職域向けオンライン診療など健康支援プログラムを提供するリンケージが約5.5億円のシリーズA調達、上場準備室も設置

職域向けオンライン診療など健康支援プログラムを提供するリンケージが約5.5億円のシリーズA調達、上場準備室も設置

予防医療テックで職域向けにオンライン診療などの健康支援プログラムを提供するリンケージは3月30日、第三者割当増資による資金調達を実施した。引受先は、マイナビ、Medical Development Support 1号投資事業有限責任組合、個人投資家の竹内真氏、上沢仁氏など。これにより、シリーズAラウンドの累計調達額は約5億5000万円、また累計調達額は8億円となった。調達した資金は、主にプロダクトの機能拡充、質の高いサービス提供のための人材採用にあてる予定。

また同社は、さらなる企業成長を見据え、上場準備室を設置した。ヘルスケアスタートアップとしてのノウハウを活かした事業展開で健康総合支援企業となるビジョンを体現し、次のステージへの到達を目指す。

「テクノロジーとのつながりで健康意識の温度をあげる」をミッションに掲げるリンケージは、2011年6月の設立以来、「オンライン禁煙診療」や、オンライン問診を起点に従業員の心身の健康課題を可視化し、必要な医療へのアクセスや組織の生産性向上につなげる「Rasika」「FEMCLE」などの企業向けヘルスケアサービスを展開。のべ174組合、企業1550社への健康サポート実績があり、加入者数約600万人以上のネットワークを有している。

Rasikaは、テレワークなどの新しい働き方にも対応したメンタルウェルネスサービス。東京大学医学部附属病院心療内科との共同研究により開発した独自ストレスチェックの質問項目により、テレワークや生活習慣との相関を含め、従業員のストレス要因を多角的に分析可能という。またFEMCLEは、働く女性の健康課題を可視化し、専門医のフォローで労働生産性を改善する法人向け女性ヘルスケアサービス。NPO法人日本子宮内膜症啓発会議(JECIE)、豊富な経験・実績を持つ約100名の専門医のサポートのもと展開する、働く女性の健康課題に着目したサービスとなっている。

同社が考える「健康」とは、「自分らしくあることを阻害する、こころとからだの不調がないこと」という。あらゆるネットワークを活用し、企業コミュニティを通じて人々の健康意識を高めており、厚生労働省「国民医療費の概況」にある医科診療費の傷病別内訳では、生活習慣病、老化に伴う疾患、精神疾患、その他(腎不全など)の順となっており、リンケージではこれらの領域のほとんどをカバーしているとした。職域向けオンライン診療など健康支援プログラムを提供するリンケージが約5.5億円のシリーズA調達、上場準備室も設置

NVIDIAが高性能AIを医療の現場にもたらす、AI搭載の医療機器開発プラットフォーム「Clara Holoscan MGX」を発表

高性能な画像処理装置(GPU)で知られるNVIDIA(エヌビディア)は今週、AI搭載の医療機器を開発するためのプラットフォームをデビューさせた。Clara Holoscan MGX(クララ・ホロスキャンMGX)と呼ばれるこのデバイスは、そのコンピューティングパワーにより、医療用センサーが複数のデータストリームを並行して処理し、AIアルゴリズムを訓練し、生物学をリアルタイムで視覚化することを可能にする。

NVIDIAの2022年GTCカンファレンスでデビューしたClara Holoscan MGXは、Jensen Huang(ジェン・スン・フアン)CEOが基調講演で述べたように「オープンでスケーラブルなロボティクスプラットフォーム」であり、ロボットの医療機器やセンサーをAIアプリケーションとつなぐために設計されたハードウェアとソフトウェアのスタックだ。

どう機能するのか。内視鏡検査のプロセスを例にとる。通常、医師は体の中に小さなカメラを挿入し、内部を観察する。Clara Holoscan MGXはカメラに直接接続され、収集したデータをリアルタイムに処理する。データはAIモデルに送られ、異常を検出し、解剖学的な分析を経て、外科医が治療計画に役立てる(断っておくが、これらのAIモデルはNVIDIAが作るのではなく、同社のハードウェア上で動くだけだ)。

NVIDIAはすでにGPUでよく知られており、そのGPUは特に並列計算を高速に実行することに優れている。GPUはかつてゲーマーに最もよく知られていたが、今やディープニューラルネットワークのトレーニングに関心を持つあらゆる業界にとって重要なアクセラレータになった。ディープニューラルネットワークは、例えばX線の読み取りを学習する際に、何十億ものデータポイントをすばやく計算する必要がある。そして、得られたモデルをリアルタイムで使用するためにも、多くの計算が求められる。このプラットフォームは、そうした用途を念頭に置いている。

NVIDIAはAI分野の支配的なプレイヤーとなった。上記のようなプロジェクトの多くに必要な生の計算能力を提供し、業界に特化したハードウェアとソフトウェアの組み合わせで、それを実現してきたからだ。例えば同社は、自動運転車の訓練と開発のためのプラットフォームであるNVIDIA Driveなどの自動運転車の分野のプロジェクトで積極的に動いている。

NVIDIAは、すでにヘルスケア領域への進出を果たした。2018年に初めて発表されたClaraプラットフォームは当初、スムーズな医療画像体験を実現するために設計された。このプラットフォームは年々拡張されてきたが、今回のClara Holoscan MGXプラットフォームは、基本的にはワンストップショップになることが目的だ。

NVIDIAのヘルスケア担当副社長Kimberly Powell(キンバリー・パウエル)氏はTechCrunchに対し、Clara Holoscanは「完全なエンド・ツー・エンドプラットフォームです。医療機器にとってのNVIDIA Clara Holoscanは、自動運転車にとってのNVIDIA Driveと同じ関係です」と語った。

Clara Holoscanの中核となる革新的な技術は2つあるとパウエル氏はいう。まず、医療用ソフトウェアを安全に開発するためのベンチマークプロセスであるIEC 62304規格に準拠した設計になっていること。そして、フアン氏が「非常識」と呼ぶほどのコンピューティングパワーを搭載していることだ。

この組み合わせにより、AIを搭載した医療機器の開発やトレーニングを検討している企業は、より迅速に前進することができるはずだ。

画像クレジット:NVIDIA

「Clara Holoscanのアーキテクチャは、新しい医療機器や『医療機器としてのソフトウェア』を市場に投入するために必要なエンジニアリング投資を大幅に削減します」とパウエル氏は話す。

NVIDIAが売り込んでいること、つまりデバイスとAIの組み合わせを実現しようとしている企業はすでに多数存在する。例えばスタートアップのActiv Surgicalは、AI支援型手術用スコープ(製品名:ActivSight)にNVIDIAのGPUを使用しており、スコープのデータから情報を得るAIアプリケーションをさらに充実させようとしている。そのために、同社はNVIDIAのInceptionプログラムに入り、Clara AGX Developer Kitに早期にアクセスできるようになった。プレスリリースを読む限り、そのキットは、NVIDIAの技術が製品開発を加速させるというパウエル氏の主張を象徴している。

「ActivSightを含め、将来、Activ Surgicalの製品を今後2年以内に市場に出すために、この開発者キットが全体の開発期間を短縮することにもなります」とActiv Surgicalのプレスリリースには書かれている。

現時点では、Clara Holoscanの全能力を利用することはできない。基調講演でフアン氏は、医療グレードの技術が早期利用できるようになるのは2023年第1四半期だと述べた。その時点で、ハードウェアの価格がNVIDIAのODMパートナーによって設定されて初めて、ソフトウェアの価格が「判明する」とパウエル氏は付け加えた(その情報はここに登場するようだ)。

今のところ、Clara Holoscan MGXの発売は、AIヘルスケア分野におけるNVIDIAのすでに確固たる足場をさらに強化するように思われる。基本的に、同社はそのプラットフォームの下にある計算の岩盤を構築しているのだ。

そして、それは良い分野だ。スタンフォード大学の「2022 AI Index」レポートによると、2021年のAIへの民間投資の2大領域は、上記2つの交わるところだった。データ管理・処理・クラウドコンピューティングに122億ドル(約1兆4830億円)、医療・ヘルスケアツールに112億9000万ドル(約1兆3720億円)が投資された。

画像クレジット:NVIDIA

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi

パンデミック下で成長する多種多様なフェムテック企業、従業員への福利厚生としても注目が集まる

女性の健康とウェルネスを支える技術「フェムテック」。McKinsey & Companyによると、2021年のフェムテック領域の資金調達総額は、25億ドル(約2830億円)に到達し、過去最高を記録した。

The dawn of the FemTech revolutio Published by McKinsey & Company(2022/2/14)


女性の健康とウェルネスに特化したVCであるCoyote Venturesと、フェムテック領域の情報配信やスタートアップサポートを行うNPO団体であるFemtech Focusの予測によれば、フェムテック市場は2027年までに1兆1860億ドル(約138兆円)の市場規模にまで成長するという。

そんなフェムテック業界だが、その注目領域も変化している。Crunchbaseによると、過去5年間は妊娠と子育てがVCの資金調達の最大のシェアを占めていたが、2021年に最も投資を集めたのは、プライマリ・ケアや予防医療領域だった。不妊や更年期など、困った時に頼るフェムテックから、すべての女性が常に自分の健康を守るために必要不可欠な技術になりつつあることがわかる。

欧米での盛り上がりを受け、日本でも注目が集まる領域だが、今回は、パンデミック後も続くと予測されるフェムテック業界のトレンドと注目領域について解説する。

新型コロナの影響で広まった手軽にできる自宅検査・治療

パンデミックによって、病院に行きづらくなったことを受け、遠隔医療や自宅検査キットが注目を集めた。これまで当たり前に診察や検査のために病院に行っていた人々が、パンデミックによって自宅でもできるという便利さを経験した。安全に病院に行けるようになっても、人々がこの便利さを捨てるとは考えにくい。実際に、2021年のMcKinsey & Companyの調査によると、調査対象の消費者の約40%が、今後も遠隔医療を利用すると回答しており、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以前の遠隔医療利用者の11%から上昇している。

膣内マイクロバイオーム検査キットEvvy

Evvyは、膣内のマイクロバイオームの状態を分析し、健康状態の把握とライフスタイル改善アドバイスなどを提供する。General Catalyst、Box Groupなどから500万ドル(約5億7000万円)を調達している。

筆者も2021年末実際に試してみた。下記のように、検査キットが送られてくる。採取は簡単で、インストラクションを見ながら3分程度で終わった。

画像クレジット:Evvy

箱には「The female body shouldn’t be a medical mystery(女性の身体は、医療で解明できないミステリーであるべきではない)」と記されており、現状研究段階ではあるものの、マイクロバイオーム分析を通して女性の不調を改善したいという気概が感じられた。

次に、オンラインで質問に回答する。生理サイクル、健康の悩み、感染症歴や今回の検査で知りたいことなどを回答する。10分ほどの割と長い質問票だった。


​​採取したサンプルを送付すると、2週間ほどで結果がメールで送られてくる。結果を解説してくれるマイクロバイオーム専門家とのビデオコールも追加コストなしでリクエストできる。ビデオコールでは、自分の悩みを伝え、結果を見ながら改善方法などを教えてくれた。結果を見てもどのように実生活に活用すれば良いのか、わかりにくかったので、マイクロバイオーム初心者の筆者からするとありがたかった。

ユーザーは、3カ月ごとの定期検査のサブスクリプションモデルと1回のみの検査キット購入が選べる。定期的に検査することで、自分の健康状態を見てみたかったので、筆者はサブスクリプションを選択した。

細菌性腟症などの感染症は、一度なると再発しやすい。実際、一部のユーザーは、膣内感染症の再発を防ぐためのヒントを求めてEvvyにたどり着く。また、早産、不妊の可能性や予防法をマイクロバイオームから知りたいというユーザーもいる。

筆者が最も注目しているのは、同社のビジョンだ。まだ研究段階のマイクロバイオームだが、同社は今後、膣内マイクロバイオームと不妊、子宮頸がん、早産などとの関連を調査し解明するというビジョンを持っている。マイクロバイオームから自分の身体の状態を把握するという未来がくるのかもしれない。

カップルの唾液から遺伝疾患リスクを解明する出生前唾液検査キット

画像クレジット:Orchid ウェブサイトより

Orchidは、パートナー両方の唾液サンプルを送付するだけで60億ものゲノムを解析し、子どもが遺伝性疾患を発症するリスクが高いかどうかを判定する唾液検査キットを提供している。2021年4月、シードラウンドで450万ドル(約5億3000万円)を調達。遺伝子キットを開発、販売する23 and Meの創業者も出資​​している。

対象となる遺伝性疾患は、乳がん・前立腺がん・心臓病・心房細動・脳卒中・1型糖尿病・2型糖尿病・炎症性腸疾患・統合失調症・アルツハイマー病の10種類。唾液を送ると、カップル向け、女性・男性の各パートナー向けの3種類のレポートが送付される。

子どもを作る前に、遺伝リスクを検査するというアプローチをとる同社。心配な結果が出たとしても、遺伝カウンセラーと、リスクを最小限に抑える方法などを相談できる。

2020年にシリーズDラウンドで1億2100万ドル(約143億円)の大型調達を発表したSema4も、出生前検査・遺伝性がん検査を手がける企業だ。同社は、2020年フェムテック領域の中で最大額を調達した企業だった。

テレヘルスユニコーンRoが買収、精子分析・保存キット

画像クレジット:Ro

フェムテックではないが、精子を自宅で採取し、分析結果を送ってくれるサービスを提供するDadiを紹介する。同社は、2022年3月にテレヘルスユニコーンのRoに買収されている。米国の国保健社会福祉省によると、不妊症の約3分の1は男性の不妊症に関連しているため、精液の分析と保存は重要な不妊治療サービスだ。自宅で精子を採取した後、採取キットと保存カプセルの両方が、温度変化や提携ラボへの輸送中の障害などから精子を保護・保存するように設計されている。サンプルの分析が完了すると、精子の数、濃度、運動性の評価を含む個人別の報告書が送付される。また、採取した精子は提携ラボで冷凍保存される。

Roは、コアビジネスである勃起不全治療テレヘルスプラットフォームから、テレヘルス全体へ事業拡大を進めるため、過去12カ月に3社(Workpath, Kit, Modern Fertility)を買収している。

成功の鍵は、丁寧なインストラクションと行動に落とし込める分析結果表示

ここまで自宅検査のスタートアップを解説してきた。筆者自身、自宅検査を複数試して感じたのは、自宅検査ビジネスをグロースさせる上で重要なのは「わかりやすい検査のインストラクション」と「ユーザーが行動に落とし込める分析結果を提示する」という点だ。家庭で正しく検査するためには、動画や簡単なイラストなどで、わかりやすいインストラクションが必要だ。

また、検査を受けて良かったと感じてもらうためには、明日からできる行動の変化を促す分析結果を提示することが重要だろう。自分の状態を把握するだけでは、一度きりの購入で終わってしまう。消費者は「xxのサプリを毎日飲む」「○○の栄養素を避ける」「有酸素運動を30分する」など改善のための方法を知りたいのだ。

この満足感が、安定的な収益を達成するためのサブスク顧客獲得に繋がる。現状、専門カウンセラーとのビデオコールを提供し、テスト結果を解説することでこの部分を補う企業が出てきている。専門家たちは、医学的・生物学的な専門知識がない一般消費者をガイドする役割を担っている。ここでの問題点は、スケールだ。ユーザー数が増えるごとに、専門家の数を増やさなければいけない状況では、スケールは難しい。技術を活用し、ある程度自動化をしながら満足度も担保するようなサービスが、今後伸びていくと考える。

人材獲得戦争時代、さらに重要視される企業の充実した福利厚生

米国では現在、労働者が大量に仕事を辞めている。この現象は、大規模離職を意味する「グレイト・レジグネーション(大退職時代)」と呼ばれ、メディアで頻繁に報道されている。​​Fortuneが2000人以上の米国人労働者を対象に行った調査によると、80%が新しい仕事に就くことを考える際に柔軟なスケジュールが重要であると回答している。また、約70%の労働者がリモートワークの選択肢を重要視している。優秀な人材プールを惹きつけるためには、働きやすい環境を作ることが必須だ。そのため、企業は、福利厚生にこれまで以上に投資している。

パンデミックで完全リモートを経験した労働者たちは、今後も働きやすさを求めている。この流れは、B to B to E(Employee)モデルと呼ばれるかたちで、企業向けに福利厚生としてのソリューションを提供するフェムテック企業にとって追い風となる。

働く親のための福利厚生プラットフォーム​​

画像クレジット:Cleoウェブサイトより

従業員は、Cleoを通して、育休からの復職時に悩みを相談できる専門家や、子どもの健康の専門家、助産師や産後うつ専門家などにアクセスできる。同社は、Pinterest、Uber、Upwork、Salesforceなどを含む、55カ国以上の100社を超える多様な企業に導入されている。​​実際、産休・育休後の復職率は、全米での平均が60%であるのに対し、Cleo会員は92%と改善している。

妊娠・出産のサポートから始まった同社のサービスだが、現在は、5歳から12歳の子どもを対象とするCleo Kids、ティーンエイジャーの子どもを対象とするCleo Teensにも拡大している。

多様なニーズに応える福利厚生の変化

画像クレジット:Carrot Fertilityウェブサイトより

これまで対面での不妊治療を中心に提供してきた福利厚生プロバイダーも、パンデミックを受け、そのサービス提供内容と方法をユーザーの求める形に変化させている。

企業の従業員向けに不妊治療を提供するCarrot Fertilityは、SlackやBox groupなど北米、アジア、ヨーロッパ、南米、中東の50カ国以上で、約200社の企業​​を顧客に抱える。これまで約135億円($115M)を調達している。同社は、パンデミックで通院を避けたい患者のニーズを受け、2020年8月に遠隔医療プラットフォームのCarrot at Homeを開始した。また、2021年12月には、自宅で排卵誘発ホルモンや関連バイオマーカーをモニタリングできる自宅検査キットの提供も開始している。2022年2月には、更年期障害向けのプランも追加した。

従業員それぞれのニーズが異なる点に注目し、福利厚生をパーソナライズできるプラットフォームも登場してきている。

画像クレジット:Nayyaウェブサイトより

2022年2月にシリーズCラウンドで5500万ドル(約64億円)を調達したNayyaは、企業の人事福利厚生システムに組み込んで、従業員のための福利厚生をパーソナライズするツールを提供している。

RPAを使って、従業員がプランをより良く選択し、節約する方法を見つけ、より良い支払いオプションを提供し、保険などの福利厚生を総合的にナビゲートできるようにしている。

画像クレジット:Forma

Formaは、​​裁量型福利厚生管理プラットフォームを提供している。同社も2022年2月、シリーズBラウンドで4000万ドル(約47億50000万円)を調達した。同社は、人事担当者が、従業員による福利厚生ベンダーの選定、払い戻し手続き、デジタルウォレットによるプラン利用をチェックできるようなシステムを構築している。

同社によると、企業の福利厚生は通常、企業が従業員に必要なものを決定するトップダウン・モデルで展開されており、これは雇用者と従業員の双方にとって非効率的だという。Formaの使命は、従業員ファーストの福利厚生プログラムを設計することによって、この関係を逆転させることだ。

Formaはプロバイダーと提携し、家族・人間関係、教育・キャリア、ウェルビーイング・ライフスタイル、基礎健康・保護、資産運用、仕事・パフォーマンスの6つの大きなカテゴリーで福利厚生を提供する。Formaの顧客は、社内の予算と戦略に基づいて、これらのカテゴリーから提供するものを選び、従業員に提供したい福利厚生プログラムを設計することができる。

Twitch、Stripe、Zoom、Lululemon、Palo Alto Networks、Squareなど、前年比330%の125社を顧客に抱えており、定着率は99%だという。この1年間で同社は収益を4倍に増やした。

優秀な人材を惹きつけ、繋ぎ止めるために、今後も企業の従業員への投資は、続いていくだろう。​​上記のパーソナライズ福利厚生が成功していることからも、従業員それぞれニーズが異なっており、企業がそのニーズに応えようとしている姿勢が感じられる。

編集部中:本稿の執筆者は大嶋紗季(Saki Oshima)。日本企業と海外スタートアップの新規事業創出を手がけるスクラムスタジオで、大企業とスタートアップのオープンイノベーションを支援するスタジオ事業部門に所属し、既存プログラムの運営や新規プログラムの立ち上げに従事する。各プログラムで培った日本企業とスタートアップをつなぐ経験を生かし、米国スタートアップ情報プラットフォームScrum Connect Onlineの立ち上げ、運営を担当する。欧米のフェムテックトレンドやサービスを日本語で配信。日本初のフェムテックコミュニティFemtech Community Japan創立メンバー。UCサンディエゴ大学院修了(MBA)。

 

Ultrahumanのグルコーストラッカー「Cyborg」を4週間装着、自分を定量化することで何ができるのか?

2021年のある4週間、TechCrunchの記者である私は、インドのベンガルール本拠のスタートアップUltrahuman(ウルトラヒューマン)が提供している「代謝健全性」サービスを思い切ってテストした。このトラッカープログラムは商標名をCyborg(サイボーグ)といい、腕に装着する医療用のハードウェアを使用して血中グルコース値をリアルタイムで読み取る。Cyborgは、この動的なデータポイントを利用して食事の内容や運動の方法にスコアを付ける健康定量化サービスであり、1日を通して健康的な生活習慣を選択するようユーザーにアドバイスする。

研究によると、質の悪い食生活や運動不足などの要因で起こる代謝性の慢性炎症によって、糖尿病、心臓血管疾患、慢性腎疾患、がんなど、さまざまな病気を発症する危険性があるという。Cyborgの背後にある理論は、生活習慣の中で数多くの選択を積み重ねることで、より健康的な長期的展望が開けるというものだ。それには、そのような日々の決断を最適化して炎症や酸化ストレスを回避することが前提となる。

この長い記事では、皮膚に穴を開けるタイプのデバイスを身に付け、動的に更新される生体内プロセスのデジタルウィンドウを見ながら生活を送ったときの興味深い体験、および健康全般とフィットネスのために継続的グルコースモニタリング(CGM)を行う価値について書いてみたい。また、この種のセンシングハードウェアが次々に製品化されている現状における市場勢力図についても触れてみたい。

この記事は、Ultrahumanの製品とサービス(現在は非公開ベータ版で運営)に関する大まかなレビューだが「評定と価格」というセクションも設けた。動作の詳細をすぐに知りたい方は読み飛ばしていただきたい。その前に背景について少し説明することにしよう。

前置きと注意事項

Cyborgになるのはもはやまったくのサイエンスフィクションではなくなってきている。何年にも渡る「自己定量化」トレンドによって、身体の活動を計測し、出力を追跡して最適化するようアドバイスするさまざまなセンサーやサービスが次々に生まれた。歩数計心拍数モニター、ストレスおよび睡眠センサー、肺活量測定器などだ。最近ではさらに変わったものも登場している。血中グルコース値モニター、唾液小便大便分析器などだ。大便を解析することで、必要に応じて、ホルモンや微生物叢 / 代謝に異常があるかどうかを知ることができる。

心配症の人たちに手首装着型、またはベルト固定式の自己管理型センシングデバイスを装着させ、サブスクリプションサービス(計測したデータの意味をアプリで解釈し、数値を改善する方法を提示する)を提供するビジネスが活況を呈している。Apple Watchのリングを完成させる、深く呼吸する、早めに就寝する、といったことをアドバイスされる。

こうした定量化ヘルステックは少し浅薄で不真面目だと受け取られる可能性がある。毎日の生活にちょっとした小道具を持ち込み、単に散歩に行ったり早めに寝たりすればよいだけなのに役に立ちそうもない小物を押し付けてくる感じだ。やる気の出ない人に行動を起こしてみるよう勧める電話サービス、失われた子ども時代の代わりになる環境、あるいは存在の証明としてのデータ化サービスなどを販売する、もっと基本的で単純な製品でも十分だ。

しかし、餅は餅屋ということもある。睡眠障害があったり、ストレスや心配事で苦しんでいたりするなら、睡眠をトラッキングして、少しでも睡眠時間を増やすためのアドバイスやヒントを貰えば、質の高い睡眠を安定的にとれるようになるかもしれない。

利用できるテクノロジーもどんどん洗練されてきている。市販のトラッカーは臓器(心臓や肺)の機能障害の有無に焦点を合わせているのに対して、定量化というのは良さそうに思えるかもしれないが、正確性には疑問の余地がある。というのは、この種の製品は、規制の対象となる医療機器ではなく消費者向けレベルであることが多いからだ。

歩数計のデータでさえかなり不正確な場合がある。

しかし、最近の開発現場では、医療用レベルのセンシングハードウェアを使用して自己管理型の代謝分析機能を提供するスタートアップがどんどん増えている。こうしたデバイスは、皮膚上(というより皮膚中)に装着するセンサーを介して血中グルコース値の変化をほぼリアルタイムでトラッキングする。

これは魅力的な機能であり、成長しているが、健康定量化スタートアップとしてはまだまだ新しい領域だ。だが、有望な領域に思える。個人の有益な健康情報を提供でき、なおかつ十分なデータがあれば実用面でも大きく向上する可能性がある。また、多くの人たちがより健康的な生活習慣を選択できるようになる。

しかし、大きな問題がある。代謝健全性の科学的理解が我々が思っているほど完全ではないのだ。

UltrahumanのCyborg。欧州にいる筆者に送られてきた箱の中身。Abbott(アボット)製のCMGセンサー、アルコールティッシュ、センサーの上に貼るテープパッチ(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

まだ多くのことが解明されていない。例えば個人によって代謝反応に大きな差がある(まったく同じ食事を摂っても、人によって反応が大きく異なることがある)のはなぜかや、糖尿病やがんなどの発症リスクの増大に炎症がどのような役割を果たしているのか、といったことだ。

したがって、スタートアップ各社の病気を予測する能力は、今後の研究の必要性によって決まってくる(ただし、研究の進展のためにデータを収集して理解することは、企業家がひそかに狙っているビジネスチャンスの重要な部分ではあるが)。

また、問題となっているセンシングハードウェアは、大半のスタートアップが追求している「一般的な健康」という使用事例において規制の対象になっていない。

つまり、こうしたサービスはまだ新しい領域、つまり実験段階ということだ。たとえスタートアップが転用しようとしているハードウェアが老舗の医療機器会社によって製造されているという点で合法であり、より狭い範囲における使い方(糖尿病管理など)では規制の対象になるとしてもだ。

通常、このようなセンサーは、糖尿病患者が定期的に血糖測定を行う代わりに血糖値をトラッキングするためのデバイスとして規制当局の認可を受けている。そのため、スタートアップ各社は信頼性を付与され、同じデバイスメーカーのAPIに接続して同じデータストリームを取得できるようになるかもしれない。しかし、こうしたサービスがデータに付与するのは、偏った解釈だ。

生活習慣に関するアドバイスを含む、より広範な分析を行えば、FDAには絶対に認可されない。

栄養に関して長年に渡って激しく繰り返されてきた議論、すなわち、一時的な流行りの食事療法、ベストセラー本、体に良い食物と悪い食物や効果的な運動に関して繰り返される議論などは、人間の生態と人間が定期的に自分の体をさらすもの(食物、運動など)の間の相互作用に関する理解が不十分であるために起こってきた現象だ。

すべての構成要素がどのように相互作用するのかを完全に理解せずに複雑なシステムを計測しても、全体像を把握することはできない。把握できるのはせいぜいスナップショットだ。それでも理解を深めることができるかもしれないが、すべての答えがそこにあるわけではない。誤った解釈のリスクは本当に存在するのだ。気を付けなければならない。

「代謝健全性」の計測を実際にどのように行うのかという疑問もある。代謝健全性というのは漠然とした言葉だ。複雑な生物相互作用が化学反応を引き起こし、それによって体に必要なエネルギーが生成され、その結果、健全な体重を簡単に維持できることになる(あるいは維持できない場合もある)。つまり、体全体の健康を実現するのを支援することもあれば邪魔することもある。

食事の内容、方法、時刻、およびその時に十分に活動し休息を取れているか(ストレスを感じることなく)は、代謝機能に影響を及ぼす可能性のある動的な変動要因のほんの一部に過ぎない(わかりやすい例。今日体内で食材が代謝される方法は、昨日食べたものによって影響を受ける可能性がある)。センシングデバイスで焦点を絞って追跡するよう選択された生体指標(複数の場合もある)によって「代謝健全性」サービスでわかるもの、そして推定できるものも明らかに違ってくる。

代謝健全性を追求するスタートアップは、血中グルコース値のトラッキングから腸内微生物や体の排出物(尿など)の分析、あるいは、出力とシグナルの組み合わせの確認(心拍数を考慮に入れることもある)など、さまざまな方法を模索している。そのうち、より多くの体のシグナルがチェック対象に追加され、十分に解明していくための取り組みが行われるだろう。しかし、現状の代謝トラッキングの多くはせいぜいパズルの1ピースに過ぎない。陰影付けの線よりも空白のほうが多いスケッチ(つまり、大まかな推測)のようなものだ。

あらゆる生体化学を理解する最新技術の製品化を試みる人たちにとって、さまざまな代謝シグナルの組み合わせから得られるデータを理解する、いや最善の解釈を導き出す方法については、疑問と課題が山積みの状態だ。Ultrahumanの創業者もこの点を認めており、次のように話す。「血中グルコース値という生体指標から生成される情報を正確なものにすることが、当社の最も重要な使命です」。

Ultrahumanのウェブサイトには、Cyborgのサービスは「スポーツ愛好家が自分の血中グルコース値レベルと運動能力を把握するための一般的な情報を提供するもの」であり、医師の意見の代わりになるものでもなければ、特定の病状や健康上の懸念のケアや対処方法を構成するものではないという免責条項がある。

代謝の謎を解き、代謝健全性の概念を商用化するという企業使命はまだまだ現在も進行中だが、次の2つのことは明確だ。第1に、生物学的機能の理解を深めようとするニーズが存在している(トップアスリートだけでなく多くの人たちが体内で起こっていること全般、とりわけ代謝について関心を持っている)。第2に、この種のヘルストラッキングテクノロジーが個人ユーザーにもたらす長期的利点は何なのかについて、重大でありながら、未確認のさまざまな主張が行われている。

そこで、注意していただきたい点をもう1つ。代謝バイオハッキングに是非関わりたいと考えている人は、その制限についても明確にしておく必要がある。

少しばかりのデータを取得しても、診断を下すどころか、適切な理解さえできないこともある。この場合データ量が多いと、ノイズと混乱が増え、必ずしも明確なシグナルが得られるとは限らない。本来心配する必要のないことまで心配になることもある。

この10年間、デジタルでの健康 / ウェルネストラッキングの消費ブームは、侵襲的 / 半侵襲的なウェアラブル機器に関しては伸びが鈍化していたが、それもうなずける。侵襲的ウェアラブルとは、体の内部に(少しだけ)刺し込んで使うセンシングデバイスのことだ。

たとえ部分的でもウェアラブルな(UltrahumanのCyborgの場合は、皮膚パッチを皮下に刺して間質液中にセンシングフィラメントが押し込まれるようにする)代謝トラッキングサービス、それがこのレビューの中心テーマだ。この半侵襲的センサーとアプリの組み合わせで、代謝健全性を把握して評価する代わりにほぼリアルタイムでグルコース濃度をモニタリングする。血糖値が高いと、効果的な生活習慣に向けて改善するよう装着者にアドバイスや警告が出される。

目的は、センサー装着者の日常生活におけるグルコース濃度を安定させて(著しく高いまたは低い状態を避けて)、健康に悪影響を及ぼすような炎症と酸化ストレスを軽減するという包括的なミッションを達成することだ。

Ultrahumanが提案しているのは「代謝健全性」(同社が自社のミッションを説明するために好んで使うフレーズ)に注意を払い、食事の内容と時刻、運動や睡眠の質と時刻に関して少しでも対策を講じることで、時間の経過とともに、糖尿病、非アルコール性脂肪肝、心臓血管病などの代謝異常を発症する可能性のある慢性的炎症を回避したり好転させたりできるというものだ。

食事療法は、CGMテクノロジーを製品化しているスタートアップによって常にあからさまに宣伝されているわけではないが、血糖値の急上昇は、もちろん甘い食べ物の摂取(および過剰摂取)と関連している。いずれも体重の増加につながる可能性がある。したがって、代謝健全性を支援することは、健康的な体重を達成してそれを維持できるよう助けることを意味する。

慢性疾患のリスク軽減、体重管理支援、運動能力を向上させるスマートなデジタルアシスタントなど、マスコミに取り上げられそうな潜在的利益があることを考えると、大手スタートアップがこぞって代謝の謎を解明しマネタイズしようとしているのもうなずける。

また、スタートアップ側のビジネスチャンスという点では、文字どおり「ワイヤイン(針を刺す)」タイプの消費者向けヘルストラッカーは間違いなく、Apple Watchなど、手首に装着するトラッキングギアなどの主流からは外れた位置付けだ。だがそのおかげで大手消費者向けテック企業との競争は少なくなり、挑戦を続ける企業家には成功のチャンスとなる。

Appleのウェアラブルデバイスのバックパネルに収納可能なグルコース測定用の金属針が埋め込まれていたら、そのグルコース検知フィラメントの外観がどれほどしゃれていても、Apple Watchの出荷数は現状に遠く及ばなかっただろう(噂では、Appleはもちろん、針を使わないグルコースモニタリング機能をApple Watchに埋め込みたいと考えているようだ。うまく機能するならだが)。

皮膚に針を刺すのは(実際にはそうでもないとしても)面倒そうな感じがする。そして当然、多くの人が針と聞いただけで嫌がる。ということは、バイオハッキングの最先端で健康定量化スタートアップが、主流の大手消費者向けテック企業よりもはっきりとした足跡を残す存在になるチャンスと市場余地があるということだ。人々の針恐怖症に臆せず挑む自己定量化テクノロジーは、より本格的であるように思える。というのは、トラッキングされる生体内作用に文字どおり近い位置で計測するからだ。

とはいえ、トラッカーを皮下に挿入することで、センサーを侵襲性の低い形で装着する場合に比べて、取得されるデータの質、そのデータの分析、結果としてユーザーに提示されるアドバイスといった点において有意な差異が生まれるのかどうかは簡単には答えられない質問だ(実際、非常に多くの質問が生じ、その内容はコンテキストとサービスの実施によって変わる)。

UltrahumanのCyborgの場合、大げさな約束をしないよう慎重に事を進めている。マーケティングでは「食事と運動が体に与える影響と毎日の改善のモチベーションとなるスコアをリアルタイムで確認し、改善の取り組みを行う」のはユーザーの責任である、とベータ版に同梱されている簡単な説明書に記載されている。

Cyborgが出力する代謝スコアはパーソナライズされるが、科学的にはまだ解明されていない部分が多い生体内作用を抽象化し解釈したものだ。したがって、再度いうが、これは答えを探している途中の段階であって、明確な1つの「生物学的真実」をやすやすとユーザーに与えるものではない(要するに、差し出す真実などないのだ。あるのはユーザーの好奇心を満たす示唆的な大量のデータだけである)。

少しばかり知識があるのは危険なことだが(問題になっているデータが自分の生物学的状態に関連する場合、その危険性はもっと高まる)、人の体内の働きを垣間見るのは興味のある人にとって間違いなくおもしろいことだろう。このデジタル時代にあっては、コンピューターのキーを一打するだけで、健康に関する研究情報をいくらでも見ることができる。誰でも自分の生物学的状態について多少なりとも興味があるのではないだろうか。

危険なのは、おそらく、侵襲性の高いセンサーを装着することで、この種のトラッカーが、単なるデータ処理(および代謝プロセスに関するより広範な科学的理解)の域を出ない機能よりも高品質の情報(より個人の特質に沿った情報)を与えてくれるものとユーザーが自動的に思い込んでしまうことだろう。

しかし、Ultrahumanはこのサイエンスフィクション的なイメージをセールスポイントとして前面に押し出すことを恐れない。だからこそ、皮膚の中にセンサーを装着し、センサーと人体を直接接合することを意図的に強調した「Cyborg」という商標名をあからさまに選択したのだ。つまり、このデバイスが「少しずつ段階を追って健康増進へと導く」ことを約束する健康定量化サービスを実現する特殊なソースであることを暗示している。しかも、食事内容の大幅な変更や退屈でストレスのたまる包括的な運動プランは必要ない。

他の多くのスタートアップが同じ(または類似の)CGMハードウェアを利用しているため、魔法のごとく自動的にデータを取得する機能はすでにコモディティ化されている可能性がある。重要なのは、取得した情報を視覚化し、分析して、個々のユーザーの特質に合わせて提供することだ。

しかし、ここでも、上述の科学的理解の不確実さを考えると、定量化は本質的に難しそうだ。

もちろん皮肉屋に言わせれば、それこそスタートアップにとって完璧なビジネスチャンスだということになるのだろうが。

Ultrahuman製Cyborgの動作の仕組み

Ultrahumanは、代謝健全性を算定するために、血中グルコース値の動的な変化をトラッキングすることを選択した。

なぜグルコースなのか。UltrahumanのCEO兼共同創業者のMohit Kumar(モーヒト・クマール)氏によると、グルコースは「食事、ストレス、睡眠、活動に敏感に反応するリアルタイムの生体指標」であるため、Cyborgで達成したいことを実現するのに最適だったからだという。

「当初は健康増進をパーソナライズするための生体指標と手法も探していましたが、当社が目指しているインパクトが与えられる生態指標を特定するのに1年に渡る実験が必要でした。HRV(心拍数のばらつき)、睡眠、呼吸数など、あらゆる生体指標を検討しましたが、グルコースは生活習慣の食事面についてフィードバックが得られるため、最もおもしろいものに思えました」とクマール氏はいう。

「つまり、さまざまな生活習慣要因について即座にフィードバックを得ることができるのです。そして、これまで見たところ、即座にフィードバックを与えたほうが実際に行動に移す可能性が高くなるようです。例えばスパイク(血糖値の急上昇)を引き起こす食事の後にすぐ散歩するようアドバイスしたほうが、翌日出力されるレポートよりも、行動に移す可能性が高くなります」。

「次に、活動のパフォーマンスを高めるフィットネスウェアラブルやマーカーはたくさんありますが、食事の最適化を支援するものは皆無です。栄養摂取は一般にブラックボックスであり、食事の種類と個人的好みが幾百もあることを考えるとはるかに複雑です。ですが、食物エコシステムが破壊されていることを考えると、栄養摂取は最も重要な生活習慣の要素です」。

「半侵襲的生体指標であってもグルコースを指標として選択することがROIの観点から大いに意味があると感じた理由もそこにあります。非公開ベータ版によって、どのようなアドバイスと情報を与えれば人の生活習慣を簡単に変えられるのかがわかってきました。アプリ公開時には大勢のユーザーが参加しました。21歳くらいのユーザーが毎日計測を行い、大半の人が使い始めてから約45日目で健康に大きな改善が見られました」。

CGMテクノロジーのおかげで血糖値の変動をリアルタイムでトラッキングできるようになったことは、数週間、数カ月に渡って試行錯誤しながら進める従来のダイエットのような、ユーザーに忍耐を強いるビジネスに即座に大きな前進をもたらした。こうした従来のダイエットでは、食事と運動の内容を変えて数週間または数カ月後に実際に効果があったかどうかを確認する。

指に針を刺して繰り返し計測する方法ではなく、継続的な血中グルコース値をトラッキングする方法が近年、CGMハードウェアの開発によって実現された。CGMは当初、糖尿病と正式に診断された患者向けだったが、最近は、このテクノロジーを製品化して健康に懸念のある、またはフィットネス指向の消費者に販売するスタートアップがますます増えている。

このテクノロジーによって興味深い科学的事実が明らかになっている。例えばこの2018年の研究論文には、グルコースの調節異常(正常と考えられる範囲外の値を示すこと)は実は健康な人たち、つまり糖尿病または糖尿病予備群と診断されていない人たちの間でもごく普通に起こっていることが示されている。これは、研究者にとって意外なことだった。

ベーシックレベルでは、Ultrahumanのサービスは腕に装着するセンシングハードウェア(円盤型のセンサー、2週間ごとに交換が必要)と血中グルコース値を視覚化し警告とアドバイスを行うアプリがセットで提供される。トラッキングを継続するために、センサーは交換のたびにアプリとペアリングする。

平均的なフィットネスウェアラブルではない(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

センサーハードウェアを製造しているのは、米国の医療機器メーカーAbbott(アボット)という別の会社だ。本稿の執筆時点でUltrahuman製品といっしょに出荷される専用センサーは、アボットのFreeStyle Libre 2(フリースタイル・リブレ2)というグルコースモニタリングシステムだ。

CGMセンサーを自分で装着するのは少し神経を使う。これは、1回で正しく装着する必要があるからだ。TechCrunchに送られてきたベータ版の箱にはセンサーが2つしか入っていなかったので、センサーを無駄にしたくなかった。

筆者が装着した時には、センサーの装着とセットアップを説明した2つの(ロボットのおもしろい音声による)動画がUltrahumanによって制作されていた。これは役に立った。が、少し耳障りなところがあった(数滴血が飛び散ることがあるのであまり強く押し付けないようにと言っている部分が原因だろう)。

アボット製のハードウェアにも、独自の操作説明書とばね仕掛けの装着器が同梱されている。これを手動で準備し、上腕を上げてプラスチックのカップを装着位置にセットしてから、不安な気持ちになりつつも、押し下げてフィラメントを皮膚に向けて発射する。この動作は非常に速いので、思わずぎくりとする。Ultrahumanの操作説明動画に出てくる「中空の針」というフレーズを思い出してもあまり役に立たないかもしれない。しかしこの針はフィラメントを誘導するためのもので、腕の中に目に見える金属が残されたままになることはない。

血は飛び散ったかというと、筆者の気づいた限りではそのようなことはなかった。ただし、2回目に装着したセンサーは神経か何かに刺さったのか数日間かなり痛みがあった。その後落ち着いて安定した。もしくは、筆者が慣れたのかもしれない。

1台目のセンサーは装着時に痛みはなかったが、腕にプラスチック片を付けた状態で眠るのに慣れるまで少し時間がかかった。あるヨガのポーズを取ると、センサーを不自然に押し付けてしまうのを避けるため、余分に体をねじる必要があることに気づいた。また、CGMを装着している期間中は夜間、非常に高いピッチのすすり泣きが確かに聞こえたように思うが、筆者が電気羊の夢を見ていただけなのかもしれない。

センサーを付けたままシャワーを浴びたり入浴したりすることはできる。Ultrahumanの製品箱には、センサーを保護するための(腕にブランド名を表示する目的もある)布テープパッチが同梱されている。このパッチは、生活習慣によっては数日で剥がれてくることもあるが、センサー自体は筆者の2週間のテスト期間中しっかりと固着されていた。ぼろぼろになったパッチを剥がして新しいものと交換することはできる(予備のパッチがあればだが)。しかし、パッチを早めに剥がしたためにセンサーを通常より早く引き抜いてしまいたくないので、この作業も神経を使う。基本的には、Macbook(マックブック)ステッカーを貼るのと同じくらい楽しい。

センシング用フィラメント自体に興味のある方のために言っておくと、これはそれほど細くない針金ような感じだ。最初に腕から引き抜くときに確認できる。この時見て思ったのだが、何らかの黒いペイントでコーティングされているようだった。で、見ていてあまり気持ちの良いものではなかったが、そのコーティングが少し剥がれていた。だが、皮膚に装着したまま生活して2週間が経過する頃までには、体がCyborgを受容した。スマートな感じだ。

センサーを腕から引き抜いたところ(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

跡が残るかどうかだが、フィラメントが皮膚を穿孔した場所に赤い小さな腫れが残る。これはしばらくすると消えた。テープおよびセンサー内蔵の固定具(テープよりもはるかにしっかりと皮膚に接触したままである)で皮膚に問題が生じることはなかった。

センサーはBluetooth経由でUltrahumanのアプリとペアリングされる。このため、電話が腕と数メートルの範囲内にないと接続が切れることがある。そうなると、データフロー(およびリアルタイムアラート)が停止する。電話を決して自分の側から離さないようにするための完璧な理由ができたわけだ。

接続が切れると、アプリからその旨が通知され、接続可能になったら電話をタップしセンサーと再接続して失われた読み取り値をアップロードするよう要求される(セットアップ時にも、センサーには、データフローを開始する前にちょっとした「ウォームアップ」時間が必要になる。このため、最初のワークアウトや食事を記録する準備が整うまで部屋の中を行ったり来たりして待つことになるかもしれない)。

1カ月以上に渡って2回に分けて行った(センサー1の装着期間とセンサー2の装着期間の間に中断を入れたため)TechCrunchでのテスト期間中、アプリはまだ開発中だった。このため、ソフトウェアは見た目の大きな変更を含め、多数の変更が行われた。

これにより、グルコースプロット線のグラデーションをあまりにも単純すぎる表示(グルコース値の高低に応じて、常に赤から緑のグラデーションで表示する)から中央の「ターゲットゾーン」を設けるように変更された。ターゲットゾーンでは、プロットが「正常値」を意味する霧がかった緑で表示されるが、値が急降下または急上昇すると黄色、オレンジ、赤の順にグラデーションで表示される。つまり、グルコース値が最適範囲(70mg/dLと110mg/dLの範囲)外になると高すぎる場合も低すぎる場合も赤で表示されることになる。

この変更は大きな改善だった。これまでのバージョンでは、緑は常に良いサインとしてグルコース値が低くなることは常に良いことであると視覚的に示唆されていた。たとえターゲットを下回る値(低血糖)であっても緑で表示されていた。これは、この種の健康定量化製品で見られるデザイン/UXの落とし穴の一例だ。

アプリは、1日を通じて血中グルコース値の増減(またはアボットのハードウェアが間質液から引き出した近似値。糖尿病患者なら誰もがいうだろうが、これらの値は血中グルコースの読み取りと正確に一致するわけではない。また、グルコース値が上昇または下降する際には、フラッシュグルコースモニターに表示されるまでの間に短いタイムラグが発生することがある)をプロットするだけでなく、Ultrahumanが「代謝スコア」と呼ぶ数字(0~100)も表示する。

これは、健康的な生活習慣に向けた改善の実施をアドバイスおよびゲーム化するためにアプリが使用するメインの「指標」の仕組みだ。

Ultrahumanは、このスコアを「全体的な代謝健全性」を表す指標と説明しており、グルコース値のばらつきと平均、およびターゲット目標範囲内に収まっていた時間に基づいて算出しているという。このスコアは毎日深夜に100にリセットされ「日中の活動と体の反応に応じて」増減する。

このゲーム化のミッションは非常にシンプルだ。「目標は毎日、このスコアを最大にすることです」。

実際には、良い(高い)スコアを得られるかどうかは個人の生物学的状態と生活習慣による。そして、気が滅入るが、前日の活動と食事の内容によっては朝起きるとスコアが80台(いや、それよりも悪い数値だと思われる)に落ちていることもある。

注意:ストレスも血糖値に影響を与える可能性があるため、自分では制御不能な出来事が起こると数値に影響が出ることがある。

食事、活動、およびテスト期間中に徐々にアプリに追加されていったその他のタイプの出来事は手動で記録する。

当初、記録は食事または活動の説明を手入力することで行っていたが、その後のアップデートで、食事と活動のインデックスが追加され、構造化されたリストから食事と活動を検索して選択し、その量または時間も指定できるようになったため、すべてを手入力する必要はなくなった。

筆者としては、結局、食事の内容は手入力で記録するほうが良い感じがした。というのは、用意されているリストはあまりに詳しすぎて煩雑なため便利だと感じなかったからだ(「チーズ」と入力すると、ありとあらゆるタイプのチーズが候補として表示されるが、自分が食べているチーズや、実際に皿に盛る量と完全に一致するとは限らないし、そもそも量など認識していないかもしれない。チーズ一品を記録するだけでこの状態だ。これを皿一杯の料理について繰り返すなどうんざりだ。それに、このリストはかなり米国寄りのようで、欧州の食事を記録するにはあまり役に立たなかった)。

対照的に、自分の好みのチーズまたは料理全体のカスタムの説明を手入力しておけば、アプリでカスタムラベルが記録されるため、次回その料理を食べるときに迅速に記録できる。

Ultrahumanが、でき得る限り最高品質の構造化データを実現して、AI予測モデルで要求される広範な実用性を構築したがっていることは間違いない。しかし、記録作業があまりに仕事のように感じられると、ほとんどのユーザーはその仕事をタダでやろうとはしないだろう。このため、カスタムだが謎めいたものではなく、正確で構造化された食事グルコース反応データをベータ版ユーザーベースから取得するよう作業が調整されたのかもしれない。

(実際、食事の写真を撮るようユーザーに依頼し、コンピュータービジョンテクノロジーを適用して情報に基づく推論を行う必要があるのかもしれないが、それでも多くの誤りが入り込む可能性がある。長期的には、このテクノロジーが本当に主流になれば、レストランのメニューに各料理のQRコードが印刷され、それをスキャンする方法も想像できる。この方法ならすべての正しい栄養素データが即座に記録され入力時のイライラも緩和される)。

活動の記録は食事の記録よりもはるかに簡単だ。オリンピック選手でもない限り、活動の記録量は食事の記録量よりもはるかに少なくて済むということもある。

Ultrahumanは、ベータ版ユーザーコミュニティからのフィードバックを受け「ストレスのかかる」出来事と断食を記録のオプションとして追加した。断食はもちろん、血中グルコース値に大混乱を引き起こす可能性があるが、いくつかの研究によると、断食特有の健康面での利点もあるという。したがって、ユーザーにより細かい選択肢を与えて、CGMデータの構造化を進めていくのが合理的だ。

将来的には、他のタイプの消費者向けウェアラブルとの統合により、記録を自動化する可能性もあるようだ。例えばフィットネスバンドやスマートウォッチで具体的な活動を検出し、そのデータをUltrahumanのアプリに渡すという方法は容易に想像できる。ユーザーはアプリで検出されたワークアウトの詳細を確認するよう求められるだけだ。

とはいえ、現時点では、データの入力と構造化の主導権を握っているのは依然としてベータ版ユーザーなので、データ品質は本当にごちゃまぜ状態になっている可能性が高い。

学び

Ultrahumanの使用上の注意によれば、使い始め当初は、安定した高いスコアを得られない可能性が高いとある。

これは、通常、血中グルコース値を安定させるために行う必要があることを学習するには少し時間がかかるからだ。というのは、何が自分に効果的かを確認するために、さまざまな要素(食事の組み合わせ、運動する時刻など)を試してみる必要があるからだ。それでもこれは、保守的なダイエットやフィットネス計画査定の退屈な作業に比べると随分時短プロセスだ(当然だが、何もしなくても安定したグルコタイプ(グルコースの性質)に恵まれている人は、手動による、言わば「舵取り」を実行する必要性はずっと少なくなる)。

筆者はまだ使い始めの恐怖に対する心の準備ができていない。第1週のかなりの部分は、筆者の普段の食事内容についてアプリで見積もられる低いスコアをぼうぜんとして見ていた。

ランチはフムスサラダのピタパン・サンドイッチの後、クルミとリンゴ半分とコーヒー(ミルク入り、砂糖なし)。この食事はまあまあ健康的に思えないだろうか。ところが、筆者にとってこの食事は明らかに健康的ではないのだ。このランチは、Cyborgとして4週間の期間中で常に「下方ゾーン」に位置したままである(スコアもひどかった)。

テスト期間中、常に最低(単に食後のグルコース値が急上昇したという意味で)と判定されたランチは筆者が用意したものではなく、ファストフードによる料理だった。ただし「自然」として謳っているブランドの食品でマックバーガーとポテトチップなどよりはるかに健康的な選択のはずだった。

問題の料理Leon’s lentil masala(「レオン」のレンズ豆のマサラ)は玄米を使用しており、レギュラーサイズのココナッツミルクラテ(植物性ミルクブランドRude Health(ルードヘルス)のもの)が付いていたが、これもひどいスコアを記録した。グルコース値があまりに急上昇したため、元のレベルに戻すために急遽高強度インターバルトレーニングを行う必要があると判断されたほどだ。

トレーニングは効いた。ただし、食物を代謝させるためにランチ直後にバーピーとスクワットを何度もやる必要があると、ランチ前にわかっていたら、ランチを変更していただろう。

継続的グルコースモニタリングが普及し、一般消費者が代謝データにリアルタイムでアクセスできるようになったら、ファストフード産業にどのような影響があるかというのは、実に興味深い質問だ。

ファストフードによる大きなスパイク。強度の高い運動をすると消えた(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

レオンの料理を食べる前に小さな文字で印刷されている原材料を確認しなかったが、アプリが赤色で警告してきたことを踏まえ、後で疑いの目でラベルを見てみると、添加物の長いリストの中に上白糖が含まれていることに気づき、さもありなんという感じだった。

ただ、こうした事実を認識したうえで、筆者にとってグルコース値急上昇の引き金となったのはココナッツミルク(シチューやコーヒーの原材料)ではないかと思っている。

残念ながら、食後のコーヒーもおそらく効いていなかった。

Cyborgを装着してわかったことで最も気に入らなかったのは、筆者の場合、コーヒーが血糖値を上げるらしいということだ。緑茶は問題ない。しかし、ブラックコーヒー、デカフェ、ミルク入りコーヒー、どれを飲んでもいくらか血糖値が上がる。筆者の場合、午後、ランチの後にコーヒーを飲むのが好きなのだが、これは食事による上昇に追い打ちをかけることになり、余裕で赤のゾーンに入る可能性がある。

それでも、モーニングコーヒー派になるのは未だに拒否している。

米も多くの人にとって血糖値急上昇の原因となる。白米は、繊維質の豊富な全粒穀物に比べてよりすばやく体に吸収されるからだ。しかし、筆者は白米中心の夕食を摂った後に起こる血糖値の急降下のほうを心配するようになった。血糖値が安定して一晩中ターゲットゾーンに維持されればよいのだが、白米はそれを妨げる方向に働くようなのだ。

結局のところ、低血糖も高血糖と同じくらい避けることが大事だ。少なくとも、それがCGMを4週間装着した後の感覚だ。アプリを使い始めた頃は赤の急上昇を避けることだけに専念していたが、時間の経過とともに急上昇を容易に管理できるようになった。それには、創造的なバイオハックと食事内容の戦略的な修正が必要だ。

例えば筆者は植物ベースのミルクをほとんど食事から除外した(ただし、コーヒーには少量のオートミルクを入れている。そう、コーヒーは完全にはやめていないし、やめる気もない。ただ、一杯のコーヒーを長時間ちびちび飲むようにはしている)。こうした代替ミルクによる血糖値の急上昇は決まって警告を発して無視できないため、筆者はこれはフルーツジュースのようなものと思い避けるのが一番だと考えるようになった。こうした加工度の高い飲み物の宣伝広告では「健康的な選択肢」を提供していることがしきりに強調されているのをよく見かけることを考えると、代替ミルクによる血糖値の急上昇もかなり興味深い。

おもしろいことに、他のCyborgユーザーも似たような問題を報告しているようだ。ある会社のニュースレター要約による共有学習には「アーモンドミルクと朝食のシリアルはホテルのビュッフェの朝食より大きなスパイクを発生させることがある」と書かれている。

これはおそらく、一杯のオレンジジュースは血糖値スパイクを引き起こすが、オレンジを1個まるごと食べてもスパイクは起こらないのと同じメカニズムなのだろう。あるいは、こうした飲料の製造方法における特有の何か(加工方法と特有の添加物など)が原因なのかもしれない。例えば多くのメーカーは飲料に砂糖を入れている(ただ、筆者がシリアルにかけるミルクには砂糖は含まれていないが、それでもスパイクは起きた)。自家製のオートミルクを作って市販のものと直接比較し、スパイクが小さくなるかどうか試したかったのだが、残念ながらその機会はなかった。

筆者は朝食に今でもオーツ麦を食べている。これも繊維質は豊富だが糖質には違いないのでスパイクを起こす可能性があるが、オートミールではなく特大のオーツ麦を摂るようにしている。そしてこれを忘れてはいけないのだが、シリアルにシナモンを多めにまぶすようにしている(これがグルコース値のスパイクを軽減することを発見したからだ)。さらには、水(ミルクの類ではない)、天然ヨーグルト(味付けと必須ビタミン)、そしてよくあるベリーと種子類のミックスといっしょに食べている。

これはCGM装着前の朝食(オーツ麦、ベリー、種子類など。ただしオーツミルクで流し込んではいたが)とそれほど大きく変わってはいない。しかし、代謝スコアでは大きな差が出た。通常スコアが「2」の食事が「9」になった。ばかげたことのように思えるが事実だ(正確には、Cyborgによる筆者の間質液変動の読み取り値によると事実だ)。

また、パンを食べても、それによって生じるスパイクを抑えることができる独創的な方法も見つけた。

パンの量を減らすかまったく食べないようにするのは、血糖負荷を軽減し、結果として血糖値の上昇を管理する方法の1つだ。ただし、オーツ麦などの全粒パンはダイエット効果のある複合糖質なので食事から除外したくなかった。そこで、アプリのリアルタイムグルコースビューの利点を活用して、他の繊維質、たんぱく質、高脂肪食品を摂った後、ランチの終わり近くに、全粒パンのスライスを食べて、消化吸収に時間がかかるようにしてみた。この方法は効果があったようだ。

もう1つリンゴ酢を使ったバイオハックを見つけた。これも効果があった。

シナモンと同様、この種の発酵酢はグルコース値の急上昇を抑える特性があることがわかったので、サワードウで作ったパンを食べる前に発酵酢をかけてみた(まあ、聞いて欲しい)。かなり奇妙に聞こえるが、これがとても美味しい。サラダ、ナッツなどを食べた後、食事の後半にこの方法でパンを食べることで、スパイクが発生していたランチを健康的ゾーンの範囲内のランチに変えることができた。血糖値の変動をリアルタイムで確認できなれば、このような具体的な方法を知る方法などなかっただろう。

問題は、スパイクを引き起こすランチを食べても、そうでないランチと比べてことさら非健康的な感じはしなかったという点だ。アプリで代謝反応を確認できなければ健康に悪いとは思えない。センサーのデータがなければ両者の違いに気づくことなどできなかっただろう。

もちろん、人によって代謝反応は異なるため、パンを5切れ食べてもスパイクがまったく起こらない人もいる。一般化する賢明な方法はない。糖質の摂取を抑え、注意深く食事のバランスをとるなどの基本的な制限を課すことくらいしかない。汎用的で大まかな戦略はあるが、これは即座にフィードバックが返されないとやる気がなくなる。その点で、CGMは、生活習慣ツールとして潜在性、個別対応性という点でまさに変革をもたらす内容になっている。突如として、食物を試して自分に効果があるかどうかを確認できるようになったのだ。

とはいえ、比較的小さな血糖値スパイクを管理することが、代謝トラッカースタートアップが勧めているほど、個人の長期的な健康にとって重要なことなのかどうかは、別の問題だ。

Cyborgを装着した筆者(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

英国のサンダーランド大学で人の代謝作用に影響を与える生物システムの研究をしている科学者Matthew Campbell(マシュー・キャンベル)博士にCGMテクノロジーの一般利用について意見を求めたところ、他の点では健康な人が血中グルコースの管理に精力を注ぐことの有益性については懐疑的だという答えが返ってきた。

「グルコース値は1日を通して変動するのが普通です。静的な値ではなく、動的に大きく動く値なのです。しかし、平均値は正常範囲内に収まっている必要があります。高いリスクがあると特徴付けられる人たちにはカットオフポイント(正常とみなされる範囲を区切る値)があります。例えば食事の後グルコース値が特定レベル以下に下がらないとか、慢性的に値が高い場合は朝の時間帯でもグルコース値が高いままであるとかいった場合です。それが、糖尿病や糖尿病予備群、つまり糖尿病を発症する危険性のある人たちを診断するときのカットポイントになります」。

「健康な人がグルコース値をトラッキングすることの問題点は、恣意的な値を取り得るという点です。数値が下がっているなら問題はなく、上がっているならあまり良くないわけですが、正常な範囲内に収まっている場合は、すでに健康な範囲内にあるグルコース値を1ミリモル減らすことが臨床的に有用なのか、健康上有益なのか、健康上の利点があるのかどうかについてはわかりません」。

「ですから、グルコース値が、全時間の95%、健全な範囲内に収まっているのに、変動幅を少なくして平坦にしたり、値をさらに下げるよう積極的に管理したりしても、さらなる健康上の利点がもたらされるとは思いません。すでに健康な範囲内にいるのですから」。

キャンベル博士はまた、CGMから得られる血中グルコース値データを、ユーザーの体内で起こっているグルコース値レベルに影響を与える可能性のあるすべてのことに正しく関連付けるのは難しいと指摘し、タイムラグだけでなく、ユーザーの腕のセンサー装着位置も読み取り値に影響を与える可能があると付け加えた。

「ですから特定の状況下で、体重、性別、民族性、個々の遺伝子構造など、さまざまなすべての要因がグルコース値に影響を及ぼします。睡眠、栄養素なども影響を与えます。このテクノロジーが単にグルコース値をトラッキングするだけでそうした他の要因を考慮しないなら、グルコース値に影響を及ぼしている要因を情報に基づいて判断するのは極めて難しいでしょう」と同博士はいう。

ただし、同博士は、アスリートがCGMを利用することの潜在性について肯定的だ。

「こうしたセンサーが役立つ例として、先程一流アスリートについて言及されていましたが、極めて高度な練習、または長時間に渡る練習をしている場合は、糖尿病でなくても、血糖値レベルが低下する危険があります。こうしたセンサーの多くは、アラート機能を備えていますから、安心です」と付け加えた。

またキャンベル博士はおもしろい比較もしてくれた。グルコース値が正常範囲外になっても、その人の代謝が積極的に対応して元のレベルに戻すことができるなら、常に問題になるとは限らないというのだ。

「考え方は、運動中の心拍数に少し似ています。同じ強度の運動をしても、他の人に比べて心拍数が上がる人がいます。そうすると、非常に激しく運動した結果、健康が低下したのだと考えるかもしれません」。

「しかし、心拍数の変動が非常に大きいということは、心臓血管の柔軟性が非常に高いことを示唆しています。これは運動耐性が非常に高く、健康状態が非常に良いことと深い関係があります。グルコース値の反応も同じことではないでしょうか 」。

「ですから、グルコース値のレベルが正常範囲外になったというのは必ずしも事実ではありません。なぜなら、そういう状態は多くの人たちに起こっており、その人たちは代謝的に健全だからです。全体像を見ることが重要だと思います」。

そのうえで、キャンベル博士はこうしたサービスの本当の有用性はCGMデータをアルゴリズムと機械学習で補強できる点にあると指摘する。機械学習では「データ内のパターンを見つけ、さまざまな情報を組み合わせることができます。『これを行った後にあなたのグルコース値は上昇しました』などと自分に都合の良いデータだけを選択するわけではありません。グルコース値が上昇しても、その後すごい勢いで下降すれば問題はありませんし、むしろ良いことですから」。

低血糖の話に戻ると、筆者は個人的に興味深い体験をした。一晩中グルコース値が低い状態が続いたのだが、それは夜中に冷や汗や生理痛で目が覚めたことと関係があることがアプリを使用して(Ultrahumanのアプリ内コーチとチャットして筆者のCGMデータを手動で解析してもらったことも含む)わかったのだ。

また、こうした一晩中続く低血糖は飲酒をともなう食事の後に起こることが多いことにも気づいた(飲酒には通常の代謝プロセスを妨げるという悪魔的な効果がある)。そこで、食事とアルコールの比率を用心深く見続けること、そして夕食に栄養分の少ない料理(白米など)でワインを飲んだ後、就寝前までの時間にたんぱく質の豊富なスナック菓子を食べることを、夜中に低血糖や生理痛が発生するリスクを抑えるためのちょっとしたハックとして行った。これならワインを飲みながらの食事を控えなくてもできる。

その場合の個人的な利点は明らかだ。睡眠を妨げられて不快にならずに済む。

この発見から推測して、私よりも年上の親戚に夜にスナック菓子を食べる同じようなハックを提案することができた。その親戚は数カ月間、夜間の慢性的な生理痛に悩まされていたのだが、ベッドタイムにスナック菓子を食べる戦略を含めるよう計画変更したところ、夜中の生理痛からほぼ解放されたという知らせがすぐに届いた。

これらはもちろん、単なる事例だ。しかし、それらは、生活習慣上の奇妙な行動とCGMデータ間の点を、個人が実験し、接続し、結び付けることができる可能性があることを示している。

スタンフォード大学の教授で上述の先駆的な研究論文の共著者であるMichael Snyder(マイケル・シンドラー)博士は、CGMを製品化する独自の代謝健全性トラッキングサービスを販売する米国のスタートアップJanuary AI(ジャニュアリー・エーアイ)の共同創業者である。シンドラー博士はご推察のとおり、このテクノロジーの利点を布教して個人ユーザーに価値ある事実を伝えている。

シンドラー教授は実は2型糖尿病患者であり、現時点で約10年間CGMを装着して病状を管理している。したがって、このテクノロジーの有用性をコメントするのにふさわしい人物だ。

シンドラー教授の個人的なCGMの使い方は具体的な病状に合わせたものであるため、Ultrahuman、ジャニュアリー・エーアイ、およびこの分野のその他のスタートアップがターゲットとしている一般的なフィットネスと健康のための使い方とは大きく異なる。しかし、CGMテクノロジーが広範に使われるようになることで、人々が糖尿病予備群または糖尿病になるリスクを管理または低下させることができると同教授は指摘する。

「自分がスパイクを起こす食物とそうでない食物がすぐにわかります。それは人によって異なります」と同教授は言い、こう続ける。「グルコース調節異常でありながらそれを認識していない人がいます。これは大事なことです。というのは、糖尿病予備群の9割は自分の病状を認識しておらず、7割がそのまま糖尿病になってしまうからです。ですから、グルコース値をコントロールして糖尿病の発症を数年遅らせることが期待できるのは本当に価値のあることだといえます」。

「人が食べる物には隠された秘密があります。少なくともその人にとっては秘密ですが、他の誰かにとっては明白なことかもしれません。しかし、何でも知っていると思っている人でさえ、私の見たところでは、わかっていなかったことを学びます。そう、とにかくあらゆるものに砂糖が含まれています」。

「この考え方には多くの人が賛同すると思いますが、第二次世界大戦直後と比較して、人々は現在、当時の4万倍以上の糖質を摂取しているはずです。とにかくあらゆるものに砂糖が含まれています」。

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「私に言わせると、世界中の人たちは、少なくとも何らかの治療を受けたときにはグルコース値を計測してもらうべきだと思います。グルコース値をコントロールしている場合は計測回数を減らして、定期的に計測します。糖尿病予備軍または糖尿病の人にとって、この情報はある程度命を救ってくれるものになると思います」と同教授はいう。

シンドラー教授は、このテクノロジーは今よりずっとパワフルになると予測する。あらゆる経験データに基づき食物に対する反応についてAIと予測モデリングが追加されていくからだ。現在はアーリーアダプターによって食後に入力されている状態だ。

「AIが必要なのはそのためです」と同教授は言い、こう続ける。「まず、自分がスパイクを起こす食物とそうでない食物を知る必要があります。これは経験しなければわかりません。実際に食べてみなければスパイクが起こるかどうかわかりませんから。ぶどうでスパイクを起こす人もいれば、パスタでスパイクを起こす人もいます。白米を食べると誰でもスパイクを起こします」。

「スパイクを起こす食物は人によって異なります。ゆくゆくはスパイクを予測できるようになりますが、今は経験するしかありません。このようなデバイスが行っているのはまさにそれで、スパイクが起きるかどうか教えてくれるわけです」。

「ジャニュアリー・エーアイには食物推薦システムが備わっています。というのも、『あなたが食べているものでスパイクを起こすのはこれです。他の食物の構成についてもわかっています』と教えたり、そこそこの予測精度で『この食物はスパイクを起こさなかったから食べて良い、これはダメ』といったことを示したりできるためです」と同教授は付け加えた。

「ばかげていると思うかもしれませんが、これはビッグデータの問題です。こうした推測を可能にするには大量のデータと十分な理解が必要です」。

同様に、ジャニュアリー・エーアイでは、ユーザーの活動レベルも考慮している。活動レベルもグルコース値に影響を与えるからだ。シンドラー教授は、この2つの要素をトラッキングするだけでもこうしたサービスは十分に役に立つと指摘する。

「スパイクを起こす食物と活動レベル、基本的にこの2つの要素が重要です。もちろん他にも要因はたくさんあります。これがデータの問題である理由もそこにあります。ユーザーの個人的なデータを十分に取り込むことで、そのユーザーに効果のある方法を判断するためのデータが得られます」と同教授はいう。

個人的に、このことだけは確実に言える。これほど興味をそそるガジェットは今まで見たことがない。純粋に情報レベルだけで判断してもそう思う。

Ultrahumanのアプリが提供する定型的なアラートは、ポップアップ表示され、グルコース値が上がっていると警告し、グルコースレベルを下げるために運動せよと提案したり「睡眠の質と代謝反応を上げるために」夕食を早めに摂るようアドバイスしたり、スパイク/クラッシュが最小限に抑えられた場合に「すばらしい/すごい1日の始まりです」なとど高らかに宣言したりする。しかし、アラートは筆者にとってこの製品のおそらく最も役に立たない要素だった。というのは、データに注意を払っていれば、いちいちアラートで通知されなくても自分でわかるからだ。

筆者は、食事と運動のさまざまな工夫を試してみて、霧がかった緑の正常ゾーンを維持するためのハックや戦略を見つけられないか確認するという作業にあっという間にはまってしまった。

食べたものが体内でどのように処理されるのかを見るのは、本当に素晴らしくもありゾッとすることでもある。しかし、注意が必要だ。ランチや夕食時に急に携帯を取り出して、まず食事の内容をアプリに記録し、食べたものに対する体の反応にスコアが付けられるのを我が事のように観察したりしたら、恋人に嫌われるだろう。スクリーンタイムも長くなるためダブルパンチだ。これまでの中でも最も使用時間が長いアプリだ(食事中も食べているものをアプリに記録していることを考えると、本当にそうだ)。

だが、もちろん、このアプリも完璧ではない。

筆者が見つけた機能上の目立った問題として、このアプリでは、運動関連のスパイク(強度の高い運動をすると血糖値がターゲット範囲外に上昇することがある)と食事関連のスパイクを区別できない場合がある(注意深く記録を取っていたとしてもそうだ)。このため、実際には問題ないのにひどいスコアになってしまうことがある。

アプリのチャット機能を使ってこの点を質問してみた。Ultrahumanのコーチによると、運動関連のスパイクは何も心配する必要はないという。「強度の高い運動やHIIT(高強度インターバルトレーニング)を行うとアドレナリンとコルチゾールの値が上がり、それが肝臓を刺激してグリコーゲンがグルコースに分解されます」というのがコーチの1人から受けた説明だ。「何の心配もいりません。自然な現象です」という安心できる言葉も頂いた。

しかし、糖尿病の人は、たとえ運動が原因であっても、グルコース値がターゲットゾーンの範囲外になる場合は心配する必要があるかもそれない。糖尿病患者は上昇した血中グルコースを元のレベルに戻すのに苦労する可能性があるからだ。糖尿病ではない人、つまりUltrahumanがCyborgの対象と考えている一般消費者は、理論上、心配する必要はない。

しかし、このアプリの場合、現状では激しい運動の直後に食事を摂ると、少し心配になることがある。HIITによるグルコース値の上昇(これは通常「良いスパイク」として通知される)と、食事関連のグルコース値の上昇が混ざり合って、代謝スコアが低くなるのだ。

「良いスパイク」と悪いスパイクを正確に識別する修正は明らかに現在進行中だ。

この点についてクマール氏に質問したところ、次のような回答が返ってきた。「グルコース生体指標から生成される情報の精度を高めることは、当社のミッションの中心課題です。食物などに対する人体の反応の度合いを判定する臨床レベルのパラメーターを見ると、X(食物のマクロレベルおよびミクロレベルの成分)とY(回復状態。ストレス、睡眠不足、微生物叢の多様性など)の組み合わせであることがわかります」。

「現行のプラットフォームでは、Xを詳しく見ているため、食物に対するグルコースの反応については多くの例外があります。2022年始めに導入される当社のカスタムハードウェアでは、Yの残りの要因(心拍変動、睡眠など)を捕捉することでXの見方を変更する予定です。これによって、食物と活動に対する反応の見方、結果として得られる精度がまったく変わってくると思っています」。

「例えば新しいプラットフォームでは、スパイクにおける活動と食物の寄与度を明確に算出できます。これができるのは、グルコースと、カスタムのハードウェアウェアラブルデバイスによって捕捉されるその他の要因の組み合わせに基づいて、グリコーゲンのおおよその放出しきい値を算定できるからです」。

またクマール氏によると、Ultrahumanは、グルコース、インスリン、その他の身体パラメーター(中性脂肪とホルモンバランス)に関連する研究の臨床試験を開始して「グルコースモニタリング機能による予測(代謝スコア)と実際の代謝健全性の間の適切な相関関係」を確立したいと考えているという。

「この目標は、より小さなツールと非連続のグルコース値を利用して過去にも試みたのですが、v2でははるかに多くの検証が行えると思います」と同氏は予測する。

というわけで、ここでも、CGMにおいてユーザーの腕から取得する「パーソナライズされた」データのスナップショットの精度を改善するには、さらなる研究が必要になる。つまり、こうした最先端の健康定量化サービスでも、体内で刻々と起こっていることを比較的大ざっぱに査定している可能性があるということだ。

食物についても、もちろん、同様の複雑な問題がある(毎回の食事で1つの食材しか摂取しない場合は別だが)。

ほとんどの人はさまざまな食材を組み合わせて(さまざまな成分をまとめて)食べる。重要なのは、私たちが食べているのは多種多様な成分の組み合わせであるという点だ。そして、皿の上のさまざまな成分を摂る順序によって、それらの代謝方法も影響を受ける可能性がある。同じ食事でも食べ方(または食べる時刻)が異なると代謝のされ方も異なる。

繊維質の豊富な食物(サラダ、野菜など)から始めて、たんぱく質と脂肪を摂り、最後に炭水化物で終わる食事(フムスサラダピタのランチを分解したもの)は、おそらく、同じ食材をパンに挟んで手早く食べやすい方法で食べるよりも代謝スコアは低くなるだろう。

Cyborgを装着した4週間ではっきりとわかった重要なことがある。便利なファストフードを一定の速度でガツガツ食べると、容赦なく、いかにも不健全なグルコースの大きなスパイクが発生する。

また、加工度の高い食品(つまり、砂糖、防腐剤、油などを使った調理済みの食事)は、鮮度の高い自然食品よりもスパイクが発生する可能性が高い。

これは別に驚きもしなかった。筆者は加工度の高い食品は避け、新鮮で最小限に加工された成分を使って自分で調理したものを食べるようにしてきたからだ。とはいえ、加工度の高い食品でスパイクが発生するという事実は、西洋の問題の多い食文化の多くがいかにして形成されてきたかを如実に示している。時は金なりという考え方でスピードを重視した結果、食べられる程度のインスタンス食品を日持ちのする儲かる食品に変えるために人工甘味料やその他の添加物が大量に使われるようになった。

CGMを使ってみてわかったのは、炎症と酸化ストレスの少ない健康的な方法で食べるには、食物の準備と消費の両方により多くの時間をかける必要があるということだ。

より健康的な成分を自分で買い集めるのは、包装済みの「すぐに食べられる」食品を買うよりもお金がかかる。つまり、健康には時間とお金の両面でコストがかかる。したがって、代謝健全性に本格的に取り組み始めると考えるべき社会経済的な考慮事項が山ほど出てくる。

このパンドラの箱を開けることには、我々の破壊された食品システムを超えた意味合いがある。つまり、我々の社会に焼き付けられた広範な構造上の不平等に触れることになる。

健康状態の悪さと貧困は関連していることがよくある。ビッグデータとAIが価値のある健康情報へのアクセスを民主化する(個人が十分な知識を習得することで広範な実用性がスケールする)ことでそのリンクを断つことができるかどうかはまだわからない。あるいは、健康テクノロジーのスマート化が進む中、テクノロジー格差によって不平等がさらに加速することになるのだろうか。これもわからない。

Cyborgというと人類の新しい上流階級がすぐに思い浮かぶ。だが、トラッカーを買う余裕などない人たちはどうなるのだろうか。

夕食にピザ?ゆっくりだが確実な血糖値の上昇が待っている……(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

評定と価格

筆者は代謝トラッキングが謳っている潜在的利益の大きさについては未だに懐疑的だが(懐疑的で健全だと思っている)、Ultrahuman製Cyborgを装着した4週間で、これが何か大きなものの始まりであることを十分に納得できた。それに筆者には、体重を落としたいとか、体を鍛えたいなど、この製品を是非試してみたいというニーズもなかった。ただ、健康を維持することに興味があっただけだ。

また、フィットネス用ウェアラブルデバイスの愛好者というわけでもない。だが、この製品は自己定量化ツールとしてレベルが異なっていると感じた。

未来のヘルスケアの目的は、データアクセシビリティを活用して何が健康に良くて何が悪いのかという情報を知らせ補強することによって、予防介入の方向へシフトすることだ。とはいえ、代謝健全性に関しては、まだまだ知識と研究が不足していることは否めない。

個々のセンサーから得られたデータ(Ultrahumanのサービスだけでも本稿の執筆時点で400倍のCyborgが生まれている)が研究に使用され、複雑な代謝プロセスの理解がどんどん深まっていくだろう。商業的関心から自社の見解を支持し強調する結果を探すようになる危険性は幾分あるものの、潜在的な使用規模(こうしたサービスはどんどん増えている)によって透明性が推進され、技術がクリーンな状態に維持されるはずだ。

と同時に、慎重になるべき点もたくさんある。

非常に関心があり科学的知識も豊富なユーザーは、データ解釈の助けとなる広範な知識とリソースを利用できるため、この種のトラッキングサービスを最大限に活用できるだろうが、情報の少ないユーザーは情報の意味を過度に単純化して読み取る可能性がある。

また、明白なストレス要因を食物や他の生活習慣にリンクさせることで、摂食障害などの問題を引き起こす(または悪化させる)危険性もある。したがって、こうしたサービスのラッパー(やさしく使うための仕組み)とサポートが、CGMテクノロジーで提供される機能を最大限に活用する鍵となる。

簡単にいうと、貧弱なUX設計は深刻な結果をもたらす可能性がある。サービスの設計と実施に関する十分なケアと適切な配慮が必要だ。

長期的に見ると、血中グルコースのスナップショットビューという機能自体、制約が多すぎるのかもしれない。

さまざまなシグナルや生体指標を取り込んで個人の代謝作用について最善の理解を得るには、より統合されたトラッキングプラットフォームが必要になるだろう。ただし、現時点では、グルコースのトラッキングが第一歩のように感じられる。つまり、時間の経過とともに大きな恩恵が蓄積していくであろう生活習慣の調整を試してみる機会を提供してくれるものだ。ある意味、このほうがずっとやる気が起きる。健康食品の選択にいろいろと迷ってもリアルタイムのフィードバックなど一切ないからだ。

この製品を4週間使っただけで多くの興味深い情報が得られたし、本当に示唆に富む経験ができた。アボガドと卵は最高の朝食だ。ビールはひどいスパイクを起こすがリンゴ酒は実際に薬効がある。オリーブとナッツはまさに神の食物だ。こうした経験から小さいが息の長い生活習慣の変更をいくつか行うことができた。

こうした変更が長期的な健康という観点から本当に価値のあるものなのかまだ結論は出ていない。だが、それほど極端な変更ではないことを考えると、効果が出る可能性はわずかしかないとしても、問題はないのではないか。

ただし、別の問題がある。炭水化物によって大きなスパイクが発生することはわかった。だが、その結果に基づいて炭水化物の摂取量をさらに減らすと、トレーニングのためのエネルギー量が制限されてしまうのではないかと心配になった。

筆者の場合、炭水化物の摂取量はすでにかなり低いため、食物はエネルギーとなることを忘れるわけにはいかない。そして必要なエネルギーは変動する。したがって、血中グルコース値について「スパイクは悪い、安定しているのがベスト」という考え方をするのは、平均以上のスポーツ好きの生活を送っている人にとっては単純化し過ぎのきらいがある。

トラッカーのデータは是非ともしかるべき専門家に見てもらう必要がある。パーソナルトレーナーは、トレーニングに必要なエネルギー量を認識したうえで筆者の測定結果をはるかに賢明に活用できる能力を備えている可能性が高い。このようなトレーナーは、食事の調整についてもアドバイスできるかもしれない。それに基づいてパンを食べることが許されるかもしれない。

もちろんパーソナルトレーナーやパーソナル栄養士など、誰でも雇えるものでもないし(オリンピック選手でもない限り)生活習慣に基づいて正当化できるものでもない。そういう点では、この製品は価値があるように思う(ただ、得られるのはほとんど生のデータなので、より広範な解釈の大半を自分で行う必要があるが)。

Ultrahuman製Cyborgの価格は、ベータ版プログラムで2週間最大80ドル(約9000円)または12週間で470ドル(約53000円)だ。専属のパーソナルトレーナーに24時間体制で自分のデータを解析してもらうと、これよりはるかに高くなる。そういう点ではかなりお買い得だと思う(まともなパーソナルトレーナーを雇うと1時間80ドル(約9000円)くらいは取られる)。

このアプリがフルタイムのパーソナルトレーナーになることを目指しているわけではないことは強調しておく必要がある。ただし、血中グルコース値が高くなりすぎると運動するよう勧めたり、過去を振り返ってベストなワークアウトゾーン(つまり、1週間の間で運動するのに最適な時間帯を食事の方法に基づいて決めたもの)を特定したりといった基本的なことはやってくれる(「傾向はわかっていますか?この時間を有益に使って次回のワークアウトをこなしてください」という提案をメールで受け取ったことがあるが、正直言って、このアドバイスは役に立つというより思いつきのような感じがした)。

このアプリには人間のコーチが数人付いていて、質問を受けたり、データを分析したりしてくれる。また招待者限定のCyborg Slack(Cyborgスラック) チャンネル経由で他のユーザーにいつでも助けを求めることもできる(ただし、これはクラウドソーシングによって得られる知恵であり、専属のプロによるサポートではない)。したがって、価格は比較的リーズナブルだが、微妙なニュアンスの情報を知りたいときには、ほとんどの場合ユーザーが自分だけで解決する必要がある。

もう1つよく考えておくべきことがある。データ駆動型で野心的に予測を行うAI製品はどれも同じだが、Cyborgはユーザーをトレーニングしているだけではない。ユーザーのデータによってCyborgもトレーニングされているのだ。自分の生体情報を24時間休みなく提供することに、どのくらいの金銭的価値があるとお思いだろうか。

極めて私的なパーソナルデータから導出される価値はユーザーとデバイスの間を双方向に流れる。しかし、両者間でフローが均等に分配されているとは限らない。このサービスから十分な価値を得ていると感じているなら、それでもよいだろう。だが、プライバシーへの配慮がなされているかどうかは無視できない。

サービスにアクセスできるなら、このような私的なデータを民間企業と共有してもかまわないという人もいるだろう。しかし、Ultrahumanが規定しているCyborg向けのプライバシーポリシーには、ユーザーの情報が別の場所に送られる状況について記載されている。例えば召喚状を受け取った場合は、応じることが法的に義務付けられている。

このプライバシーポリシーには「匿名の集約データは、広告会社、調査会社、その他のパートナー企業と共有することがあります」という記載もある。また、アドテック業界が同じトピックについて複数の方法でデータを収集し共有することで個人のプロフィールの質を高めてターゲティング可能にするために貪欲に取り組んではいるが(「糖尿病」などのラベルを付けることも含む)、ヘルスデータを確実に匿名化するのは難しいことがよく知られている。したがって、CGMから吸い上げられた極めて個人的なデータが最近のウェブの巧みに操作されるマイクロターゲティング広告マトリックスに登録されることも、残念ながら、想像される。

個人的な感想はこのくらいにしておこう。クマール氏自身はCGMを使ってグルコースをトラッキングすることで何を学んだのだろうか?

「私にとって最も大きな学びは、自分が食べるものの範囲を広げて、自分の好きな食物をもっと食事に取り入れるようにすることです。CGMが登場する前は、自己管理型のダイエットを行っていましたが、ソーシャルイーティングに影響するため、長くは続きませんでした。Cyborgを使うようになって、食事と活動のバランスをとる方法を理解できるようになりました。ウェイトトレーニングをする日や全般に活動量の多い日は、いつもより少し柔軟に考えて好きなものを食べてもよいのだと思えるようになりました」と同氏はいう。

「もう1つの大きな学び、これはまだ進行中ですが、1日を通して安定したエネルギーレベルを維持することです。私の場合、グルコースレベルの安定とエネルギーレベルの安定の間に大まかな相関関係があります。ですから、仕事で大量の資料を読む必要がある週は、エネルギーレベルを安定させるようにしています」。

最先端の競争

この分野は、自己定量化トレンドにおける針恐怖症を乗り越えて開けた真の開拓地だ。あまり踏み荒らされていない市場で、スタートアップが実験的にビジネスチャンスを狙っている。当然、退屈な旧式の歩数と睡眠のトラッキングよりもはるかにおもしろい。それはまさに、この種のトラッカーはあまりなじみがないからだ。

ばね仕掛けのCGMセンサーを自分の腕に発射すると純粋に発見の感覚を覚える。ある種の市民科学共同体に関与している先駆者のような気分だ。自身の生活習慣の健全性を問いただす実験を設計し実行するというすばらしい機会を与えられる。

それに加えて、自分で個人的に学習したことが他の人たちの役に立つかもしれないという包括的な可能性がある。これが実現できるのは、Ultrahuman製Cyborgに関するコミュニティ構築の取り組みのおかげだ(例えばSlackチャンネルでは、アーリーアダプターたちが自分たちの学びを共有するよう促される。また、バーチャルおよび対面のオフ会も開かれる)。それで、社会貢献の使命を果たしている気分にもなる。

皮膚の穿孔を通じたマンマシン相互作用に関わる勇気のあるスタートアップは注目を浴びるチャンスだ。結局、主流の大手テック企業はそこまで変わったことはやれないのだ。そんなことをしたら、もっと平凡な生体指標のトラッキングを支持するより広範な健康定量化ユーザーからそっぽを向かれてしまうからだ。

そのおかげで、このようなスタートアップは、極めて私的な生体データを取得して自社の製品開発、データサイエンス、AIモデル、アルゴリズムによる予測機能に入力として与える機会を得られる。そして、消費者がヘルスサービスのパーソナライズを望む中、競争で有利な立場を得て先頭に立てる可能性もある。

血中グルコーストラッキング(従来は糖尿病またはその予備軍の症状がある人たちを対象としていた)の最前線では、多くのスタートアップがその気のあるユーザーの間質液に入り込むという思い切った方法をとるようになっている。

インドのUltrahuman(Cyborgサービスはまだベータ段階)だけでなく、他にも多数のスタートアップがある。米国におけるCGMを活用したUltrahumanの競合他社をいくつか挙げてみる。ジャニュアリー・エーアイはグルコーストラッキングと心拍数モニターデータを組み合わせて食物の予測と運動レシピのパーソナライズを提供し、過剰摂取した食物を燃焼させるのを支援する。Levels Heath(レベルズ・ヘルス)はa16zからの支援を受けている。Signos(シグノス)はCGMを使用してリアルタイムの減量アドバイスを提供している。Supersapiens(スーパーサピエンス)は運動能力を重視している。NutriSense(ニュートリセンス)は日々の健康度を最適化する全体像キャッチフレーズを提供する。

競合他社は欧州にもいる。英国本拠のZoe(ゾーイ)は、大規模な微生物叢研究から得たデータを使用してAIモデルを生成し、個々の食物の反応を予測する。このため、ユーザーに血中グルコースモニターを装着させるだけでなく、糞便サンプルを提出してもらい、ラボで解析する。

他にも欧州でグルコースモニタリングを目指しているスタートアップとして、ドイツのPerfood(パーフード)は食事のパーソナライズによる体重管理を行い、オランダのClear Nutrition(クリア・ニュートリション)は食物に対するユーザー固有の反応を学習してユーザー専用の栄養プランを構築している。本稿の執筆時点では、この発生期の領域にある他の欧州企業として、フィンランドのVeristable(ヴェリステーブル)(略称Veri)は、24時間体制のグルコースモニターサービスの広告を写真共有ソーシャルネットワークInstagram(インスタグラム)に掲載している。

この広告では、いかにもヒップスター的な見た目のモデルがUltrahumanのサービス(および他の多くのサービス)で使用するのと同じ円盤型のウェアラブルデバイスを身に付けている。このデバイスはスタイリッシュなグレーのパッチで留められている。Ultrahumanの円盤型ディスクは白黒で、斜体のKの文字がくっきりと入っていた。「何を食べるべきか推測するのはもう終わり」とヴェリステーブルの広告は宣言し、この159ユーロ(約2万円)のサービスに目を向けさせている。

Veri(6月にシードラウンドで資金を調達、ベンチャーデータベースCrunchbase(クランチベース)による)とUltrahuman、および他の多くのスタートアップがアボット製のCGM(前述のフリースタイル・リブレ)を使用している。この円盤型のデータ収集デバイスには、中空の針の付いたばね仕掛けの装着具が同梱されている。位置を固定してしっかりと、しかしあまり強すぎない程度に押し下げるとフィラメントが皮膚に直接発射される。

ここで珍しいのはテクノロジーそのものではない。CGMは世に出てから数年経っている(アボットのフリースタイル・リブレは2016年に導入された。一方、別のメーカーDexcom(デクスコム)は、他社の糖尿病管理用電子デバイスで使用できる完全互換CGMとして2018年にFDAの認可を受けている)。実験的なのは、CGMを使って行っていることである。

つまり、CGMは変革的なテクノロジーとして糖尿病および糖尿病予備群の患者たちにすでに利用されているが、自分たちの体についてもっと知りたいと思っている一般ユーザー向けにCGMを商業化する動きがあったのは比較的最近のことだ。

2021年夏、デクスコムは、サードパーティーデベロッパーとデバイス向けのリアルタイムAPIとしてFDAの認可を受けた。フィットネスハードウェアメーカーGarmin(ガーミン)はユーザーによる自身のグルコースデータへのアクセスを拡張するためにデクスコムと提携した数社のうちの1社だ。ただし、依然として糖尿病患者向けの実用性を高めることに重点が置かれている。

ただし、投資家たちはすぐに幅広い消費者がいる可能性を察知し、資金をどんどん投入して開発を加速させ、より多くの人たちにCGMを広げようとしている。

例えば2021年初め、ジャニュアリー・エーアイはさらに880万ドル(約10億200万円)を追加調達し、ゾーイは2021年5月に530万ドル(約6億300万円)のシリーズBラウンドをクローズした(Balderton(バルデントン)が投資家として追加され、最近、事業規模を拡大している)。Ultrahumanも1750万ドル(約19億9000万円)のシリーズBラウンドを実施すると発表した(2021年8月)。一方、シグノスも11月にシリーズAで1300万ドル(約14億8000万円)を調達している。

データ量が増えれば、投入されるVC資金が急増するのは確実だ。

Ultrahumanの広報は潜在的な最大市場規模に触れ「代謝健全性危機」が始まろうとしていると指摘する。具体的には、米国人の88%以上(世界の人口の約80%)が「代謝性疾患に対処する」ことになるという。そして、Ultrahumanの「Cyborgアーミー」(同社はアーリーアダプターたちをこう呼んでいる)に加わることで恩恵を受けられる可能性があるとしている。

したがって潜在的な最大市場は巨大だ。だが、このような広範なオンボーディングを行うことで、結果的に容易に習熟できるようになると思われる。スタートアップ各社は、抵抗の少ないアーリーアダプターや運動愛好家たち以外にもユーザー層を拡大し、このテクノロジーが放っておいても伸びるような自己定量化とバイオハッキングコミュニティの外に踏み出そうとしている。

Ultrahumanのコミュニティ構築の取り組みでは、Cyborgの招待者限定スラックチャンネルとTownhall(タウンホール)を介してユーザーに個人の体験とさまざまなヒントを共有するよう促すことに重点を置いている。また、スポーツ好きのインフルエンサーを登録して、運動エネルギーの補給とその他のバイオハッキング手法の利点を伝えてもらい、CGMを身に付けることに目的を与えようとしている。

「現在、糖尿病患者の数は全世界で5億人を超えていますが、さらに全体的に見れば、6億人を超える糖尿病予備群がいることに気づけます」と同社の広報は指摘し、その対処方法として、CGMテクノロジーと「健康スコアアルゴリズム」および「即座の健康アドバイス」の組み合わせを提案する。そして、これにより「数百万人がこの危機を管理し回避することができる」としている。

数百万人が皮膚にセンサーを付けることに納得するかどうかはまだわからない。

このテクノロジーは進化して、あまり精度を落とすことなく、侵襲性が低く、主流に沿ったものになるだろう。そうなれば、標準的なフィットネスキットにはならないと考える理由はなくなる。

代謝トラッカーのサブスクリプションサービスに数百万人がお金を出すようになるかどうは、また別の問題だ。だが、この種のデータにアクセスできる状態を少しでも体験してしまうと、病みつきになる可能性がある。もちろん、センサーが生活習慣の選択に関するデータ、どのくらい健康的な生活を送っているを示すソフトウェアスコアをフィードバックしてくると、若干、監視され判断されているという気持ちにはなるかもしれない。

おかしなもので、世界中に蔓延している甘いものを追い求める不健康な習慣が、今や商業的に逆用されて、血糖値の上昇と下降をトラッキングしバイオハッキングするようになった。少なくとも、次の血糖値の上昇を盲目的に追いかけるよりも健康的な習慣だとは思うが。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

Meta「Quest 2」VRヘッドセットのフィットネストラッキングがついにApple「ヘルスケア」と連携

FacebookのMeta(メタ)のOculus Quest 2ヘッドセットは、「Beat Saber」や「Supernatural」のようなソフトウェアを使ってカーディオエクササイズをする人々がいるため、ハイテクエクササイズ機器として驚くほど大きなニッチを切り開くことに成功した。しかし、VRヘッドセットのスタンドアローンという特性上、その体験には限界があった。

米国時間3月10日、Metaは、Oculus Moveのワークアウトデータを新しくAppleの「ヘルスケア」と同期させること、さらにOculusモバイルアプリでヘルス統計へのアクセスを提供すると発表した。以前は、活動時間、消費カロリー、ゴール / プログレスを含むヘルスデータは、ヘッドセット内でのみ閲覧可能だった。

Metaは、長年にわたってプライバシーに関する問題で必ずしも好意的に思われていないため、ヘッドセットから電話や「ヘルスケア」アプリへの動作データのエクスポートは厳密にオプトインによるものであり、このデータは広告推奨には使用されないと明記している。

これは同ヘッドセットにとってかなり控えめな(そして長い間待ち望まれていた)アップデートだが、頻繁に使用するユーザーの多くにとっては、ついに自分のデバイスにやってきたことを喜ぶ機能だろう。

最近のConnect基調講演で、Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)CEOは、ワークアウトデバイスとしてのQuestの人気を特に強調した。

ザッカーバーグ氏はその際こう述べていた。「みなさんの多くは、すでにQuestを使って健康維持をしていますが、まったく新しい方法でワークアウトをすることができます。Peloton(ペロトン)のようなものですが、自転車の代わりに必要なのはVRヘッドセットだけで、ボクシングのレッスンから剣の戦い、ダンスまで何でもできるのです」。

関連記事:ザッカーバーグ氏がフィットネス機器としての「Quest 2」を紹介、「Pelotonのようなものだ」

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(文:Lucas Matney、翻訳:Den Nakano)

規制上のハードルをすべてクリアし、Microsoftが2.3兆円のNuance買収完了へ

Microsoft(マイクロソフト)は2021年に、200億ドル(約2兆3000億円)でNuance Communications(ニュアンス・コミュニケーションズ)を買収すると発表した。同社はヘルスケア分野への進出を実現しようとしたが、規制がますます厳しくなる中、確実に買収できるというわけではなかった。しかし、ようやく規制上のハードルをすべてクリアし、同社は米国3月4日、買収が成立したと発表した。

Satya Nadella(サティア・ナデラ)CEOはビデオ声明で、NuanceをエンタープライズAIのパイオニアと呼び、両社が協力して何を達成できるかを楽しみにしていると述べた。「私たちは共に成果ベースのAIの未来を切り開いていきます。医療従事者が患者との時間を増やし、文書作成に費やす時間を減らせるようにします。私たちは共に、業界の主要なワークフローを安全にクラウドに移行することを支援します。そして、一緒にAIの力を使って、あらゆる業界の組織が摩擦のない、一人ひとりにあわせた顧客体験を実現できるよう支援します」と同氏は話した。

ナデラ氏の発言は、同社がNuanceの技術を、第一の対象であるヘルスケア以外にも幅広く活用する意向を強く示唆するものだった。既存のソリューションを基盤としてMicrosoftの膨大なリソースを活用し、金融サービス、小売、通信などの他分野にも導入していく。それがどのように実現されるかは、時間が経てばわかる。

MicrosoftとNuanceの統合に関して、今日のような発表に至るということが、決まりきっていたわけではない。業界の一般的な常識では、Microsoftはこの買収によってどの市場も支配することはないだろうと考えられていた。ただ、政府が最大のハイテク企業、もっと言えば競争に悪影響を与える可能性のあるメガディールをより厳しく見ている規制環境では、統合の実現が明白だとは言えなかった。

昨年、米司法省がこの取引を承認し、その後EUからも承認を受け、最後のハードルとして残った英競争市場局(CMA)の承認を待っていた

今週、CMAはこの取引を承認し、今日の発表にこぎつけた。CMAは声明の中で、両社が統合された場合、Nuanceが主に事業を展開してきた医療用トランスクリプション市場の競争に悪影響を与えるという証拠は見つからなかったと述べた。

「競争市場庁(CMA)は、Microsoft CorporationによるNuance Communications, Inc.の買収により、競争を著しく低下させるという現実的な見通しは生じないと判断しました」と同庁は調査結果の発見事項要約に記した。

これを受け、MicrosoftとNuanceは、2016年のLinkedIn(リンクトイン)の260億ドル(約3兆円)の買収に次ぐ、ナデラ時代における最大の買収の1つを進めることになる。なお、Microsoftは、1月に発表した690億ドル(約8兆円)のActivision/Blizzard(アクティビジョン・ブリザード)の買収案件が完了していないが、こちらはまだ承認プロセスを通過していない。

画像クレジット:JOSEP LAGO / Getty Images

[原文へ]

(文:Ron Miller、翻訳:Nariko Mizoguchi

MITスピンオフ企業OPT Industriesが3Dプリントによる鼻腔用綿棒の生産拡大に向けて約17億円を調達

OPT Industries(オプト・インダストリー)という社名を耳にしたことがあるならば(ない人がほとんどだと思うが)、それはこのMITのスピンオフ企業が、新しい鼻腔用綿棒を3Dプリントで作ったからだろう。例年ならあまり話題にならないような種類のものだが、昨今の世界的な新型コロナウイルス感染流行によって大きな注目を浴びたのだ。

この「InstaSwab(インスタスワブ)」は、髪の毛の幅にも満たない極細のポリマー繊維で構成された複雑な幾何学模様の構造が、デザイン界でも注目されている。

OPTの3Dプリントシステムは、開発に7年の月日がかかっているが、このタイミングで「細菌サンプルの溶出に最大20倍の効果がある」という綿棒が誕生したことは、確かに幸運だった。もちろん、このようなデバイスの必要性は新型コロナウイルスより前からあり、コロナ禍が(幸いにも)過ぎ去った後も確実に残るだろう。

画像クレジット:OPT Industries

アーリーステージのスタートアップが、大規模な資金調達を始める時に、まさに夢見るような報道のされ方であったことは間違いない。同社は米国時間3月1日、1500万ドル(約17億円)のシリーズA資金を調達し、再び注目を浴びることになった。このラウンドはNorthpond Ventures(ノースポンド・ベンチャーズ)が主導し、既存投資家のCrosslink Capital(クロスリンク・キャピタル)と、MITと提携しているE14 Fund(E14ファンド)が参加した。

InstaSwapは当面、この会社にとって不可欠な製品であり続けるだろうから、同社はこの綿棒の代替製品の生産拡大を計画している。今回の資金調達と同時に、OPTはLumiraDx(ルミラ・ダイアグノスティクス)が、InstaSwapを承認済み綿棒のリストに加えたことを認めた。3Dプリント製品がこの栄誉に浴するのはこれが初めてだ。

「先進的な製造企業として、私たちはマクロスケールの課題を解決するマイクロスケールの技術を構築することに価値を見出しています」と、創業者兼CEOのJifei Ou(欧冀飞、オウ・ジーフェイ)氏は述べている。「OPTは顧客と協力して、ヘルスケア、自動車、化粧品、消費財、その他の業界向けの斬新なメタマテリアルと製品の設計・製造に取り組んでいます。私たちはこの新たな資金を使って、InstaSwabの需要に対応し、製品開発を促進して、事業を拡大させ、チームを成長させるつもりです」。

画像クレジット:OPT Industries

その点から見れば、この綿棒はコンセプトの証明を超えたものであることは間違いない。しかし、これはOPTのアディティブ・マニュファクチャリング(付加製造・積層造形)を支える基盤技術の出発点のようなものでもある。同社の「RAMP 3D」と呼ばれる3Dプリンターは、エッジからエッジまでロール状にプリントするため、従来の方法よりもはるかに速い規模で高解像度のプリントを作成することができる。また、24時間プリント可能であるため、アディティブ・マニュファクチャリングの長年の目標であるサプライチェーン問題の対処において、極めて重要な役割を果たすことができると、同社は確信している。しかし、従来は規模を大きくすることに問題があった。

そこでOPTは、2021年後半に、InstaSwabの需要拡大に対応するため、最初の本社があるベッドフォードに近いマサチューセッツ州メドフォードに、1万4000平方フィート(約1300平方メートル)の製造施設を新設した。

画像クレジット:OPT Industries

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

花王とPFN、健康や生活など1600項目以上のデータを推定できる統計モデル「仮想人体生成モデル」プロトタイプを共同開発

花王とPFN、健康や生活など1600項目以上のデータを推定できる統計モデル「仮想人体生成モデル」プロトタイプを共同開発深層学習を中心とした最先端技術の研究開発を行うPreferred Networks(PFN。プリファード・ネットワークス)と花王は2月28日、「仮想人体生成モデル」のプロトタイプを共同開発したと発表した。1600以上のデータ項目で構成される人体の統計モデルで、ある項目のデータを入れると、別の項目の推定値が示されるというものだ。

たとえば、健康診断の結果から内臓脂肪量を統計的に推定できる。その他のデータと組み合わせて、その人のライフスタイル、運動や食事の習慣などに合わせた最適な健康管理方法を提案するといった使い方も可能だ。また、今の体重から2kg減ったら他の項目にどれだけの影響があるかを推定するといったこともできる。

1600の項目には、健康診断などで示される身体に関する情報のほか、食事・運動・睡眠などのライフスタイル、性格・嗜好・ストレスの状態・月経といった日常生活で関心の高いものまで多岐にわたって含まれる。これらのいずれかの項目にデータを入力すれば、他の項目の推定値が出力される。この項目も入出力可能だ。

これは、人の身体、心理、生活など多岐にわたって研究を重ねてきた花王の研究資産と、深層学習などPFNの最先端の計算科学技術によって生み出されたものだ。この仮想人体生成モデルは、協業する事業者や研究機関などにAPIで提供されることになっているため、事業者は自社製アプリなどに機能を組み込み、エンドユーザーにサービスを提供することができる。入力されたデータが収集されたり蓄積されることはなく、利用者のデータが二次利用される心配はない。花王とPFN、健康や生活など1600項目以上のデータを推定できる統計モデル「仮想人体生成モデル」プロトタイプを共同開発花王とPFN、健康や生活など1600項目以上のデータを推定できる統計モデル「仮想人体生成モデル」プロトタイプを共同開発

まだプロトタイプの段階だが、2022年中の実用化を目標に検証を進めてゆくという。2023年初頭にはAPI経由での提供し、新規デジタルプラットフォーム事業を開始する予定。

欧州のReventが気候・健康・インパクトに特化したファンドで約78億円のハードキャップを達成

2021年、ベルリンに拠点を置くReventという「インパクト」に焦点を当てた欧州の新しいアーリーステージの立ち上げを取材した。その目的は、気候変動対策、健康と福祉、経済的エンパワーメントに焦点を当て「目的と利益」の両方を持つスタートアップを支援する5000万ユーロ(約65億1100万円)のファンドを立ち上げることだった。

このたびReventは「強い関心により応募超過」で6000万ユーロ(約78億1400万円)のハードキャップに達し、最終クローズを発表した。

Reventの創業パートナーであるOtto Birnbaum(オットー・ビルンバウム)氏は、声明で次のように述べている。「今日の膨大な気候変動や社会的課題は、テクノロジーを駆使し、持続可能で大きなインパクトをもたらす、スケーラブルな商業ビジネスを構築する世界の優秀な創業者たちの努力なくしては解決できません。私たちは、目的と利益は互いを増幅するものであり、企業が社会や地球に大きなプラスの影響を与えることを目標としているからこそ、トップクラスの経済的リターンが得られると確信しています」。

「欧州は、テクノロジー主導で地球や社会にポジティブなインパクトを与える方法をリードするユニークな立場にあると確信しています」と、Reventの創業パートナーであるLauren Lentz(ローレン・レンツ)博士は付け加えた。

このファンドのLPには、グローバルに事業を展開する小売・サービス企業であるOtto Group(オットーグループ)が含まれている。

Reventのアドバイザーを務めるBenjamin Otto(ベンジャミン・オットー)氏は、Otto Groupを創業したドイツの有力一族オットー家の一員だ。

その他のLPには、ニベアやEucerinブランドで知られる多国籍スキンケア企業のBeiersdorf(バイヤスドルフ)、機関投資家では欧州投資基金(EIF)が2000万ユーロ(約26億円)を出資している他、NRW.BANK、LfA Förderbank Bayernなどが名を連ねている。さらに、Heraeus(ヘレウス)、Hymer(ハイマー)、Wepa(ヴェーパ)といったドイツの起業家ファミリーのメンバーもReventを支援している。また、Fox & SheepのVerena Pausder(ヴェレナ・パウザー)氏、ContentfulのSascha Konietzke(サシャ・コニエツコ)氏、Project AのFlorian Heinemann(フロリアン・ハイネマン)氏、HeadlineのLuis Hanemann (ルイス・ハーネマン)氏など、著名なテック創業者や投資家がこのファンドに出資している。

Reventはこれまでに、英国のSylvera(カーボンオフセット評価プラットフォーム)、英国のNet Purpose(投資ポートフォリオのインパクト評価)、米国のAvelios(モジュール式病院ソフトウェアプラットフォーム)など、9社に投資している。

Reventのパートナーチームには、ビルンバウム氏とレンツ博士の他、Beryl(ベリル)の創業者で発明家のEmily Brooke(エミリー・ブルック)氏や、Partech(パーテック)のレイトステージファンドで働いていたHenrik Grosse Hokamp(ヘンリック・グロス・ホーカンプ)氏が参加している。

画像クレジット:Revent

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(文:Mike Butcher、翻訳:Den Nakano)

音響共鳴技術を使った肺機能モニタリング機器を開発するRespira Labs、3.2億円を超える投資と助成金を獲得

2021年、最初の製品を世界に発表した呼吸器ケアを専門とする医療技術企業のRespira Labs(レスピラ・ラブズ)は、肺機能とその変化を診断する音響共鳴技術の開発を継続するために、100万ドル(約1億1600万円)の資金調達と180万ドル(約2億900万円)の助成金を獲得することに成功した。新型コロナウイルス感染症や、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、喘息などの肺疾患を持つ患者にとって、肺機能とその変化を追跡することは非常に重要なことである。

今回のプレシードラウンドは、ラテンアメリカを中心とするバイオテック投資会社のZentynel Frontier Investments(ゼンティネル・フロンティア・インベストメント)が主導し、アカデミックインキュベーション投資会社のVentureWell(ベンチャーウェル)、ミッションを重視したインパクト投資会社のImpactAssets(インパクトアセッツ)、そして米国およびラテンアメリカのエンジェル投資家数名が参加した。同社は調達した投資に加えて、Small Business Innovation Research(中小企業技術革新研究プログラム)、National Science Foundation(全米科学財団)、National Institutes for Health(米国国立衛生研究所)から、さらに180万ドルの助成金を獲得した。

Respira Labsは現在、フロリダ州とカリフォルニア州で30名の患者を対象とした予備試験を行っており、今後数年以内に製品のFDA(米国食品医薬品局)認証取得を目指している。同社が開発を進めているのは、マイクを使って肺機能を検出する、ウェアラブルで非侵襲的な肺機能モニタリング機器だ。

同社はこの技術で3つの特許を取得しているが、中でも重要なのは、人体に投射された圧電信号(パルスや音など)を分析して、肺の共振周波数や、音が身体にどのように吸収され、反射され、変化するかを明らかにするという技術だ。すばらしいことに、この信号は肺活量、肺に溜まった空気の量、COPDの有無などを調べることができるのだ。

「私たちは、競争の激しい分野で躍進できることに胸を躍らせています。また、私たちの使命と技術に深い関心を寄せてくださる組織に感謝します」と、Respira Labの創設者兼CEOであるMaria Artunduaga(マリア・アルトゥンドゥアガ)博士は述べている。「当社には、世界中で肺の問題を抱える何百万人もの人々の生活を改善できる可能性があります。これは早期発見が重要であり、私たちの技術は人々が問題をより早く発見し、生命を脅かすような危険な状況を回避するために役立ちます」。

「我々にとって、Respira Labsのようなビジョンとリーダーシップを持つ企業に投資できることは名誉なことです。同社のラテンアメリカにおけるバックグラウンドと専門知識は、当社の方針と完璧にマッチしています」と、Zentynel社のジェネラルパートナーであるCristian Hernández-Cuevas(クリスティアン・エルナンデスクエヴァ)氏は述べている。「Respira Labsのように、洗練された厳密なやり方で、音響の観点から肺機能のモニタリングに取り組もうとしているところは他にないと、我々は確信しています。これはポストコロナの世界で成長し続けるであろう巨大な市場への扉を開くものです」。

Respiraは製品開発の強化に取り組んでいるが、今回の資金調達はそれをさらに加速させることだろう。加速させる(アクセラレート)といえば、同社はMassachusetts Medical Device Development Center (マサチューセッツ医療機器開発センター)のアクセラレーターとバイオテックインキュベーターの参加企業に選ばれたことを筆者に明かした。

画像クレジット:Respira Labs

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

健康・長寿分野の数多いスタートアップの1つ、bioniqが高度にパーソナライズされたサプリメントを発売

TechCrunchでは2021年、人間の健康と長寿を増進するサプリメントを研究し、1300万ドル(約15億円)を調達したLongevica(ロンジェヴィカ)という会社を取り上げた。また、1200万ドル(約13億9000万円)を調達して後にBayer(バイエル)に買収されたcare/of(ケアオブ)や、Nestle(ネスレ)に買収されたPersona(ペルソナ)などのイグジットを果たした企業もある。また、英国のスタートアップ企業であるHeights(ハイツ)は、クラウドファンディング・プラットフォームのSeedrs(シーダーズ)を通じて170万ポンド(約2億7000万円)のシード資金を調達した

これらは、デジタルヘルス、ウェルネス、長寿のスタートアップ分野で起こっているブームのほんの一例に過ぎない。

今回、ロンドンを拠点とするbioniq(バイオニック)は、OKS Group(OKSグループ)とMedsi Group(メディシ・グループ)から1500万ドル(約17億4000万円)のベンチャー資金を調達し「300万の独自の生化学的データポイントによるパーソナライズされたサプリメント製品」である「bioniq GO」を発売すると発表した。

bioniqによると、月額49ポンド(約7700円)のbioniq GOという製品は、3万人以上の患者の5万回を超える血液検査と25の医学出版物のデータを活用することで、市場に出回っている同様の製品と比べて20万倍も高いレベルのパーソナライゼーションが可能になったという。

このトレンドの意味するところは、bioniqやLongevicaのようなスタートアップ企業が、いわゆる「年齢より若く見える」化学物質に関するビッグデータを利用して、ウェルネスや長寿の領域に参入し始めているということだ。

bioniqによると、bioniq GOには最大34種類の成分が含まれており、その組み合わせは1000万通りにも及ぶという。そのすべてが安全かつ高効率であることが臨床的に証明されていると、同社は主張している。

bioniqのCEO兼共同設立者であるVadim Fedotov(ヴァディム・フェドートフ)氏は、次のように述べている。「bioniqでは、医療の未来はデータの集約と健康モニタリングのデジタル化にあると考え、無病の人々のためのユニークなツールを作り出しています。bioniq GOの発売によって、私たちは血液検査を行わないサプリメントとしては業界最高レベルのパーソナライゼーションを提供することを目指しています。そして新しい血液サンプルを得るたびに、当社のシステムは改善され、より効果的になり、bioniq GOの処方はさらに効率的になっていくのです」。

bioniqのCEO兼共同設立者ヴァディム・フェドートフ氏(画像クレジット:bioniq)

bioniqという会社は、元ドイツ代表のバスケットボール選手であるフェドートフ氏と、かつてスイスでプロスポーツ選手の認知機能と身体機能を向上させるシステムを開発した脳神経外科医のKonstantin Karuzin(コンスタンチン・カルジン)博士によって設立された。

2022年初め、bioniqはミュンヘン工科大学からスピンオフした科学企業であるLOEWI(レーヴィ)の買収を発表した。LOEWIは、個人の血液検査とライフスタイルに基づくテーラーメイドの栄養素を提供している。

多くのスタートアップ企業が、このような個人に合わせた健康とウェルネスに対する新しいアプローチに取り組んでいることは明らかだ。今後はさらに多くの企業や製品が登場することが予想される。

画像クレジット:

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

アマゾンが遠隔医療サービスを米国全域に展開

米国時間2月8日、Amazon(アマゾン)は同社のテレヘルス事業、Amazon Careが米国の全域で利用できるようになったと発表した。Amazon Careは、バーチャルケアと対面診療の両方を提供する。つまりAmazon Careのモデルはオンデマンドと対面の診療を組み合わせることによって、現在のヘルスケアサービスの足りない部分を補おうとしている。

同社の発表によると、対面診療は2022年に20ほどの都市で新たに展開される。Amazonによると、この拡張は同社が臨床診療チームとその診療サービスの成長に継続的に投資をしてきたことによって可能になったという。対面サービスが利用できる都市は、シアトル、ボルチモア、ボストン、ダラス、オースチン、ロサンゼルス、ワシントンD.C.、そしてアーリントンとなる。Amazonの計画では、2022年にはサンフランシスコやマイアミ、シカゴ、ニューヨークなどの大都市圏に対面診療を導入する。

Amazon Careは2019年に、Amazonの社員のためのパイロット事業としてローンチした。2021年3月にAmazonはそのサービスを、全米の他の企業も利用できるようにした。現在、社員にAmazon Careを提供している企業は Whole FoodsやSilicon Labsなどになるという。

このサービスは救急とプライマリーケアサービスを提供し、新型コロナウイルスやインフルエンザの検査、予防接種、病気や怪我の治療、予防医療、性の健康および処方箋の発行と継続再発行などを扱う。バーチャルで解決しない症状や心配については、患者の自宅にナースプラクティショナー(診療看護師)を派遣して、定期的な採血や肺活量測定などを行なう。

「患者は、患者ファーストではない現在のヘルスケアシステムにうんざりしています。私たちの患者中心のサービスは、往診は一度に1人のみというやり方でそれを変えようとしています。オンデマンドの救急とプライマリーケアサービスを全国に拡大しました。サービスの成長とともに、顧客との協働を続けて、そのニーズに応えていきます 」とAmazon CareのディレクターKristen Helton(クリステン・ヘルトン)氏は声明で述べている。

Amazonは数年前から、ヘルスケアに投資している。2018年にはオンラインの調剤薬局PillPackを買収し、薬種や量などを調剤済みの医薬を買えるようにしている。2020年には、オンラインとモバイルの調剤薬局Amazon Pharmacyをローンチした。そして最近Amazonは、ヘルスケアプロバイダーと高齢者居住施設のための新しいソリューションを展開した。そのソリューションはAlexa Smart Properties事業の一環として、大量のAlexaデバイスを展開し、施設の管理者が居住者や患者のためにカスタマイズされた体験を作り出せるようにする。

画像クレジット:David Becker/AFP/Getty Images

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(文:Aisha Malik、翻訳:Hiroshi Iwatani)

Dawn Healthは認知行動療法で快眠をサポートする不眠症治療アプリ

新年を迎えて全力で進む中、不安な状態が続くと誰もが眠れない夜を過ごすことになる。

不眠症治療のスタートアップDawn Health(ドーンヘルス)は、不眠症を抱える人たちが睡眠を再びコントロールできるようにしたいと考えている。同社は2021年に、Intercom(インターコム)とMicrosoft(マイクロソフト)で製品エンジニアとして働いたRahul Shivkumar(ラホール・シブクマール)氏、認知行動療法士のAndreas Meistad(アンドリアス・マイスタッド)氏、Yahoo(ヤフー)のソフトウェアエンジニアだったVarun Krishnamurthy(ヴァルン・クリシュナムルティ)氏によって設立された。

シブクマール氏は、不眠症について身をもって知っている。ひどい睡眠障害を抱え、効果があるとされていた薬が効かなくなり、依存症になった。

シブクマール氏だけではない。米国睡眠協会は、米国人の70%が何らかの睡眠障害を抱えていると推定している。米国睡眠医学会によると、職場においては、平均的な労働者が毎年2280ドル(約26万円)、合計で年632億ドル(約7兆2700億円)の生産性を失っていることになるという。

画像クレジット:Dawn Health

シブクマール氏の場合、睡眠薬をやめるのに6カ月かかった。その後、同氏は瞑想など、眠りにつくための常套手段をすべて試したが、世の中に出回っている一部の人気アプリは、たまに起こる睡眠の問題には良いが、病的な不眠症にはそれほど効果がないことがわかった。

そんなときに出会ったのが、不眠症のための認知行動療法(CBT)だった。これは、睡眠障害を引き起こしたり悪化させたりする思考や行動を特定し、睡眠につながり、眠り続けるための習慣に置き換えるよう導くケア方法だ。

「12週間のセッションを受け、1回につき300ドル(約3万5000円)の費用がかかりましたが、今はよく眠れるというROI(投資利益率)があるので、その価値はありました」と同氏は話した。「それが会社を始めるきっかけになりました」。

シブクマール氏と同氏のチームは2020年半ばに会社を設立し、不眠症のためのCBTを活用して「不眠症治療の新しいスタンダード」と呼ぶDawn Healthアプリを開発した。

月額60ドル(約6900円)のモバイルアプリは、マイスタッド氏の研究に基づく証拠に準拠するセラピーを、睡眠トラッカーと統合して提供する。ユーザーは、Dawn Healthのセラピストからトレーニングを受けた睡眠コーチとペアを組み、チャット機能やパーソナライズされた毎日のレッスンプランにアクセスすることができる。

Dawn Healthはこれまでに100人以上の患者を治療しており、その中にはOpenAI CEOのSam Atlman(サム・アトルマン)氏やTwitch共同創業者のKevin Lin(ケビン・リン)氏、Galaxy Digital共同創業者のSam Englebardt(サム・エングルバート)氏といったテック業界の著名人が含まれている。シブクマール氏によると、初期のデータでは、プログラムを受けた人の80%が不眠症で薬やアルコール、マリファナに頼ることがなくなったという。

Dawn HealthはiOSアプリを展開し、ユーザーを獲得している。成長モードに入り、治療のスタンダードを継続するために重要な研究調査による臨床的証拠を構築している。

そのために同社は、Kindred Venturesがリードし、OnDeckのRunway Fundと、リン氏やSegment共同創業者のIlya Volodarsky(イリヤ・ヴォルダルスキー)氏、Intercom共同創業者のEoghan McCabe(エオガン・マッケイブ)氏といった個人投資家が参加したプレシードラウンドで180万ドル(約2億円)を調達した。今後、チームを拡大し、新製品も展開する。

ウェアラブル(Oura RingZeitGoogleのNest Hub)、その他の睡眠トラッキングアプリ(Aura)、スマートマットレス(Eight Sleep)など、最近ベンチャーキャピタルが注目した製品の多くが人気を集めている中、Dawn Healthは2026年までに1370億ドル(約15兆7740億円)に達するとされる睡眠市場でシェアを獲得するために、競争が一層激しさを増している市場に参入する。

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「医療費の多くは、睡眠障害に起因しています」とシブクマール氏は話す。「特に、Ouraのような企業がデータを発表しているアルツハイマー病やその他の疾患を予防できれば、長期的に大きなメリットがあります。人生の早い段階で睡眠不足を解決したり、睡眠の問題を完全に予防できれば、健康とコストの大幅な節約になります」と述べた。

画像クレジット:Dawn Health

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

瞑想アプリCalmが高齢者介護の負担軽減を目指すヘルスケアテック企業Ripple Health Groupを買収

瞑想アプリ「Calm(カーム)」は、サンフランシスコに拠点を置くヘルスケアテクノロジー企業「Ripple Health Group」を買収することを発表した。買収の条件は公表されていない。Calmはこの買収により、メンタルヘルスケアでの野望を加速させるとしている。買収後、Ripple Health GroupのCEOであるDavid Ko(デビッド・コー)氏は、Michael Acton Smith(マイケル・アクトン・スミス)氏とともにCalmの共同CEOを務める。Calmの共同創業者であるAlex Tew(アレックス・テュー)氏は、共同CEOを退任しエグゼクティブチェアマンとなる。

2019年に設立されたRippleは、ユーザーと適切なヘルスケアの選択肢を結びつけ、差し迫った健康上の問題を解決するソリューションを構築している。1月に登場されたRippleの最初の製品2つは、社会の高齢化に焦点を当て、プロおよび家族内の介護者による介護の負担を軽減することを目指している。

Rippleのチームは今後Calmに加わり、Calmの既存の雇用者向け製品であるCalm for Businessに代わるCalm Healthの構築に注力する。Calm Healthは、ケアの範囲を超えてメンタルヘルスをサポートすることを目的としており、近日中にリリースされる予定だ。Rippleのチームは、現在のヘルスケア技術と統合し、安全かつ簡単に使用できるCalm Healthのソリューションを構築することを目指す。Calmは、介護の負担軽減を目的とした製品の開発も進めていくという。

Calmの新共同CEOとなるデビッド・コー氏は声明でこう述べている。「2019年からCalmのアドバイザーとして、カテゴリーと流通チャネルの両方を再定義し、メンタルヘルスの未来を開拓するチームの能力を目の当たりにしてきました。Calmは、世界をより幸せに、より健康にすることをミッションとしています。Rippleのチームとテクノロジーにこれ以上ぴったりな会社はありません。同社に参加できることを信じられないほど光栄に思います。マイケル(・アクトン・スミス)と一緒にCalmをヘルスケアに導入することを楽しみにしています」。

Rippleに入社する前、コー氏はデジタルヘルス企業であるRally Healthの社長、COO、取締役を務め、消費者のケアへのアクセスを容易にすることを目的としたモバイルソリューションを開発した。

Calmの共同創業者で共同CEOであるマイケル・アクトン・スミス氏は、声明でこう述べた。「デイビッド(・コー)のビジネス感覚、卓越した運営能力、ヘルスケア企業のスケールアップの実績は、Calmが新たな事業に参入し、カテゴリーの未来を形成していく上で、非常に貴重なものとなるでしょう」。

Calmによる買収は、同社が新機能「Daily Move」を発表し、身体活動とビデオコンテンツに初めて進出してから数週間後に行われた。この機能は、ユーザーが体を動かすための簡単なエクササイズをガイドするものだ。Calmはこの新機能が、従来の瞑想を始めるのが難しいと感じている人々にとって、マインドフルコンテンツへのエントリポイントになると考えている。また、Calmは最近、最大6つのアカウントを含む「プレミアムファミリー」サブスクリプションプランを新たに導入した。この新しいサービスは全世界で年間99.99ドル(約1万1500)円で提供されており、個人向けのプレミアムプランは年間69.99ドル(国内価格6500円)だ。

Calmは、他の瞑想アプリとともに進行中のパンデミックの中で健闘し、ユーザー数が急増している。同社はこれまでに1億件以上のダウンロードを誇り、毎日平均10万人の新規ユーザーを獲得しているという。2020年12月、CalmはシリーズCラウンドで7500万ドル(約86億4000万円)を調達し、同社の評価額を20億ドル(約2304億円)に押し上げた。既存投資家のLightspeed Venture Partnersが同ラウンドをリードした。

画像クレジット:Calm

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(文:Aisha Malik、翻訳:Aya Nakazato)

Circular、約3万円のスマートリングで人気のOuraに挑戦

Ouraは、最初に市場に出たスマートリングではないが。その製品寿命が尽きるまで、驚くほどライバルは少なかった。これは、一般に消費者向けハードウェア企業が手首以外の場所にその足場を築くことは難しいという証明だ。しかし、同ブランドが比較的成功したことで、フィットネスバンドやスマートウォッチが必ずしもこのカテゴリーのすべてではないという希望が生まれたのは間違いないだろう。

CESはこれまでウェアラブルデバイスの展示会ではなかったが、初めてスマートリングを見ることができたこのイベントでは、2022年、さらに2つのスマートリングが発表された。2021年末に紹介したMovanoは、下半期に発売予定だという。また、Circularも注目すべき製品だ。しかしこのフランスのスタートアップは、展示会でスニークプレビューを行ったがそれ以上のことは行わなかった。

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米国時間2月4日、そんなCircularは、社名と同じ名前のリングを2月27日から259ドル(約2万9800円)で予約販売すると発表した。それは最新のOura Ring(第3世代)と比べて50ドル(約5800円)も安く、Circularは「単なる生のデータだけでなく、個人的なインサイト」を約束する月間サブスクリプションプランについてはまだ何も述べていないが、率直にいって最近はどの企業もその方向性にあるようだ。

実際の発売日は、4月から6月にかけてと相当な幅がある。しかしそれは、若くて小さな企業ではようくあることだし、しかも現在は半導体のサプライチェーンに問題がある。

このリングには、心拍数や呼吸数、体温など、さまざまなセンサーが搭載されている。この点では、少なくとも一般的なOuraのテリトリーで動作しており、マーケティング資料によると、「パーソナルヘルスの民主化」を目指して、多くのバイタルに基づいた実用的なインサイトを生み出している。また、アプリには「パーソナルアシスタント」がある。バッテリーは最大4日間持ち、充電は45分程度で完了する。

聞くところによると、まだ小さなハードウェアのスタートアップにとって、「消費者向け」は最初のステップだ保険やヘルスケアの企業と組んでB2Cへの進出を視野に入れている。このような製品でお金を稼ぐには、その方が良いと思うが、しかし規制も厳しくなるだろう。

このリングはヨーロッパ(フランス、ドイツ、イタリア、英国)と米国、香港、シンガポール、オーストラリアで販売される予定だ。。

画像クレジット:Circular/Getty Images

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(文:Brian Heater、翻訳:Hiroshi Iwatani)

大手メーカーがコンテンツ重視のアプローチを強化する中、ヘルスケアウェアラブルWithingsがワークアウトアプリ8fitを買収

現地時間2月2日、フランスのヘルスケアウェアラブル企業であるWithingsが、ワークアウトと食事プランアプリの8fitを買収したと発表した。AppleやSamsung、Peloton、Mirrorといったハードウェアメーカーがフィットネス分野でコンテンツ重視のアプローチを強化する中での今回の買収だ。

ベルリンを拠点とする8fitは2014年に創業し、HIITやボクシングなどのワークアウト、ヨガ、瞑想、そしてレシピに至るまで、フィットネスに関するあらゆることを提供するサービスにまで成長してきた。同社は2017年の700万ドル(約8億円)のシリーズAなど、これまでに合計1000万ドル(約11億4500万円)を調達した。シリーズAの際に我々が取材してお伝えした通り、その時点でサブスクリプションプランによってすでに毎月100万ドル(約1億1500万円)を超える収益を上げていた。

スマートウォッチ、体重計、フィットネストラッカーといったさまざまなヘルスケアハードウェアを開発してきたWithingsとしては、今回の買収はかなりわかりやすいものだ。8fitを買収することで、Withingsはコンテンツの重要なレイヤーを提供できるようになり、しかもこれまでのようにまずハードウェアを売り、その後でさらに収入を得ることにもつながる。

WithingsのCEOであるMathieu Letombe(マチュー・レトンベ)氏は発表の中で次のように述べている。「我々は現在、『プロダクト – サービス – データ』の時代へ進んでいくことが重要であると感じています。個人のヘルスケアデータとその人に合わせたウェルネスのプランを組み合わせて、誰もが長期的に見てもっと健康になれるように支援するという我々のミッションをさらに実行していきます。8fitの買収により、エレガントにデザインされたヘルスケアデバイス、幅広いヘルスケアのデータ、シンプルで受け入れやすく我々のお客様に特化した経験豊かなアドバイスを組み合わせた戦略をお届けできるようになります」。

この買収によってWithingsは同社の既存ソフトウェアに8fitのサービスを統合し、Withingsのデバイスから収集された豊富なデータに基づいて、実行に移せる知見を提供するものと見られる。Withingsはコネクテッドフィットネスのサービス構築にさらに3000万ドル(約34億3500万円)を投資する計画であるとしている。

8fitのCEOであるLisette Fabian(リゼット・ファビアン)氏は「我々が提供しているサービスからすると、ユーザーが健康のゴールを達成するための支援をするというWithingsと8fitの方向性は一致しています。正確で質の高いデータを収集するコネクテッドヘルスケアデバイスにおけるWithingsの専門性と、我々のフィットネスや食事プランを組み合わせることに期待しています。両社は協力してユーザーに対し包括的なヘルスケアサービスを提供し、ユーザーがさらに健康で幸せな生活を送れるよう支援します」と述べた。

近年、フィットネスウェアラブルメーカー各社はコンテンツ分野への投資を増やしている。コロナ禍のためジムに行かずにワークアウトをしたいユーザーが増える中、Appleは2021年にFitness+を開始した。Googleに買収されたFitbitは月額10ドル(約1150円)のプレミアムサービスを提供し、ワークアウトと詳しいデータを連携できるようにしている。8fitが現在提供しているサービスはそれよりも高価で、月額25ドル(約2860円)または年額80ドル(約9160円)だ。

価格について8fitは次のように説明している。

我々は無料のアプリではありません。無料のアプリなどというものは存在しないからです。アプリに登場する人は8fitで働いていますし、登場こそしませんがアプリの向こう側にはもっとたくさんの人がいます。そして我々はその人たちの働きに対して公正に報酬を支払うという信念を持っています。毎月20〜30種類の新しいワークアウトを作成し、20〜30本の新しい記事を公開し、これらをすべてアプリに組み込むプログラミングには、たいへんな労力がかかっています。

画像クレジット:Withings

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(文:Brian Heater、翻訳:Kaori Koyama)

消化器系の健康をサポートする機能性炭酸飲料Olipopが34億円調達、カミラ・カベロやグウィネス・パルトロウらが出資

Olipopの共同創業者ベン・グッドウィン氏とデイビッド・レスター氏(画像クレジット:Olipop)

健康に良い、あるいは機能的であるといった目的がある炭酸飲料は、380億ドル(約4兆3300億円)規模の米国のソフトドリンク業界を破壊する新しい波となっている。

3年の歴史を持つOlipop(オリポップ)というブランドの場合、消化器系の健康をサポートする炭酸飲料のラインナップで機能性を追求している。同社は、共同創業者のBen Goodwin(ベン・グッドウィン)氏とDavid Lester(デイビッド・レスター)氏にとって「機能性炭酸飲料」の分野で2番目のベンチャー企業だ。2人は10年近く一緒に仕事をしてきた。

レスター氏はTechCrunchに電子メールで、グッドウィン氏とともに機能性炭酸飲料のカテゴリーを築き上げ、Olipopが現在、このニッチな分野の売上高の3分の2を占めるに至ったと語った。同社の炭酸飲料は、植物由来の食物繊維、プレバイオティクス、その他の植物性原料を使っている。

Olipopが北カリフォルニアの45店舗で発売されて以来、この3年間で同ブランドの人気は高まっている。現在では、Kroger、Target、Whole Foods、Sprouts、Safeway、Wegmansなど、全米1万店以上の食料品店で販売されている。レスター氏は、同社の成功を「1981年にCoca-Cola(コカ・コーラ)がダイエットコークを発売して以来40年以上ぶりに、炭酸飲料カテゴリーに大きな破壊的イノベーションをもたらしました」とアピールする。

「機能性炭酸飲料の基本は2つです。消費者が楽しむカテゴリーで、妥協することなく、おいしい飲み物を提供すること、厳密な科学に裏付けられた最先端の健康効果が2つはあることです」とレスター氏は付け加えた。

画像クレジット:Olipop

チェリーバニラ、オレンジスクイーズ、ジンジャーレモンなど、競合他社もOlipopの味を真似しているが、CEOのグッドウィン氏は、過去16年間にわたるマイクロバイオームと発酵の知識を駆使して同氏が調合したOlipopの味にはかなわない、という。

「厳密な科学に裏打ち」されているという側面は、マイクロバイオームと消化器系の健康分野の研究者が率いる科学諮問委員会を導入したことに由来する。いずれ他の健康の問題にも拡大する予定だ。Olipopは2021年、ベイラー大学およびパデュー大学と試験管内での試験を成功させ、今はヒト臨床を行っている。2022年から2023年にかけて、研究や提携も増えていくとグッドウィン氏は語る。

Crunchbaseのデータによると、Olipopは2018年以降、約1350万ドル(約15億4000万円)を調達した後、2億ドル(約228億円)のバリュエーションに基づく3000万ドル(約34億円)のシリーズBを発表した。このラウンドはMonogram Capital Partnersがリードし、Camila Cabello(カミラ・カベロ)氏、Priyanka Chopra Jonas(プリヤンカー・チョープラー・ジョナス)氏、Nick Jonas(ニック・ジョナス)氏、Joe Jonas(ジョー・ジョナス)氏、Kevin Jonas(ケビン・ジョナス)氏、Mindy Kaling(ミンディ・カリング)氏、Logic(ロジック)氏、Gwyneth Paltrow(グウィネス・パルトロウ)氏といった豪華な投資家が名を連ねた。また、既存投資家からRocana Venture Partners、Raj Nooyi(ラジ・ヌーイ)氏、Pepsi(ペプシ)元CEOのIndra Nooyi(インドラ・ヌーイ)氏、A-Series Management & Investmentsの創業者であるAnjula Acharia(アンジュラ・アチャリア)氏、ClassPassの創業者であるPayal Kadakia(パヤル・カダキア)氏、Beautyconの共同創業者であるMoj Mahdara(モージ・マーダラ)氏、LANYのリードボーカルであるPaul Klein(ポール・クライン)氏が参加した。

Olipopは、2022年末までに1億ドル(約114億円)のランレート(年換算売上高)の達成を見込む。レスター氏によると、同社は2021年の成長目標を上回り、トップラインの売上高を3倍に伸ばした。同社はまだ黒字ではないが、そこに向かっているという。そのため、新たな資金調達は、同社が流通を迅速に拡大する際の新規雇用、マーケティング投資、製品在庫に充てられるとグッドウィン氏は付け加えた。現在、従業員数は約60人で、前年の30人から増加した。

パンデミックは同社にとって、一定程度追い風となった。消費者の消化器系の健康に対する関心が高まり、また、砂糖の摂取や、従業員と国の両方が緊張下におかれる中、会社がどう運営されるかについての懸念もあり、パンデミック初年度の3000%の成長につながった。

「パンデミックは、大きな挑戦であると同時にチャンスでもあると考えました」とグッドウィン氏は話す。「パンデミックは、顧客によりよいサービスを提供するための強固な消費者直結型プラットフォームを構築するという課題を私たちに与えました。リモート環境下で優れた文化を構築することに力を注がざるを得なかったのです。また、顧客との関係について良いデータを得ることができました。Olipopは、ストレスの多い時代に、健康を維持しながら喜びと安らぎを得ることができる製品であることがわかりました」。

次のステップとして、2021年テストしたメインストリームの流通とマーケティング戦略を拡大し、その急成長を支えるために必要なサプライチェーン構造も構築するとグッドウィン氏は付け加えた。加えて、新しいフレーバーの研究開発にも力を注ぐ予定だ。

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

Stogglesは仕事で使われる保護メガネもファッションの一部だと考えている

私たちがサングラスをかけるのは、目に太陽の日差しが入らないようにするためだが、それは常にファッションの一部でもあった。Stoggles(ストグルズ)の共同設立者であるMax Greenberg(マックス・グリーンバーグ)氏とRahul Khatri(ラフル・カトリ)氏は、保護メガネにもファッションのラベルが適用されるべきだと考えている。

世界的なパンデミックが起きたとき、2人は別のファッションメガネの会社で一緒に働いていた。市場がいかに飽和状態にあるかを目の当たりにした2人は、最初はヘルスケア業界をターゲットに、保護メガネを、これと類似したセクシーな空間にする機会を見出した。Stogglesのメガネは、ANSI-Z87認定の保護性能と、スタイリッシュで快適性を兼ね備え、度付きレンズのオプションもあり、ブルーライトカット技術や独自のくもり止めコーティングが施されている。

グリーンバーグ氏は「我々の最大の顧客は医療従事者で、これは非常にやりがいのあるビジネスでした。そして、彼らは、本当にかさばって、不快かつ不格好な保護メガネをかけることから、見せびらかしたい、Instagramにも投稿したい、機能的にも一般的な幸福度やウェルビーイングにおいても、日常生活に大きな影響を与えるものであることを友人に共有して話したいと思うようになったのです」。と語っている。

彼らは2020年8月にロサンゼルスを拠点とするStogglesをクラウドファンディングでキックオフし、2021年2月にeコマースサイトを立ち上げた。そこからグリーンバーグ氏は「2021年は信じられないような成長を遂げ、前月比で平均約30%の収益増を記録しました」と述べている。

世界の保護メガネ市場は、2026年までに31億ドル(約3540億円)規模の産業に達すると言われており、他にもPair Eyewear(ペア・アイウェア)Cheeterz Club(チーターズ・クラブ)、そしてその発端となったWarby Parker(ウォービー・パーカー)(9月に直接上場)など、より消費者側ではあるが、メガネをもっと流行らせようと取り組んでいる企業もある。

Stogglesの創業者たちは、すでに利益を上げており、同社のアイウェア製品もヘルスケア業界では好評だったにもかかわらず、会社を立ち上げた後、最初のベンチャーキャピタルのラウンドに参加することにしたのだ。グリーンバーグ氏によると、同社はすでに製品と市場の適合性を確立していたため、従来のシリーズAではなく、成長ラウンドに進み、The Chernin Group(ザ・チェルニン・グループ)から4000万ドル(約45億7200万円)を調達したとのことだ。

同社の目標の1つは、Stogglesの認知度を上げるために、コンテンツやメディアへの参入を増やすことであり、創業者たちは、コンテンツやメディア企業での経験を持つThe Chernin Groupがそのための良いパートナーになると考えたと、彼は付け加えた。

TCGのパートナーであるLuke Beatty(ルーク・ビーティー)氏は、Stogglesが保護メガネ市場の大きなギャップを発見し、それを証明しただけでなく、そのギャップを埋めたと書面で述べている。「この創業年数の企業としては、かなり驚くべき偉業だと思います」と付け加えた。「マックスとラフルは、卓越したビジネスモデルを巧みに構築しており、我々はこの次の成長段階におけるパートナーになれることをうれしく思っています」。と述べている。

同社は、今回の資金調達により、ゴーグルのラインアップを拡充するための製品開発への投資を行い、ヘルスケア市場でより多くの製品を提供し続ける予定だ。また、この市場を超えて、建設、実験科学、ホームセンター、日曜大工など、他の市場にも進出する構えだと、グリーンバーグ氏は述べている。さらに、Stogglesは経営陣を強化し、マーケティング・ディレクターを加えることも検討している。

現在、従業員は15名だが、2022年中に倍増させたい考えだ。

「私たちは、私たちの使命を理解し、その達成を手助けし、その一部となることを望む、偉大で本当に情熱的な人々の強い基盤を作りたいと思っています」と、グリーンバーグ氏は付け加えた。「私たちは、ヘルスケアのお客さまのおかげでここまで来ることができたので、お客さまのためにさらに良い製品を作り、改善を続け、製品ラインを拡大し、情報を発信し、体験をより良いものにしたいのです」と語っている。

画像クレジット:Stoggles

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(文:Christine Hall、翻訳:Akihito Mizukoshi)

家庭用性感染症検査キットを提供しSTI検査の敷居を下げる米TBD Health

性に関する健康問題は以前ほどタブーではないが、だからといって、STI(Sexual Transmitted Infection、性感染症)の検査における問題がすべて解決したというわけではない。TBD Health(TBDヘルス)は「Vagina-Haver(女性器所有者)」のために、自宅で検査ができるようにするという新しいアプローチをとっている。同社は、自宅で5種の検査ができる「Check Yourself Out(チェック・ユアセルフ・アウト)」キットを提供しているが、最近、ラスベガスに対面式のクリニックを開設した。なぜ家庭でできる性のヘルスケアサービスが求められているのか、共同設立者の2人に話を聞いた。

米国疾病予防管理センター(CDC)によると、米国のSTI感染率はここ数年上昇を続けており、2021年に報告されたデータでは6年連続で過去最高を記録している。米国では5人に1人がSTIに罹患しており、そのうち半数は15~24歳の若者で、直接的な医療費として160億ドル(約1兆8200億円)がかかっている。あえていうなら、TBDは縮小するはずの市場を狙っているのだが、そうではない。

「当社は、検診にかかることが重要であることに気づいた。現在、検診を受ける人は以前よりも少なくなっている。これは新型コロナウイルス感染症の影響もあるが、人々は病院に行きたがらないし、連邦政府の多くの資金援助が問題をより複雑にしている。当社は、家庭用キットから始めて、人々の日常生活で実際に有効なSTI検査を提供するために設立された。他の医療関連企業とはまったく異なるアプローチをとったので、臨床的とは感じないし、賭けに出ているとも感じていない。本当に受診者の身になって行うような検診をしたいと考えていた。そして、2022年の初めに、6つの州で試験的にクリニックを開設した」とTBD Healthの共同設立者であるStephanie Estey(ステファニー・エスティ)氏は語る。

TBD Healthの家庭用検査サービスは、ワシントン州、アリゾナ州、ネバダ州、マサチューセッツ州、フロリダ州、コネチカット州で提供されており、さらに多くの州への展開を計画しているが、全50州をカバーするには規制上の課題がある。

「もし陽性と診断された場合、当社でほとんどすべての治療を行うことができる。当社の臨床医は、罹患者の個別のケアプランについて話し合うための時間を設ける。それは『ここに一般的なケアプランがあるので、かかりつけの病院に相談してください』というような無責任なものではない。例えば、抗生物質が必要な感染症の大半は、当社が処方箋を発行して治療を行うことができる」とエスティ氏は説明する。もちろん、臨床医を必要とするということは、その臨床医らが活動するすべての州に拠点が必要だということでもある。「当社は各州に医療チームを置いており、臨床医がすべての結果を確認し、検査機関の依頼に署名し、結果を分析したり、処方を行ったりする。現在は6つの州で展開しているが、2022年には急ピッチで拡大していく予定だ」と同氏はいう。

同社は、通常の医師が検査できるのと同じSTIをすべて検査できるとしているが、検体の採取には自己採取のプロトコルを採用している。自分で採取するものには、膣スワブ、尿サンプル、血液サンプルがある。特に血液サンプルについては、静脈穿刺を自分で行うのかと興味をそそられたが、指先から採血カードに少量の血液を落とすタイプのもので、それを医療チームが分析し、治療が必要かどうか判断できるとのことだ。

「当社では、乾燥血液スポットカードと呼ばれるものを使用している。これは基本的に、いくつかの円が描かれた紙であり、指にランセットを刺して血液を垂らして使う。糖尿病患者が日常的に行っている検査と同じものだ。このカードによって、HIVや梅毒など、血液を用いた主なSTIの検査はすべて行うことができる。実際これは、すばらしいツールだ。乳児の採血をするのは難しいため、乳児の検査を目的として開発されたものだと思う。また、輸送中も安定しているので、自宅での検査に適している」とエスティ氏は説明する。

ラスベガスにオープンしたTBD Healthの対面式クリニック。壁には家庭用検査ボックスが飾られている(画像クレジット:TBD Health)

TBD Healthは、従来のSTI検査プロトコルの精度を維持しているという。

「検査機関での検査には、感度と特異度という2つの主要な精度指標がある。その確認のため、当社は多くの検査機関を精査した。当社のパートナー検査機関の感度と特異度は基準を満たしており、これは必要な精度を確保していることを意味している。また、自宅でプライバシーを守りながら検査ができる」とエスティ氏は述べる。そして「遠隔医療により、当社の臨床ケアチームのサポートを受けることもできる」と同氏は付け加える。

TBDは、対面式のケアも行うために、ラスベガスにケアハブを開設した。これは、顧客のニーズをより深く把握できる環境を整え、そこから得た知見を他の事業のサービス向上につなげることを目的としている。

今のところ、同社は女性器所有者に焦点を当てている。それは、STIの問題だけでなく、不妊症の問題にも取り組んでいるためであり、可能な限り最高のサービスを提供するため、同社は対象を絞ることにした。

「当社は今、女性と女性器所有者のためのサービスに集中している。男性器所有者へのサービスが当社のロードマップのどこに位置するのかは、まだいえない。男性器所有者は、伝染の面で大きな要因となっていることは確かだ。しかし、女性にとっては、コストや不名誉だけでなく、多くの場合、生殖機能の問題でもある。STIは、米国における不妊症の原因のうち、予防可能なものの1番目に挙げられている」とエスティ氏は説明し、そして次のように続けた。「当社が重点分野を拡大する場合、そうした人々に適切なサービスを提供できる体制を整えたいと考えている。企業が間違ったことをする例は数多くある。女性のために何かを作ることは、ピンク色にすればいいというようなことではない。TBDは、女性器所有者をよく理解していて、どうすれば最適なサービスを提供できるかわかっている。だからこのサービスに深く関わることに興奮を覚えるのだと思う。当社が男性器所有者にサービスを提供する時には、女性器所有者に対して行ってきたことと同様に、思慮深く、真剣に、公正を保ちたいと考えている」。

画像クレジット:TBD Health

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

患者と医師、両方からデータを得てがん治療をよりパーソナライズする仏Resilience、約51.6億円調達

フランスのスタートアップであるResilience(レジリエンス)は、中央ヨーロッパ時間1月25日、Cathay Innovationが主導するシリーズAラウンドで4000万ユーロ(約51億6000万円)を調達したと発表した。同社は、がんと診断されたときの治療の道のりを改善し、より健康で長い人生を送れるように支援することを目指している。

このラウンドには、Cathay Innovationに加え、既存投資家であるSingularも参加した。Exor Seeds、Picus Capital、Seaya Venturesなどのファンドもこのラウンドに参加している。さらに、Fondation Santé Service、MACSF、Ramsay Santé、Vivalto Venturesといったヘルスケア分野の投資家も参加している。

Resilienceについては2021年3月にすでに紹介しているので、ぜひ前回の記事を読んで、この会社のことをもっと知っていただきたい。同社は、シリアルアントレプレナーであるCéline Lazorthes(セリーヌ・ラゾルテス)氏とJonathan Benhamou(ジョナサン・ベンハモウ)氏が共同設立した会社で、がん治療において患者と医療提供者の両方を支援したいと考えている。

関連記事:ITでがん治療を支援するフランスの意欲的なスタートアップ「Resilience」

患者側では、Resilienceはがんやがん治療の影響や副作用を測定し、理解し対処するのに役立つ。ユーザーはアプリ内でさまざまなデータポイントを追跡し、自分の病気に関するコンテンツや情報を見つけることができる。

だが、Resilienceは自宅で使用するアプリだけではない。病院が治療をよりパーソナライズするための、病院向けのSaaSソリューションでもあるのだ。Resilienceは、世界有数のがん研究機関であるGustave Roussy(ギュスターヴ・ルシー研究所)とのパートナーシップにより設立された。

医療関係者は、患者がアプリを使って集めたすべてのデータを活用できるようになる。これにより、がん治療施設は患者をよりよく理解し、より迅速にケアを適応させることができる。ResilienceはBetteriseを買収することで、データ駆動型のがん治療に関して先陣を切ることができた。

長期的なビジョンは、それよりもさらに野心的だ。がん治療施設で働く医療提供者に話を聞くと必ず、時間がいくらあっても足りない、という。

しかも、ますます専門化していく新しい治療法を把握するのはさらに困難だ。Resilienceは、医師に取って代わるものではない。しかし、医師が盲点を克服する手助けをしたいと考えている。

その結果、患者はより良い治療を受けることができ、Resilienceアプリによって追加サポートを受けられるようになるはずだ。がんの治療は長く苦しいものなので、プロセスを改善することができれば、それは良いことに違いない。

画像クレジット:Resilience

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(文:Romain Dillet、翻訳:Aya Nakazato)