Facebookは、中国が権威主義的な社会的価値観を輸出するという懸念を、事業の分割や抑制を求める圧力への反論の材料にし始めた。Facebookの幹部たちは口々に、もし米政府が企業規模の制限、企業買収の妨害、暗号通貨の禁止などに出れば、そうした制約のない中国企業が海外で勝利し、巨大な力と膨大なデータを中国政府にもたらすようになると主張している。CEOのマーク・ザッカーバーグ氏、COOのシェリル・サンドバーグ(Sheryl Sandberg)氏、コミュニケーション担当副社長のニック・クレッグ(Nick Clegg)氏はみな、この立場を表明している。
この論点は、米国時間7月16日と17日の米議会によるLibra(Facebookが主導し2020年前半に運用開始を目指しているデジタル通貨)に関する公聴会で改めて具体的に語られた。Facebookのブロックチェーンを扱う子会社Calibraのデイビッド・マーカス(David Marcus)氏は、米下院金融サービス委員会のために用意した意見書で、こう述べている。
「米国は、デジタル通貨と支払いの分野ではイノベーションを主導できず、他国がそれを行うようになると私は考えています。もし行動を起こせなければ、たちまち、まったく価値観が異なる別の者にデジタル通貨を支配されるようになるでしょう」。
マーカス氏は、昨日開かれた上院銀行小委員会でも、こう話している。「このまま動かずにいれば、10年15年後、世界の半分はブロックチェーン技術に依存した社会となったときに、我々の国家安全保障の手段が及ばない事態になりかねません」。
この議論は、下院が検討している「巨大ハイテク企業の金融業参入を禁止する」法律に対抗するものだ。ロイターの報道によれば、この法案は、Facebookなどの年間収益が250億ドル(約2兆7000億円)を超える企業は「デジタル資産の設立、維持管理、運用を行うべきではない。これらは交換媒介物、勘定単位、価値の保存など同様の機能に広く使われることを想定している」とのことだ。
Facebookは、暗号通貨は避けて通れないとのメッセージを伝えようとしている。Libraの禁止は、良心を欠くいい加減な企業にこの技術を支配させるチャンスを与えるだけかも知れない。しかし、Facebookのこの主張は、暗号通貨のためだけではない。
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この考えは、ちょうど1年前、ザッカーバーグ氏がRecorde誌のカーラ・スウィッシャー(Kara Swicher)氏のインタビューに応えたときに固まった。「この質問は政策的な観点からのものだと思います。つまり、米企業を世界に輸出したいか?」。
「私たちはこの国で育ち、ここでとても大切に感じている多くの価値観を共有していると思います。そうすることは、安全保障の面でも価値観の観点からしても、総じてとてもいいことだと思います。なぜなら、それとまったく異なるのが、率直に言って、中国企業だからです。もし私たちが、『オーケー、ボクたちは国家として、それらの企業の羽根を切って、他の場所での活動を難しくするよに決めよう。そこでは小さくなるからね』というスタンスを受け入れたとしましょう。すると、たくさんの企業が私たちがやている仕事に参入を望むようになり、またそれが可能になります」。
それはとくに中国企業のことを指しているのかと質問すると、ザッカーバーグ氏はこう強調した。
「そう。それに、彼らの価値観は我々のものとは違います。選挙妨害やテロリズムのことを政府が把握したとしても、中国企業は我々ほど協力的にはならず、その国の利益のために力を貸すなんてことは、絶対にないと思います」。
今年の4月、ザッカーバーグ氏は、人権に関する実績に乏しい国々でのデータローカライゼーション規制にFacebookが反対する理由を述べた際に、さらに一歩踏み込んでいる。彼は、外国にデータが保管されることの危険性を説いている。規制当局がFacebookの活動や、各地でのイノベーションの発生を阻止すれば、まさにそれが起きる。哲学者ユヴァル・ハラリ氏に、ザッカーバーグ氏はこう話した。
「将来を考えるとき、非常に不安になることに、私が示してきた価値観(インターネットとデータに関するもの)が、すべての国に共通する価値観ではないという問題があります。どこかのとても権威主義的な国で、ヨーロッパやその他の多くの地域で用いられている規制の枠組みからかけ離れたデータ政策が話題になり導入される。GDPRのような、人々の自由や権利を尊重する規制を各国が受け入れる、という形とは違うものとしてすぐに思い浮かぶのが、現在広まりつつある権威主義的なモデル、つまり各国が全員のデータをその国のデータセンターで管理するという方法です。もし私が政府の人間で、そこへ軍隊を送り込めば、監視や軍事のための欲しいデータにいくらでもアクセスできてしまうのです。
それは非常に暗い未来です。インターネットサービスを構築する人間として、または単に世界の市民として、進んで欲しくない方向です。もし、政府があなたのデータにアクセスできるようになれば、あなたが何者かを特定し、あなたとあなたの家族を捕らえ、傷つけ、本当に深い身体的危害を与えることが可能になります」。
Facebookがこのほど雇い入れたコミュニケーション部門の責任者ニック・クレッグ氏は、1月、記者団に対してこう話した。
「これらはもちろん、道理に適った質問ですが、驚くほどの頭脳と、私たちが大西洋を挟んで要求しているプライバシーやデータ保護に関する法律や規制の制約を受けずに大規模にデータを処理できる能力を合体させた中国については、あまり語られていません。(そしてそのデータは)論議を呼んでいる中国政府の社会信用システムのような、さらに陰湿な監視に悪用されます」。
Facebookの共同創設者クリス・ヒューズ(Chris Hughes)氏の、Facebookは分割させるべきという主張に対して、クレッグ氏は5月にこう書いている。「Faebookは分割してはいけない。しかし、責任は果たさなければいけない。インターネットの世界で私たちが直面している難題を心配するのなら、成功している米企業を解体するのではなく、インターネットの権利に関するルールに従うことを考えるべきだ」。
その翌月、ベルリンでのスピーチの中で、彼はこう力説した。
「もし、私たちヨーロッパと米国がホワイトノイズを切って協力を始めなければ、インターネットがもはやユニバーサルな空間ではなく、それぞれの国が独自のルールと権威主義的な体制で、市民の自由を制限する一方で吸い上げた市民のデータの貯蔵庫が立ち並ぶ世界となったとき、私たちは夢遊病者のように、そこをさまようことになります。私たち西側諸国が、ただちに、徹底的にこの問題に取り組まなければ、その答は、我々の手から離れてしまいます。地球上の私たちの側に共通のルールを作れば、それが好例となり、残りの世界も追従します」。
COOのシェリル・サンドバーグ氏は、5月に行われたCNBCのインタビューで、かなり直接的にこの問題点を突いている。
「分割は可能ですし、他のハイテク企業も分割できるでしょうが、人々が心配している根底の問題は解決されません。人々がハイテク企業の規模と権力を心配する一方で、米国では中国企業の規模と権力、そして中国企業は今後も分割されないことを知り、心配が持ち上がっています」。
脅しの戦法
事実、中国は個人の自由とプライバシーに関して、米国とは異なる価値観を持っている。そしてそう、Facebookを分割すれば、WhatsAppなどの製品が弱体化し、中国の巨大ハイテク企業TencentのWeChatなどの急速な増殖を招くだろう。
しかし、Facebookの問題を回避できたとしても、オープンで公正なインターネットにもたらされる中国の影響がなくなるわけではない。この問題を「規制強化は中国に利する」という枠にはめれば、誤った二元論を生む。ザッカーバーグ氏がウェブを通して自由を輸出しようと真剣に政府と協力する意志があれば、もっと建設的なアプローチが考えられる。さらに、適切な規制がない中で犯された過ちにより積み重ねられたFacebookへの不信感が、米国的な理想が米企業によって広められるという認識を、間違いなく大きく傷つけたということもある。
Facebookの分割は、特にそれが今後の不正を防ぐための理路整然とした理由ではなく、Facebookの不正行為に基づいて行われるなら、答えにはならないだろう。結局のところ有効なアプローチは、大規模に、または急速に成長するソーシャルネットワークの今後の買収を止めること、本当の意味でのデータのポータビリティーを保証させ、競合他社に乗り換える自由を現在のユーザーに与えること、プライバシーに関するポリシーの適切な監視を行うこと、そして、Libraの運用開始を、ユーザーを混乱させないよう、テロリストに悪用されないよう、世界経済を危機に陥れないよう、いろいろな段階でのテストを重ねる間、遅らせることだ。
脅しの戦法は、Facebook自身がそれを恐れていることの証でもある。長年、安全戦略で成長を続けてきた結果、ついにそこへ辿り着いてしまったのかも知れない。米連邦取引委員会による50億ドル(約5400億円)の制裁金が課されても、1四半期の収益がそれを超える企業にとっては、ちょっと手首を叩かれた程度のことでも、分割となればダメージは大きい。恐怖を振りまくことより、悪用を防ぐことに集中して規制当局と誠意をもって協力することが、Facebookの利益になる。中国の脅威を持ち出し、政府当局者の不安を煽るのが、政治的にはうまいやり方であって、もしかしたら有効なのかも知れない。しかし、それは間違っている。
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(翻訳:金井哲夫)