各アプリの機密情報の取り扱い方を教えてくれるアップルのApp Privacy Reportがベータ版に

Apple(アップル)は「App Privacy Report(アプリ・プライバシー・レポート)」のベータ版の提供を開始した。この新機能は、日常的に使用しているアプリがどれくらいの頻度で機密情報へのアクセスを要求しているか、またその情報がどこで共有されているかといった詳細を、iOSユーザーに提供することを目的としている。この機能は、EメールのトラッキングピクセルをブロックするツールやプライベートVPNなど、プライバシーに焦点を当てた改善が行われているなかで、6月に開催されたAppleの世界開発者会議で初めて紹介された。Appleは当時、この新しいレポートには、アプリがユーザーの位置情報、写真、連絡先などのユーザーデータやセンサーにアクセスした際の詳細や、アプリがコンタクトするドメインのリストが含まれると説明していた。


iOS 15のアップデートの一部として発表されたものの、2021年の秋口に新バージョンのiOSが公表された時点では、App Privacy Reportは利用できなかった。このレポートはまだ一般には公開されていないが、iOS 15.2およびiPadOS 15.2のベータ版のリリースにともない、より広範なベータテストが開始された。

新しいレポートは、アプリがどのような機密データを収集し、それがどのように使用されているかを詳細に示す潜在的に誤る可能性があるApp Privacy(アプリプライバシー)ラベルにとどまらないものだ。開発者は、誤って、あるいはエンドユーザーに誤解を与えようとして、ラベルを正確に記入しないことがあり、AppleのApp Reviewチームがそのような記入漏れを常に見つけられるとは限らない。

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その代わりに、新しいApp Privacy Reportは、アプリがどのように振る舞っているかについての情報をより直接的に収集する。

ユーザーがデバイスのプライバシー設定で有効にすると、App Privacy Reportは、アプリの過去7日間のアクティビティのリストを作成する。アプリをタップすると、そのアプリが最後にセンシティブなデータやデバイスのセンサー(例えば、マイクや位置情報など)にアクセスした日時などの詳細が表示される。これらの情報は、各アクセスがタイムスタンプとともに記録されたリストで見ることができる。

別のセクション「App Network Activity(アプリ・ネットワーク・アクティビティ)」では、アプリが過去7日間に通信したドメインのリストを見ることができる。このリストには、アプリ自身が機能を提供するために使用したドメインを含んでいるだけではなく、アプリが分析や広告の目的で提携している第三者のトラッカーや分析プロバイダーのドメインも明らかにする。

「Website Network Activity(ウェブサイト・ネットワーク・アクティビティ)」は、同様のリストを提供しているが、ドメインにコンタクトしたウェブサイトに焦点を当てており、その中にはアプリが提供したものも含まれている。また、最もコンタクトのあったドメインを見たり、いつ、どのトラッカーやアナリティクスが使用しているのか、さらにはどのアプリがいつコンタクトしてきたかを確認するために個別のドメインを掘り下げたりもできる。

ベータ版の公開に先立ち、Appleは「Record App Activity(アプリ・アクティビティの記録)」という機能を提供した。これは、App Privacy Reportが利用可能になったときに、ユーザーに表示される内容を開発者がプレビューできるようにするものだ。このオプションは、アプリが予想どおりに動作していることを確認できるJSONファイルが生成する。この機能は、すでにいくつかの興味深い発見をもたらしている。例えば、中国のスーパーアプリWeChatは、新しい写真を見つけるため数時間ごとにユーザーの携帯電話をスキャンしていることがわかった

App Privacy Reportは、ユーザーにとってデータの宝庫となる一方で、開発者にとっては複雑な問題となる可能性がある。開発者は、これらのデータ要求が、アプリの機能を提供するためのもので、プライバシー侵害ではないということを、ユーザーに説明しなければならなくなるかもしれない。例えば、天気予報アプリでは、旅行の準備のために、嵐の情報など、変化する天気パターンに関するプッシュ通知をユーザーが要求した場合、位置情報を定期的に取得する必要がある。

開発者に提示する際、Appleは、このレポートが、アプリが行っていることについて透明性を提供することで、ユーザーと「信頼関係を築く」機会になると述べた。また、開発者自身がインストールを選択したSDKについて、その動作が開発者の要望や期待に沿ったものであることを確認するための、より良い洞察を与えることができるとしている。

Appleは、この新機能がいつベータ版を終了するかについては言及していないが、iOS 15.2が一般公開されたときに出荷される可能性がある。

画像クレジット:Apple

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(文:Sarah Perez、翻訳:Yuta Kaminishi)

Pinterestが新メンタルヘルス支援スペース「Havens」展開、バーンアウト防止に休息への投資を提案

Pinterest(ピンタレスト)は、10月10日の世界メンタルヘルスデーにちなんで、メンタルヘルス支援活動「Pinterest Havens(ピンタレストヘイブン)」を新たにローンチする。同社はブログ記事の中で、この取り組みを「コミュニティ主導のインスピレーションのためのオンラインおよびオフラインのスペース」と呼んでいる。Pinterestは実質上、メンタルヘルスと休息の関係を探るためのスペースをプラットフォーム上に設けるのだと述べている。

「Haven」には、ユーザーが頭を切り替えてリフレッシュできるように、Pinterestのクリエイターによる休息に関するアイデアピンやリラックスできるイメージのコレクションが用意されている。このコレクションには、滝の画像、ジャーナルプロンプト、就寝前のアファメーション(肯定的な自己宣言)などが含まれる。このコレクションは、Pinterest社内のメンタルヘルスコミュニティ「Pinside Out」がHaven内でキュレーションしたものだ。

また、Pinterestは、シカゴのサウスサイドにあるBoxvilleマーケット内に「Havens:Invest in Rest(ヘイブン:休息への投資)」と題した、同社初となる現実世界でのインスタレーションを委嘱し設置すると発表した。このサイトスペシフィックなインスタレーションは、実際の物理的な(Pinterestでいうところの)ピン、没入型のアート、コミュニティプログラムを通じて、バーンアウト防止オアシスに命を吹き込むことを目的としている。Pinterestによれば、このインスタレーションはオンラインの「Havens」コミュニティボードと連動しており、鑑賞者に一息ついて自分のウェルビーイングに目を向けてもらおうとするものだという。

このインスタレーションを支援するために、Pinterestは地元の3つの団体、Boundless Early Education、Urban Juncture Foundation、Coffee, Hip Hop & Mental Healthに8万ドル(約900万円)を寄付する。この寄付金は、Pinterest Charitable Fundを通じて提供される。

Pinterestは、2019年に開始したcompassionate search(思いやり検索)機能が、ユーザーが精神的ウェルビーイングに関連する用語を検索する際、ストレスや不安、悲しみを感じている場合に役立つリソースや活動を見つける方法として引き続き役立っていると指摘している。この機能は、ユーザーが「stress quotes(ストレスについての名言)」や「work anxiety(仕事のプレッシャー)」などを検索すると、ウェルネスアクティビティを表面化させる。

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これらのガイド付きウェルネスアクティビティは、スタンフォード大学のメンタルヘルス・イノベーションラボであるBrainstormの専門家の協力を得て、Vibrant Emotional HealthとNational Suicide Prevention Lifeline(全米自殺予防ライフライン)のアドバイスを受けて作成された。この機能は現在、米国、英国、アイルランド、カナダ、オーストラリア、シンガポール、インド、フィリピン、香港、ニュージーランド、ブラジル、ドイツで提供されている。

さらにPinterestは、ユーザーが「検索タブの『デイリーインスピレーション』スペースにアクセスすると、Pinterestクリエイターがどのように休息に投資しているか、精神的ウェルビーイングは人によって異なるものであることがわかります。ジャーナルを書く、瞑想する、ウォーキング、ダンス、絵を描くなど、そうした活動はすべて精神的ウェルビーイングとメンタルヘルスをサポートするものです」と述べている。

今回の発表は、Pinterestが、幸福感の向上やポジティブさを高めるためのインスピレーションを求めて同プラットフォームを訪れるユーザーが増加していることを受けて行われたものだ。例えば「Sunday rest routine(日曜の休息ルーティン)」の検索数は過去1年間で7倍に「destressing tips(ストレス解消のヒント)」の検索数は12.7倍に増加している。同社は、メンタルヘルスが世界中で私たち全員にどのような影響を与え得るかについて、内省するスペースを設けることを目指しているという。

画像クレジット:LIONEL BONAVENTURE / Staff / Getty Images

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(文:Aisha Malik、翻訳:Aya Nakazato)

虫を撃ったりゾンビから逃げるゲーム化されたローイングマシン「Aviron」が約4.9億円調達

コネクテッドフィットネス関連の資金調達が活発化する中、ローイングマシンにもブームが訪れているようだ。2021年4月にはErgattaが3000万ドル(約32億8000万円)の資金調達を発表し、7月にはCityRowがフィットネススタジオおよび家庭用マシンのために1200万ドル(約13億1000万円)の調達を発表、そして米国時間8月11日、Avironが450万ドル(約4億9000万円)の資金調達を発表した。業界にとって今は上げ潮のムーブメントといえるだろう。

今回のラウンドには、Samsung Next、Formic Ventures、GFC、Y Combinator(Yコンビネータ)が参加しており、75万ドル(約7900万円)のアーリーステージ資金調達に続くものだ。2021年1月にご紹介したように、トロントを拠点とするこのスタートアップは、(当然のことながら)パンデミックの多くの期間を、ジム機器からコネクテッドホームフィットネスへとピボットすることに費やした。サイクリングに代わる全身運動として、ランニングよりも膝に優しいローイングに注目する人が増える中、同社はゲーミフィケーションによって差別化を図ろうとしている。

画像クレジット:Aviron

創業者兼CEOのAndy Hoang(アンディ・ホアン)氏は、TechCrunchにこのように語る。「当社はゲーミフィケーションの面で、より一層の努力をしています。この点が、Peloton(ペロトン)やHydroとの最大の違いです。彼らはもっぱらインストラクターによる授業に特化していますが、我々は高強度のレースや、虫を撃ったりゾンビから逃げたりするフルアニメーションのゲームに特化しています」。

しかし2021年7月、Pelotonはゲーム面でより直接的に競争する計画を発表し、2021年後半から2022年前半に展開する予定だという。最初の製品は、Tron風のレースゲームだ。Pelotonは7月のリリースで「『Lanebreak』は、インストラクターによるクラスを補完してメンバーに新鮮な体験を提供し、ワークアウトに夢中になり、モチベーションを維持する方法を増やすために作られました」と書いている。Avironは、より深いものを加えようとしているという。

「Avironが他と違うのは、単にワークアウトの終わりに新しいグラフィックやアチーブメントを追加してフィットネス体験をゲーム化するのではないということです」とホアン氏はいう。「我々がやっているのは、フィットネス体験のゲーム化です。ゲームの楽しさやおもしろさは、チャラチャラした添えものではありません。キャラクターであり、ストーリーであり、新しいものを発見し、アンロックすることなのです」。

画像クレジット:Aviron

同社は、すでに人員の増強に着手している。前回の記事では、Avironのフルタイム従業員は10名だった。同社のスタッフは25名に増え、そのうち約半数がゲーム開発チームに所属している。

「当社は常に人材を探しています。コンテンツに重点を置き、マーケティングとブランディングのために適切な人材を採用しています」とホアン氏は付け加えた。「まったく新しいリブランディングを行っています」とも。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:Avironゲームアクティビティ資金調達エクササイズローイングゲーミフィケーション

画像クレジット:Aviron

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(文:Brian Heater、翻訳:Aya Nakazato)

【インタビュー】アップルがiOS 15で明らかにした「ヘルスケア」の未来、同社VPが語る初期Apple Watchから現在まで

Apple(アップル)が最近開催した世界開発者会議(WWDC)の基調講演には、iPhone、Mac、iPadの新機能が詰まっていた。2014年に最初のヘルスケアアプリがデビューして以来ほぼ一貫してそうだったように、それらの新機能には、個人のヘルスケアや健康を中心としたアップデートが含まれている。Appleがこの分野で行っている取り組みの影響は、すぐには評価できないことが多い。例えば、ヘルスケア関係の新機能は一般に、Appleのデバイスのソフトウェアで行われるユーザーインターフェイスの全面的な見直しほど目立つことはない。しかし全体として見ると、Appleは、個人が利用可能な、最も強力でわかりやすいパーソナルヘルスケアツールスイートを構築したようだ。そして、その勢いが衰える兆しは見えない。

筆者は、Appleの技術担当VPであるKevin Lynch(ケヴィン・リンチ)氏にインタビューする機会を得た。実はリンチ氏は、2014年9月のAppleの基調講演イベントにおいて、世界の舞台ではじめてApple Watchのデモを行った人物であり、Apple Watchが大きく成長するのを見てきただけでなく、Apple Watchにおけるヘルスケアの取り組みの進展に欠くことのできない人物でもある。Apple Watchがどのようにして今日の姿になったか説明してくれた。また、将来の展望のヒントも与えてくれた。

「これまでの進展ぶりに驚いています」と、最初のヘルスケアアプリについてリンチ氏は語った。「このアプリは実は、Apple Watchから始まりました。Apple Watchで、カロリー消費アクティビティと『アクティビティ』のリングを完成させるための心拍数データを取ったため、心拍数データを保存しておく場所が必要でした。それで、データを保存する場所としてヘルスケアアプリを作りました」。

Appleのヘルスケアアプリは2014年に、Apple Watchのアクティビティデータを保存する簡単なコンパニオンアプリとして始まった(画像クレジット:Apple)

そこでAppleは、中心になる場所ができれば、他の種類のデータも保存できるシステムを開発して、プライバシーを尊重した方法で開発者が関連データをそこに保存できるAPIとアーキテクチャも構築できることに気づいた、とリンチ氏は語る。最初の頃、ヘルスケアアプリは基本的にまだ受け身の格納庫で、ヘルスケア関係のさまざまな情報の接点をユーザーに提供していたが、Appleは間もなく、それをさらに発展させて他にも何かできることはないか、と考え始めた。そして、アイデアのきっかけはユーザーからもたらされた。

ユーザーに導かれた進化

ヘルスケアに対するAppleのアプローチの主要な転換点は、ユーザーがApple Watchの機能を使って、Appleが意図した以上のことを行っていることにAppleが気づいたときに訪れた、とリンチ氏はいう。

リンチは次のように説明する。「私たちは、ユーザーに心拍数を示そうとしており、実際、ユーザーは自分の心拍数を見ることができました。私たちは、心拍数を消費カロリーの測定に使っていました。しかしある時、こんなことがありました。ワークアウトをしていないときに心拍数を見て、心拍数が高いことに気づいた一部のユーザーが【略】医師に診てもらうと、心臓の異常が発見されたのです。Appleはそのようなユーザーから手紙を受け取るようになりました。今でも、私たちがしている仕事について手紙が来ます。それはとてもうれしいことです。しかし、初期のそうした手紙の中にはヒントを与えてくれたものがありました。『待てよ、実は同じことをバックグラウンドで自分たちでできるんじゃないか』ってね」。

その後Appleは、心拍数が高い場合にアラートを通知する仕組みを開発した。ユーザーがあまり動いていないときにApple Watchが異常に高い心拍数を検出すると、それをユーザーに知らせることができる。休息時の高い心拍数は、潜在的な問題に関する良い指標である。Appleは後に、異常に低い心拍数の通知も加えた。これはすべてユーザーがすでに利用できるデータであったが、Appleは、目ざといApple Watchオーナーがすでに享受しているメリットを、先を見越して機能として提供できることに気づいた。

2017年、心拍数が高いことを知らせる通知がApple Watchに導入された(画像クレジット:Apple)

そこでAppleは、似たようなインサイトを探り出せる検討対象の分野を増やすための投資を大きく増やし始めた。ユーザーの行動によって研究対象の新たな分野が特定されるのを待つのではなく(リンチ氏によれば、これはチームにとって依然として重要であるが)、ヘルスケア機能の発展への道筋を切り開くために、臨床医や医療研究者の採用を増やし始めた。

その成果の一例が、WWDCで発表された「Walking steadiness(歩行の安定性)」である。これは、Apple Watch装着者の平均的な歩行の安定度を簡単なスコアで示す新しい基準だ。

リンチ氏は次のように説明する。「歩行の安定性【略】は実は、転倒の検出から得られたものです。私たちは転倒の検出に取り組んでいました。本当にすばらしい取り組みだったのですが、進めていくうちに、ただユーザーの転倒を検出するだけでなく、ユーザーが実際に転倒しないようにサポートする方法についてブレインストーミングを行うようになりました。転倒するその瞬間にサポートするのはかなり困難です。実際に転倒し始めたら、できることは限られています」。

リンチ氏は、Appleが2018年に導入した転倒検出機能のことを言っている。モーションセンサーのデータを使って、突然の激しい転倒と思えるものを検出し、転倒した装着者をできれば助けるために緊急アラートを送る機能である。Appleは、10万人が参加した心臓と運動に関する研究でユーザーの転倒検出データを調べ、それを歩行の基準に関する同じ研究でiPhoneから収集したデータと結び付けることができた。

「(心臓と運動に関する研究のデータ)は、この機械学習に関する仕事の一部でとても役立っています」とリンチ氏は述べた。「それで私たちは、特に転倒と歩行の安定性を中心とした研究に重点を置き、歩行の安定性に関する従来の測定データ一式を、真実を語る資料として使いました。アンケート調査、臨床観察、受診と医師による歩行の様子の観察も同様です。そして1~2年の間、研究対象の人が転倒することがあれば、転倒に先立つ測定基準をすべて調べて、『転倒の可能性を測る本当の予測因子は何か』を理解することができました。その後、それを基にモデルを構築できました」。

iOS 15におけるAppleのヘルスケアアプリの「歩行の安定性」に関する測定基準(画像クレジット:Apple)

実はAppleは、歩行の安定性の機能によって、ヘルスケアやフィットネスの業界では非常にまれなことを成し遂げた。個人のヘルスケアを中心として、臨床的に検証された、意味のある新しい測定基準を作ったのだ。ヘルスケアアプリでは、AppleのiPhoneのセンサーを通して受動的に収集されたモーションセンサーのデータに基づいて「とても低い」から「低い」または「OK」までのスコアが示される(リンチ氏の話では、iPhoneの方が、腰の位置にあるので測定基準をより正確に検出できるという)。おそらくこのデータは、ユーザーが本当に意味ある改善を実際に行うのに役立つだろう、とリンチ氏はいう。

「別のすばらしい点は、すぐに使えるということです」と氏は述べた。「変えるのが難しいものもある中で、歩行の安定性に関しては、改善するためにできるエクササイズがあります。それで、私たちはそうしたエクササイズをヘルスケアアプリに組み込みました。ビデオを見てエクササイズを行い、転倒する前に、安定性を改善するために努力できます」。

歩行の安定性というのはおそらく、ヘルスケアに関してAppleが重視する分野を最も効果的に具現化した機能である。持ち歩くデバイスが、周囲を取り巻く一種のプロテクターに変わるのだ。

「インテリジェントな保護者」

Appleのヘルスケアアプリは、追跡対象の測定基準を概観するのにうってつけである。Appleは、目に映るものを理解することを容易にする、入念に吟味した状況認識情報のライブラリを着実に構築してきた(例えば、研究室のアップデートされた新しいディスプレイでは、結果がiOS 15でわかりやすい言葉に変換される)。しかし、革新の点でAppleが比類のない位置にいる分野の1つは、先を見越した、または予防的なヘルスケアである。リンチ氏は、歩行の安定性の機能はそうした努力の進展の結果であることを指摘した。

「歩行の安定性に関する取り組みは、私たちが『インテリジェントな保護者』と考えているこのカテゴリーに属します。『どうすれば、他の方法では見ることも気づくこともないかもしれないデータを使ってユーザーを見守るサポートができるだろうか。そして、変化の可能性を知らせることができるだろうか』ということです」と同氏は語る。

「インテリジェントな保護者」のカテゴリーは実のところ、当初はApple Watchとヘルスケアの計画に含まれていなかったことをリンチ氏は認めている。

「最初の頃は、『インテリジェントな保護者』について今のような考え方はしていませんでした。Apple Watch初期にユーザーから寄せられた手紙によって、私たちは、本当に意味のあるアラートをユーザーに通知できることに気づきました。ユーザーからの手紙のおかげで、本当に意義深いひらめきを得られました」。

Apple Watchの転倒の検出(画像クレジット:Apple)

そのような手紙は、ヘルスケアの機能に取り組むチームに今もひらめきを与えており、チームに動機付けを与えてその仕事が正しいことを証明するのに役立っている。リンチ氏は、Appleが受け取った1通の手紙を引用してくれた。ある人が父親にApple Watchを買ってあげたが、父親は自転車で外出中に自転車から溝に落ちてしまった。Apple Watchはその転落を検出し、父親の意識がないことも検出した。幸いにも、Apple Watchは緊急連絡先と911番に通知するように設定されていて、その両方に通知が送信された。Apple Watchによって地図上の場所が息子に通知されたので、息子は現地に駆けつけたが、現場ではすでに救急医療隊員が父親(幸い大事には至らなかった)を救急車に乗せているところだった。

リンチ氏は次のように語る。「『人について私たちが感知して知らせることができることとして、他に何があるだろうか』と考えたことはたくさんあります。ヘルスケアに関する取り組みの中で、私たちは、臨床的な観点から人について知るべき真に意味のある事柄とは何か、という点について常に話し合っています。また、人について感知できることについて科学的な観点からどう考えるべきか、という点についても話し合っています。この2つの点が重なる部分にこそ、収集データを理解して活用するための鍵があります。あるいは、疑問に対して臨床的にしっかりとした根拠に基づく回答を出すためのデータを構築する新しいセンサーを開発するヒントが得られる可能性があります」。

個人のヘルスケアに対するコミュニティとしてのアプローチ

iOS 15でAppleのヘルスケアアプリに加えられる別の大きな変更は共有だ。ユーザーと家族や、医師など世話をする人の間で、ヘルスケアのデータを非公開で安全に共有できるようにする。ユーザーは、共有するヘルスケアのデータを正確に選ぶことができ、いつでもアクセスを無効にできる。Apple自体がデータを見ることは決してなく、データはデバイス上でローカルで暗号化され、受信するデバイスのローカルメモリーで復号化される。

iOS 15でのAppleのヘルスケアアプリの共有(画像クレジット:Apple)

ヘルスケアの共有は、インテリジェントな保護者に関するAppleの取り組みの自然な拡張である。これによって、個人のヘルスケアは、常にそうであった状態、つまり個人がつながっているネットワークによって管理される状態に引き上げられるからだ。しかも、現代のテクノロジーとセンサー機能によって拡張されている。

リンチ氏は次のように説明する。「見守り対象の相手はその情報を見たり、変化の通知を受け取ったりすることができ、見守る人は小さなダッシュボードで情報を見ることができます。特に年配者やパートナーの世話をする人にこれが大いに役立つことを願っています。一般的に言って、ヘルスケアの過程で相互にそうしたサポートができるようになります」。

リンチ氏は、単に他の方法では見いだせなかったデータを明らかにすることが目的ではなく、実際には、ヘルスケアに関連した家族間のコミュニケーションを活発にしたり、普通なら決して生じないような個人的なつながりの扉を開けたりすることが目的だということを指摘している。

「最近どれくらい歩いたかとか、よく眠れるかといった話を自然にすることがないような状況で、会話が促されます。そうしたことを共有する気があるなら、さもなければしなかったような会話ができます。医師とのやり取りでも同じです。医師とやり取りするとき、医師は患者の普段の健康状態をあまり見ていないかもしれません。サイロ思考になって、その時の血圧など、部分的にしか診ません。では、医師と話すときに、どうすれば短い時間で全体像を伝えて、会話の内容を豊かにするサポートができるでしょうか」。

医師との共有は、医療提供者の電子医療記録(EHR)システムとの統合に依存するが、リンチ氏によれば、そのシステムでは相互運用可能な標準が使用されていて、さまざまなプロバイダーがすでに米国を広くカバーする準備を整えている。この機能を利用する医療従事者は、ユーザーが共有するデータをWeb表示のEHRシステムで見ることができる。データは一時的に共有されるだけだが、医療従事者は患者のために、簡単に特定の記録に注釈を付けて、永続的なEHRに保存し、必要に応じて診断結果や治療過程をバックアップできる。

EHRには導入と相互運用性の点で困難な問題に直面してきた歴史がある。この点についてリンチ氏に尋ねると、同氏は、Appleが何年も前にEHRとの連携に取り組み始めた当時は、実際に機能させるためにApple側に多大の技術的な負担が求められたと語った。幸い、業界は全般的に、もっとオープンな標準の採用に向かった。

「業界は、もっと標準化された方法でEHRに接続する方向に大きく変化してきました。確かにAppleは、EHRに関するすべての問題に取り組み、改善を支援するために努力してきました」とリンチ氏は語る。

ユーザーとの長期的な関係を築くメリット

ユーザーと医師の両者にとって、Appleのヘルスケアアプリが持つ大きな潜在的メリットの1つは、長期にわたって大量のデータにアクセスできることである。Appleのプラットフォームにこだわり、ヘルスケアアプリを使ってきたユーザーは、少なくとも7年ほど心拍数のデータを追跡してきたことになる。その理由で、iOS 15の別の機能であるHealth Trends(健康のトレンド)は、将来に向けてさらに大きな影響力となる可能性を秘めている。

iOS 15のAppleの健康のトレンド機能(画像クレジット:Apple)

リンチ氏は次のように説明する。「トレンド機能では、長期的な変化を調べ、各分野で統計的に重要な変化の特定を開始します。最初は20ほどの分野が対象となります。注意すべきトレンドが現れ始めたら、それを強調表示し、その様子を表示することができます。例えば、休息時の心拍数に関する現在と1年前のデータを比較できます」。

これもまた、Appleの心臓と運動に関する研究と、Appleがその研究から継続的に引き出したインサイトの結果である。Appleはこの研究の間、提供するインサイトの微調整に大いに力を注いだ。活用できるインサイトをユーザーに提供すると同時に、過剰な負荷や混乱の増大を回避するためだ。

「健康のトレンドのような機能を扱う場合、インサイトでユーザーを圧倒したいとは思いません。しかし、示すべき関連情報がある場合は、それを抑えたいとも思いません。どのように調整すべきか考えました。私たちは、心臓と運動に関する研究で得たデータを調整することに力を注いだので、それが公開されている様子を見ると胸が高鳴ります。これは何度でも言います。これは長期的な変化を理解する本当に強力な方法になると思います」。

ヘルスケアの未来は「融合」にあり

Appleのヘルスケアに関する今日までのストーリーは主に、iPhoneやApple Watchに搭載されている、最初は別の目的を持っていたセンサーを通じてヘルスケアに関するすばらしいインサイトが継続的に提供されたことによって成り立っている。以前はまったく不可能で、実際的ではなかったことだ。その状況は、Appleが、Apple WatchやAppleの他のデバイスに統合できる新しいセンサー技術を探し出して、日常のさらに多くの健康問題に取り組むという、意図的な戦略へと進展した。また、Appleは引き続き、既存のセンサーを使う新しい方法を見つけ出している。iOS 15に追加された、睡眠中の呼吸数の測定が主な例である。一方で、さらに多くのことを行うため、次なる新しいハードウェアの開発にも取り組んでいる。

しかし、将来のヘルスケア機能の観点から見ると、さらに可能性を探るべき分野は、センサーの融合である。歩行の安定性は、iPhoneとApple Watchが単に独立して機能する結果ではなく、Appleがそれらを組み合わせて活用するときに得られる成果である。Appleのソフトウェアとハードウェアの緊密な統合によって強化される分野もある。そのような分野は、デバイスとそのデバイスに搭載されているセンサーで構成されるAppleのエコシステムとして増殖し、成長を続ける。

インタビューの最後に、AirPodsのことを考慮に入れるとどんな可能性が開かれるのか、リンチ氏に尋ねた。エアポッドにも独自のセンサーがあり、iPhoneやApple Watchでモニタリングされるヘルスケア関連データを補完できるさまざまなデータを収集できるためだ。

「現在すでに、いくつかのデバイス間でセンサーの融合を行っています。ここには、あらゆる種類の可能性があると考えています」とリンチ氏は語った。

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カテゴリー:ヘルステック
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画像クレジット:Apple

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Dragonfly)

カメラではなくレーダーを使ったプライバシーが保護されたアクティビティ追跡の可能性をカーネギーメロン大学の研究者らが提示

部屋が最後に掃除されたのはいつか、ゴミ箱の中身がすでに捨てられたかをスマートスピーカーに問いかけることで、家庭内の争いを解決する(または蒸し返す)ことができる。そんな状況を想像してみて欲しい。

あるいは、健康関連の用途で、エクササイズ中にスピーカーにスクワットやベンチプレスの回数をカウントするように指示できたらどうだろう?または「パーソナルトレーナーモード」をオンにして、あなたが古いエクササイズバイクをこぐ際に、もっと早くこぎましょう、と気合を入れてくれるよう指示できたら(Pelotonなんて必要なし!)?

そして、あなたが食事をしているのをそのスピーカーが認識し、雰囲気にあった音楽を流してくれるほど賢かったらどうだろう?

そしてこうしたアクティビティの追跡を、インターネットに接続されたカメラを家の中に設置することなくできたら、と想像してみよう。

カーネギーメロン大学のフューチャーインターフェースグループの研究で、これらのことが実現できる可能性が浮上している。この研究ではセンシングツールとしてカメラを必要としない、アクティビティ追跡のための新しいアプローチを実証しているのだ。

家の中にインターネットに接続されたカメラを設置することは、プライバシーの観点から言えば、当然大きなリスクとなる。そのため、カーネギーメロン大学の研究者らは、人間のさまざまなアクティビティを検出するための媒体として、ミリ波(mmWave)ドップラーレーダーの調査に着手した。

彼らが解決すべきだった課題は、ミリ波が「マイクやカメラに近い信号の豊富さ」を提供する一方、さまざまな人間の活動をRFノイズとして認識するようAIモデルをトレーニングするためのデータセットを、簡単には入手できないという点である(この点他のタイプのAIモデルをトレーニングするための視覚データとは異なる)。

この問題の解決を目指し、彼らは、ドップラーデータを合成し、人間のアクティビティ追跡モデルにデータを供給することに着手した。プライバシーを保護することが可能なアクティビティ追跡AIモデルをトレーニングするためのソフトウェアパイプラインを考案したのだ。

その結果をワシントンD.C.こちらの動画で確認できる。この動画では、AIモデルがサイクリング、手を叩く、手を振る、スクワットをするといったさまざまなアクティビティを、動きから生成されるミリ波を解釈する能力を用いて正しく認識しているのが示されている。そしてこれは純粋に一般のビデオデータを用いたトレーニングの成果である。

「私たちは、一連の実験結果を通し、このクロスドメイントランスレーションがどのように達成されるかを提示しています」と彼らは書いている。「私たちは、このアプローチがヒューマンセンシングシステムなどのトレーニングの負担を大幅に低減する重要な足がかりであり、人間とコンピュータの相互作用におけるブートストラップ型使用に役立つものであると考えています」。

研究者であるChris Harrison(クリス・ハリソン)氏はワシントンD.C.、ミリ波によるドップラーレーダーベースのセンサーは「非常に微妙なもの(表情の違いなど)」は認識できないと認めている。しかし、食事をしたり本を読んだりといったそれほど活発でないアクティビティを検出するには十分な感度を備えているという。

またドップラーレーダーの持つ動きの検出能力は、対象とセンシングハードウェアの間のLOS(無線波の送受信が可能な範囲)にも制限を受ける(別の言い方をすれば「まだその段階に達していない」ということである。これは、将来ロボットが人検出能力を身につけることを懸念している人にとっては、ちょっとした安心感を得られる情報だろう)。

検出には、当然特殊なセンシングハードウェアが必要になる。しかし、物事はすでにその方向に向かって動き出している。例えば、GoogleはすでにPixel 4にレーダーセンサーを追加するというプロジェクトSoli に着手している。

GoogleのNest Hubにも、睡眠の質を追跡するために同じレーダーセンサーが組み込まれている。

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「レーダーセンサーがあまり携帯電話に採用されていない理由の1つは、説得力ある使用例がそれほどないためです(ニワトリが先かタマゴが先かということだが)」とハリス氏はTechCrunchに語った。「私たちのレーダーを用いたアクティビティ検出に関する研究により、より多くのアプリを使用できる可能性が浮上しています(例えば食事をしているとき、夕食を作っているとき、掃除をしているとき、運動しているときを認識できるよりスマートなSiriなど)」。

携帯用アプリと固定アプリでは、どちらにより大きな可能性があるかと聞かれ、ハリス氏はどちらにも興味深い使用事例があると答えた。

「携帯用アプリにも固定アプリにも使用事例はあります。Nest Hubに話を戻すと【略】センサーはすでに室内にあるため、それを使用して、Googleスマートスピーカーのより高度な機能をブートストラップすることができます(エクササイズで回数を数えるなど)」。

「建物には使用状況を検出するためにすでにレーダーセンサーが多数取り付けられています(しかし、今後は部屋の清掃が最後に行われたのはいつかなどを検出することが可能になる)」。

「これらのセンサーのコストはまもなく数ドルにまで落ちるでしょう(eBayで扱っているものの中にはすでに1ドルに近いものがある)。従って、あらゆるものにレーダーセンサーを組み込むことが可能です。そしてgoogleが寝室に設置される製品で示しているように「監視社会」の脅威は、レーダーが使用される場合、カメラセンサーを使った場合に比べはるかにリスクの少ないものになります」。

VergeSenseといったスタートアップは、すでにセンサーハードウェアとコンピュータビジョンテクノロジーを用いて、B2B市場向けの、屋内空間とアクティビティに対するリアルタイム分析(オフィスの使用状況を測定するなど)を強化している。

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しかし、解像度の低い画像データをローカルで処理したとしても、消費者環境では、視覚センサーを使用することでプライバシーのリスクが発生すると認識される可能性がある。

レーダーは「smart mirrors」のような、プライバシーをリスクにさらす危険のある、インタネットに接続された消費者向けのデバイスに、より適した視覚的監視の代替手段を提供する。

「ローカルに処理されたからといって、あなたはカメラを寝室や浴室に設置しますか?私が慎重なだけかもしれませんが、私なら設置しません」とハリス氏。

彼はまた、以前なされた研究に言及した。これはより多くの種類のセンシングハードウェアを組み込むことの価値を強調したものだ。「センサーが多いほど、サポートできる興味深いアプリケーションが増えます。カメラはすべてを捉えることができませんし、暗闇では機能しません。

最近はカメラもとても安価なため、レーダーが安いとはいっても、価格で勝負するのは困難です。レーダーの最大の強みは、プライバシーの保護だと思います」と彼は付け加えた。

もちろん、視覚的なものにしろ、そうでないものにしろ、センシングハードウェアを設置すれば、プライバシーがリスクにさらされる危険性は発生する。

例えば、子どもの寝室の使用状況を捉えるセンサーは、そのデータにアクセスするのが誰かによって、適切なものにも、不適切なものにもなるだろう。そして、あらゆる人間のアクティビティは、起こっている事柄によっては、安易に公開できない情報を生成するものだ。(つまり、セックスをしているのをスマートスピーカーに認識されてもかまわないか、という話である)

従って、レーダーを用いたアクティビティ追跡が他の種類のセンサーよりも非侵襲的だとはいっても、プライバシーの問題が生じないとは言い切れないのだ。

やはりそれはセンシングハードウェアがどのように使用されているかによる。とはいえ、レーダーが生成したデータはカメラなどが生成した視覚データに比べ、漏洩によってそれが人々の目にさらされた場合、比較的機密性が低いという点は間違いないだろう。

「いずれのセンサーにも、おのずとプライバシーの問題はつきまといます。プライバシーの問題があるか、ないか、ではなく、それは程度の問題です。レーダセンサーは詳細を捉えることができますが、カメラと違い匿名性が高いといえます。ドップラーレーダーデータがオンラインでリークされても、気まずい思いをすることはないでしょう。誰もそれがあなただとは認識できないからです。しかし、家の中に設置されたカメラからの情報がリークされた場合は、どうでしょうか……」。

ドップラーシグナルデータがすぐには入手できないことを前提とすると、トレーニングデータの合成にかかる計算コストは、どれ程だろうか?

「すぐに使えるというわけではありませんが、データを抽出するのに使用できる大規模なビデオコーパスは豊富にあります(Youtube-8Mのようなものを含め)」とハリス氏はいう。「動きのデータを収集するために人々をリクルートして研究室に来てもらうより、ビデオデータをダウンロードして合成レーダデータを作成するほうが、データ収集を桁違いに速く行うことができます」。

「実際の人物から質の高い1時間のデータを得ようとすると、どうしても1時間はかかります。しかし最近では、多くの良質のビデオデータベースから何百時間もの映像を簡単にダウンロードすることができます。ビデオ1時間を処理するのに2時間かかりますが、これは研究室にあるデスクトップ一台あたりの話です。重要なのは、Amazon AWSなどを使ってこれを並列化し一度に100本のビデオを処理できるということです。そのため、スループットは非常に高いものになります」。

また、無線周波数信号は、さまざまな表面からさまざまな程度で反射するが(「マルチパス干渉」としても知られる)、ハリス氏によると、ユーザーによって反射された信号は「圧倒的に優勢な信号」である。つまり、デモモデルを機能させるために、他の反射をモデル化する必要はない(しかしハリス氏は、機能をさらに磨くために「壁/天井/床/家具などの大きな表面をコンピュータービジョンで抽出し、それを合成段階に追加することができる」と述べた)。

「ワシントンD.C.(ドップラー)信号は実際に非常に高レベルで抽象的なため、リアルタイムで処理するのは特に困難ではありません(カメラよりはるかに少ない「ピクセル」のため)。車に組み込まれたプロセッサーは衝突被害軽減ブレーキシステムやブラインドスポットの監視などのためにレーダーデータを使用しています。そしてそれらはローエンドのCPUなのです(ディープラーニングなどを行わない)」。

この研究は、他のPose-on-the-Goと呼ばれる別のグループプロジェクトとあわせ、ACM CHIカンファレンスで発表されている。Pose-on-the-Goは、ウェアラブルセンサーを使わずに、スマートフォンのセンサーを使用してユーザーの全身のポーズの概要を捉えるものだ。

また、このグループのカーネギーメロン大学の研究者らは、安価に屋内「スマートホーム」センシングを実現する方法をワシントンD.C.以前実証しているワシントンD.C.(これもカメラを使わない)他、ワシントンD.C.2020年は、スマートフォンのカメラにより、デバイス上のAIアシスタントに詳細なコンテクストを供給する方法を示してもいる。

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近年彼らはワシントンD.C.レーザー振動計電磁雑音を使ってスマートデバイスにより適切に環境認識をさせ、コンテキスト機能を与える方法の研究も行っている。このグループによる他の研究には、伝導性のスプレーペイントを用いてワシントンD.C.あらゆるものをタッチスクリーンに変える研究や、ワシントンD.C.レーザーで仮想ボタンをデイバイスユーザーの腕に投影したり、別のウェアラブル(リング)ワシントンD.C.をミックスに組み入れるなどして、ウェアラブルのインタラクティブな可能性を広げるさまざまな方法の研究が含まれていて大変興味深い。

現在の「スマート」デバイスは基本的なことにつまづくなど、あまり賢くないように見えるかもしれないが、今後人とコンピューターのインタラクションが、はるかに詳細なコンテクストベースのものになるのは確かだろう。

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カテゴリー:セキュリティ
タグ:レーダープライバシー個人情報アクティビティカーネギーメロン大学

画像クレジット:CMU

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)