脅しに出たFacebook、我々がやらなければ中国に乗っ取られる

Facebookは、中国が権威主義的な社会的価値観を輸出するという懸念を、事業の分割や抑制を求める圧力への反論の材料にし始めた。Facebookの幹部たちは口々に、もし米政府が企業規模の制限、企業買収の妨害、暗号通貨の禁止などに出れば、そうした制約のない中国企業が海外で勝利し、巨大な力と膨大なデータを中国政府にもたらすようになると主張している。CEOのマーク・ザッカーバーグ氏、COOのシェリル・サンドバーグ(Sheryl Sandberg)氏、コミュニケーション担当副社長のニック・クレッグ(Nick Clegg)氏はみな、この立場を表明している。

この論点は、米国時間7月16日と17日の米議会によるLibra(Facebookが主導し2020年前半に運用開始を目指しているデジタル通貨)に関する公聴会で改めて具体的に語られた。Facebookのブロックチェーンを扱う子会社Calibraのデイビッド・マーカス(David Marcus)氏は、米下院金融サービス委員会のために用意した意見書で、こう述べている。

「米国は、デジタル通貨と支払いの分野ではイノベーションを主導できず、他国がそれを行うようになると私は考えています。もし行動を起こせなければ、たちまち、まったく価値観が異なる別の者にデジタル通貨を支配されるようになるでしょう」。

2019年7月16日、ワシントンD.C.の連邦議会で開かれた上院銀行住宅都市委員会公聴会で証言するFacebookのCalibra代表デイビッド・マーカス氏。同委員会は「Facebookが提案するデジタル通貨とデータプライバシーに対する考察」に関する公聴会を開いた(写真: Alex Wong/Getty Images)

マーカス氏は、昨日開かれた上院銀行小委員会でも、こう話している。「このまま動かずにいれば、10年15年後、世界の半分はブロックチェーン技術に依存した社会となったときに、我々の国家安全保障の手段が及ばない事態になりかねません」。

この議論は、下院が検討している「巨大ハイテク企業の金融業参入を禁止する」法律に対抗するものだ。ロイターの報道によれば、この法案は、Facebookなどの年間収益が250億ドル(約2兆7000億円)を超える企業は「デジタル資産の設立、維持管理、運用を行うべきではない。これらは交換媒介物、勘定単位、価値の保存など同様の機能に広く使われることを想定している」とのことだ。

Facebookは、暗号通貨は避けて通れないとのメッセージを伝えようとしている。Libraの禁止は、良心を欠くいい加減な企業にこの技術を支配させるチャンスを与えるだけかも知れない。しかし、Facebookのこの主張は、暗号通貨のためだけではない。

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この考えは、ちょうど1年前、ザッカーバーグ氏がRecorde誌のカーラ・スウィッシャー(Kara Swicher)氏のインタビューに応えたときに固まった。「この質問は政策的な観点からのものだと思います。つまり、米企業を世界に輸出したいか?」。

「私たちはこの国で育ち、ここでとても大切に感じている多くの価値観を共有していると思います。そうすることは、安全保障の面でも価値観の観点からしても、総じてとてもいいことだと思います。なぜなら、それとまったく異なるのが、率直に言って、中国企業だからです。もし私たちが、『オーケー、ボクたちは国家として、それらの企業の羽根を切って、他の場所での活動を難しくするよに決めよう。そこでは小さくなるからね』というスタンスを受け入れたとしましょう。すると、たくさんの企業が私たちがやている仕事に参入を望むようになり、またそれが可能になります」。

それはとくに中国企業のことを指しているのかと質問すると、ザッカーバーグ氏はこう強調した。

「そう。それに、彼らの価値観は我々のものとは違います。選挙妨害やテロリズムのことを政府が把握したとしても、中国企業は我々ほど協力的にはならず、その国の利益のために力を貸すなんてことは、絶対にないと思います」。

2018年4月10日、ワシントンD.C.キャピトルヒルにあるハート上院オフィスビルで開かれた上院司法および商業の合同委員会で証言するFacebook共同創設者、会長、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏。ザッカーバーグ氏(33歳)は、8700万人のFacebookユーザーの個人情報がイギリスの政治コンサルティング企業Cambridge Analyticaに渡った事件とトランプ氏の選挙キャンペーンとの関係が報道された後に証言を求められた

今年の4月、ザッカーバーグ氏は、人権に関する実績に乏しい国々でのデータローカライゼーション規制にFacebookが反対する理由を述べた際に、さらに一歩踏み込んでいる。彼は、外国にデータが保管されることの危険性を説いている。規制当局がFacebookの活動や、各地でのイノベーションの発生を阻止すれば、まさにそれが起きる。哲学者ユヴァル・ハラリ氏に、ザッカーバーグ氏はこう話した。

「将来を考えるとき、非常に不安になることに、私が示してきた価値観(インターネットとデータに関するもの)が、すべての国に共通する価値観ではないという問題があります。どこかのとても権威主義的な国で、ヨーロッパやその他の多くの地域で用いられている規制の枠組みからかけ離れたデータ政策が話題になり導入される。GDPRのような、人々の自由や権利を尊重する規制を各国が受け入れる、という形とは違うものとしてすぐに思い浮かぶのが、現在広まりつつある権威主義的なモデル、つまり各国が全員のデータをその国のデータセンターで管理するという方法です。もし私が政府の人間で、そこへ軍隊を送り込めば、監視や軍事のための欲しいデータにいくらでもアクセスできてしまうのです。

それは非常に暗い未来です。インターネットサービスを構築する人間として、または単に世界の市民として、進んで欲しくない方向です。もし、政府があなたのデータにアクセスできるようになれば、あなたが何者かを特定し、あなたとあなたの家族を捕らえ、傷つけ、本当に深い身体的危害を与えることが可能になります」。

Facebookがこのほど雇い入れたコミュニケーション部門の責任者ニック・クレッグ氏は、1月、記者団に対してこう話した

「これらはもちろん、道理に適った質問ですが、驚くほどの頭脳と、私たちが大西洋を挟んで要求しているプライバシーやデータ保護に関する法律や規制の制約を受けずに大規模にデータを処理できる能力を合体させた中国については、あまり語られていません。(そしてそのデータは)論議を呼んでいる中国政府の社会信用システムのような、さらに陰湿な監視に悪用されます」。

Facebookの共同創設者クリス・ヒューズ(Chris Hughes)氏の、Facebookは分割させるべきという主張に対して、クレッグ氏は5月にこう書いている。「Faebookは分割してはいけない。しかし、責任は果たさなければいけない。インターネットの世界で私たちが直面している難題を心配するのなら、成功している米企業を解体するのではなく、インターネットの権利に関するルールに従うことを考えるべきだ」。

その翌月ベルリンでのスピーチの中で、彼はこう力説した。

「もし、私たちヨーロッパと米国がホワイトノイズを切って協力を始めなければ、インターネットがもはやユニバーサルな空間ではなく、それぞれの国が独自のルールと権威主義的な体制で、市民の自由を制限する一方で吸い上げた市民のデータの貯蔵庫が立ち並ぶ世界となったとき、私たちは夢遊病者のように、そこをさまようことになります。私たち西側諸国が、ただちに、徹底的にこの問題に取り組まなければ、その答は、我々の手から離れてしまいます。地球上の私たちの側に共通のルールを作れば、それが好例となり、残りの世界も追従します」。

COOのシェリル・サンドバーグ氏は、5月に行われたCNBCのインタビューで、かなり直接的にこの問題点を突いている。

「分割は可能ですし、他のハイテク企業も分割できるでしょうが、人々が心配している根底の問題は解決されません。人々がハイテク企業の規模と権力を心配する一方で、米国では中国企業の規模と権力、そして中国企業は今後も分割されないことを知り、心配が持ち上がっています」。

2018年9月5日、ワシントンD.C.米連邦議会で開かれた外国による影響工作におけるソーシャルメディア・プラットフォームの使用に関する公聴会で証言するFacebook最高執行責任者シェリル・サンドバーグ氏。TwitterのCEOジャック・ドーシー氏とFacebookのCOOシェリル・サンドバーグ氏は、外国の工作員が、どのように彼らのプラットフォームを使い、世論に影響を与え操ろうとしているかという質問に晒された(写真:Drew Angerer/Getty Images)

脅しの戦法

事実、中国は個人の自由とプライバシーに関して、米国とは異なる価値観を持っている。そしてそう、Facebookを分割すれば、WhatsAppなどの製品が弱体化し、中国の巨大ハイテク企業TencentのWeChatなどの急速な増殖を招くだろう。

しかし、Facebookの問題を回避できたとしても、オープンで公正なインターネットにもたらされる中国の影響がなくなるわけではない。この問題を「規制強化は中国に利する」という枠にはめれば、誤った二元論を生む。ザッカーバーグ氏がウェブを通して自由を輸出しようと真剣に政府と協力する意志があれば、もっと建設的なアプローチが考えられる。さらに、適切な規制がない中で犯された過ちにより積み重ねられたFacebookへの不信感が、米国的な理想が米企業によって広められるという認識を、間違いなく大きく傷つけたということもある。

Facebookの分割は、特にそれが今後の不正を防ぐための理路整然とした理由ではなく、Facebookの不正行為に基づいて行われるなら、答えにはならないだろう。結局のところ有効なアプローチは、大規模に、または急速に成長するソーシャルネットワークの今後の買収を止めること、本当の意味でのデータのポータビリティーを保証させ、競合他社に乗り換える自由を現在のユーザーに与えること、プライバシーに関するポリシーの適切な監視を行うこと、そして、Libraの運用開始を、ユーザーを混乱させないよう、テロリストに悪用されないよう、世界経済を危機に陥れないよう、いろいろな段階でのテストを重ねる間、遅らせることだ。

脅しの戦法は、Facebook自身がそれを恐れていることの証でもある。長年、安全戦略で成長を続けてきた結果、ついにそこへ辿り着いてしまったのかも知れない。米連邦取引委員会による50億ドル(約5400億円)の制裁金が課されても、1四半期の収益がそれを超える企業にとっては、ちょっと手首を叩かれた程度のことでも、分割となればダメージは大きい。恐怖を振りまくことより、悪用を防ぐことに集中して規制当局と誠意をもって協力することが、Facebookの利益になる。中国の脅威を持ち出し、政府当局者の不安を煽るのが、政治的にはうまいやり方であって、もしかしたら有効なのかも知れない。しかし、それは間違っている。

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(翻訳:金井哲夫)

EU競争政策担当委員の提言「巨大ハイテク企業を分割してはいけない、データアクセスを規制せよ」

巨大ハイテク企業の分割は最後の手段であるべきだ。欧州連合(EU)競争政策担当委員Margrethe Vestager(マグレーテ・ベステアー)氏はそのように提言した。

「企業を分割して私有財産を分割すれば、その影響は広範囲に及ぶため、市場の消費者に大きな恩恵を与える確固たる言い分が必要です。王道のやり方では実現できないものでなければいけません」と、彼女は先週末、SXSWで行われた、RecodeのKara Swisher(カーラス・ウィッシャー)氏とのインタビューで警告を発した。「対象となるのは私有財産です。その企業は、彼らのイノベーションを基に築かれ、投資を受け、成功しているのです」

ベステアー氏は、2014年に欧州委員会で独占禁止法問題を担当するようになってから、数々の大規模な(しばしば高額の罰金を科すなど)介入を行ってきたことから、さらに今でもGoogleに対して際だった捜査を大々的に続けていることから、巨大ハイテク企業が恐れる存在として高評価を得てきた。

しかし、欧米各国の市場の(米国大統領候補と噂される著名な人物を含む)野党政治家たちが、テクノロジーに厳しいとされるこの欧州委員会議員と対立する形になった。彼女は、市場を歪めている巨大ハイテク企業をハンマーで叩き潰すのではなく、データの流れにメスを入れるべきだと主張しているのだ。

「企業を分割するという非常に大胆な提案は、私たち欧州の観点からすれば最後の手段です」と彼女は言う。「今、私たちが取り組んでいるのは、独占禁止法に関わる問題です。独占的地位の乱用、製品の抱き合わせ販売、自己宣伝、他者の妨害などに対して、独占禁止法のアプローチが適切か、それが市場を、独占的地位を乱用する者がなく、小さな企業もフェアに競争できる公正な場所にするかどうかを見るためです。なぜなら、その小さな企業が次なる大物に成長し、消費者に素晴らしいアイデアをもたらす次なる大企業になるかも知れないからです」

彼女はまた、市場の不均衡を是正すると自身が信じる、公正さに焦点を当てた介入の実例として、欧州の主要政治機関の間で先月交わされた、オンラインプラットフォームの透明化に関する規制の合意を挙げた。

巨大ハイテク企業に関連する問題に規制当局が本来集中すべきは、デジタル産業の調査や、市場がどのように運営されているかを詳しく知るための聞き取りなどだと彼女は言う。慎重で入念な調査によって、合理的でデータに基づく捜査方法が形作られるという。

とは言うものの「Googleの分割」には、政治的な宣伝文句としてインパクトがある。

ベステアー氏が独占禁止法問題の担当責任者でいられる期間は間もなく終わる(欧州委員会での任期が今年で終了する)。11月1日でこの部門のトップではなくなると彼女は話している。だが、少なくとも暫定的に、欧州委員会委員長の候補者名簿に名前が残されている。

委員は以前、巨大デジタル企業をコントロールするのか分割するのかという議論の中で、データアクセスを制限するという興味深い選択肢を示している。

そしてすでに、欧州の一部の規制当局はそちらの方向に傾いている。ドイツ連邦カルテル庁(FCO)は先月、Facebookに対して同社のサービスでのデータの使用量を制限する決定を下したと発表した。FCOのこの動きは、FacebookにInstagramやWhatsAppなどの事業部門の分離や売却を強要することなく、データレベルで内部分割させるのと同じ効果があると言われてきた。

そのため、Facebookの創設者Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏が、つい先週、その3つのサービスを技術レベルで統合するという大規模な計画を発表したことには、さして驚かなかった。暗号化コンテンツへの切り替えを宣伝しているが、「プライバシー保護」のためにメタデータを統合するという。そこには、製品レベルでの内部のデータの流れを分離してコントロールしようとする規制当局の目論見に対抗するために、帝国を再構築しようという意図が透けて見える。

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大笑いだ。Facebookは、InstagramとWhatsAppとFacebookのすべてのデータを統合するが、暗号化するのはFacebookのメッセージのコンテンツデータだけ(メタデータは含まれない)。それをプライバシーを保護したパッケージとして販売する。宣伝の大傑作だ。メディアは騙される。

現時点で、競争政策担当委員会は、Facebookやその他のソーシャルメディアの公式な調査を発表していないが、当委員会は、ソーシャルメディアの巨人たちのデータの使い方に目を光らせていると、ベステアー氏は話していた。

「私たちは、ソーシャルメディア、つまりFacebookの上空に浮かんでいる感じです。そうした目的にデータをどう使うのか」と彼女は話す。同様に、Amazonの商品データの使い方についても予備調査を行っていると警告した(これもまだ公式な調査ではない)。

競争規制全般において、「論議が本当の意味で活発になってきたのは、よいことです」と彼女は言った。「以前、国会議員たちを訪ねて話をしたとき、競争によって社会はどのような恩恵を受けるのかといった、新しい興味や関心を感じました。なぜなら、公正な競争があれば、私たちは消費者としての役割を果たし、市民に奉仕する市場が作れるからです。市民が市場に奉仕するのではありません」。

Facebookが突然プライバシー「重視」に切り替わったことを、個人的に信用するかどうかを尋ねると、その発表が本当の意味での哲学と方向性の変化を示すものであり、Facebookのビジネス慣行を改善させるものであるなら、いいニュースだろうとベステアー氏は答えた。

しかし、今の時点ではザッカーバーグ氏の言葉を素直には受け取れないと彼女は言う。あれほどの長期間、プライバシーを軽視し続けた歴史を持つ企業が、誠実な方向に舵を切ったなどと信じられるかと強く迫るインタビュアーのウィッシャー氏に対して、彼女は「それを最良の事態だと思えるまでには、長い時間がかかります」と丁重に答えた。

巨大ハイテク企業に少ない税金

インタビューは、巨大ハイテク企業が税金をほんのわずかしか払っていない問題に及んだ。

デジタル産業が従来産業と比べて公平な税を負担できるように、グローバルな税制を再構築することが「急務」だとベステアー氏は話す。EU加盟国同士の合意が不十分であるため、他所から口を挟まれるような委員会の提案に抵抗して、一部の国は独自の基準を前面に出していることを彼女は強調した。

今年、フランスが巨大ハイテク企業に課した税額は「絶対に必要であるが残念だった」とベステアー氏は言っている。

「比較できるように計算すると、デジタル企業の平均税率は9パーセントであり、従来企業の平均税率が23パーセントであることがわかります」と彼女は言う。「しかし、どちらの企業も、資本、優秀な従業員、ときとして同じ消費者を巡って行われる競争で成り立つ同じ市場にいます。従って明らかに不公平です」。

委員が望むのは、現在の不公平な税負担を解消したい思うEU加盟各国からの「圧力」により、「欧州が一丸となった方針」に向けた力が生まれることだ。そのためには、国ごとに異なる税制を早急に改めなければならない。

彼女はまた、欧州は、経済協力開発機構(OECD)にも「そこを押してほしい」と強く願っていると言う。「なぜならOECDは、世界各地の関の高まりを感じているからです。米国側の動きにもです」

税制改革が、巨大ハイテク企業と社会の間の不公平を是正するのがいいのか、それとも規制当局は「次の世紀まで」巨大ハイテク企業に罰金を科し続けるのかとウィッシャー氏は疑問を呈した。

「違法行為があれば罰金を科します。事業を行う際には、税金を払って社会に貢献します。これらは別物であり、確実に、どちらも必要なのです」とベステアー氏は答えた。「しかし、大半の企業は社会貢献をしているのに、一部の企業だけしないというのは許されません。なぜなら、このようなことが続けば、市場での公正を欠き、市民にとっても不公平だからです」

彼女はまた、巨大ハイテク産業の族議員の優位性(プライバシー規制を声高に叫べば、ファンドのコンプライアンスが容易になるので巨大企業には有利になる)についても手短に語った。欧州の一般データ保護規制(GDPR)には「いくつもの区分」があるので、大企業も中小企業もひとくくりに同じ条件を突きつけるわけではないという。

もちろん中小企業は「Googleと同じ義務を負うことはありません」とベステアー氏は話す。

同意と謎めいた利用規約における消費者の権利問題への大きな不満を挙げながら、「そのほうが楽だと感じれば、彼もうまくやれるでしょう」と彼女は付け加えた。

「なぜなら、利用規約に同意したとき、いったい何に同意したのか、私もまだはっきりとわからないからです。『なるほど、私がこれにサインをすれば、私は完全に満足できる』と言える市民であればよかったと思います」

しかし、欧州のプライバシーの権利が意図したとおりに完全に機能するまでには、まだ長い道のりがあることを彼女は認めている。消費者個人が、法で与えられた権利を行使するのは、まだまだ非常に困難だ。

「私は、自分の個人データがあることを知っていますが、その所有権をどのように行使したらよいかはわかりません」と彼女は言う。「イノベーションのために、市場への新規参入企業を支援するために、自分のデータを多くの人に使って欲しいと思ったとき、どのように許可すればいいのか。もしそれが大規模に行えるようになれば、私たちは自分自身を完全に晒すことなく、有用なデータだけを市場にインプットできます」と彼女は話す。

データフローに課税するアイデアや、巨大ハイテク企業に歯止めをかけるその他の方法について尋ねると、自分の個人情報を法人が利用したときに、その人が価値を引き出せるようにする仲介市場がヨーロッパに生まれてきていると、ベステアー氏は話した。これは、データフローに文字通り課税するのではなく、自分から持ち去られた個人情報の価値の一部を、消費者が取り戻すという考え方だ。

「ヨーロッパではまだ誕生期ですが、自分の個人データの所有権が確立された今、いわば自分の情報を金銭に換えられる仲介市場が発展しつつあります。自分のデータを金銭に換えるのは、巨大ハイテク企業ではありません。自分のデータが渡される度合いに応じて、毎月まとまった料金が支払われるようになるかも知れません」と彼女は言う。「これもひとつの好機です」

また彼女は、「膨大な量のデータが市場参入を阻むことがないよう」にする方法を委員会は探っていると話した。つまり、新規参入企業のイノベーションのためのバリアだ。巨大ハイテク企業が蓄積した膨大なデータがAIの研究開発に大いに貢献していることを考えると、そのバリアは重要になる。

もうひとつ興味深い会話があった。ベステアー氏は、音声インターフェイスの利便性が競争上の難しい課題をもたらしたという。その技術は、多くの選択肢を与えない機関銃のようなQ&A形式の対話を用いることで、市場のパワーを自然に集められるからだ。

「本当に唖然とさせられてしまうものに、音声では選択肢がないということがあります」と彼女は言う。音声アシスタントの原動力となる部分は、ユーザーのあらゆる質問に対して、複数の提言をしないように作られているというのだ。「その状態で、音声検索は競争ができるでしょうか?これが市場をどう変えるのか、私たちはそのような市場とどう向き合えばいいのか。解明しなければならない問題です」

ここでも彼女は、選択肢を示さないインターフェイスを改善する有効な道筋として、規制当局は背後のデータの流れに注目していることを告げた。

「私たちは、データへのアクセス方法がどのように市場を変えるかを解明しようとしています」と彼女は言う。「データを抱え込んでいて、イノベーションのためのリソースも抱え込んでいる人が、他人にデータへのアクセスを許すでしょうか。だから、巨大企業にはノベーションが期待できないのです」。

今から10年後のテクノロジーの世界で考えられる最悪の事態とは何かと尋ねられると、彼女は「テクノロジーは揃っていても、社会的に有益な見通しや方向性がない」状態だと答えた。

反対に、議員として最善の未来は「課税と、データアクセスの規制に十分な措置をとり、公正な市場を築く意思を持つこと」だという。

「私たちはまた、テクノロジーの発展に貢献する新しいプレイヤーの登場を見守る必要があります」と彼女は強調した。「なぜなら私たちはこれからも、量子コンピューターで何が起きるのか、ブロックチェーンで何が起きるのかを見守り、それらの技術が実現したときに、みんなの役に立つ新しい利用法は何かを考えてゆく必要があるからです。そこにはたくさんの希望があると、私は思っています。ただし、私たちの民主主義がそれに方向性を与えた場合に限ります。そうして初めて、有益な結果が得られるのです」。

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(翻訳:金井哲夫)

エリザベス・ウォーレン上院議員がGoogle、Amazon、Facebookの分割を提案

大きな影響力を持ち、米大統領候補ともされているマサチューセッツ州選出のElizabeth Warren(エリザベス・ウォーレン)上院議員は、AmazonGoogle、Facebookによる経済力の統合には以前から批判的だった。そして今、彼女はそれらの企業の分割を提案し、それを大統領選の柱のひとつにしようと考えている。

彼女は、民主党指名候補を決める大切な時期を狙って、この大手ハイテク企業の分割案を持ち出したように見える。Al Gore(アル・ゴア)氏が、あの有名な(悪名高い?)「インターネットを発明」したとき以来、民主党候補はハイテク企業への規制強化からは目をそらしてきた。むしろ、そうした企業から選挙戦への協力を得たいと考えている。

Googleとその元CEOであるEric Schmidt(エリック・シュミット)氏からの献金は、オバマ大統領の選挙戦では大変に重要な存在であり、大手ハイテク企業は、最大の支援者に数えられていた。

しかし今、ウォーレン議員は、Google、Facebook、Amazonが市場に及ぼしている巨大な支配力は脅威であり、それなりに対処しなければならないと(Mediumにてはっきりと)発言している。

「25年前、FacebookもGoogleもAmazonも存在していなかった。今ではそれらは、世界で最も価値が高く有名な企業となっている。それは素晴らしい話だが、政府が独占企業を分割し、市場の競争を促進させなければならない理由も明らかにしている」

彼女が自らの主張を支える実例として持ち出すのは、マイクロソフトの分割だ。なぜか彼女はマイクロソフトを「当時の巨大ハイテク企業」と呼ぶ(今でもマイクロソフトは巨大企業だ)。彼女はそれを、政府がハイテク産業と直接対峙した最後の例として大切にしているのだろう。

「政府のマイクロソフトに対する独占禁止法の適用が、GoogleやFacebookのようなインターネット企業に道を拓く手助けとなった」とウォーレン議員は書いている。

だが今度は、マイクロソフト問題の余波から発展した企業が力を持ちすぎたと、彼女は主張する。

「彼らは競合他社をブルドーザーで排除し、私たちの個人情報で利益を得て、他の企業の活躍の場を歪めてしまった。その過程で、彼らはスモールビジネスを痛めつけ、イノベーションを封じ込めた」と彼女は書いた。

ウォーレン議員のアイデアの鍵となるのは、全世界での年間収益が250億ドル(約2兆7840億円)を超える企業を対象とした法律を通すことだ。それは、プラットフォームを「公共プラットフォーム」として、市場、取り引き、第三者に接続性を提供させ、それらの企業が自社プラットフォームの参加企業を所有することを禁ずるというものだ。

この網には、今のところAlphabetとAmazonも引っ掛かる(Facebookは無傷なのだろうか?)。この法案では、ユーザーに対する公平で差別のない使用基準が定められている。さらにプラットフォームは、ユーザーの個人情報を第三者に渡すことを制限している。

収益が250億ドルに満たない企業の場合は、公正な使用基準に従うよう求められる。

ウォーレン議員は、州検事総長と民間団体に、この要件に関する違反行為があったプラットフォームを訴える権利を与え、政府はこの新法に違反した企業には、年間収益の5パーセントの罰金を科せるようにしたい考えだ。

彼女はこうも指摘している。「Amazonマーケットプレイス、Google Ad Exchange、Google検索は、この法律の下では公共プラットフォームと見なされる。そのため、AmazonマーケットプレイスとAmazonベーシック、Google Ad Exchangeとそれを利用する企業は分離されなければならない。Google検索も切り離す必要がある」

彼女のアイデアにはパート2がある(こちらはもっと過激だ)。ウォーレン議員が反競争的と見なした買収を撤回させるとができる政府の監視機関を設けることだ。Amazonの場合、Whole FoodsとZapposを切り離さなければならなくなる。Alphabetの場合は、Googleが買収したWaze、Nest、DoubleClickを手放すことになる(YouTubeはいいのか?)。Facebookは、WhatsUpとInstagramを分割しなければならない。

「これらの合併の解消により、市場での健全な競争が促進される。それは、プライバシーを始めとするユーザーの不安にもっと気を配るよう、巨大ハイテク企業に圧力をかけることになる」と彼女は書いている。

ウォーレン議員の規制の提案は、ハイテク産業にとっては一大事だ。それは、市場を独占したことで生じた問題を、単なるリップサービス以上の行動で対処せよと、巨大ハイテク企業に警鐘を鳴らす意味もある。

さらに彼女はこう書いている。

私たちは、自分の個人情報がどのように収集され、公開され、売り渡されるかを自分で管理できる権限を人々に与えなければならない。それは、すでに私たちのデータを大量に保有している企業の、競争上の大幅な優位性を固定させない形で行う。

私たちは、アメリカのコンテンツ・クリエイター(地方新聞から全国誌、コメディアンからミュージシャン)を支援しなければならない。彼らのコンテンツが生み出す価値をさらに高めるのだ。GoogleやFacebookなどの企業にかすめ取られるのを黙って見ていてはいけない。

そして、ロシア(または他国の権力)がFacebookやその他のあらゆる形態のソーシャルメディアを利用して選挙に影響を与えることを許してはいけない。

どれひとつを取っても困難な問題だが、競争を促進させるための一歩一歩から得られる恩恵は、それぞれの重大な問題の改善を助ける力ともなる。競争相手が増えれば、消費者やコンテンツ・クリエイターの選択肢も増える。そして、Facebookなどの企業には、自身の事業における顕著な問題に対処するよう、さらなる圧力となる。

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(翻訳:金井哲夫)