に合わせてすべてを修正することができます。これは現在、他の企業では実現できないことです。そのため、例えばデジタルヘルス分野の企業は、技術スタックを完全にコントロールできる収益性の高い企業と提携することができるのです」と同氏。

「Fleksy SDKは、レイアウトや辞書からオートコレクトや予測、センチメントなどを支えるコアエンジンに至るまで、さまざまな方法で変更を加えることができます。これこそがFleksyが選ばれる理由なのですが、将来的には『画面入力と言えばFleksy』という、より大きなビジョンを実現できるよう取り組んでいます」。

シリーズAの資金調達の一環として、InvereadyのIgnacio Fonts(イグナシオ・フォンツ)氏がFleksyの取締役に就任する。

フォンツ氏は声明中で次のように述べている。「私たちは、パーソナル・コンピューティング(携帯電話、モバイル、デスクトップ)デバイスのコントロールポイントの1つであるキーボード技術において、世界的なリーダーの地位を獲得したFleksyチームに参加できることを大変うれしく思います。今回のラウンドにより、ユーザーにはデバイスとの新しい関わり方を、企業には顧客に関する新しい洞察を提供する、非常に魅力的なロードマップの開発を加速させることができるでしょう」。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

Nianticが「現実世界のメタバース」というビジョン&AR開発者キット「Lightship」を発表、AR体験構築をよりアクセシブルに

「Pokémon GO(ポケモンGO)」の開発で知られるARテクノロジー企業のNiantic(ナイアンティック)は、拡張現実体験の構築をより身近なものにするAR開発キット(ARDK)「Lightship」を発表した。この無料で公開されている技術は、同社のビジョンである「現実世界のメタバース」の基礎を築くのに役立つ。

NianticのJohn Hanke(ジョン・ハンケ)CEOは、プログラム立ち上げのライブストリームで、以前彼がメタバースを「ディストピアの悪夢」と呼んだ自身のブログ記事に言及した。しかし、Facebook(フェイスブック)が社名をMeta(メタ)に変更し、VRヘッドセットが支配する未来を宣伝している間にも、Nianticは代替案を想像している。それは、仮想世界ではなく、人々を直接結びつけるメタバースだ。

Nianticの既存のゲームは、屋外での活動や新しい人との出会いを重視している。リモートでプレイできるようにパンデミック時代の調整を行う前は、伝説レイドバトルなど、Pokémon GOの特定の側面は、十分な数のプレイヤーが同時に協力しないとプレイできなかった。2017年に伝説レイドバトルがリリースされると、ローカルなDiscordコミュニティが立ち上がり、人々は現実世界でのミートアップを調整して、一緒にルギアやフリーザーを捕まえようとした。

ハンケ氏は次のように述べた。「Nianticでは、人間はバーチャルな世界がフィジカルな世界につながるときに最も幸せだと考えています。SFのメタバースとは異なり、現実世界のメタバースは、何千年も前から知られている私たちの世界における経験を向上させるためにテクノロジーを活用します」。

Lightship ARDKの公開により、デベロッパーは「Ingress(イングレス)」「Pokémon GO」「Pikmin Bloom(ピクミンブルーム)」などのゲームの基盤を利用して、新たなプロジェクトを生み出すことができる。また同社は、2000万ドル(約22億6500万円)規模のNiantic Venturesファンドを開設し、Nianticのビジョンに合致する企業に投資する。ローンチ時点で、NianticはすでにCoachella(コーチェラ・フェスティバル)、英国の歴史的王宮を管理する非営利組織Historic Royal Palaces、Universal Pictures(ユニバーサル・ピクチャーズ)、全米プロゴルフ協会などのブランドと提携しており、彼らは同社のARDKを利用しているという。

このソフトウェア開発キットは、3D、2D、VR、ARエクスペリエンスを構築するソフトウェアであるUnityと統合することで、開発者がiOSやAndroid向けの体験を構築するのに役立つ。ARDKは、NianticのAR機能のトップ3である、リアルタイムマッピング、セマンティックセグメンテーション、マルチプレイヤー機能を提供し、Nianticが何年もかけて開発してきたツールを、新進気鋭のクリエイターが利用できるようにする。

NianticのプロダクトマネージャーAmanda Whitt(アマンダ・ホイット)氏は、この度のQ&Aで「Unityの経験が少しあれば、簡単に使いこなせるようになります」と語った。

この新しいLightship ARDKは、興味のある開発者向けにNiantic Lightshipのウェブサイトで公開されている。

画像クレジット:Niantic

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Aya Nakazato)

クリエイターの報酬データが大量流出、Twitchのストリーマーの反応は

ストリーミングプラットフォームのTwitchは米国時間10月6日、クリエイターの報酬を含む膨大な内部データが流出し、オンラインで公開されてしまったことを認めた。同社はブログ記事で、流出の原因はTwitchのサーバー構成を変更した際のエラーであり、悪意のある第三者がそのデータにアクセスしたと述べた。今回の漏洩は、多くのストリーマーにとって、ストリーミングにおける給与の透明性とTwitchにおける安全性を巡るこれまでの緊張を悪化させるものだ。

今回の漏洩は、この数カ月間に起こった。TwitchはAmazon傘下のプラットフォームだ。2021年初めの時点で、ゲームのライブストリーミング視聴者数の72.3%を占め、Facebook GamingやYouTube Gamingなどのプラットフォームに比べ、圧倒的な強さを誇る。疎外されたクリエイターが憎しみに満ちたボット攻撃の標的にされたことから、一部のストリーマーは9月1日「#ADayOffTwitch」と称してプラットフォームをボイコットした。その結果、ピーク時の同時視聴者数は平均を100万人下回った。その後、Twitchは新たな安全機能を追加したが、コミュニティの緊張感は依然として高いままだ。

「このようなことが起こるのは時間の問題だったと思います」と、#ADayOffTwitchのボイコット主催者の1人であるトランスジェンダーのストリーマー、Lucia Everblack(ルシア・エバーブラック)氏は話す。「Twitchの活動において、そもそも安全性やセキュリティが最優先されていなかったことが明らかになりました」。

流出したのは、ソースコード、独自のソフトウェア開発キット(SDK)、Amazon Game Studiosが準備中のSteamと競合するサービスなどの未発表データだった。日中はソフトウェアエンジニアとして働くエバーブラック氏にとって、今回のクリエイターへの支払いデータの流出は、同氏が感じていることを裏付けたにすぎない。それはTwitchが、最も金を引き寄せられるストリーマーに報いることを優先しているということだ。Reddit(レディット)の投稿によると、今回流出した2019年から現在までのストリーマーのデータを分析したところ、Twitchの上位1万人のストリーマーのうち10%が、ストリーマー全体の収益の49%を占めているという。約2000人のストリーマーが、同期間にTwitchで10万ドル(約1100万円)以上稼いだ。

「Twitchのあらゆる機能がこの仕組みの上に成り立っていますが、これではプラットフォームの他の部分が成長できません」と同氏はTechCrunchに話した。「このことが他の人すべてにとって大きなブレーキになっています。特にBIPOC、LGBTQI+、障害者にとってです」。

Twitchパートナーであり、9年以上にわたってtehMoragの名で配信しているScott Hellyer(スコット・ヘリヤー)氏も、Twitchが稼げるユーザーを優先していると感じている。

「Twitch全体では、ディスカバリーが常に問題となってきました」とヘリヤー氏はTechCrunchに話した。「YouTubeにはとてもクールなアルゴリズムがあり、コンテンツを見たいと思う人と繋がる方法をコンテンツの作者が探すのを手伝ってくれます。Twitchも同じことを試みていますが、十分に努力しているとは思えません。今、人々は『ああ、ディスカバリー機能を高めようとしないのは当然だ、Twitchは人々を上位のストリームに押し込むだけだ。彼らはすでにTwitchにとって必要なお金を稼いでいるのだから』と言っています。その方が投資効果は高いし、それは理解できます」。

4chanのスクリーンショット

漏洩した情報によると、トップストリーマーの大半は白人男性で、ゲーム業界の多様性の欠如を大きく反映している。リストの中で最も高い報酬を得ている女性ストリーマーであるPokimane39位にすぎない。しかし、探索しやすい機能があれば、Twitchはより多様なクリエーターを増やすことができるだろう。エバーブラック氏をはじめとする社会から疎外されたストリーマーらはTwitchに対し、アイデンティティベースのタグをストリームに追加するよう働きかけた。そうすればユーザーは、支持したい多様なクリエイターを見つけることができる。Twitchは5月にこのタグを追加したが、エバーブラック氏はその前にPeer2Peer.liveを立ち上げた。これは、疎外されたストリーマーと視聴者がお互いを見つけるためのオプトインの探索ツールだ。ユーザーの中には、このタグが悪意ある人たちによるヘイト・レイド(差別的コメントによる荒らし)のためのターゲット探しを助長するのではないかと心配する人もいるが、エバーブラック氏は、このタグによって大きな成長が見られたと語る。一方、Twitchは、これらのユーザーを攻撃の標的となる危険性から守るため、電話による認証が必要なチャット機能を追加した。

関連記事:Twitchが電話認証付きチャット機能の追加とメール認証設定を拡大、ハラスメント抑制のため

しかし、ストリーマーがいったん視聴者を獲得したとしても、Twitchでそれなりの収入を得ることは難しい。収入上位者が稼ぎ得る金額にもかかわらずだ。ストリーマーが十分な人気を得ると、Twitchパートナープログラムへの参加を申請することができる。プログラムからクリエイターに多くのツールや収益化の選択肢が提供される。だが、TechCrunchが話を聞いた複数のストリーマーは、すべてのTwitchパートナーが同じ給与体系ではないことは公然の秘密だとした。2017年にInsiderは「パートナーは人気に応じて、サブスクリプション収入の2〜6割を受け取る」と報じた。サブスクリプション収入は、TwitchパートナーとTwitchが折半するのが標準だが、一部のストリーマーが主張するところでは、クリエイターらが最近、より有利な6〜7割の受け取りの交渉に成功し、勢いを増すYouTube Gamingの標準的な支払いと肩を並べた。CouRage、DrLupo、Valkyraeなどの人気ストリーマーの中には、YouTubeとの独占契約のためにTwitchを離れた人もいる。

JessGOATの名でストリーミング配信を行っているJess Bolden(ジェス・ボールデン)氏はInputに対し「Twitchと50対50の割合で契約しているLGBTQIAや女性のストリーマーの数と、広告契約でおそらく75対25の割合で契約している男性(私は違うが)の数を比較したら、とてつもなく大きな問題に発展しそうです」と語った。

Twitchは、一部のパートナーの契約条件が他のパートナーよりも良いという主張について、コメントを控えた。

ヘリヤー氏は、情報漏洩後にTwitterで、Twitchでの報酬についてもっと話したいとずっと思っていたが、パートナー契約によってそれができなかったと投稿した。

「情報漏洩があるまで、Twitchは契約の種類ごとの分け前について決して明らかにしませんでした。ですが、生の数字が出てきたことで、本当に頭のいい人たちは、そうしたストリーマーのCPM(cost-per-mile、広告視聴1000回あたりの支払金額)がいくらなのか、Bitsをどれだけ稼いでいるのか、サブスクリプション収入はどうなのか、といったことを把握できます。こうした情報を追跡するサイトはありますが、いったいストリーマーはどれだけ稼いでいるのかという部分は除外されています」とヘリヤー氏はTechCrunchに話した。「実際に稼いでいるお金について話すことはできませんが、購読者数のような代替値を示すことはできます。しかし、そこには透明性がありません。私の購読者は、私が50対50で分け前をもらっているかどうか知りません」。

テクノロジー業界では、給与の透明性を高めるための大きな動きがある。これは、例えば、同じ仕事を担当する2人のエンジニアの給与が大きく異なっていないことに関する説明責任を企業に負わせるものだ。

「Twitchは社会を反映しています」とRekItRavenはTechCruchに語った。Ravenは、#ADayOffTwitchのボイコットを主導し、#TwitchDoBetterのハッシュタグを始めた。「給料やお金の話をしてはいけないことになっていますが、それを正当化できる理由はまったくありません」。

ただし、Twitchからの支払い額は、テック企業がエンジニア1人1人に支払う金額より複雑だ。Twitchはパートナーの契約条件を設定しているが、すべてのチャンネルが同じように作られているわけではない。

Critical Roleは2019年8月以降、962万6712ドル(約10億6000万円)を稼いだとされ、高額所得ストリーマーの中でトップに立った。2位はxQcOWで、845万4427ドル(約9億3000万円)を稼いだ。しかし、ダンジョンズ&ドラゴンズのショーを31人のチームメンバーで制作するCritical Roleの費用は、eSportsのストリーマーであるxQcOWよりも多いだろう。さらに、すべてのストリーマーがTwitchの総収入から同じ割合を得ているわけではない。多くのクリエイターは、スポンサー契約やPatreonページ、直接の寄付、その他のプロジェクトなどのために、それぞれ収入源が異なる。

「Twitchは私の実際の収入の40%にすぎません」とヘリヤー氏はいう。「今回のようなことが起こっても大丈夫なように、収入源を多様化しなければなりませんでした」。

エバーブラック氏は、数百万ドル(数億円)を稼ぐクリエイターよりも、小規模なクリエイターの方が、流出した報酬額について非難されやすいのではないかと心配する。同氏は、小規模なストリーマーが安心してチャンネルを成長させられるようなコミュニティ主導の機能をTwitchが実装すれば、情報が流出したかどうかにかかわらず、疎外されたクリエイターにとってTwitchがより良いものになると考えている。同氏が提案する追加機能は、コミュニティの優れたメンバーとなっている視聴者にストリーマーが報いる手段や、大規模なストリーマーが1人の無防備なストリーマーに何千人もの人々を送り込むのではなく、複数のストリームに小規模なレイドを送り込むツールだ。

「Twitchコミュニティにおいて、マージナライズド・ボイス(阻害された人々の声)は非常に重要です。もしTwitchが彼らを正直に招き入れ、彼らの声に耳を傾けるならば、彼らが遭遇し続けている多くの状況を回避することができると思いますし、実際に人々のためになる機能を積極的に追加することもできるでしょう」とエバーブラックは語る。「Twitchは、一部の大規模なクリエイターに光を当てすぎて、プラットフォームに参加していない巨大なネットワークを間違いなく見逃していると思います。プラットフォームが本当に気にかけているのはゲームをする白人の男性だからです」。

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Nariko Mizoguchi

ツイッターがアバター関連スタートアップFacemojiに出資

アバター関連のスタートアップ企業はここ数年の間に次々と生まれては消えていったが、その背後にいる起業家の多くが当初想像していた未来は、多かれ少なかれ正確であることが証明されている。Apple(アップル)はMemoji(ミー文字)によるアバター表現に関心を高めており、Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏はFacebook(フェイスブック)をメタバース企業にしたいと考えている。また、ユーザーが仮想世界に入り込み、自分のキャラクターのためのアクセサリーを購入するRoblox(ロブロックス)のようなプラットフォームは、かつてないほどの人気を博している。

Facemoji(フェースモジ)は、ゲームやアプリの開発者が同社のSDK(ソフトウェア開発キット)を使ってアバターシステムをアプリに導入するためのプラグアンドプレイ技術プラットフォームを構築している。Facemojiは、Play Ventures(プレイベンチャーズ)を中心に、Twitter(ツイッター)、Roosh Ventures(ルーシュベンチャーズ)、エンジェル投資家が参加した300万ドル(約3億3400万円)のシードラウンドを実施した。

チームによると、この分野の他の多くの企業は、開発者が扱いたくないUnityのプラグインに依存しているが、Facemojiの軽量ソリューションは、独自のレンダリングパイプラインに依存している。また、開発者が望むのであれば、すぐに利用できる多様なアバターアートのシステムをすでに持っている。

画像クレジット:Facemoji

Facemojiは、より多くのゲームメーカーが独自のアバターシステムを簡単に構築したいと考えているが、必ずしも他のネットワークに接続したいとは思っていないと考えている。初期のアバタープラットフォームの弱点は、独自のメタバースとして機能する一貫したクロスプラットフォームのアバターシステムを構築しようとする野心にあることが多い。それは、製品を開発するスタートアップやユーザーにとっては意味のあることだが、ゲームメーカーにとっては、独自のプラットフォームを作る機会をただテーブルの上に置いておくのは無駄なことだった。

Facemojiは、AppleがMemojiを開発者コミュニティに開放することは予想しておらず、Snap(スナップ)の方がより顕著な競争相手であると述べている。Facemojiのスタートアップの競合企業は、ますます速いペースで買収されている。2020年には、RobloxがLoom.aiを買収し、Epic Games(エピックゲームズ)がHyperSense(ハイパーセンス)を買収した。

関連記事:ゲーミングプラットフォームのRobloxがデジタルアバター作成のLoom.aiを買収

Facemojiの創業者たちは、メタバースの流行や最新のNFTブームに強く惹かれており、開発者が統合してユーザーにアバター用のアクセサリーを購入させることができるプラグアンドプレイのNFTストアフロントを開発している。Facemojiは、初期の暗号化されたTwitterのプロフィール写真の使い方は、一般消費者が自分のアバターをカスタマイズすることに興味を持つようになった証拠だと考えている。

「最終的には、エゴに帰結します」とFacemojiのCEOであるRobin Raszka(ロビン・ラズカ)氏は、TechCrunchに次のように述べた。「バーキンのバッグを持っていることをどうやってアピールするか、Twitterのアバターはそのための主要な領域であり、人々はただ見せびらかしたいだけなのです」。

企業への投資をあまり行わないTwitterにとって、これは特に興味深い投資だ。Facemojiのチームは、画面共有ソーシャルアプリSquad(スクワッド)がTwitterに買収される前に、Squadのチームとアバターの統合についていくつか会話をしたと述べている。また、Twitterは、現在進行中のNFTプロジェクトについて詳しく説明しており、CEOのJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏は、この分野のスタートアップ企業を積極的に支援している。

Facemojiチームは、ゲームに加えて、人々がアバターとして次のZoom(ズーム)にダイヤルしたり、クラスに参加したりすることが簡単にできるようになり、実写のアバターがこれまでの汚名を返上し、カメラのオンとオフの間の自然なメディアとして扱われるようになることを期待している。

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画像クレジット:Facemoji

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(文:Lucas Matney、翻訳:Yuta Kaminishi)

サービスとしての「ストーリーズ」、Storytellerを使えば誰でも自分のアプリやウェブサイトにストーリーズの追加が可能に

Snapchat(スナップチャット)が開拓し、Instagram(インスタグラム)がクローンを作った「ストーリーズ」機能は、Google検索からPinterest(ピンタレスト)、その他のストリーミングアプリなども含む、現代のモバイルアプリの定番となっている。この機能が万人向けではないとしても(たとえばLinkedIn[リンクトイン]やTwitter[ツイッター]は最近ストーリーズ機能を停止した)、それでもStoryteller(ストーリーテラー)という企業が「サービスとしてのストーリーズ」(stories as a service)を収益事業としてなんとか立ち上げようとするだけの需要が市場には存在している。

同社のサービスを利用すれば、誰でも自分のアプリやウェブサイトにストーリーズ機能を追加することができるが、その際にコーディングや設定はほとんど必要ない。そうした難しい作業を行う代わりに、Storytellerの顧客はSDKを取り込んで自分のアプリにストーリーズを追加することができる。そして、コンテンツ管理システム(CMS)を利用してストーリーズをオーサリングして公開し、そのパフォーマンスを追跡することも可能になる。

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Storytellerのアイデアは、スコットランドのエジンバラにあるエンターテインメント専門の代理店、Storm Ideas(ストーム・アイディア)からスピンアウトしたものだ。なおStorm Ideasは、Bob Thomson(ボブ・トムソン)氏が設立したメディア企業にさまざまなソーシャルプロダクトを提供している企業だ。トムソン氏が初期の開発に関わり急速に成功した、オンラインのプロフィール画像をカスタマイズするためのツールTwibbon(トゥイボン)が、誕生して程なく2009年にStorm Ideasは設立された。過去10年ほどの間に、Storm Ideasは70人規模の会社に成長し、現在ではスポーツやエンターテインメント業界のクライアントに戦略、デザイン、開発、コンテンツを提供している。

その過程で、Storm Ideasは、顧客のニーズに基づいて他のコンセプトも考え出してきた。例えばタレントにソーシャルアセットを配布するプラットフォームであるHailTo(ヘイルトゥー)は、同社の顧客基盤の拡大に貢献した。

画像クレジット:Storyteller

その中で生まれたのがStorytellerだ。トムソン氏によれば、複数の企業、特に米国のメディア企業たちが、ストーリーズ機能を追加するアイデアを思いついても、実際の実装には苦労しているという。

「そのためのユーザーインターフェイスを開発し、それをAndroid、iOS、ウェブ用に再構築する必要があるからです。もちろんそれらすべてとやりとりを行うことのできるバックエンドも開発しなければなりません。それで終わりではなく、忘れがちですが、それらを管理するためのツールも必要なのです」とトムソン氏は説明する。「私たちは、そのようなことをしてくれる製品の追求にはチャンスがあると感じたのです」。

Storytellerの目標は、Brazeのような企業がプッシュ通知を実現してくれたように、ストーリーズを実現することだ。つまり、各企業が自社で製品を一から作るのではなく、自社のアプリにストーリーズを追加するためにSDKを利用するという選択ができるのだ。

Storytellerの最初の顧客は、Storm Ideasとすでに関係を持っていたHallmark(ホールマーク)だった。Hallmarkは、ユーザーが観た映画を記録できる「Hallmark Movie Checklist」(ホールマーク・ムービー・チェックリスト)アプリを運営している。同社は、毎月数十万人のユーザーに、ニューリリースや注目のセレクションなどのタイムリーな情報を配信する方法を探していた。Storytellerは、2019年にHallmark Movie Checklistとともに開始され、その後数カ月で他の顧客にも同様のツールセットの提供を進めていった。

画像クレジット:Storyteller

現在は独立したビジネスとしてスピンアウトしたStorytellerは、スポーツやエンターテインメント分野の数多くのアプリで数百万人のユーザーにサービスを提供しているが、その企業顧客の名前を公表することは許されていない。

トムソン氏は「大規模なエンタープライズタイプの導入については、2倍になっています」と語っている。

「これは出発のためのすばらしい基盤です。私たちは、もっとも難しい課題から取り組んできました。大企業と一緒に統合作業を進め、大勢のステークホルダーやたくさんの社内政治にも遭遇しました」と彼はいう。「それはときに莫大な労力を必要とする仕事でした。……しかし、当然ながら、私たちはこの先より多くの中規模のお客様にもこのサービスを提供したいと考えています。つまり、もう少し自分で作業をしたいと考えているお客様や、もっと手間のかからないアプローチが欲しいと考えているお客様たちです」。

現在は、ユーザー生成コンテンツを消費者向け製品を追加しようとしている企業ではなく、Storm Ideas がすでにサービスを提供している市場であるスポーツやメディア分野のクライアントに焦点を当てている。

顧客はStorytellerを通じて、バックエンドにアクセスし、画像やビデオ、投票をアップロードしたり、プレビューしたりしてストーリーを作成することができる。顧客はコンテンツを分類し、公開スケジュールを設定し、SDKにデータを投入して、分析結果を追跡することができる。また、Photoshop(フォトショップ)やAfter Effects(アフターエフェクト)などのツールを使ってプロフェッショナルにコンテンツを制作するチームを社内に持っていない小規模な企業向けに、使いやすいコンテンツ制作ツールを提供するスタジオコンポーネントの開発も新たに行っている。

画像クレジット:Storyteller

年内にリリースが予定されているこの機能では、顧客がテンプレートを選択し、自身のコンテンツでカスタマイズすることができる。これはまた、企業ユーザー以外の顧客にとってもStorytellerをより魅力的なものにしてくれる可能性がある。

現在同社は、こうした小規模な顧客に向けて、月間アクティブユーザー数が2万5000人以下のアプリ向けの無料プランから、月間ユーザー数が100万人以下の大規模アプリ向けの最大月額849ドル(約9万4300円)のプランまで、幅広い提供を行っている。さらにそれを超えた場合には、企業向け価格設定がある。

これまでのところ、Storytellerは、代理店の利益、トムソン氏自身の資金、そして初期の顧客からの収入で、資金を調達してきた。

Storytellerのチームには、これまでもプロジェクトに専念して来たStorm Ideasから参加した約30人のコアグループも含まれている。引き続き、個別の採用を続ける予定だ。また、Storytellerを顧客に販売する際に、もしコンテンツ制作面でのサポートが必要とされる場合には、このサービスを提供している親会社のStorm Ideasを紹介している。

画像クレジット:Storyteller

Storytellerは積極的な資金調達を行っていないものの、長期的には「Stories」プロダクトだけでなく、ブランドや企業がストーリーを伝えるための他の方法も視野に入れているため、資金調達を特に拒んでいるわけではない。

「私たちはiOS、Android、Webといった主要なプラットフォームに対応したSDKを開発しています、また同時に、テキスト、画像、ビデオのホスティング、処理、操作に優れたバックエンドと通信するためのAPI、そしてオーサリングやスケジューリングに優れたCMSの開発も行っています」とトムソン氏は語る。

画像クレジット:Storyteller

Storytellerは、セキュリティ、プライバシー、アナリティクスなどの、トムソン氏がいうところの「難しいことはすべて」解決済みのため、縦型ビデオなどの他のフォーマットへの対応を追加することには意味がある。

TikTok(ティクトック)のクローンを作ろうとするアプリ以外にも、多くのアプリが縦型ビデオを採用し始めている。たとえばNetflix(ネットフリックス)は、そのアプリに縦型ビデオを追加している。また、スポーツやメディアエンターテインメントの世界では、アプリ内での動画配信に適したコンテンツやクリップの大規模なライブラリを持っている企業もある。トムソン氏によると、縦型ビデオへの対応は現在の製品ロードマップに含まれているという。

トムソン氏は「Storytellerは新しい製品かもしれませんが、それを支えているリーダーシップチームはそうではありません」という。そして彼は「この製品を最高のものにするために、経験豊富で意欲的なすばらしいチームを集めました。Storytellerのチームは、スポーツやエンターテインメント業界で世界最大級の企業に製品やサービスを提供してきた実績があるので、世界最大級の企業だけでなく、小規模な企業にもストーリーズをサービスとして提供するための最適な場所にいるのです」と付け加えた。

画像クレジット:Storyteller

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(文:Sarah Perez、翻訳:sako)

GrammarlyのSDKで自動化テキストエディティングを自分のウェブアプリケーションに埋め込み可能に

人気の高い自動編集ツールGrammarlyが米国時間9月14日、Grammarly for Developersのリリースを発表した。同社はこの取り組みをText Editor SDKのベータで開始し、プログラマーはGrammarlyのテキスト編集機能をどんなウェブアプリケーションにも埋め込むことができるようになる。

GrammarlyのプロダクトとプラットフォームのトップであるRob Brazier(ロブ・ブレイジャー)氏によると、このSDKのベータリリースでデベロッパーにGrammarlyの自動化エディティングの全能力にわずか数行のコードでアクセスできる。ブレイジャー氏によると「文字どおりわずか2行のHTMLで、デベロッパーはGrammarlyのアシスタンスを自分のアプリケーションに加えることができ、ユーザー全員に、ユーザー自身がGrammarlyをインストールしたり登録することなく、ネイティブのGrammarly体験を利用できるようにする。

そのような外見の下では、デベロッパーは、人工知能の知識や経験がなくても、高度な自然言語処理(NLP)の技術にアクセスできる。要するにデベロッパーは、Grammarlyがすでに作ったものを利用するだけだ。

デベロッパーが作ったアプリケーションのユーザーはGrammarlyのユーザーにならなくてもよいし、うれしいところだが必要があればGrammarlyのアカウントにログインして、そのすべての機能にアクセスできる。ブレイジャー氏は、次のようにいう。「ユーザーにGrammarlyのサブスクリプションがあれば、そういうユーザーは自分のGrammarlyアカウントをデベロッパーのアプリケーションにリンクできる。彼らはGrammarlyにサインインでき、そのアプリケーション中で直接、サブスクリプションで可能な機能をアンロックできる」。

ブレイジャー氏によると、これ(Text Editor SDK)はあくまでもスタート地点であり、基本的な機能だけにとどめ、フィードバックに基づいて今後加える機能を決めていく。「もっとも単純な機能からスタートして、できるだけ多くのユーザーに使ってもらいたい。だからこれは、相当シンプルなプロダクトだ。今後は徐々に進化して高度なソフトウェアに育つだろうが、コードを2行だけ書けば使えることは変わらない」という。

同社がデベロッパーツールを提供するのはこれが初めてだが、これによってプログラマーは自分のアプリケーションの中でGrammarlyの機能にアクセス可能になり、そんな機能をアプリケーションに埋め込める。Zoomも2020年SDKをリリースしたとき同じことを行い、アプリケーションからビデオサービスを利用できるようにしたが、デベロッパーツールの提供に関してはZoomの方がずっと先輩だ。GrammarlyもZoomも人気が拡大したら次のステップは、そのプラットフォームの強いところを公開することだ。Grammarlyの場合は、テキストエディティングの機能をデベロッパーが自分のアプリから利用できるようにする。実はこの考え方を2007年のForce.comで最初に実装したの、はSalesforceだった。

今後どうなるかいうのは早すぎるとブレイジャー氏はいうが、このやり方は、これまでのサブスクリプションに加えて、Grammarlyの新しい収益源になる可能性がある。いずれにしても今回の発表は、プラットフォームの各部をデベロッパーに公開して、Grammarlyの技術者たちがGrammarlyに込めた成果を利用できるようにする大きな戦略の第一歩だ。関心のあるデベロッパーは、ベータプログラムへの参加を申し込むことができる

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画像クレジット:Grammarly

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(文:Ron Miller、翻訳:Hiroshi Iwatani)

ノーコードで非技術者でも使えるコンピュータービジョンを提供するMobius

ベルリンのMobius Labsが、同社のコンピュータービジョン訓練プラットフォームの需要増に応えるために、520万ユーロ(約6億8000万円)の資金調達を完了した。このシリーズAの投資ラウンドをリードしたのはVentech VCで、これにAtlantic LabsとAPEX Ventures、Space Capital、Lunar Ventures、および一部のエンジェル投資家が参加した。

ユーザーは同社が提供しているSDKにより、若干の訓練データのあるカスタムのコンピュータービジョンモデルを自分で作ることができる。一般的な類似製品として売られているソフトウェア製品には、ユーザーの特殊なユースケースに応じた細かいカスタム化ができないものが多い。

また同製品は「ノーコード」を謳っており、非技術系のユーザーでも使えるという。

Mobius LabsのプラットフォームはSDKであり、オンプレミスでもオンデバイスでもどちらでもデプロイできる。顧客がクラウドサービスに接続してAIツールを利用する、というタイプの製品ではない。

CEOでチーフサイエンティストのAppu Shaji(アップ・シャジ)氏は、次のように語る。「弊社のカスタム・トレーニング・ユーザー・インターフェースは、極めてシンプルで使いやすく、事前に何らかの技術知識を必要とすることはまったくありません。このところ私たちの目に入ってくるトレンドは、AIから最大の価値を引き出せるのは技術系の人間ではない、ということです。むしろ多いのは、報道やクリエイティブエージェンシーで仕事をしているコンテンツマネージャーや、宇宙企業のアプリケーションマネージャーなどです。日常的に、視像(ビジョン)の最も近いところにいるのが彼らであり、彼らはAIのエキスパートやデベロッパーチームが助けに来るのを待たずに仕事をしています」。

2018年に創業したMobius Labsでは、現在、30社の顧客企業がそのツールを使ってさまざまなユースケースを実装している。その用途は、カテゴリー分類やリコメンデーション、予測、そして一般的に「ユーザーやオーディエンスを彼らのニーズに合った視覚的コンテンツに接続する」ことだ。当然のことながら、報道や放送、ストックフォトなどの利用が多いが、実際には同社ユーザーの業界はもっと多様で、それぞれが同社の成長に寄与している。

ユーザー企業の規模も多彩で、スタートアップや中小企業もいる。ただしメインは、大量のコンテンツを扱うグローバルなエンタープライズだ。そのため、今でもメディアやビデオ関連の利用が最も多い。しかしながらそれでも、現在の同社は地理空間情報や地球観測といった多様な業種をターゲットとして狙っている。

現在の社員数は30名だが、過去1年半で倍増している。今度の資金で、今後1年以内にさらに倍増し、特にヨーロッパと米国を中心に地理空間情報方面の顧客を開拓したい、という。売り上げも前年比で倍増しているが、顧客をより多分野に広げることにより、さらなる増大を狙っている。

「主な対象業種はビジュアルデータの扱い量が多い業種です。ビジュアルデータの扱い量が多いという点では、地理空間情報の分野を逃すべきではありません。しかし、彼らが持つ膨大な量の生のピクセルデータは、写真などと違って他の役には立たないものだけどね」とシャジ氏はいう。

「彼らが私たちのプラットフォームを利用する例として、川に沿った地域の広がりを調べたければ、衛星からデータを集めて、それらを整列しタグづけして分析するだろう。今はそれを、手作業で行っている。私たちが開発した技術を、いわば軽量級のSDKとして使えば、それを衛星上に直接デプロイして、機械学習のアルゴリズムで分析できる。現在、実際に私たちはそのような観測画像分野の衛星企業と一緒に仕事をしています」。

シャジ氏が主な競合他社として挙げるのは、ClarifaiGoogle Cloud Vision APIだ。「どちらも大きくて強い相手ですが、彼らにできないことが私たちにはできます。彼らのソリューションと違い、私たちプラットフォームはコンピュータービジョンの専門家でない人が利用できる。機械学習のモデルの訓練を、技術者でない人が誰でもできるようになれば、コンピュータービジョンに誰もがアクセスでき、理解できます。仕事の肩書はなんでもいい」とシャジ氏はいう。

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「もう1つの重要な差別化要因は、クライアントデータの扱い方です。私たちはソリューションをSDKの形で提供するため、オンプレミスで完全にローカルにクライアントのシステム上で動作します。データが、当社に戻ってくることはありません。私たちの役割は、人々が自分でアプリケーションを構築し、自分たちのものにできるようにすることです」。

コンピュータービジョンのスタートアップはここ数年、買収のターゲットとして人気がある。一部のITサービス企業は「コンピュータービジョン・アズ・ア・サービス」を看板に掲げるスタートアップを買って自分のメニューを増やそうとしている。またAmazonやGoogleのような巨人は、自前のコンピュータービジョンサービスを提供している。しかしシャジ氏によると、この技術は今までとは異なる段階にあり、「大量採用」の準備が整っていると指摘している。

「私たちが提供しようとしているのは、技術者に力をつけるソリューションではなく、クライアント自身がアプリケーションを自分で作れるためのソリューションです」とシャジ氏は現在の競合状況についていう。「私たちのソリューションはオンプレミスで動き、私たちがクライアントデータを見ることはないため、データのプライバシーも完全です。しかも軽量級の使いやすいソリューションであるため、スマートフォンでもラップトップでも、あるいは衛星上でも、さまざまなエッジデバイスにデプロイできます」。

投資家を代表してVentech VCのパートナーStephan Wirries(ステファン・ウィリーズ)氏は次のように語っている。「Mobius LabsのAppuと彼のチームは、コンピュータービジョンの分野では他に類のないものです。そのSuperhuman Visionと呼ばれるプラットフォームは、感動的なほど革新的であり、新しいオブジェクトを見つけるための訓練が比較的簡単にできるし計算効率もいい。今後さまざまな産業がAIによって変わっていく中で、Mobius Labsはヨーロッパのディープテクノロジーの革新的なリーダー兼教育機械にもなることができるだろう。

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画像クレジット:Yuichiro Chino/Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Hiroshi Iwatani)

アップルがShazamKitでAndroidも含む開発者にアプリのオーディオ認識機能を提供

Apple(アップル)は2018年に、音楽認識アプリShazamの4億ドル(約437億8000万円)の買収を完了した。そして今回はShazamのオーディオ認識能力を、ShazamKitという形で開発者の手に渡そうとしている。この新たなフレームワークでAppleのプラットフォームAndroid双方の開発者が、Shazamの大きな楽曲データベースと、さらに開発者が録音したオーディオによる独自のカスタムカタログも利用して、音楽を認識できるアプリを作成することができる。

すでに多くの消費者が、ボタンを押すと今聴いている楽曲を教えてくれるだけでなく、歌詞を確認したり、楽曲をプレイリストに加えたり、音楽のトレンドを調べたりすることもできるモバイルアプリShazamのことをよく知っている。2008年にローンチしたShazamは、Appleが買収したときすでに、App Storeにおける定番アプリの1つだった。

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Appleは、Shazamを単なる音楽識別ユーティリティとしてだけではなく、もっと良い使い方に導こうとしている。新たなShazamKitにより、開発者はShazamのオーディオ認識能力を利用して独自のアプリ体験を生み出すことができる。

新しいフレームワークは、3つの部分で構成されている。まずShazamカタログ認識は、開発者が楽曲認識機能を自らのアプリに追加する。カスタムカタログ認識は、任意のオーディオに対するオンデバイスのマッチングを実行する。3つ目は、ライブラリの管理だ。

Shazamのカタログ認識は、Shazamを代表するほど非常にポピュラーな機能だ。その環境でかかっている楽曲を認識して、そのタイトルやアーティストといった楽曲のメタデータを取り出す。ShazamKitのAPIは、楽曲のジャンルやアルバムの図柄など、その他のメタデータも返す。また、オーディオのどの部分がマッチしたのかも教えてくれる。

楽曲を照合する際、Shazamは実際には楽曲そのものを照合するわけではない。その代わりに、シグネチャーと呼ばれる非可逆的な表現を作成し、それと照合する。この方法により、ネットワーク上に送信する必要のあるデータ量が大幅に削減される。また、シグネチャーを使って元の楽曲を復元することはできないため、ユーザーのプライバシーも保護される。

Shazamのカタログは何百万曲もの楽曲で構成されており、クラウドでホストされ、Appleによってメンテナンスされている。新しい曲が利用可能になると、定期的に更新される。

ユーザーが開発者のサードパーティ製アプリを使用してShazamKitによる音楽認識を行う場合、Shazamライブラリに曲を保存したいと思うことがあるかもしれない。これはShazamアプリにインストールされているか、音楽認識コントロールセンターモジュールを長押しすることでアクセスできる。ライブラリはデバイス間でも同期される。

Appleは、認識した曲がこのライブラリに保存されることをアプリがユーザーに認識させるよう提案している。ライブラリへの書き込みに特別な権限は必要ない。

画像クレジット:Apple

一方、ShazamKitのカスタムカタログ認識機能は、Shazamの音楽カタログではなく、開発者の音声を認識することで、アプリ内で同期したアクティビティやその他のセカンドスクリーン体験を作り出すことができる。

これにより、生徒がビデオレッスンに沿って学習する教育アプリで、レッスンの音声の一部が生徒のコンパニオンアプリでのアクティビティの開始を促すことができる。また、お気に入りのテレビ番組を見ながら、モバイルショッピングを楽しむことも可能だ。

ShazamKitは現在、iOS 15.0以上、macOS 12.0以上、Mac Catalyst 15.0以上、tvOS 15.0以上、watchOS 8.0以上でベータ版が提供されている。Androidでは、ShazamKitはAndroidアーカイブ(AAR)ファイルの形で提供され、音楽やカスタムオーディオにも対応している。

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:AppleShazam音楽AndroidSDK

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(文:Sarah Perez、翻訳:Hiroshi Iwatani)

アップルがようやく開発者向けにスクリーンタイムAPIを公開

2018年に公開されたiOS 12で、Apple(アップル)は独自の内蔵スクリーンタイム追跡ツールと制御機能を導入した。そして独自のスクリーンタイムシステムを実装したサードパーティアプリの取り締りを開始した。同社は彼らの方法がユーザーのプライバシーを危険に晒しているためだと説明した。当時なかったものは何か?デベロッパーがAppleのスクリーンタイムシステムを利用して、独自の体験を作り出すためのスクリーンタイムAPIだ。それがようやく変わった。

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米国時間6月7日に行われたAppleのWorldwide Developer Conferenceで、同社はスクリーンタイムAPIを発表した。デベロッパーがユーザープライバシーを守りながら、ペアレンタルコントロール体験を開発できるフレームワークだ。

iOS SDK(ソフトウェア開発キット)には新しいSwiftフレームワークが3種類追加され、デベロッパーは子どもがデバイス上でできることを親が管理して制限を加えるためのアプリを開発できるようになった。

このAPIを利用するアプリは、アカウントのロック、パスワード変更の禁止、ウェブトラフィックのフィルタリング、利用できるアプリの制限などさまざまな制約を設定できる。こうした設定はAppleのスクリーンタイムシステムですでに可能だが、デベロッパーは自社ブランドの元で独自の体験を提供できるようになり、Appleのシステムが提供する機能を拡張することもできる。

APIを利用するデベロッパーのアプリは、それ自身をロックして親の承諾なしにデバイスから削除できなくすることもできる。

アプリは親の本人認証を行い、そのユーザーが管理しようとしているデバイスが家族のものであることを確認できる。さらに、Appleによると、このシステムはユーザープライバシーを損なうことなく、親が制限したいアプリとウェブサイトを選ぶことができるという(システムはアプリの識別子やウェブサイトのURLの代わりに、解読不能なトークンだけを返すので、サードパーティはユーザーが使ったアプリやウェブ閲覧の詳細などの個人的データをアクセスできない、とAppleはデベロッパーに伝えている。このため、怪しげな会社がスクリーンタイムアプリを作りアプリ利用に関するユーザーデータを収集する、といったことはできない。

サードパーティアプリは、アプリごとあるいは行動のタイプごとに専用のタイムウィンドウを作り、まもなく時間切れになることを子どもに警告できる。時間になると、管理アプリはウェブサイトやアプリへのアクセスをロックし、子どもに宿題の時間であることを伝えたり、デベロッパーの考えるその他の体験を提供する。

一方で、アプリは子どもが宿題や読書や手伝いなどの仕事を終えたらスクリーンタイムをもらえるインセンティブを設定することもできる。

デベロッパーは、一連の機能を利用してAppleの基本的制御機能の上に独自のアイデアを載せることで、Apple自身のスクリーンタイムシステムにない新たな体験をデザインすることもできる。スクリーンタイムの管理がもっと簡単になりニーズに合わせてもっとカスタマイズできるようになるのなら、親は渋々財布の紐を緩めるだろう。

「ファミリー」環境以外にもスクリーンタイムを利用するアプリはある。例えばメンタルヘルスや幸せな生活などだ。

もちろん、デベロッパーたちはスクリーンタイム機能が公開された時からAPIの提供を求めてきたが、Appleは開発の優先順位を上げなかった。しかし、2020年の反トラスト公聴会でライバルのスクリーンタイムアプリを禁止した行為が取り上げられてから事態は変化した。当時Apple CEOのTim Cook(ティム・クック)氏は会社の決定を擁護し、アプリはMDM(モバイル・デバイス・マネージメント)技術を使用しており、それはホームユースではなく大企業の従業員向けデバイスを管理するために作られていると説明し、それがプライバシーリスクになる、と述べた。

関連記事:アップルのクックCEOが他社のスクリーンタイムアプリを排除した理由を米独禁法公聴会で弁明

WWDCでAppleは同APIの仕組みを詳しく解説するセッションを用意しているので、その時のデベロッパー向け情報が公開されれば、詳しいことがわかるはずだ。

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カテゴリー:ソフトウェア
タグ:AppleWWDC 2021WWDCiOSiOS 15APISDK子どもスクリーンタイムプライバシー独占禁止法

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nob Takahashi / facebook