新型コロナは5Gが原因との陰謀説がインターネット上を駆け巡る

米国や世界の大部分で新型コロナウイルスの感染拡大を遅らせる取り組みが本格化する中、ウイルス関連の陰謀論が盛り上がっている。具体的には、5G技術が新型コロナと関係があるという誤った陰謀論だ。5Gの陰謀を何年も吹聴している陰謀論者の影響も手伝い、暗がりから騒がしい主流へと顔を出した。

新型コロナに関する基本的な医学的事実については科学的なコンセンサスが得られているが、研究者らはなお、5カ月前には誰もその存在を知らなかったウイルスに関して研究を続けている。情報不足と言える状況は、通常インターネットの周辺部に追いやられているアイデアが、パンデミックに関する言説に幅広く忍び込むチャンスとなる。前例のない世界的なヘルスクライシスの危険な特徴だ。

偽情報が含まれるオンライン上の会話を監視するAI企業のYonderによると、陰謀論は通常、周辺部のグループにとどまっているが、流行の間にすばやく主流に移った。

新型コロナの偽情報に関する同社の報告によると、この不確実な時代には「普段とは異なり、陰謀的な考え、噂、警告、パニックが主流として受け入れられる」。現在世の中にみられる偽情報の動きを説明する現象だ。

同社は「周辺部の流言」がインターネットの端から主流に移動するまでに通常6〜8カ月かかると見積もるが、新型コロナ感染拡大後は3〜14日となっているようだ。

「現在のインフォデミックでは、陰謀論やその他の形の誤った情報が前例のない速度でインターネットに広がっている」とYonderの最高イノベーション責任者であるRyan Fox(ライアン・フォックス)氏はTechCrunchに語った。 同氏は、誤った情報が広がる際に「非常に熱心な個人で形成される小グループ」が非常に大きい影響を及ぼす傾向があり、「5G陰謀説」もそうだと考えている。

新型コロナに関する5G陰謀説は目新しいが、5Gに関する陰謀論そのものはそうでもない。「QAnon(Qアノン)やAnti-Vaxxers(ワクチン反対派)などのオンライングループ由来の5Gに関する偽情報は数カ月前から存在していたが、新型コロナとの関連で急速に主流になっている」とフォックス氏は述べる。

Wiredの報告によると、誤った「新型コロナ5G原因説」の種がまかれたのは、5G技術が健康に危険をもたらしウイルスに関連している可能性があると示唆した1月下旬のベルギーの医師とのインタビュー記事だった可能性がある。インタビューから間もなく、オランダ語を話す反5G陰謀論者たちがこの理論を取り上げ、すでに他の5G陰謀説が流布していたFacebookページやYouTubeチャンネルを通じて広まった。その過程のどこかで、携帯の電波塔に放火する者が英国で現れ始めた。政府当局者はウイルスに関する誤まった情報に関連した行為だと考えている。だが電波塔は明らかに間違った標的だ。「英国では5Gの導入が遅れているため、破壊された塔の多くに5Gは入っておらず、攻撃によって3Gと4Gの機器が損傷しただけだ」とThe Guardian(ガーディアン紙)が報じた

今週、陰謀論は主流になり、俳優のJohn Cusack(ジョン・キューザック)氏とWoody Harrelson(ウッディ・ハレルソン)氏などの真に受けた有名人の間で勢いを得ただけでなく、彼らのTwitterとInstagramの大勢のフォロワーに対して偽の5G陰謀説を広げることになった。

Twitterを少し検索すると、陰謀に関して豊富なバリエーションがいまだに流布しているのがわかる。「5Gが武漢で最初にテストされたことは誰もが知っている。偶然ではない!」と、あるTwitterユーザーが主張する。「5Gは最初武漢で、その後他の主要都市で設置されている。偶然?」と別のユーザーが聞く。

過去にも5Gに関する偽情報を助長する材料は多く存在した。昨年ニューヨークタイムズが報じたように、ロシアの国営メディアRTアメリカは、5Gと健康について警告する情報を2018年に放映し始めた。RTアメリカは昨年5月までに、5Gに関して実証されていない主張を特集した7つのプログラムを放映した。その中には、5Gの電波塔が鼻血、学習障害、さらには子供のがんを引き起こす可能性があるとの内容もあった。今人気がある5Gに関するデマは、偽情報キャンペーンと関係している可能性があるが、詳細はすぐには判明しないと思われる。

ソーシャル分析会社のGraphikaは以前、5G関連の陰謀論に関する調査で、5Gに関するオンライン上の会話の大部分が健康への影響に焦点を当てていることを発見した。この種の陰謀を共有するアカウントは、反ワクチン、平らな地球、ケムトレイルに関して誤った情報を主張するアカウントと重なっている。

5G新型コロナ陰謀説は離陸したばかりだが、オンライン上を駆け巡るパンデミック関連の偽情報として最近唯一のものとはとても言えない。危機の早い時期から、偽の治療法や予防的な手当てに関する情報が詐欺師らに稼ぐ機会を提供していた。ソーシャルメディア企業がこの上なく誤った情報を取り締まる積極的な方針を発表した後でも、詐欺や陰謀論は依然としてAIの目を盗んで表に出てくる余地がある。一部の詐欺師はYouTubeで、自動システムに警告する「コロナウイルス」といったターゲットワードを避け、ウイルスを防げるとうたう粉末サプリメントのような製品を販売している。人間のモデレーターらが自宅待機となった今、YouTubeやその他のソーシャルプラットフォームはこれまで以上にAIに依存している。

ソーシャルネットワークは、インターネット上を漂う新型コロナ偽情報の多くを早く拡散した一因だと思われるが、すべてがそれで説明できるわけではない。Twitter、Facebook、YouTubeはすべて、2018年にInfowarsの創設者であり著名な陰謀論者であるAlex Jones(アレックス・ジョーンズ)氏をプラットフォームに出入り禁止としたが、同氏は自身のサイトで販売する製品が新型コロナの予防または治療に使えるという誤った主張を展開している。

その主張は非常に危険なためFDA(米食品医薬品局)が今週介入し、ジョーンズ氏に製品販売を中止するように警告する書簡を発行した。FDAが引用したInfowarのビデオでは、新型コロナを心配する視聴者に「Infowarsストアに行って、免疫システムを強化し感染を撃退するために本当に機能する『銀貨』を少しだけ選ぶ」よう促している。

新型コロナが引き起こした日常生活の混乱が今後もしばらく続く可能性が高いことが明らかになった今、新型コロナに関する陰謀論や詐欺もまた留まりそうだ。最終的には壊滅的なウイルスに対抗するワクチンが広く接種されることになるだろうが、歴史から予見できることがあるとすれば、ワクチンでさえオンライン上の陰謀家にとっての格好の餌食になる可能性が高い。

画像クレジット:Photo by Jane Barlow – WPA Pool/Getty Images / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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